2019 年 28 巻 2 号 p. 249-252
慢性呼吸器疾患患者は治療を継続しているにもかかわらず,基礎疾患の進行や加齢に伴い一般的には経年的な肺機能低下がある.今回,息切れの訴えと酸素療法を行っている呼吸器内科外来を受診した32名と呼吸器内科病棟で息切れの訴えや酸素療法を行っている患者50名を対象に看護介入を行った.看護介入の延べ数は397件であり,入院222件(55.9%),外来175件(44.1%)であった.疾患別では,間質性肺炎35名(42.7%),とCOPD 21名(25.6%)の患者で過半数を占めていた.介入内容は,酸素療法174件(43.8%)が最多であり,呼吸法113件(28.5%),薬物療法34件(8.6%)と続いた.患者のセルフマネジメント能力を効果的に引き出すためには,必要なときに指導・相談ができる環境が重要である.慢性呼吸器疾患看護認定看護師が病棟と外来の組織横断的活動を行うことは,患者への質の高いケア介入となり,患者のセルフマネジメント能力を効果的に引き出す手段の1つであると考えられた.
高齢者人口の増加に伴い,慢性疾患の占める比率が高くなっている1).慢性呼吸器疾患では,慢性閉塞性肺疾患(COPD)をはじめ,間質性肺炎や気管支喘息など治療を継続しているにもかかわらず,基礎疾患の進行や加齢に伴い一般的には経年的な肺機能低下がある.厚生労働省の統計によると2016年のCOPDによる死亡数は15,654名であり,男性が12,626名(死亡順位8位)となっている2).COPDの管理では,禁煙指導,薬物指導,呼吸リハビリテーション(患者教育,運動療法,栄養療法),酸素療法,換気補助療法,外科療法などの治療に,併存症に対する管理を加え包括的に行うことで,治療の質の向上が期待されている3).日本看護協会では,2012年2月より慢性呼吸器疾患看護認定看護師(以下CRNCN)の育成が開始され,2016年12月現在244名の資格取得者が誕生している4).熟練した看護技術と知識を用いて,水準の高い看護実践を慢性呼吸器疾患患者へ提供し,呼吸ケアの質の向上,生活の質の維持を目標に各施設で様々な取り組みが行われている.当院のCRNCN活動では,看護外来,呼吸サポートチームによるラウンド,呼吸器内科病棟での酸素療法患者ラウンド,在宅酸素療法(以下 HOT)導入患者の指導を実施している.
2016年2月から2016年12月の期間に,呼吸器内科外来を受診し,息切れの訴えがある患者,HOTを導入している患者を対象に看護外来(週1日)で看護介入した32名と呼吸器内科病棟で息切れの訴えがある患者,酸素療法をおこなっている患者50名を対象に電子診療録を用いて後方視的に調査し看護介入を行った.除外基準は,外来で手技・呼吸状態が安定しているHOT導入患者とした.
看護介入患者は82名であり,男性52名(63.4%),年齢は中央値74歳(45-90歳)であった.酸素使用患者は69名(84.1%)であり,疾患別では,間質性肺炎35名(42.7%),とCOPD 21名(25.6%)の患者で過半数を占めていた(表1).
n=82 | |
入院 | 50(61.0) |
外来 | 32(39.0) |
年齢(歳) | 74(45-90)* |
性別 男/女(%) | 52(63.4)/30(36.6) |
酸素使用の有/無(%) | 69(84.1)/13(15.9) |
支援介入延べ数(件) | 397 |
入院 | 222(55.9%) |
外来 | 175(44.1%) |
介入疾患(%) | |
間質性肺炎 | 35(42.7) |
COPD | 21(25.6) |
気管支喘息 | 6(7.3) |
肺がん | 5(6.1) |
非結核性抗酸菌症 | 3(3.7) |
その他 | 12(14.6) |
看護介入患者の延べ数は397件であり,入院222件(55.9%),外来175件(44.1%)であった.介入内容は,酸素療法174件(43.8%)が最多であり,呼吸法113件(28.5%),薬物療法34件(8.6%)と続いた(図1).酸素療法の介入では,入院中のHOT導入指導66件(38%),外来通院中のHOT使用患者60件(34%)と在宅酸素にかかわる患者への介入が過半数を占めていた(図2).呼吸法での入院介入は68件(60.2%),外来介入では45名(39.8%)であった(図3).薬物療法での入院介入は1件(2.9%),外来介入では,吸入指導16件(47.1%),抗線維化剤の副作用対応17件(50.0%)であった(図4).入院と外来の比較では,酸素療法と呼吸法は入院中の介入割合が多く,薬物療法においては外来での介入が大半を占める結果となった.以下に介入した症例について提示する.
看護介入延べ数
酸素療法の介入内容
HOT導入:新規HOT導入患者,HOT使用中:外来HOT使用患者
NHF看護:ネーザルハイフロー看護,IPPV看護:侵襲的陽圧換気療法
NPPV看護:非侵襲的陽圧換気療法
呼吸法の入院と外来の比較
薬物療法の入院と外来の比較
70代男性,診断は間質性肺炎,主訴は呼吸困難,抗線維化剤導入目的により入院となった.喫煙歴は20-68歳まで60本/日,呼吸機能検査はVC 1.30 L %VC 39.4% FEV1.0 1.05 L FEV1.0% 81.58%,1年前からHOT導入の必要性を医師から伝えられていたが希望されなかった.室内空気下で安静時SpO2 97%,労作時 SpO2 75-85%であり,労作時の呼吸困難が強く日常生活動作が困難な状態であった.
1. 症状マネジメント(患者との会話,症状サインからの情報)「できなくて困っている事」は,トイレ動作,食事動作,入浴動作に対して呼吸困難が強いことであった.次に,「今の症状をどのように理解しているのか」を確認すると,飲み薬が効いてくれば以前のように動けるようになるから今は必要以上に動かないようにしている,妻が面会時に身の回りの世話を行うので問題がない,HOTを導入したら外出できなくなり寝たきりの生活になってしまう,これ以上妻に迷惑をかけられないと考えていることがわかった.起き上がり動作で呼吸困難が出現しSpO2は70%台であった.
2. 徴候マネジメント(患者・家族への情報提供)看護師の介入は,薬の効果を待つ間の不利益な情報として,食事量が減ることで体力や筋力が低下して日常生活動作が今よりも大変になる可能性について説明を行った.次に薬の効果を待つ間に出来ることは,酸素を使用することで労作時の呼吸困難や身体への負担が軽減され,妻の介助がなくても自分でできることが増える事,自宅に酸素を持ち帰ることは,寝たきりになるのではなく活動範囲が広がることを説明した.
3. ストレスマネジメント(自己効力を高めるための支援)労作時の呼吸困難を軽減するための方法として,正しい呼吸法が実施できることを目標とした.呼吸法は自分に合ったリズムが大切であり,鼻から吸って口から吐く呼吸法を安静時に練習し,酸素を使用してトイレ歩行を行うことで呼吸困難感の軽減を体験された.また,食事中に酸素を使用してゆっくり食事を摂ることで食事量が増加し,妻の介助で行っていた更衣もご自身で行えるようになった.次に,廊下歩行を行う際にパルスオキシメーターを使用し,数値の変動を視覚的に確認することで,立ち止まり呼吸を整えるタイミングを練習した.10 m以上連続歩行するとSpO2の低下が始まり,息切れが回復するまでの時間が長くかかることを体験された.立ち止まり,呼吸を整える動作を入れることで,長い距離を歩くことができると理解された後は,廊下歩行の自主練習を行うようになった.自主練習中は必ず労いの声をかけて,努力されていることを評価した.患者は,労作時の呼吸困難が継続されていることに不安を感じられていたが,トイレ歩行が困難な状態から廊下歩行が行えるようになったご自身の変化をお伝えすることで,経過の振り返りを行い成功体験が実感できるように配慮を行った.
CRNCNの役割は,個人・家族に対して水準の高い看護を実践する(実践),看護実践を通して看護職に指導を行う(指導),看護職に対してコンサルテーション(相談)を行うことであり,安定期,増悪期,終末期に応じた呼吸機能の評価及び呼吸管理,呼吸機能維持・向上のための呼吸リハビリテーションの実施,急性増悪予防のためのセルフケア支援を求められている4).今回の調査内容より,息切れの訴えがある患者に対して,酸素療法,呼吸法,薬物療法に対して積極的に介入した.入院中の酸素療法では,急性期の呼吸管理から在宅に向けて,HOT導入を行う患者指導などの教育が必要である.患者教育では,患者に必要と考えられる知識・技術を教えていく指導型の教育支援5)が多い.しかし,在宅療養では,居住空間での移動距離や家屋状況による段差などを考慮した動き方が必要となる.息切れのある患者の呼吸法は,自分に合ったリズムと休憩を入れるタイミングが重要となるため,日常生活動作の拡大に向けた支援では,患者自身の力が十分に発揮される学習援助型の支援5)が必要である.息切れを訴える患者の薬物療法の看護介入では,吸入指導と抗線維化剤の副作用対応であった.吸入指導では,手技や吸入力に問題がある場合や吸入の実施を忘れてしまうことが多く,処方された吸入薬が正しく使用されていないことが問題であり,今後の対応に検討が必要である.
患者教育の目的は,患者自身が疾病に対する理解を深め,安定期,増悪期におけるセルフマネジメント能力の獲得が必要であり3),患者自身が実践できることが重要である.今回の症例は,抗線維化剤導入目的による入院であったが,労作時の呼吸困難が強く日常生活に支障をきたしていることが問題であった.病棟看護師が効果的な介入を行うためには,患者との会話,症状サインから患者の全身評価を行い,患者自身が実践できるように「いつ」「誰が」「何を」「どのように」「どのくらい」「なぜ」行うのか,という具体的な対策が必要となる.
患者のセルフマネジメント能力を効果的に引き出すためには,必要なときに指導・相談ができる環境が重要である.CRNCNが病棟と外来の組織横断的活動を行うことは,患者への質の高いケア介入となり,患者のセルフマネジメント能力を効果的に引き出す手段の1つであると考えられた.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.