2019 年 28 巻 1 号 p. 85-90
【目的】呼吸理学療法において咳嗽介助や咳嗽練習は重要であるが,臨床上体位が制限されることは多い.本研究では若年者および高齢者を対象に体位が咳嗽・呼吸機能に与える影響を,複数の測定項目を用いて多くの観点から検討した.
【方法】健常若年男女20名,健常高齢男女6名を対象とし,ベッド上で座位,背臥位,半側臥位,側臥位,半腹臥位,腹臥位の6つの姿勢を無作為にとらせ,肺活量,1秒量,咳嗽時最大流量,咳嗽時吸気量,呼吸筋力,咳嗽時の胸腹部の周径差,咳嗽加速度を算出した.
【結果】若年者,高齢者ともに座位と比較すると臥位での咳嗽機能の数値は低下し,特に半腹臥位や腹臥位で低値を示した.
【結論】半腹臥位や腹臥位では咳嗽機能が低下し,高齢者ではより顕著な低下を示した.端坐位の実施が困難である患者に対し,半腹臥位や腹臥位での介入は不利であるが,側臥位での介入は比較的有利である可能性が示唆された.
高齢者には加齢による影響として,呼吸筋群の萎縮に伴う筋出力の低下や胸郭の可動性の低下,および肺胞腔の拡大や気道の線毛運動低下に伴う排痰能力の低下などが認められ,これらの複合的な要因から咳嗽能力や呼吸機能の低下が生じる1,2).咳嗽能力や呼吸機能の低下は誤嚥や痰の貯留による肺炎をはじめとした呼吸器疾患発症のリスクを高め,罹患疾患を遷延化させる要因となる.
咳嗽を行う際の体位に関して,最も高い最大咳嗽流量(Peak Cough Flow: PCF)が得られるのは座位であると報告されており3),臨床上実践されている.しかし,呼吸理学療法介入において覚醒度や安静度,全身状態など諸々の理由により座位の実施が困難な患者に対し,臥位の状態で介入する場面は臨床上多くある.また,側臥位と半腹臥位を比べた際など,体位により患者の呼吸様式や咳嗽の強さに差異が認められることをよく経験する.そこで,様々な体位で咳嗽能力や呼吸機能にどのような差異が認められるのか,特に腹臥位や半腹臥位は他の臥位での体位と比較してどの程度低下するのかを検討することが必要であると考えられる.しかしながら,若年者健常者における体位ごとの咳嗽機能を測定した研究は散見されるものの,若年者と高齢者の咳嗽・呼吸機能を同一条件で測定を行った研究は少ない.
本研究の目的は,同一の条件で若年者,高齢者両方において様々な体位での咳嗽能力と呼吸機能の変化を検討することである.体位間での咳嗽能力,呼吸機能の違いが加齢により受ける影響を把握することで,排痰手技が必要となる可能性が高い高齢者に対し,安全で効率のよい呼吸理学療法が実践できると考えられる.
対象は,健常若年男女20名(男性10名,女性10名,年齢21.2±1.2歳,体重61.6±8.4 kg)と,65歳以上の高齢男女6名(男性3名,女性3名,年齢73.0±9.0歳,体重60.1±12.1 kg)であった.測定データに影響を及ぼすと考えられる喘息などの呼吸器疾患,神経筋疾患や循環器疾患の既往を持つ者や喫煙経験者,過去に開胸・開腹術を受けたことがある者,および体位保持に影響を及ぼすような運動器疾患や,高度の円背を持つ者は除外した.
なお,全ての対象者に対して,本研究に関する十分な説明を口頭,文書を交えて行い,書面にて同意を得た.また,本研究は兵庫医療大学倫理審査委員会および兵庫医科大学倫理審査委員会の承認を得て実施した(兵庫医療大学:承認番号 第13033号,兵庫医科大学:承認番号 第1189号).
測定体位はベッド上で背臥位,半側臥位,側臥位,半腹臥位,腹臥位,およびベッド端座位の6つで実施した(図1).体位の順序は無作為化して決定した.半側臥位,側臥位,半腹臥位の角度は,水平面としたベッド面と両肩峰を結ぶ線のなす角度がそれぞれ45度,90度,135度となる体位とし,向きは常に左胸郭がベッド面に触れる向きとした.半側臥位と半腹臥位の体位保持にはクッションを使用した.
各体位と測定の順序
測定を行う順序は,座位,背臥位,半側臥位,側臥位,半腹臥位,腹臥位の6体位をくじで決定した.
上記の体位で対象者に,呼気ガス分析装置(ミナト医科学社製 AE-310S)に接続したマウスピースをくわえさせ,図2に示すようにマウスピースを測定者が支えた状態で最大吸気量まで吸気させたのちに最大努力下でのPCFを3回測定し,その最大値を測定値として採用した.また,呼吸機能には胸郭の可動性が関連していることが明らかとなっており4),咳嗽時の経時的な胸腹部呼吸運動を測定し,胸郭と腹部の可動性を観察する目的で,Respiratory Inductance Plethysmography(以下,RIP AMI社製)を剣状突起部(胸部)および肋骨弓最下端直下(腹部)にそれぞれ装着し,咳嗽直前の最大吸気時の周径とPCF発生時の周径との差を計測した.その後,マウスピースをオートスパイロメーター(ミナト医科学社製 AS-507)に接続し,標準的な呼吸機能検査の測定方法5)に則り,努力性肺活量(FVC),1秒量(FEV1),最大吸気圧(PImax),最大呼気圧(PEmax)を測定した.また,咳嗽を行う直前の吸気量を咳嗽時吸気量として測定した.
測定風景
被験者の胸部と腹部にRIPを装着し,測定者がマウスピースを支えながら測定を行った.
呼気ガス分析装置を介して測定した肺気量,流量とRIPにより測定した胸腹部周径差のアナログデータを,A/D変換装置(PowerLab 16/30 ADI社製)に接続することでデジタル変換し,サンプリング周波数 1,000 Hzで保存した.得られたデータに関して咳嗽データは,Pittsら6)の方法に従い,図3のように咳嗽を吸気相時間,最大吸気流量,圧縮相時間,呼気立ち上がり時間と相ごとに分類し,PCFから呼気立ち上がり時間を除することで求め,誤嚥・咽頭侵入のリスクの指標として利用される咳嗽加速度6)を算出した.
相による咳嗽の分類(横軸は時間経過を表す)
①~②:吸気相時間,②~③:圧縮相時間,③~④呼気立ち上がり時間
A:最大吸気流量,B:PCF,
PCF÷呼気立ち上がり時間=咳嗽加速度
統計学的検定には統計解析ソフト SPSS Statistics Ver. 22(IBM社製)を使用した.若年者の各測定項目については,Shapiro-Wilkの正規性の検定により正規性が認められた項目については反復測定一元配置分散分析を用い,正規性が認められない項目についてはFriedman検定を行った.有意差がみられた場合,Tukeyの方法による多重比較を実施した.高齢者の各測定項目についてはFriedman検定を行った.有意差がみられた場合,Tukeyの方法による多重比較を実施した.すべての検定について有意水準は5%とした.
咳嗽機能において,PCFは側臥位を除いた臥位の体位が,座位に対して有意に低値であった.また側臥位に対し半腹臥位,腹臥位は有意に低値を示した.咳嗽加速度は座位と側臥位に対し半腹臥位,腹臥位が有意に低値であり,背臥位に対し半腹臥位が有意に低値であった.咳嗽前吸気量は体位間での有意差を認めなかった.咳嗽時の胸腹部の周径差では,胸部の周径差は背臥位に対し側臥位,半腹臥位,腹臥位が低値を示し,半側臥位に対し半腹臥位と腹臥位が低値であった.また,座位に対し半腹臥位,腹臥位が低値を示した.腹部の周径差は有意差を認めなかった.
座位 | 背臥位 | 半側臥位 | 側臥位 | 半腹臥位 | 腹臥位 | |
---|---|---|---|---|---|---|
咳嗽前吸気量(L) | 2.07±0.59 | 2.00±0.50 | 1.94±0.43 | 2.05±0.61 | 2.08±0.55 | 2.13±0.58 |
PCF(L/min) | 549.57±100.90 | 496.54±107.32* | 494.40±128.63* | 521.80±115.77 | 464.89±110.97*† | 472.00±106.74*† |
咳嗽加速度(L/sec/sec) | 202.11±100.34 | 200.24±107.54 | 197.09±113.94 | 199.07±107.12 | 168.12±80.27*†‡ | 173.38±76.33*† |
胸部周径差(cm) | 0.94±0.53 | 1.19±0.63 | 1.02±0.67 | 0.86±0.60‡ | 0.62±0.40*‡§ | 0.55±0.45*‡§ |
腹部周径差(cm) | 1.56±0.87 | 1.28±0.69 | 1.51±0.76 | 1.54±0.76 | 1.45±0.86 | 1.72±0.86 |
FVC(L) | 3.29±0.74 | 3.24±0.69 | 3.20±0.72 | 3.16±0.71 | 2.99±0.67*†‡§ | 3.10±0.67* |
FEV1(L) | 3.00±0.64 | 2.82±0.59* | 2.84±0.61* | 2.84±0.67* | 2.68±0.61*§ | 2.75±0.56* |
PImax(cmH2O) | 75.49±29.52 | 67.94±26.83 | 68.25±24.42 | 70.90±27.21 | 66.83±20.73 | 70.78±26.85 |
PEmax(cmH2O) | 59.25±21.70 | 61.70±24.54 | 59.06±19.67 | 57.31±18.87 | 61.03±27.71 | 63.25±22.79 |
正規性が認められた項目については反復測定一元配置分散分析,正規性が認められない項目についてはFriedman検定を実施.有意差がみられた場合,Tukeyの方法による多重比較を実施.顕著な低値を示したPCFと咳嗽加速度の半腹臥位,腹臥位の項目に下線を付している.
*:座位との比較 p<0.05 †:側臥位との比較 p<0.05 ‡:背臥位との比較 p<0.05 §:半側臥位との比較 p<0.05
FVC:努力肺活量 FEV1:1秒量 PCF:最大咳嗽流量 PEmax:最大呼気圧 PImax:最大吸気圧
呼吸機能に関して,FVCは座位に対し半腹臥位,腹臥位が有意に低値を示し,背臥位,半側臥位,側臥位に対し半腹臥位は有意に低値であった.FEV1は座位に対し側臥位以外のすべての体位で有意に低値を示し,半側臥位に対し半腹臥位は有意に低値であった.呼吸筋力に関しては,PImax,PEmax共に有意差を認めなかった.
2. 高齢者(表2)咳嗽機能に関して,PCFは側臥位に対し半腹臥位で有意に低値を示した.咳嗽加速度は,側臥位に対し半腹臥位,腹臥位で有意に低値を示した.咳嗽前吸気量は体位間での有意差を認めなかった.咳嗽時の胸腹部の周径差では,胸部の周径差は背臥位に対し腹臥位で有意に低値であったが,腹部の周径差は有意差を認めなかった.呼吸機能は,FVC,FEV1共に各体位間で有意差を認めず,呼吸筋力もPImax,PEmax共に有意差を認めなかった.
座位 | 背臥位 | 半側臥位 | 側臥位 | 半腹臥位 | 腹臥位 | |
---|---|---|---|---|---|---|
咳嗽前吸気量(L) | 1.39±0.34 | 1.33±0.44 | 1.30±0.34 | 1.19±0.29 | 1.30±0.43 | 1.10±0.34 |
PCF(L/min) | 331.00±100.42 | 262.70±93.74 | 253.20±91.65 | 280.80±90.02 | 212.20±72.21*† | 215.10±44.13* |
咳嗽加速度(L/sec/sec) | 95.73±46.52 | 80.52±48.71 | 71.45±20.30 | 89.57±52.53 | 52.96±17.59*† | 55.71±18.67*† |
胸部周径差(cm) | 0.68±0.53 | 0.86±0.29 | 0.52±0.41 | 0.48±0.26 | 0.46±0.25 | 0.31±0.15‡ |
腹部周径差(cm) | 0.71±0.42 | 0.76±0.46 | 0.82±0.48 | 0.79±0.47 | 0.84±0.48 | 0.83±0.62 |
FVC(L) | 2.19±0.27 | 2.11±0.42 | 2.11±0.31 | 2.13±0.30 | 2.05±0.24 | 1.99±0.22 |
FEV1(L) | 1.78±0.26 | 1.69±0.43 | 1.71±0.32 | 1.75±0.30 | 1.65±0.34 | 1.65±0.31 |
PImax(cmH2O) | 46.25±23.78 | 46.72±29.15 | 47.45±22.47 | 49.35±25.80 | 45.42±24.46 | 39.55±21.58 |
PEmax(cmH2O) | 60.43±33.00 | 59.12±36.07 | 59.15±32.58 | 57.28±32.10 | 63.55±33.69 | 57.15±30.92 |
各測定項目についてはFriedman検定を実施.有意差がみられた場合,Tukeyの方法による多重比較を実施.顕著な低値を示したPCFと咳嗽加速度の半腹臥位,腹臥位の項目に下線を付している.
*:座位との比較 p<0.05 †:側臥位との比較 p<0.05 ‡:背臥位との比較 p<0.05
FVC:努力肺活量 FEV1:1秒量 PCF:最大咳嗽流量 PEmax:最大呼気圧 PImax:最大吸気圧
本研究の結果から,臥位での咳嗽機能・呼吸機能および胸腹部の周径差は座位と比較すると低下し,臥位の中では半腹臥位や腹臥位で特に低下することが明らかとなった.座位での数値が高値である理由の一つとして,座位では腹腔内臓器が重力により下がることで横隔膜が下がり,機能的残気量が増加するためであると述べられている3).また,Alivertiら7)は背臥位では腹腔内臓器が背側に移動するため肺の拡張を阻害し,腹臥位ではベッド面が胸郭の運動を阻害するためであることを報告している.本研究でも腹臥位での各数値は低値を示し,臥位の中では側臥位でのPCFや咳嗽加速度が最も高値を示した.しかし本研究の結果では背臥位と比較して側臥位での胸部の周径差は低下した.側臥位ではベッドとの接触面の胸郭の運動が妨げられた影響が考えられる.一方で腹部の周径差は有意差を認めなかった.橋詰ら8)は側臥位をとると下側の腹部の前後径が増大することを報告しており,その可能性として腹部臓器が重力により下方へ移動することを挙げている.胸郭運動は制限を受けるものの腹腔内臓器の圧迫による肺の拡張は阻害されなかったため,側臥位でPCFが最も高値になったものと考えられた.しかし側臥位における腹部臓器と肺の拡張運動の関係について詳細に調査された研究は少なく,さらなる検討が必要である.また,半腹臥位や腹臥位で咳嗽機能に低下がみられた原因として,自重とベッド面の圧迫により前後径への胸郭運動が妨げられたことで十分な咳嗽が行えなかったことが考えられる.一方で咳嗽前の吸気量には各体位で有意差はみられなかった.腹部周径差には有意差はみられておらず,胸郭に覆われていない腹部の運動により代償している可能性が考えられる.また,半腹臥位や腹臥位では腹筋群が圧迫されることで咳嗽時の瞬発的な腹筋群の活動に影響を与えた可能性が考えれるが,これには体位ごとの腹筋群の筋活動の観察が必要である.
FVCは座位と比較して半腹臥位,腹臥位で有意に低値を示し,FEV1は座位と比較して他の体位で全て有意に低値であった.これらは咳嗽機能と同様に臥位では機能的残気量が低下するためFVC,FEV1が低下したことが考えられた.
呼吸筋力はPImax,PEmax共に各体位間で有意な差は認められなかった.Keraら9)は立位と座位,背臥位で呼吸筋力を測定し,体位が変化すると呼吸筋群の長さ-張力曲線が変化するため呼吸筋力に変化がみられたと報告しているが,Ogiwara10)らは,若年者はどの体位でも効率的に呼吸筋力を発揮できる可能性について報告している.本研究において,若年者は十分な腹筋群の筋力と,それに伴う呼吸筋力を有しているため半腹臥位や腹臥位のような体位でも影響を受けずに呼吸筋力が発揮できたと考えられる.以上のことから,PCFや咳嗽加速度などの咳嗽能力が半腹臥位,腹臥位で低下した要因について,筋力発揮は十分にできていたもののベッド面による胸郭運動の制限が影響することで咳嗽能力が低下したと推察された.
2. 高齢者について高齢者での測定において,座位や側臥位と比較して半腹臥位および腹臥位で咳嗽・呼吸機能が低下することが明らかとなった.PCFや咳嗽加速度をはじめとした咳嗽機能の値には呼吸機能が関連していることが報告されている11).咳嗽能力が低下した要因として,若年者ではベッド面の胸郭への圧迫による胸部運動の低下が原因であると推察したが,高齢者の胸部周径差は背臥位と比較して半腹臥位でも低値であるものの,有意差を認めたのは腹臥位のみであった.本研究において若年者と高齢者を直接比較することは困難であるが,若年者と同様の差が認められなかった原因として,加齢の影響による胸郭の可動性の低下,それに伴う換気能力の低下,呼吸筋力の低下などが考えられる.加齢が胸郭運動に与える影響としてJanssensら12)は,肺-胸郭の弾力性の指標である胸郭コンプライアンスが低下し胸郭が硬くなることを示している.胸郭コンプライアンスが低下する原因として永岡ら13)は,肋軟骨や肋椎関節の石灰化,椎間板の狭小化を挙げている.高齢者は加齢の影響によって肺-胸郭の弾力性が低下することにより,十分な吸気・呼気が困難となっており,加えて体位を変化させ半腹臥位や腹臥位をとることでベッド面の圧迫が増すことでさらに胸郭運動が阻害され,若年者よりも咳嗽能力が低値を示したと考えられる.
また,側臥位と座位以外の体位のPCFは,米国胸部学会のガイドライン14)で示される推奨値の 270 L/minを下回っており,日常的な気道のクリアランスに問題が生じている可能性が示唆され,臥位で咳嗽を行わせることは臨床上不利であることが考えられる.そのため,胸郭可動性を改善させることで咳嗽能力や呼吸機能が改善することが期待される.胸郭可動性を改善させる方法として胸郭ストレッチングや胸郭ストレッチ体操など15)がある.田平ら16)は呼吸器疾患患者に対して肋骨・胸郭の捻転などへの徒手胸郭伸張を実施し,胸郭の可動性と呼吸機能が有意に改善したと報告している.したがって臨床場面では,これらの胸郭可動性を改善せる手技を用いることで咳嗽能力や呼吸機能が体位の影響を受けにくくなる可能性があると考えられる.
また,呼吸筋力はPImax,PEmax共に各体位間で有意な差が認められなかった.本研究では若年者と高齢者の直接比較は行っていないが,呼吸筋力は高齢者の方が数値的に低いことは明らかである.呼吸筋力の低下により自重の影響を受けやすい半腹臥位や腹臥位で咳嗽機能に影響を与えた可能性が考えられた.呼吸筋力の低下についてLoweryら1)は,骨格筋力は1年ごとに2%ずつ低下し,それは呼吸筋力に関しても同様であると述べている.さらにFreitasら17)は,加齢の影響によりPCFが低下することを報告しており,この原因として横隔膜や腹筋群などの呼吸筋力の影響を挙げている.そのため呼吸筋力の低下に伴い咳嗽加速度も低下すると考えられる.また,加齢が呼吸筋力に及ぼす影響として鈴木ら18)は様々な年齢の本邦成人を対象として呼吸筋力を測定し,その加齢変化を検討した.その結果年齢と呼吸筋力は男女共に負の相関があると述べ,20歳代と80歳代の数値を比較すると半分近くまで低下すると報告しており,要因として加齢による横隔膜の筋力低下による吸気機能の低下を挙げている.本研究においても若年者と比較して高齢者のPCFが低下しており,その原因として加齢による呼吸筋力と胸郭可動性の低下が関連していることが示唆された.本研究では最大努力下での口腔内圧の測定を行ったが,今後は咳嗽を意識した瞬発的な咳嗽時の筋力を測定する方法を検討する必要があると考える.
本研究では,健常成人男女20名と,呼吸・循環器に疾患のない高齢者6名を対象に,臥位における体位を変化させながら咳嗽・呼吸機能を測定し,体位の変化による特徴を検討した.健常成人,高齢者共に半腹臥位や腹臥位での咳嗽機能は低下し,側臥位で高いという結果が得られた.半腹臥位や腹臥位で咳嗽機能が低下する要因として,健常成人では胸部へのベッド面による圧迫により可動性が低下し,胸郭運動が制限されたためであることが考えられた.高齢者では胸郭運動の制限に加え,特に加齢の影響による胸郭運動の低下,呼吸筋力の低下による影響がより大きいと考えられた.そのため呼吸理学療法の介入による呼吸筋トレーニングや,咳嗽介助などの手技を実施することは重要であるといえる.しかしながら測定対象者数が少ないため若年者と高齢者を直接比較した考察を行うことが困難であったことが本研究の限界であり,検討課題である.今後は対象者数を増やし,より広い観点から検討を行うことが必要である.
以上のことから,痰が多く座位をとることが困難である患者に対し,臨床場面においてよく使われる腹臥位や,その代用である半腹臥位は咳嗽練習や呼吸練習には不利であり,臥位姿勢の中では側臥位が最も有利であると考えられた.臨床介入において,体位肺痰法などを組み合わせた上で臥位で咳嗽をさせる際には側臥位をとるなど,幅広い介入を行うことでより呼吸理学療法の効果を高めることができると考えられる.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.