社会学評論
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近代日本における森林管理の形成過程
兵庫県村岡町D区の事例
福田 恵
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キーワード: 森林管理, 近代日本, 村落
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2004 年 55 巻 2 号 p. 146-161

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抄録
日本社会では, 森林の過伐や枯渇に苦しむ世界的情勢とは対照的に, 過剰植栽によってもたらされた森林資源の維持管理が問題化している.本稿では, 日本社会特有の森林問題が生み出された歴史的経緯を確認するため, 森林管理の形成過程および推進論理の把握を実証的課題に据える.
兵庫県村岡町D区の事例から, 具体的には次の点が確認された.明治後期, D区は林野に対する関心を急速に高め, 入会地を対象とした雑木の一斉伐採および造林木の植栽を開始した.造林化は, 緊迫した地域運営を引き金にした林野利用転換への住民の取り組みと, 過伐を懸念し公有林野への植樹奨励を強化した行政サイドの路線とが, 入会地という一定の着地点を見出したところに, 萌芽したものであった.当初, 両者の問には推進事由にズレが生じていたが, いったん確立された継続的植栽の方向は, 後戻りすることなく, 過剰植栽が顕在化するまで徹底された.「濫伐」「荒廃」を切り抜けるために, 行政と住民が苦心して作り出し体現してきた造林理念には, 過植という新たな森林問題を生み出す論理が内在していたのである.
近代的造林は, 確かに一面では問題発生の火種を孕んでいたが, 他面では, 新たな社会組織の生成契機を有していた.住民生活を強力に後押しする村落は, 既存の林野秩序を継受しながらも, その仕組みを近代的土壌のなかで賦活していくことによって造林管理主体として創出されたものであった.
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