社会学評論
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中国大都市における空間の再編と住民の居住意識
短期居住意識の形成を中心に
李 珊
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2006 年 57 巻 2 号 p. 402-418

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抄録

本研究は, これまで都市社会学のテーマである居住意識において注目されなかった短期居住意識に着目し, それと都市空間との関連について, 中国の大都市の空間再編を対象に検討することを目的とする.そのための課題は, 個人レベルの属性変数と地域レベルの満足度変数を統制し, 定住志向, 移住志向, 短期居住志向に対する居住地の効果を検討することである.データは, 遼寧省大連市の都心と郊外にある, 新旧4つの地域の住民を対象に行った質問紙調査 (N=745) より得た.ロジスティック回帰分析の結果, 先行研究における居住意識に対する住民の個人属性要因と地域満足度の効果仮説が検証されたほか, 地域のもつ空間的文脈の効果も明らかにされた.すなわち, (1) 加齢に従い, 住民の定住志向が強まり, 短期居住志向が弱まる. (2) 学歴や収入が低いほど住民の定住志向が強く, 学歴や収入が高いほど移住志向が強い. (3) 地域満足度が高いほど住民の定住志向が強く, 満足度が低いほど移住志向と短期居住志向が強い. (4) 新興都心住宅地に住む住民の短期居住志向が強く, 郊外地住民の定住志向が強い, といった傾向がみられた.結論として, 中国大都市の空間的再編が, 新興都心地への短期居住と郊外地への定住という居住意識の分化を生み出したのである.

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