日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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ワークショップ
呼吸筋トレーニングの現状と未来―その進歩と普及を中心に―
塩谷 隆信神津 玲
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2019 年 28 巻 2 号 p. 266-267

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要旨

呼吸筋トレーニング(IMT)の科学的エビデンスとして,ACCP/AACVPR 2007ガイドラインでは,「IMTを呼吸リハの必須の構成要素としてルーチンに行なうことを支持するエビデンスはない」がEvidence 1Bに,GOLDガイドライン2011では,「IMTは一般的な運動療法と併用することで有用である」がEvidence Cと評価されている.2011年,Gosselinkは,COPDにおけるIMTのメタ解析の結果,最大吸気圧,呼吸筋耐久力,漸増負加圧,運動耐容能,ボルグスケール,呼吸困難,健康関連QOLの有意な改善を明らかにしている.

本ワークショップでは,ベルギーのDaniel Langer先生からはヨーロッパにおける臨床研究,長崎大学の田中貴子先生からは国内でのIMT実施に関する現状,市立秋田総合病院の大倉和貴先生からはIMTの臨床成績,聖隷クリストファー大学俵祐一先生からは呼気筋トレーニング(EMT)についてそれぞれ発表いただいた.本ワークショップにより,呼吸リハにおけるIMTの現状と課題が明らかになり,今後,IMTの進歩と普及につながれば幸いである.

呼吸筋は循環器系における心筋に相当し,換気運動のポンプ役としての重要な機能を有している.慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease, COPD)をはじめとする慢性呼吸器疾患では,呼吸筋の機能低下をきたしやすい状態にあり,こうした呼吸機能障害は病態生理の中で重要な役割を演じている.一方で,呼吸筋は四肢筋と同様にトレーニングによってその筋機能を増大し得ることが実証されている.呼吸筋トレーニングとは「呼吸筋に適度な負荷刺激を加えることで,その強化を図る方法」である.一般的に,呼吸筋トレーニングでは,吸気筋トレーニング(inspiratory muscle training, IMT)が実施される.IMTは呼吸リハビリテーション(リハ)における基本的手段に位置づけられており,適切な患者選択と方法の実施により,患者の呼吸筋力や耐久力は増大すると報告されている.

IMTの科学的エビデンスとしては,米国胸部専門医会・米国心臓血管呼吸リハビリテーション学会(American College of Chest Physicians/American Association of Cardiovascular and Pulmonary Rehabilitation, ACCP/AACVPR)2007ガイドライン1では,「呼吸筋トレーニングを呼吸リハビリの必須の構成要素としてルーチンに行なうことを支持するエビデンスはない」がEvidence 1Bに評価されている.また,Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease(GOLD)ガイドライン20112では,「呼吸筋トレーニングは一般的な運動療法と併用することで有用である」がEvidence Cと評価され,これはGOLD2015でも同様の扱いである.

このような状況下において,2011年,Gosselinkら3は,2000-2009年に発表された32論文をメタ解析した結果,COPDにおけるIMTに関する新しいエビデンスを発表した.この報告によれば,IMTにより,最大吸気圧,呼吸筋耐久力,漸増負加圧,運動耐容能,ボルグスケール,呼吸困難(Transition Dyspnea Index, TDI),健康関連QOL(Chronic Respiratory Disease Questionnaire, CRQ)の全ての項目で有意な改善が得られている(表13

表1

呼吸筋トレーニングの効果(メタアナリシスの結果):文献3)より引用

しかしながら,多くの臨床現場では患者の呼吸困難や運動耐容能,健康関連QOLといった指標に及ぼす効果は一定していないこともあって,IMTの普及は,日本のみならず欧米においてもその普及は十分とはいえない状況にある.今回,IMTの現状と未来について,また,その進歩と普及について本ワークショップを開催させていただいたことには大きな意義があると考える.

本ワークショップでは,ベルギーのDaniel Langer先生からはIMTの効果ならびにヨーロッパにおける臨床研究成績4をご報告いただくともに,長崎大学の田中貴子先生からは国内でのIMT実施に関する現状報告,市立秋田総合病院の大倉和貴先生からは自施設ならびに多施設共同でのIMT成績の報告,聖隷クリストファー大学の俵祐一先生からは呼気筋トレーニング(expiratory muscle training, EMT)についてそれぞれ,発表していただいた.その詳細については,それぞれの先生方の論文(報告)を参照していただければ幸いである.

本ワークショップにより,呼吸リハにおけるIMTの現状と課題5が明らかになり,今後IMTの進歩と普及につながれば司会者として望外の喜びである.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
© 2019 一般社団法人日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
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