抄録
本稿では, 経営存続の危機に直面する林業経営者の対応を, 経済社会学の視点から考察し, 深刻化する荒廃林問題の構造的背景を明らかにする.
最初に, これまでいわれてきた林業問題の背景要因について検討し, 安価な外国産材の輸入拡大や村落社会による森林管理の衰退という説明が, 問題の背景要因の説明として不十分であることを指摘する.そのうえで, 問題の理解のためには「新しい経済社会学」の視点が不可欠であることを論じる.
次に, 1980年代に林業経営が経験した危機の変質について, 木材の売買を支えるネットワークの変化に焦点を当てて検討する.危機の変質とは, 製材業者が林業経営者との協力関係が前提となっていた伝統的な木材売買のネットワークから脱埋め込みされた結果, 林業経営者と製材業者のあいだの社会関係が分断され, 林業経営が既存の方法では経済的危機に対処できなくなったことを指す.それをふまえて製材業者と林業経営者の経済行動を対比的に検討し, 林業経営がグローバルな価格競争に巻き込まれ, 製材業者から切り離されつつ抑制の効かない生産拡大を強いられている実態を示す.
最後に, 現代日本が直面している林業問題の本質は, 市場競争と経済効率のみに準拠する経済学よりもむしろ, 経済行動がいかなる社会関係に埋め込まれているかに焦点を当てる経済社会学の視角に立つことで, より的確に解明しうると主張したい.