日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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非侵襲的陽圧換気(NPPV)療法下の鎮静に関する検討
谷岡 真帆東 正徳三木 芳晃半崎 隼人三角 舞溝尻 由美銀杏 猛河添 有希坊ケ内 真一川上 恭平井角 勇貴岡 朋子植田 真三久萱野 勇一郎
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2019 年 28 巻 1 号 p. 155-156

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非侵襲的陽圧換気(Noninvasive Positive-Pressure Ventilation: NPPV)療法下において,不穏に対する鎮静剤の使用は相対禁忌と一般に考えられている1が,不穏を来した患者に対して軽度の鎮静を行うことでNPPVの継続が可能となるケースも報告されている2,3.しかし現時点ではNPPV中の鎮静に関するガイドラインはなく,また臨床経験の報告も少ない.

そこで今回,2014年4月から2017年3月までの期間の当院呼吸ケアサポートチーム(Respiratory Support Team: RST)による介入患者のうち,NPPV患者を対象として鎮静の実施状況についてRST回診記録ならびに診療録より後方視的に検討した.薬剤の調節はRichmond Agitation-Sedation Scale(RASS)-2~0を目標レベルとして行なった.RST介入患者には書面にて説明と同意を取得しており,本検討にあたっては匿名化したデータベースを作成し,検討を行なった.

対象期間において当院RST介入患者は389例,NPPV使用患者は175例,鎮静を行なった患者は18例であった.そのうち末期呼吸不全の症状緩和目的で鎮静を行なった患者は2例(1.1%)であり,この2例を除いた16例(9.1%)で検討を行なった.患者の平均年齢は79.3歳と高齢者が多く,NPPV適応疾患は心不全:10例(63%),肺炎:4例(25%),間質性肺炎:1例(6%),心停止蘇生後:1例(6%)であった.使用薬剤はデクスメデトミジン7例(44%),ミダゾラム6例(38%),ハロペリドール5例(31%),オピオイド系3例(19%),その他6例(38%)であった.症例の多く(13例:81%)は気管挿管を希望しない(do not intubate: DNI)症例であった.転帰はNPPV離脱11例(69%),死亡5例(31%)であった.薬剤の併用について検討したところ,2剤以上の薬剤の使用を要した症例は16例中7例(44%)であった.デクスメデトミジンを使用した症例では7例中5例(71%),ミダゾラムを使用した症例では6例中3例(50%)で他剤の追加や変更が行われていた.

NPPV療法下の鎮静は海外の調査では41%の医師で実施経験があり4,また実施頻度については本邦多施設の調査ではNPPV症例の56%5,海外では19.6%6と報告されている.本検討では9.1%と低頻度であったが,本邦単施設での検討の3.4%7と同程度であった.当院の鎮静症例の多くはDNI症例であり,非DNI症例は不穏でNPPV継続が困難となった場合は速やかに挿管人工呼吸に移行していた可能性が考えられた.本検討では約半数の症例で単剤では十分な鎮静を行えず,他剤の追加や変更がなされていた.特にデクスメデトミジンを使用した症例7例中5例(71%)で単剤ではコントロールできず,3例でプロポフォール又はミダゾラムが併用されていた.デクスメデトミジンの呼吸抑制作用は軽微とされており,NPPV療法下の鎮静に対する有用性について報告されているが8,9,10,11,12,呼吸困難が著しい重篤な呼吸不全患者など,深い鎮静を要する患者に対しては不向きともされている13.持続鎮静剤の併用は過鎮静のリスクが高く,本来NPPV症例では望まれないものであるが,主治医が試行錯誤の中で薬剤併用を余儀なくされたものと思われた.複数の薬剤併用にて鎮静を行う場合のプロトコル作成や薬剤選択は今後の課題と思われた.

NPPV療法下の鎮静は必要最小限とすることが勧められているが,複数の薬剤併用を余儀なくされた症例は少なくなかった.複数の薬剤併用に伴うリスクを最小限に抑える取り組みが重要と思われた.

備考

本論文の要旨は,第27回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2017年11月,宮城)で発表し,座長推薦を受けた.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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© 2019 一般社団法人日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
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