社会学評論
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グローバル化に対応する社会運動における国家と市民社会
東アジアからの視角
大畑 裕嗣
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2005 年 56 巻 2 号 p. 400-416

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抄録

本稿の目的は, グローバル化に対応する社会運動に関する3つの異なった分析枠組 (反システム運動論, ネットワーク社会論, 東アジア市民社会論) における国家/市民社会関係の位置づけを比較検討することを通じて, わたしたちが生きている東アジアという地域の現実により根ざしつつ, グローバル化の時代に即応した, 市民社会論の組み換えへの道を模索することにある.反システム運動論は, 国家と市民社会が明確に区分され, 対抗しあうこともあるという古典的な前提を踏襲しているが, おそらく反グローバル化運動の実態と関連した戦略的計算のため, その点をあまり強調しなくなっている.ネットワーク社会論は, ネットワーク社会における市民社会と国家の位相を相対的に重視せず, 国家/市民社会関係という問題設定をはずして, 社会運動を論じようとしている.つまり, 反グローバル化運動の分析に主に用いられている既存の枠組では, 国家と市民社会は対抗しあうものとされるか, 中心的な分析視座とされていない.これに対し, グローバル化に対応する運動との関連では, まだあまり注目されていない東アジア市民社会論は, 国家と市民社会を相互浸透しあう領域として位置づける.
現実の反グローバル化運動の中では, 東アジア市民社会論の視角につながるような要請もなされている.東アジア市民社会論は, この地域の特殊性と内部的多様性を宿命として担いつつ, グローバル化に対応するトランスナショナルなネットワークを地域内に形成していくための理論的・実践的課題を追求しつづけるであろう.

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