社会学評論
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米国のシニアムーブメントはなぜ成功したか
NPOと社会運動の相補性をめぐって
安立 清史
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キーワード: シニアムーブメント, NPO, AARP
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2006 年 57 巻 2 号 p. 275-291

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抄録

米国のシニアムーブメントは, 1960~70年代にかけて社会運動として大きな成功を成し遂げた.その理由は, 社会運動, 労働組合や政治団体, そしてNPO等の連携による運動の相補性と相乗性があったからである.とくにAARPという民間非営利組織 (NPO) が重要な役割を果たした.AARPは, 会員数3,600万人を擁する米国最大のNPOであるが, 高齢者へのグループ医療保険の提供によって成功し, シニアムーブメントと連携しながら「年齢を理由とした強制退職制度」を「年齢差別 (エイジズム) 」として撤廃させることに成功した.AARPは, 高齢者への持続的継続的なサービスを生産し, それが会員数を増大させ, 高齢者の代表組織としての正統性を獲得し, さらに潤沢で独立性の高い財政基盤がロビイストや専門職を多数雇用することを可能とさせ, 高齢者政策への影響力の増大と目標の達成をもたらした.しかしNPOは, 直接的な政治への関与を制限されており, 社会運動との連携は相互に有効であった.このような社会運動とNPOとの連携と相補が成立する条件は, 米国だけのものではない.急激な高齢化とそれに起因する社会問題はグローバル化している.非営利組織の制度が整備されつつある国々では, どこでもこのような高齢者の当事者組織が, NPOや社会運動の形で出現してもおかしくない.その場合に, 新しいアクターとしてのNPOに着目した社会学的研究が必要となるであろう.

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