日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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原著
成人喘息患者の治療満足度と服薬アドヒアランスとの関連性
伊藤 光平松 哲夫河合 香奈
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2019 年 28 巻 1 号 p. 97-102

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要旨

本研究は,成人喘息患者における服薬アドヒアランスに関連する背景要因を調査し,治療満足度と服薬アドヒアランスとの関連性を検討した.対象は平松内科呼吸器内科小牧ぜんそく睡眠リハビリクリニック通院中の患者159名.服薬アドヒアランスはAdherence Starts with Knowledge-12(ASK-12),治療満足度はClient Satisfaction Questionnaire8項目版(CSQ-8J),喘息コントロール状況は日本語版Asthma Control Test(ACT)で評価した.また,過去3か月間の全身ステロイド薬の使用歴を確認し,喘息の増悪の有無を調査した.喘息コントロール状況別でみたASK-12スコアに有意な差は認めず,過去3か月間に増悪のなかった患者のASK-12スコアは有意に低かった(p<0.0001).ASK-12スコアとACTスコアとの相関はなく,ASK-12スコアはCSQ-8Jスコアと相関関係を認めた(p<0.0001).重回帰分析の結果,CSQ-8JスコアはASK-12スコアと有意な独立説明変数として関連していた(β:-0.3897 p<0.0001).本研究により治療満足度は服薬アドヒアランスの予測因子であることが示唆された.

緒言

服薬アドヒアランスの不良は,長期薬物治療管理を要する慢性疾患に特に多い.特に,喘息患者におけるアドヒアランス不良患者の割合は,他の慢性疾患に比べて高く1,吸入ステロイド薬を処方どおり使用している患者は少ないことが報告されている2,3.喘息予防治療ガイドライン2015においては成人,小児ともに喘息ガイドラインの目標に対して喘息コントロールは依然として不十分であり,よりよい喘息コントロールを目指して吸入ステロイド薬のさらなる普及とアドヒアランス向上の必要性が示されている4.したがって,喘息患者のアドヒアランスに影響する要因を特定することは,喘息コントロールを改善させるため,また,良好な喘息コントロールを維持するための重要な課題となる.服薬アドヒアランスと治療満足度の関連性については,高血圧,緑内障,糖尿病,骨粗鬆症,精神疾患等の患者の高い治療満足度とアドヒアランスや治療継続性との間に有意な関連性があることが,システマティックレビューにより明らかにされている5が,喘息患者を対象とした調査は行われていない.本邦においても喘息患者の治療満足度を調査した研究は少なく6,7,服薬アドヒアランスと治療満足度との関連性について詳細に検討した報告はほとんどない.今回,平松内科呼吸器内科小牧ぜんそく睡眠リハビリクリニック(以下,当院)に通院中の喘息患者の服薬アドヒアランスとそれに関連する背景要因について調査し,治療満足度と服薬アドヒアランスとの関連性を検討したので報告する.

対象と方法

1. 対象

当院(単施設)通院中の喘息患者で3ヶ月以上喘息治療を受けていた患者を対象とした.当院は地域医療を担う呼吸器内科クリニックで,吸入指導・確認やピークフロー管理指導は院内薬剤師(筆者)と医師が協働し受診毎に行っている.対象者の抽出は薬学部学生(実習生)らが実習期間中に無作為に行い,160名のうち同意が得られた159名を対象とした.

2. 調査期間

2016年5月~2016年7月の期間に横断研究として行った.

3. 調査項目

患者特性として性別,年齢,治療歴,喫煙歴,治療ステップ,重症度,吸入デバイス,1日吸入回数を調査した.服薬アドヒアランスの評価は,Adherence Starts with Knowledge-12(以下,ASK-12)を用い,患者満足度は日本語版Client Satisfaction Questionnaire8項目版(以下,CSQ-8J)を用いた.喘息のコントロール状態の評価はAsthma Control Test(以下,ACT)を用いた.また,調査日から過去3カ月間の全身ステロイド(経口または点滴)の使用歴を確認し,増悪の有無・回数を調査した.

1) ASK-12

ASKはアドヒアランスの障壁となる広範囲の領域(ライフスタイル,意識,他の人からのサポート,医療関係者との話し合い,服薬など)に関して抽出され,作成当初あった47項目から臨床的及び統計学的レビューに基づいて20の調査項目を抽出しASK-20が作成された8.その中から服薬アドヒアランスの低下要因となる頻度が高かった12項目によりASK-12は作成され,信頼性と妥当性が確認されている9.ASK-12は,治療に対する不便さ/飲み忘れ(ライフスタイル:Q1~3),治療に対する意識(意識:Q4,Q5,他人からのサポート:Q6,医療関係者との話し合い:Q7),治療に対する行動(服薬について:Q8~Q12)からなる問診票で,Q1~Q7は「全くあてはまらない」=1点から「非常にあてはまる」=5点,Q8~Q12は「一度もない」=1点から「1週間以内にある」=5点の各項目5段階の選択肢から回答する.スコアが大きいほどアドヒアランスの障壁が大きいことを示す.また,各項目のカットオフ値は,ROC解析を用いて感度と特異度を算出して決定されており8,Q1,Q3,Q6,Q12は4点以上で,Q2,Q4,Q5,Q7~Q11は3点以上で障壁ありと判定される.

2) CSQ-8J

CSQ-8Jは標準化された患者満足度の測定尺度として国際的に用いられているClient Satisfaction Questionnaire 8項目版が日本語翻訳され,その信頼性と妥当性が検証されている自記式質問票である(総得点8‐32点:得点が高い程満足度が高い)10

3) ACT

ACTは最近4週間の喘息コントロール状態に関する5項目の質問に対して5段階で評価する自記式質問票で,各項目1~5点の総スコア5~25点で評価した.総スコアが,25点を「完全な状態(トータルコントロール),20~24点を「良好な状態(ウェルコントロール),19点以下を「コントロールされてない状態」と判定する.ACTは日本語によるバリデーションを経て作成されている11,12

4. 統計解析

本文中および図表の数値は平均±標準偏差で示し,患者背景とASK-12総スコアの比較検討はMann-Whitney U検定,Kruskal-Wallis検定を用いた.また,ASK-12とCSQ-8J,増悪回数,ACTの関連性はSpearmanの順位相関検定後,ASK-12を目的変数,CSQ-8J,増悪回数を独立変数として重回帰分析を行った.統計学的検討は,統計解析ソフトJMP 9 for Macintosh(SAS Institute Japan株式会社)を用いて解析し,いずれも有意水準は5%未満とした.

5. 倫理的配慮

患者には倫理的配慮に関する事項を書面および口頭で伝え,書面にて同意を得た.なお,本研究は,臨床研究に関する倫理指針に従い,日本薬局学会臨床研究倫理審査委員会の承認を得た.

結果

患者背景を表1に示す.対象患者159例の平均年齢は48.9±15.8歳で65歳以上の高齢者が33例(20.8%),65歳未満126例(79.2%)だった.対象患者の内訳は男性50例(31.4%),女性109例(68.6%),喫煙歴有37例(23.3%),無122例(76.7%),治療歴は1年未満126例(50.3%),1年以上5年未満42例(26.4%),5年以上37例(23.3%)だった.喘息予防・管理ガイドライン2015に定義されている症状および治療ステップを基準に判定した重症度は,軽症間欠型2例(1.3%),軽症持続型79例(49.7%),中等症持続型49例(30.8%),重症持続型19例(11.9%)だった.使用していた吸入デバイスはDry Powder Inhaler(以下,DPI)101例(63.5%),Pressurized Metered Dose Inhaler(以下,p-MDI)58例(36.5%)で1日吸入回数は1~2回が18例(11.3%),3~4回が119例(74.8%),5回以上が22例(13.8%)だった.ACTスコアが19以下のコントロール不良が30例(18.9%),20~24のウェルコントロールが74例(46.5%),25点のトータルコントロールが55例(34.6%)だった.過去3カ月間で全身ステロイド使用の増悪があった患者は55例(34.6%),増悪のなかった患者は104例(65.4%)だった.

表1 対象者の背景とASK-12スコア(N=159)
VariableN(%)ASK-12 スコア
Mean±SD
P-value
性別
男性50(31.4)23.5±5.70.1117a
女性109(68.6)25.0±5.7
年齢
65歳未満126(79.2)24.7±5.60.0030a
65歳以上33(20.8)21.1±5.5
治療歴
1年未満80(50.3)23.9±5.20.9014b
1年以上5年未満42(26.4)24.3±6.8
5年以上37(23.3)23.6±5.6
喫煙歴
37(23.3)24.6±6.40.5227 a
122(76.7)23.8±5.5
治療ステップ
ステップ12(1.3)21.0±5.70.7747b
ステップ297(61.0)23.8±5.2
ステップ337(23.3)23.8±6.2
ステップ423(14.5)25.3±6.9
重症度
軽症間欠型2(1.3)21.0±5.70.8770b
軽症持続型79(49.7)23.7±5.3
中等症持続型49(30.8)24.3±5.8
重症持続型19(11.9)23.4±5.5
最重症持続型10(6.3)25.8±9.0
吸入デバイス
p-MDI58(36.5)24.9±5.80.0973 a
DPI101(63.5)23.4±5.7
1日吸入回数
1~2回18(11.3)22.9±6.10.7169 b
3~4回119(74.8)23.9±5.5
5回以上22(13.8)24.9±6.8
ACTスコア
19点以下30(18.9)24.6±6.30.5062b
20~24点74(46.5)24.3±5.8
25点55(34.6)23.1±5.2
増悪有無(3カ月間)
55(34.6)26.4±0.5<.0001 a
104(65.4)22.7±0.7
a   Statistical significance of differences calculated with the Mann-Whitney U test.

b   Statistical significance of differences calculated with the Kruskal-Wallis test.

2群の比較は Mann–Whitney U test,3群以上の比較は Kruskal-Wallis testを使用

ASK-12スコアは平均±標準偏差

1. 服薬アドヒアランスの評価

ASK-12の平均スコアは24.0±5.7だった.ASK-12項目別平均スコアと「障壁あり」の割合(%)を表2に示す.Q1からQ12の12項目のうち平均スコアが高かった項目は,Q1「時々,薬を服用するのを忘れることがある」(2.9±1.4),Q6「自分の薬について分からないことを,相談できる人がいる」(2.8±1.1),Q8「指示された服用回数を上回ったり,下回ったりしたことがある」(2.6±1.6)だった.また,障壁ありと判定された患者の頻度が高かった項目は,Q1「時々,薬を服用するのを忘れることがある」80例(50.3%),Q8「指示された服用回数を上回ったり,下回ったりしたことがある」65例(40.9%),Q5「私は目標としている健康状態に近づいているのが自分でわかる」51例(32.1%)だった.

表2 ASK-12項目別スコア(mean±SD)と「障壁あり」の割合(%)(N=159)
ASK-12質問項目ASK-12スコア障壁あり人数(%)
1 時々,薬を服用するのを忘れることがある2.9±1.480(50.3)
2 再処方してもらうための受診が遅れ,服薬が中断してしまうことがある1.5±0.919(11.9)
3 1日2回以上薬を服用するのは面倒である2.5±1.237(23.3)
4 私が服用している薬は,どれも役に立っていると信じている1.8±0.719(11.9)
5 私は目標としている健康状態に近づいているのが自分でわかる2.2±0.851(32.1)
6 自分の薬について分からないことを,相談できる人がいる2.8±1.137(23.3)
7 医師/看護師/薬剤師と話し合って,服薬について決めている2.0±0.936(22.6)
8 指示された服薬回数を上回ったり,下回ったりしたことがある2.6±1.665(40.9)
9 薬が効いていないと思ったので,服薬を中断したり,やめたりしたことがある1.3±0.88(5.0)
10 薬を服用すると調子がわるくなったので,服薬を中断したり,やめたりしたことがある1.2±0.52(1.3)
11 費用がかかるので,服薬を中断したり,やめたり,再処方してもらわなかったり,量または服薬回数を減らしたことがある1.1±0.31(0.6)
12 薬を服用する時間に,薬を持ち合わせていなかったことがある2.1±1.423(14.5)
総スコア24.0±5.7

患者背景毎のASK-12スコアは,表1に示すように年齢別で65歳以上の高齢者で有意に低かった(p=0.0030).また,過去3カ月間に増悪のなかった患者のASK-12スコアは有意に低かった(<.0001).その他,性別,治療歴,喫煙歴,治療ステップ,重症度,吸入デバイス(p-MDIとDPI),1日吸入回数,喘息コントロール別ではASK-12スコアに有意な差は認めなかった.

2. 治療満足度と服薬アドヒアランスの関連性

治療満足度CSQ-8J項目別集計結果を図1に示す.CSQ-8Jの平均スコアは26.9±3.5だった.ASK-12スコアとCSQ-8Jスコア,年齢,増悪回数,ACTスコアの相関行列を表3に示す.CSQ-8Jスコアは,ASK-12スコア(r=-0.4434;<.0001),ACTスコア(r=0.3394;<.0001)との間に有意な相関関係を認めた.ASK-12スコアは,CSQ-8Jスコア(r=-0.4434;<.0001)の他に,年齢(r=-0.2010;0.0111),増悪回数(r=0.3698;<.0001)との間には有意な相関関係を認め,ACTスコアとの相関関係は認めなかった(r=-0.0990;0.2146).

図1

治療満足度CSQ-8J項目別集計結果

各項目のスコアは平均±標準偏差

表3 ASK-12とCSQ-8J,年齢,増悪回数,ACTのSpearmanの順位相関係数
Variable2.年齢3.増悪回数4.CSQ-8J5.ACT
1.ASK-12-0.2010*0.3698**-0.4434**-0.0990
2.年齢-0.0759-0.0530-0.0846
3.増悪回数-0.1307-0.2092**
4.CSQ-8J0.3394**
5.ACT

* P<0.05 ** P<0.01

服薬アドヒアランスと治療満足度との関連性をさらに詳細に検討するために,ASK-12スコアを目的変数,CSQ-8Jスコア,年齢,増悪回数を従属変数とし重回帰分析を行った.各変数間の相関行列は表3に示すとおり,重回帰分析を行う際に障害となる多重共線性を疑わせる高い相関は認められなかった.重回帰分析の結果を表4に示す.CSQ-8Jスコアは,ASK-12スコアと有意な独立説明変数として関連していた(β=-0.3897;<.0001).

表4 服薬アドヒアランスに関連する要因:重回帰分析結果(N=159)
VariableRegression coefficient(β95% CI for βP-value
LowerUpper
年齢-0.2195-0.1268-0.03270.0010
増悪回数0.31761.59353.8278<.0001
CSQ-8J-0.3897-0.8565-0.4267<.0001

Abbreviations: β Beta standardized linear regression coefficient; 95% CI 95% confidence interval for β unstandardized linear coefficients.

考察

本研究では,当院通院中の成人喘息患者の服薬アドヒアランスをASK-12を用いて評価し,次に服薬アドヒアランスと関連する要因を探索するために患者背景(男性・女性,高齢・非高齢者,治療歴,ACTスコア,重症度,吸入デバイス,過去3か月間の増悪の有無)毎にASK-12スコアを比較した.Matza LSらは,過去2週間で指示されたとおりに服用しなかった日数が0日の患者群のASK-12総スコアの平均が22.5±4.9,1~2日の患者群27.1±4.8,3日以上の患者群で32.4±7.2でASK-12総スコアが実際のアドヒアランスと相関することを報告している9.本調査の被験者集団におけるASK-12総スコアの平均は24.0±5.7であり,服薬アドヒアランスの比較的良好な患者が対象となった.

ASK-12スコアを患者背景毎に比較検討したところ,性別,治療歴,喫煙歴,治療ステップ,重症度,吸入デバイス,1日吸入回数,喘息コントロール状況別ではASK-12スコアに有意な差は認めず,高齢者と過去3カ月間に増悪のなかった患者のASK-12スコアは有意に低く服薬アドヒアランスは良好だった.長瀬らは,吸入薬のアドヒアランスの高い患者と低い患者での年齢分布に違いが認められ,20~39歳は60歳以上にくらべアドヒアランスが低いことを報告している13.また,熱田らのASK-20を用いた報告14では,65歳以上の高齢者およびACTスコアの高い群でASKスコアが低くアドヒアランスがよい傾向を示している.本調査結果では,高齢者については同様の結果が得られたが,ACTスコア別ではASK-12スコアに差はなく,熱田らの報告と一致しなかった.喘息コントロールの良好な患者群は服薬アドヒアランスが良好であることが予想されたが,今回のわれわれの調査ではACTスコアによる喘息コントロール状況別でみたASK-12スコアに有意な差はなかった.日本における喘息患者実態電話調査(Asthma Insights and Reality in Japan: AIRJ 2011)により吸入ステロイド薬の中断理由で最も多いのが「症状がなくなったから」であること報告されている3ことからも,喘息コントロールの良好な患者のなかには,無症状または症状が軽い故に服薬アドヒアランスの悪い患者が混在していると考えられる.本研究では,過去3か月間に増悪があった患者のASK-12スコアは有意に高く,増悪と服薬アドヒアランスとの関連性を認めたが,ACTスコアとASK-12スコアの相関は認められず,ACTスコアはアドヒアランスの予測因子とならないことが示唆された.

さらに,服薬アドヒアランスと治療満足度の関連性を検討するために,ASK-12スコアを目的変数,CSQ-8Jスコア,年齢,増悪回数を従属変数とし重回帰分析を行った結果,CSQ-8JはASK-12と有意な独立説明変数として関連していた(β=-0.3897;<.0001).喘息コントロールが良好なほど治療満足度が高いことが報告されており6,7,喘息コントロールが良好であることは治療満足度を高める条件の一つであると考えられるが,喘息コントロールが良好でも治療満足度が低いと良好なアドヒアランスを維持することへの障壁となると考えられる.本研究により喘息コントロール状況だけではない治療満足度が服薬アドヒアランスに影響することを示唆する興味深い結果が得られた.

吸入デバイスの満足度は,良好なアドヒアランスとの関連を通じて喘息の治療目標に肯定的な影響を与えることが認められている15,16.今回のわれわれの調査結果ではp-MDIとDPIとの間ではASK-12スコアに有意な差はなく服薬アドヒアランスとの関連性を認めなかったが,吸入デバイス個々に対する満足度がアドヒアランスに影響する可能性もあり,より詳細な検討が必要と考えられる.また,ASK-12のQ1からQ12の12項目のうち,Q6「自分の薬について分からないことを,相談できる人がいる」の平均スコアが比較的高く,また,Q5「私は目標としている健康状態に近づいているのが自分でわかる」の項目で障壁ありと判定された患者の頻度が高かったことから,相談相手など人的資源の不足や治療目標や現状の説明不足が,低い満足度や低アドヒアランスの要因となる可能性が考えられる.大田らは,喘息診療に関する医師からの患者への十分な説明により,患者の満足度や服薬アドヒアランスが向上し喘息治療の質の向上に繋がる可能性を報告している17.また,医師から患者への一方的な説明や指導よりも,治療計画や治療ゴールを話し合うことにより吸入ステロイド薬の処方率や使用数が増加することが報告されており18,患者と医療者が継続的に話し合うことが治療満足度の向上に繋がるかもしれない.吸入ステロイド薬の1年間継続は極めて低いことが報告されている19が,高い治療満足度を維持することにより,治療の中断や服薬アドヒアランス低下による増悪を抑制させ,良好な喘息コントロールを維持できると考えられる.

本研究により治療満足度は服薬アドヒアランスの重要な予測因子であることが確認された.喘息コントロールが良好な患者でもアドヒアランスの悪い患者が潜在しており,低アドヒアランスは増悪と関連している.喘息治療に対する良好なアドヒアランスを維持するためには,低い治療満足度が重要な障壁となる可能性が示唆された.本研究における限界として,調査対象となった患者は呼吸器専門クリニックである当院1施設のみで,服薬アドヒアランスの良好な患者の割合が高く,一般の成人喘息患者の実態を反映しているとはいえない.今後,多施設共同での研究が必要であると考えられ,また他施設との比較も意義があるかもしれない.さらに,喘息患者の具体的な治療満足度を評価するための適切な指標や介入方法の構築などのさらなる研究が必要であり今後の課題としたい.

備考

本論文の要旨は,第27回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2017年11月,宮城)で発表し,座長推薦を受けた.

著者のCOI(conflict of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
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