日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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原著
高齢化地域での慢性閉塞性肺疾患患者の通院リハビリ阻害因子,身体活動量調査
岩﨑 円鵜澤 吉宏金子 教宏
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2019 年 28 巻 2 号 p. 308-313

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要旨

【目的】通院リハビリの説明を受けたが通院リハビリを実施していない慢性閉塞性肺疾患患者のリハビリ希望や通院リハビリが困難な背景を知り,日常生活での身体活動量を明らかにすること.

【方法】外来通院中患者を対象に通院手段,運動頻度,自宅での仕事や家事の役割を聞取り調査し,身体活動量は腰部装着型3軸加速度計を用いて1か月間の平均1日歩数測定と推定身体活動指数を算出した.

【結果】対象は51名で平均年齢は76歳,51名中23名に通院リハビリ希望があったが,時間の都合,通院距離や手段などにより通院リハビリを受けないと回答した.推定身体活動指数は自己申告運動頻度やmodified Medical Research Council,GOLD総合評価,平均1日歩数と関連した.

【結語】通院リハビリは希望があっても生活の中の時間の都合や通院距離や手段による困難さがみられた.身体活動量は運動頻度や平均1日歩数と関連しており通院リハビリが困難な方にはこれらを確認した指導が必要と考える.

緒言

慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease: COPD)患者に対する運動療法の導入と身体活動性の維持を中心とする呼吸リハビリテーション(リハビリ)プログラムは呼吸困難の軽減,運動耐容能の改善,健康関連QOLおよび日常生活動作を改善するとされる1.また身体活動量はCOPD患者の予後規定因子であり2,週2~3回,6ヶ月程度の通院リハビリにより向上したと報告がある3,4.しかし当院の様に都市部から離れた地方で高齢化率30%を超す地域では,患者に通院リハビリの希望があってもリハビリのための通院が困難なことを経験する.またCOPD患者は日常生活における身体活動性の重要さが示されているが,通院リハビリを実施していない患者においても運動習慣や身体活動量を把握することが必要と考えられる.

本調査の目的は通院リハビリの説明を受けたが通院リハビリを実施していないCOPD患者のリハビリ希望や通院リハビリが困難な背景を知ること,また日常生活での身体活動量を明らかにし,今後のリハビリ提供方法の一助とすることである.

対象

当院呼吸器内科に外来通院し,医師より通院リハビリの説明を受けたが通院リハビリを行っていないCOPD患者のうち,本研究に同意が得られた者を対象とした.除外基準は歩行に介助を要する者,すでに当院や他院での通院リハビリ,訪問リハビリ,通所リハビリなどのリハビリを受けている者,急性増悪後3か月以内の者とした.

方法

診療録より性別,年齢,呼吸機能検査結果,過去1年間の急性増悪歴を調査した.以下の項目を,紙面を用いて聞き取り調査した.①通院手段,通院時間,付き添いの有無および付き添い者が同居家族かどうか,仕事もしくは家庭内役割の有無を調査した.②通院リハビリの希望を調査し,通院リハビリ希望がある人については実際に通院リハビリが可能な頻度を週2回以上,週1回,2週に1回,月1回,受けたいが実際難しい,の5項目から選択してもらった.なお通院リハビリの内容について不明な場合は口頭にて説明をした.③運動頻度は週5回以上,週2~4回,週1回,なしの4項目から選択してもらった.④呼吸困難をmodified Medical Research Council(mMRC)を用い,グレード0(最軽症)から4(最重症)までの5段階で評価した.⑤生活の質(Quality Of Life(QOL))の評価はCOPD Assessment Test(CAT)を用いた.CATは症状やQOLに関する8項目を0~5点で評価し,QOLが低いほど点数が高くなる質問票である.⑥過去1年間の急性増悪歴,CAT総得点からGOLD総合評価を行った.GOLD総合評価のA群は過去1年間の入院を要する急性増悪が0回または入院を要さない急性増悪が1回かつCAT総得点が10点未満,B群は入院を要する急性増悪が0回または入院を要さない急性増悪が1回かつCAT総得点が10点以上,C群は入院を要する急性増悪が1回または入院を要さない急性増悪が2回以上かつCAT総得点が10点未満,D群は入院を要する急性増悪が1回または入院を要さない急性増悪が2回以上かつCAT総得点が10点以上とされる.また身体活動量評価には腰部装着型3軸加速度計(アクティマーカー:Panasonic,大阪,日本)を使用し,1か月間入浴と就寝以外の時間に装着した.この3軸加速度計は1分ごとに計測される3軸加速度の合成加速度変動の平均値と酸素摂取量の関係式から推定総エネルギー消費量を算出し5,計算させた推定基礎代謝量で除した値が推定身体活動指数(推定総エネルギー消費量/推定基礎代謝量)とされる.3軸加速度計より得られた推定総エネルギー消費量から推定身体活動指数を算出した.

統計解析

推定身体活動指数と各項目の関連の検討にはSpearmanの順位相関係数を用いた.仕事または家事を担う群および役割のない群における平均1日歩数,推定身体活動指数の比較は Mann-WhitneyのU検定を用いた.リハビリ希望群,非希望群の各項目の比較には正規性の検定後,t検定またはMann-WhitneyのU検定を用いた.リハビリ希望群における通院可能頻度の理由の比較にはχ2独立性の検定,t検定を用いた.全ての検定において有意水準は5%とした.

倫理的配慮

本研究は医療法人鉄蕉会亀田総合病院倫理委員会の承認を得た.対象者には文書と口頭により調査内容を説明し,文書にて同意を得た.

結果

調査は2014年7月から2015年3月まで実施し,対象者は51名であった.対象者の基礎情報および調査結果を表1に示す.51名の平均年齢は76±6歳,男性は49名,在宅酸素療法を受けている人は7名であった.対象者のCOPD重症度はGOLD Stage 1 が27名(53%)と最も多く,通院手段は自分で自動車を運転する人が37名(72%)と最も多かった.

表1 対象者の基礎情報および調査結果(N=51)
年齢(歳)76±6
性別(男/女:名)49:2
在宅酸素療法使用(あり/なし:名)7:44
通院手段(自分で運転/電車・バス/同居家族が運転/同居家族以外が運転:名)37/7/3/4
平均通院時間(分)41±19
仕事,家事の有無(仕事をしている/家事を担う/役割なし:名)18/5/28
通院リハビリ希望(受けてみたい/必要ない:名)23/28
%1秒量(%)73.8±29.9
GOLD重症度分類(1/2/3/4:名)27/12/7/5
mMRC息切れスケール(0/1/2/3/4:名)20/20/6/2/3
CAT(総得点)10±7
GOLD総合評価(A/B/C/D:名)22/17/2/10
自己申告運動頻度(週5回以上/週2~4回/週1回/なし:名)25/15/5/6
平均1日歩数(歩)4,994±3,633
平均推定身体活動指数1.39±0.17

平均値±標準偏差

mMRC:modified Medical Research Council,CAT:COPD Assessment Test

平均推定身体活動指数=推定総エネルギー消費量/推定基礎代謝量

1. 自宅での活動と生活内容

対象者の平均1日歩数は4,994歩,平均推定身体活動指数は1.39であった(表1).推定身体活動指数はGOLD Stage,年齢と相関を認めず,mMRC,GOLD総合評価,自己申告運動頻度,平均1日歩数と相関を認めた(図1).仕事または家事をしている群および役割のない群では,平均1日歩数は有意な差を認めなかったが,平均推定身体活動指数は仕事または家事をしている群が役割のない群よりも有意に高かった(表2).

図1

平均推定身体活動指数と各項目の関連

Spearmanの順位相関係数を使用.有意水準5%.

表2 仕事または家事をしている群,役割のない群における平均1日歩数と推定身体活動指数
仕事または家事をしている(n=23)役割なし(n=28)p値
平均1日歩数(歩)4,022(3,442-7,755)3,591(2,122-5,081)0.090
平均推定身体活動指数1.43(1.36-1.55)1.32(1.26-1.41)0.002

平均推定身体活動指数=推定総エネルギー消費量/推定基礎代謝量 中央値(四分位範囲)

2. 通院リハビリ希望と困難な要因

通院リハビリの希望は,通院リハビリを受けてみたい人(希望群)が23名(45%),通院リハビリは必要ないと思う人(非希望群)が28名(55%)であった.両群の基礎情報および調査結果を表3に示す.希望群は非希望群と比較し,年齢が若く,CAT総得点が高く,自己申告運動頻度が少なかった.GOLD重症度分類,平均1日歩数,平均推定身体活動指数には有意差を認めなかった.

表3 リハビリ希望群とリハビリ非希望群における基礎情報および調査結果
リハビリ希望群
(n=23)
リハビリ非希望群
(n=28)
p値
年齢(歳)74±677±50.021
性別(男/女:名)22/127/1NA
在宅酸素療法使用(あり/なし:名)4/191/270.102
通院手段(自分で運転/電車・バス/同居家族が運転/同居家族以外が運転:名)18/2/1/219/5/2/2NA
仕事,家事の有無(仕事をしている/家事を担う/役割なし:名)7/3/1311/2/15NA
%1秒量(%)66.1±32.080.2±27.10.092
GOLD重症度分類(1/2/3/4:名)10/5/5/317/7/2/20.139
mMRC息切れスケール(0/1/2/3/4:名)6/13/2/0/214/7/4/2/10.327
CAT(総得点)14±78±70.001
GOLD総合評価(A/B/C/D:名)5/10/0/817/7/2/20.004
自己申告運動頻度(週5回以上/週2~4回/週1回/なし:名)7/8/3/518/7/2/10.009
平均1日歩数(歩)5,221±4,4344,808±2,8890.829
平均推定身体活動指数1.41±0.221.38±0.110.561

平均値±標準偏差

mMRC:modified Medical Research Council,CAT:COPD Assessment Test

平均推定身体活動指数=推定総エネルギー消費量/推定基礎代謝量

希望群において,通院リハビリ可能頻度は「リハビリを受けたいが実際は難しい」の11名(48%),「月1回であれば通院リハビリ可能」の7名(30%)の順に多かった.一方「週2回以上通院リハビリ可能」は2名(9%)であった(図2).また希望群において,通院可能頻度の理由は「時間の都合」の11名(48%),「通院距離」の7名(31%),「通院手段」3名(13%)の順に多かった(図3).希望群において,通院可能頻度の理由に「時間の都合」を挙げた人は,その他の理由の人よりも仕事や家事の役割がある人が多く(図4),「通院距離」を挙げた人はその他の理由の人よりも通院に要する時間が長く,平均で約60分であった(図5).

図2

通院リハビリ希望群おける通院リハビリ可能頻度(N=23)

図3

通院リハビリ希望群おける通院リハビリ可能頻度の理由(N=23)

図4

通院リハビリ希望群における通院リハビリ可能頻度の理由と仕事や家事の役割の有無の比較(N=23)

χ2検定を使用.有意水準5%.

図5

通院リハビリ希望群における通院リハビリ可能頻度の理由と通院時間の比較(N=23)

t検定を使用.有意水準5%.

考察

今回,COPDと診断され外来通院をしており,医師から通院リハビリの説明を受けたものの通院リハビリを実施していない患者を対象に,外来通院の背景や通院リハビリの希望,通院リハビリが困難な理由を聴取し身体活動量の評価を行った.

通院リハビリを希望する人は約半数の45%であった.希望群は非希望群と比較し,年齢が若く,CAT総得点が高く,自己申告運動頻度が少ないことから,運動習慣が不十分でQOLが低い患者は通院リハビリの希望がある可能性が考えられた.しかし希望群の中で現実的な通院リハビリの頻度では「受けたいが実際難しい」の回答が48%,「月1回」の回答が30%と通院リハビリは困難と考える人や,医師の診察と同頻度しか通院リハビリを受けられないと考える人が多かった.通院可能頻度の理由は時間の都合,通院距離,通院手段の順に多かった.「時間の都合」と答えた人は,他の理由の人よりも仕事や家事の役割がある人が多かった(図4).また「通院距離」と「通院手段」について,日本のCOPD有病率は70歳以上の高齢者になるほど高いことが推定され6,本調査の対象者の平均年齢も76歳と高齢であった.通院手段は自家用車を使用する人が全体の86%であり,公共交通機関のサービスが十分とは言えない地方においては通院手段が限られることが背景にある.また自身の運転での来院が最も多く全体の72%であり,高齢者の運転による通院が必要とされる状況である.通院時間でも片道60分を要する人もおり,患者自身または家族等による自家用車の運転での定期的な通院の困難さがあると思われる.また近隣の医療施設でCOPD患者を対象とした通院リハビリの提供がされておらず当院への通院を選択することになるため,医師診察以外の通院は困難な人が多いと思われる.

身体活動量については,今回の対象患者の平均1日歩数は4,994歩,推定身体活動指数は1.39であった.平成28年国民健康・栄養調査報告7では平均1日歩数は70歳以上の男性が5,338歩,女性が4,274歩とされ,本調査の対象者はCOPD患者ではあるものの高齢者平均の歩数に近い結果を示していた.また推定身体活動指数は1.70以上が高活動性,1.40~1.69が中等度活動性,1.40未満は低活動性とされるが2,8,9,本調査の対象者は低~中等度活動性を示した.平均推定身体活動指数はCOPDの重症度や年齢とは関連がなく,平均1日歩数や自己申告運動頻度,呼吸困難と関連を認め,仕事や家事の役割がある人は役割のない人と比較し平均推定身体活動指数が高かったことから,自宅での身体活動性を保つ要因として,呼吸困難感などの症状の安定に努めるような管理に加えて,運動頻度の設定や仕事・家事の役割などの設定をすることが示唆された.また,希望群と非希望群に平均1日歩数,推定身体活動指数に有意差を認めず,通院リハビリを希望しないCOPD患者においても高齢者平均の身体活動性を維持できている可能性が考えられた.表3の自己申告運動頻度では,週2回以上運動していると回答した人は希望群の約65%,非希望群の約90%,週5回以上運動していると回答した人は希望群の約30%,非希望群の65%であった.希望群では通院困難な背景として時間や通院手段などが挙げられているが,非希望群の中には自身で定期的な活動や運動を実施しているため通院リハビリを実施しないと考える人もいるのではないかと推測された.

今回は高齢者人口の比率が30%を超える地域にある地域中核病院での単施設の調査で,通院患者の中で通院リハビリを実施していない患者を対象とし,調査は患者の呼吸器内科外来受診に合わせ実施した.呼吸器内科外来の受診頻度は1,2か月に1度である患者が多く,対象となる患者を全て実施した時点で調査を終了とした.そのため本来は1年間を通した期間の調査が望ましいが,本調査は9か月間となり患者数が51名となっている.今回の結果では一般化されないかもしれないが,今後高齢化社会を迎える中での共通した課題となると考える.

当院では通院リハビリは定期的な運動療法の実施を含めて提供している.本調査の結果から,通院リハビリを受けない選択をしている人の中にも,通院リハビリの希望があっても時間の都合や通院距離,通院手段の問題により週数回の通院リハビリを行うことが困難な人が存在することが考えられた.一方で自宅生活において身体活動量が維持されている人も存在した.このような患者に対しては,医師の外来受診に合わせた定期的な身体活動量の確認や運動内容の評価・指導を行うなどの方法を用いることで,運動習慣の取得や身体活動量の維持が可能となるのではないかと考えられた.

結語

現在通院リハビリを受けていないCOPD患者の中にも通院リハビリを希望する人はいるが,日常生活での時間の確保,通院距離や手段などによる制限がある人がいる.一方で通院リハビリを希望しない人の中には自身で定期的な運動を実施している人がいることも分かった.自宅生活で仕事や家庭内役割など習慣化された活動がある人は平均推定身体活動指数が高くなることから,通院リハビリが困難な場合や希望しない人でも,定期の外来受診時に生活習慣や歩数を定期的に評価指導することで身体活動量が保たれる可能性が示唆された.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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© 2019 一般社団法人日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
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