日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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教育講演
経皮CO2モニタを用いたNPPV管理
石川 悠加竹内 伸太郎三浦 利彦
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2019 年 28 巻 1 号 p. 38-44

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要旨

近年,呼吸ケアに関する機器の進歩に伴い,NPPVの適応や条件調整に知見が加えられている.特に,睡眠時から覚醒時までの経皮炭酸ガス分圧(transcutaneous CO2:TcCO2)モニタを用いたタイムリーなNPPV導入や追加,条件調整は,新たな課題を提起している.神経筋疾患におけるNPPVによる睡眠呼吸障害の惹起については,睡眠ポリグラフを用いて分類や解析が進められている.また,人工呼吸器のマウスピースモードを用いたNPPVは,24時間NPPVのコンプライアンスを改善することが期待される.

はじめに

NPPVは,欧米先進国において,未熟児から成人まで長期人工呼吸の主流となり,国内外のガイドラインも公表されている.そして,NPPVの導入や効果維持のために専門性の高い熟練したチームを要することがこれまで以上に指摘されるようになった.

NPPV適応

1. 成人におけるNPPV適応

成人における慢性期のNPPVの適応や条件調整について,TcCO2モニタが可能になる以前から提唱されてきたものがある1,2.慢性閉塞性肺疾患(Chronic obstructive pulmonary disease=COPD)において,酸素療法によりSaO2が改善しても,昼間のPaCO2が高いと予後が不良であることが報告されている3

そして,安定期のCOPDにおいては,睡眠時のベースラインのTcCO2を現在の20%以上低下させるか,48.1 mmHg以下にするようなNPPV条件を継続することで,1年後に昼間のPaCO2,QOL,ADL,生存率が改善した4.一方,NPPVにより昼間と睡眠時のPaCO2が改善しても,NPPVを使用していない群に比べて再入院率や死亡率に差が無かったという報告もあり5,議論は続いている.

しかし,近年,臨床研究やガイドラインにおいて,NPPV適応や条件調整に睡眠時TcCO2モニタが使用されるようになってきた6,7.非侵襲的にCO2をモニタする方法として,他に,呼気終末炭酸ガス分圧(end-tidal carbon dioxide: EtCO2)がある.しかし,EtCO2は,呼気量が著しく低下したり,重症心不全,NPPV使用中には,実際のPaCO2よりかなり低値になるため,指標としての信頼性が低い6

昼間のマウスピースによるNPPVも,覚醒時に高CO2血症やSpO2低下に対して,神経筋疾患でコンプライアンスが良い.人工呼吸器の機種の中には,近年,アラームの制御やトリガーが工夫されたマウスピースモードを搭載するものも増えている.

2. 小児におけるNPPV適応

パリのネッタ―小児病院呼吸器科のFauroux先生は,2016年に第1回国際小児慢性NPPV療法研究会を始めた.最近の総説で,「小児の長期NPPVは,小児NPPVに熟練した専門多機能のセンターで行う」とし,小児のNPPVの適応や条件調整において研究報告が少なく,解明されていないことが多いとしている8

Faurouxらは,NPPV適応判断に小児の睡眠ポリグラフは理想的と考えられているが熟練を要するとして,パルスオキしメトリーによる酸素飽和度(SpO2)とTcCO2モニタにより,小児の急性,亜急性,慢性のCPAPとNPPV適応基準を示した9.①SpO2<90%,②最高TcCO2>50 mmHg,③SpO2<90%が全睡眠時間の2%以上,④TcCO2>50 mmHgが全睡眠時間の2%以上,⑤低酸素指数(ODI)>1.4/時間,⑥無呼吸・低換気指数(AHI)>10回/時間である.症状に加え,上記を一つでも満たした場合,NPPV適応を考慮し,耐久性と効果を見極めて,導入するかどうかを判断する.当院でも,そこまで厳密ではないが,同じような適応判断をしている.

3. 神経筋疾患のNPPVの適応

Faurouxらは,小児のNPPVにおいて神経筋疾患は最も重要な課題であるとしている24.神経筋疾患のNPPVについて,最近の総説では,以下のように記載されている10.「呼吸筋力低下に加え,疾患により上気道虚脱,心筋症に伴う睡眠呼吸障害がある.レム睡眠期には,睡眠時の無緊張,肺活量低下,化学受容体の感受性低下,上気道の拡張機能の障害が起こる.そのため,仰臥位での睡眠では,上気道の虚脱が起きやすくなる.そして,レム睡眠期には,横隔膜と胸郭の動きが低下し一回換気量低下を主体として,閉塞性無呼吸,中枢性無呼吸も加わり混合性睡眠呼吸障害を呈する」.

このように,神経筋疾患では,睡眠時のみ呼吸が低下することが先行し,昼間にも血液ガスが悪化するまでに平均2年以上かかる8.NPPV適応や調整には睡眠ポリグラフが理想的と考えられているが11,神経筋疾患の小児に行うには大変なスキルがいるので,SpO2とTcCO2の睡眠モニタにより適応を判断して良いとされている8.また,パリの小児神経筋疾患の在宅NPPVにおいては,TcCO2の睡眠モニターは,コスト効果があると書かれている12

NPPV条件調整

1. 睡眠時のNPPV条件調整

NPPV条件は,睡眠時のNPPVに伴う胸の動きなどの観察とTcCO2,SpO2,心拍数,人工呼吸器の実測値,本人の翌朝の症状などにより調整する(図16

図1

NPPV条件変更(吸気時間延長と保障1回換気量増加)によるTcCO2低下

NPPVの条件調節においては,圧調節換気か量調節換気かを選択する.NPPVの圧を増加させると安定期COPDのTcCO2を低下することができるという報告もある13.一般に,二相性陽圧換気(bilevel positive airway pressure=bilevel-PAP)は,6歳以下,理解度が不十分な患者,咽頭や喉頭機能が低下している患者,肺活量低下が軽度な患者に好まれやすい.特に,小児では,レム睡眠期の呼吸障害に対応するために,圧調節の量保障換気もよく使われるが,根拠は明らかではない8

しかし,呼吸筋力が低下した例では,呼気の陽圧はわずかでも,呼気を排出しにくく,開口で換気量が増大する.このため,bilevel PAPの呼気圧(expiratory positive airway pressure: EPAP)は,酸素化が障害されていたり,心原性肺水腫を認めない場合は,原則として機種による再呼吸を防ぐ最小値とする14,15,16.呼気弁のある回路を使用している場合は,呼気終末陽圧(positive end expiratory pressure: PEEP)を設定するような肺の問題がなければ,PEEPをゼロにすることもある(図28.特に,会話や食事をする覚醒時の使用には,呼気弁回路を使用したPEEPゼロの量調節のメリットは高い17,18,19.このため,昼間と夜間でNPPV条件設定を変更することもある.

図2

NPPVにおいて,呼気弁なし回路から呼気弁を用いた回路に交換し,PEEPを最小からゼロにし,気道内圧と呼吸回数を微調整することにより,TcCO2平均 60→45 mmHgに低下.脈の平均も 66.2→58.6 bpmに低下.

また,神経筋疾患には持続陽圧(continuous positive airway pressure=CPAP)をしない8.さらに,現状の携帯型人工呼吸器のトリガ感度調節に限界があるため20,補助/調節換気(assist control: A/C,機種によってはspontaneous/timed: S/Tと記載)モードだけでなく,自発呼吸があってもコントロール(機種によってはTと記載)モードを活用した方が効果的な場合もある.ただし,最近では,以前に比べてトリガが適切に設定できる機種もある.

睡眠時のVTiやVTeのデータを総合的に参考にすることはあるが,実際の観察やTcCO2値と合わせて評価する.睡眠時に観察やデータに基づいてその場でNPPVの条件を変更し,すぐに結果が現れることもある.または,一晩のデータの分析から翌朝に条件変更をして,再度睡眠時モニターで確認することもある.インターフェイス,フィッティング,頸の向きによる気道確保の状態,便秘による腹部膨満,胸郭のコンプライアンスなども,NPPV効果に影響する.現状のNPPV条件調整では限界を感じる場合でも,新しいインターフェイスやモードの出現により,さらに改善することがある.最近のマウスピースモードの出現により,覚醒時のNPPVのコンプライアンスを高め,呼吸筋疲労やTcCO2の管理を自身で行える20,21,22,23,24,25,26

2. NPPVにより惹起される睡眠呼吸障害

NPPVは生命予後の改善と睡眠の質を改善するといわれているが,心筋症や咽頭喉頭機能障害の合併に注意して使用する必要がある10.また,最近の総説において10,「NPPVは睡眠呼吸障害を引き起こすこともある.それは,トリガー不良,自動トリガー,中枢性無呼吸,声帯閉鎖が起こることにより,中途覚醒の増加,アドヒアランス低下,睡眠深度の不良を引き起こすからである.特に,声帯閉鎖は,上気道から下気道へエアが急激に入りCO2が低下した際に,過換気の防止や下気道の保護のために反射的に声帯が閉まるものである」と記載されている.

このように,神経筋疾患では,肺のガス交換機能は障害されていないため,肺実質疾患に比べて,NPPVの換気により,声帯閉鎖が起こり易い傾向がある.そこで,あまりCO2を下げようとすると声帯閉鎖を引き起こし,換気低下と中途覚醒をくり返すことがあるので,CO2を低下し過ぎていないかを適宜睡眠モニターで確認する必要がある(図3-a, b).睡眠ポリグラフは,NPPVによって引き起こされる睡眠呼吸障害のイベントを正確に分類し,NPPVの設定の改善に役立てられる10.しかし,前述の適応の判断と同様に,神経筋疾患の小児に行うには大変なスキルがいるので,SpO2とTcCO2の睡眠モニタによりNPPV設定を調整することが多い8.これらをふまえた適切な睡眠呼吸障害のマネジメントには,低換気のプロトコールと呼吸の問題の特定とトラブルシューティングに熟達した技術スタッフを要する10,27

図3-a

デュシェンヌ型筋ジストロフィー12才.肺活量=2,050 mL,咳のピークフロー(cough peak flow=CPF)175 L/min,授業中の集中力低下あり.睡眠時TcCO2高値を認め,肺活量はあまり低下していないがNPPV適応と判断.

図3-b

NPPV導入後に NPPV導入前には認めていなかったくり返すSpO2低下が出現した.SpO2低下の直前にTcCO2が異常低値になっていた.このため,NPPV条件調整し,TcCO2が低値になりすぎないようにすると,くり返すSpO2低下は軽快した.

睡眠時に低換気になると中途覚醒を繰り返し,SpO2低下やTcCO2上昇を抑えていることがある.そのような例では,NPPV条件を調整し,中途覚醒が減少すると,SpO2低下やTcCO2上昇が一時的に悪化することもある.この事象は睡眠ポリグラフで睡眠深度を測定することで確認される.しかし,特に小児では,測定機器の装着が増えると睡眠を妨げられることも考慮しなければならない.睡眠深度を測定しない場合は,睡眠時の心拍数の低下や,翌朝「よく眠れた」と感じたり,前日より体調が良いことなどで睡眠の質と量が改善されているかどうかを判断する.睡眠時NPPVの目的は,良質な睡眠およびSpO2とTcCO2の改善である.

3. NPPVの長期管理

初回のNPPV適応と条件調整は専門センターで睡眠時の呼吸モニター(SpO2やTcCO2)を用いて行い,その後,近くの医療機関と連携してフォローする8.NPPV導入後は,年に1回以上,または,新たな症状出現時,昼間や睡眠時の呼吸モニターを行う16.睡眠時のNPPV条件調整をしても,SpO2は維持されているのにTcCO2が高値の場合,昼間の高CO2血症を認める場合がある原疾患の進行,加齢により,TcCO2をできるだけ正常範囲に維持し,呼吸筋疲労を悪化させないためにNPPV使用時間を睡眠時から覚醒時にも徐々に追加する18,28.覚醒時の使用に際しては,褥瘡や顔面変形予防,食事や会話や電動車いす使用にも適したインターフェイスを複数選定するように努める14,15

小児の在宅NPPVのインターフェイスは鼻マスクが主流である29.覚醒時にはマウスピースも使用できる8.ただし,小児では,成人に比べてインターフェイスの種類が限られ,特に未熟児や乳児,年齢ごとのサイズは,麻酔マスクのようにそろっていない.しかし,小児のNPPVの増加に伴い,世界中で小児用インターフェイスも開発が進められている8

4. NPPVに酸素付加

特に神経筋疾患では,中枢性の換気調節として,CO2に対する反応が鈍化している場合がある.そして,SpO2の低下だけに反応して換気が促されていることがある.このような例に,人工呼吸に酸素付加をしてSpO2を改善すると,CO2が上昇する.このため,意識状態確認も含めTcCO2モニタを適宜行う30

ネーザルハイフロー(nasal high flow)療法は,高流量により,気道陽圧も 5 cmH2O程度かかる.しかし,CPAPに比べると圧の維持は不安定で,開口により気道内圧が低下する.神経筋疾患のように,高CO2血症を伴う換気低下例には効果が限られる31

NPPV効果を支える咳介助

吸気と呼気を同時に介助する唯一の機器が,機械による咳介助(mechanical insufflation-exsufflation=MI-E)の機器である.MI-Eに合わせて呼気時に胸部圧迫を加える方法を“徒手介助併用の機械による咳介助”(maximum assisted coughing: MAC)と呼ぶ.本邦で使用可能な市販の機器は現在複数あるが,カフアシストE-70(フィリップス・レスピロニクス合同会社,米国)では,CPF(機械の画面にはPCFと表示)の実測値と深吸気量が表示される.

最近,MI-E機器の開発者であるBach JRらは,目標とされる陽圧・陰圧を以前の 40 hPaから 55 hPaと訂正している32,33.実際の圧や時間の調整は,画面上のPCFと排痰効果,本人の胸の痛みや耐性により行う.

国際呼吸ケアガイドラインの実施率調査

米国に筋ジストロフィーの統計,追跡,研究を行うネットワーク(MD STARnet)がある.それを用いて,2000年~2011年にデュシェンヌ型筋ジストロフィーの呼吸の評価と治療において,ガイドライン34,35が支持・実施されているか調査された36

主な結果は,①呼吸機能評価を年2回以上実施している患者は50%以下 ②覚醒時と睡眠時の低換気について年1回検査している患者は67%以下 ③在宅で機械による咳介助(mechanical insufflation-exsufflation=MI-E)とNPPVをしていても気管切開を防げていないことであった.気管切開の29人中18人は急性呼吸不全のために気管切開になっていた.年齢は10代後半が多かった.④呼吸器科医が評価に関わっているのは32%以下,などであった.英国や当院におけるデュシェンヌ型筋ジストロフィーのNPPVやMI-Eを用いた生命予後の改善効果の報告が引用され,呼吸ケアの国際ガイドラインの実施率を高めることが示唆された.

また,カナダの小児呼吸器専門医や小児神経筋疾患専門医において,CDCの推奨したデュシェンヌ型筋ジストロフィーの国際ガイドラインの呼吸ケアに準じていないことも高率にあると指摘された36.デュシェンヌ型筋ジストロフィーの睡眠時NPPVのタイムリーな適応,条件調整を含めた長期効果の維持には,欧米先進国でも熟練した専門チームを育成する必要があることが改めて認識された.

おわりに

近年の睡眠時から覚醒時までのTcCO2モニタを用いたNPPVの適応,条件調整について,今後の症例の蓄積と臨床研究が望まれる.

備考

本論文は,第27回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会教育講演「CO2モニタを用いたNPPV管理」として発表された.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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© 2019 一般社団法人日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
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