日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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原著
呼吸器疾患非ICU入院例における多職種参加型定期カンファレンスの有用性
神宮 大輔須田 加奈子吉野 一央菅田 奈々子池本 あゆみ奥田 舞青木 絵美渡辺 洋
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2020 年 28 巻 3 号 p. 462-466

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要旨

【目的】本邦の呼吸器科非ICU入院例における多職種参加型定期カンファレンス(以下,カンファレンス)の有用性は未確定であり,カンファレンスの有用性を検証する.

【方法】2015年4月1日~2016年3月31日の呼吸器疾患非ICU入院症例を対象とし(調査群),カンファレンス開始前の2013年4月1日~2014年3月31日の同様の症例を比較対象に設定し(対象群),診療録を元に後方視的に検討した.

【結果】症例は調査群581人 vs 対象群604人で,リハビリ実施率は調査群で有意に上昇した(調査群39.1% vs 対象群32.9%;p<0.05).リハビリ実施例の平均在院日数(調査群16.4日 vs 対象群19.8日;p<0.01)は有意に短縮し,死亡退院率(調査群8.8% vs 対象群10.8%;p=0.13)も低下した.【結語】呼吸器疾患非ICU入院例における多職種参加型定期カンファレンスは有用である.

緒言

多職種参加型カンファレンスの有益性および安全性は蓄積されつつあるが,そのエビデンスは集中治療室(Intensive Care Unit:以下ICU)入室を要した急性呼吸不全例などに限定されており1,2,非ICU例における多職種参加型カンファレンスに関する本邦からのエビデンスは更に乏しい.当科では2015年4月より非ICU入室重症呼吸器疾患併存例において多職種参加型定期カンファレンス(以下,カンファレンス)を開始したことから,当科におけるカンファレンスの有用性を検討した.

当科のカンファレンスの実状

1. カンファレンス開始までの準備

当科は非ICU病床として約45床を有し,医師,病棟看護師,理学療法士,作業療法士,言語療法士,退院支援看護師,薬剤師,医療事務,医療ソーシャルワーカー,栄養士が入院症例の治療および退院支援に関わっている.これまで,各症例の治療に対し,それぞれのスタッフが個別に治療方針を相談していたが,多職種参加型定期カンファレンスの必要性が検討され,2014年6月より既に呼吸器リハビリテーションを導入している県内の他施設への見学を行い,カンファレンスの方法を討議し,最終的に2015年4月1日よりカンファレンスを開始した.

2. カンファレンス参加者

参加職種は,呼吸器内科医師,病棟看護師,外来看護師,退院支援看護師,薬剤師,理学療法士,作業療法士,栄養管理士,医療ソーシャルワーカー,医療事務とし,必要に応じ適宜,他職種も参加することとした.

3. カンファレンス開催日および時間

入院症例の週1回の総回診後に約20分間で行うこととした.

4. 討議内容

病棟看護師および理学療法士・作業療法士がカンファレンス検討例を前日までに抽出することとした.医師は総回診でカンファレンス検討例の病態についての共有を行った上でカンファレンスに参加することとした.カンファレンスの司会は看護師・理学療法士・作業療法士が交代で行い,患者の状態,治療状況・治療方針,リハビリ・栄養の課題,退院後の介護環境・経済的問題などを討議することとした.

対象と方法

カンファレンスの時間内で検討できる症例は限られるため,非侵襲的陽圧換気施行例・高濃度酸素投与例などリハビリ遂行のために注意を要する例,在宅酸素の初回導入や酸素投与量の調整のため生活環境調整を含めた検討が必要な例,呼吸困難感などの自覚症状が強い例,社会的介入も含めて検討する必要がある例などを優先して討議した.実際にカンファレンスで討議される症例は限られているが,カンファレンス検討例の抽出は呼吸器疾患非ICU例全例を対象としていることから,カンファレンスの有用性の検討は当科非ICU入室例全例での比較が妥当と判断し,カンファレンス導入前後での当科非ICU入室例の臨床結果を調査した.ただし,睡眠時無呼吸症候群の検査目的での1泊入院例など明らかにカンファレンスの対象外となる症例は調査対象外とした.カンファレンス導入後の2015年4月1日から2016年3月31日までの1年間の症例を調査群とし,カンファレンス導入前の2013年4月1日から2014年3月31日までの1年間の症例を対象群とした.主要評価項目に入院期間,副次評価項目にリハビリテーション実施率,リハビリテーション開始までの期間,死亡退院率,病院収益(病棟稼働額・リハビリテーション稼働額)を設定した.各データは当院の診療情報オンライン統計分析システムを使用し,診療録を元に後方視的に収集した.統計解析はR(ver 3.5.0)3を用いた.両群の比較は,男女比・入院時における主病名・リハビリ実施率・死亡退院率に関してはフィッシャーの正確確率検定を用いた.平均年齢,Hugh-Jones分類,リハビリ実施までの日数,平均入院期間はt検定で行った.いずれの検定もα=0.05を有意水準とし,p<0.05を有意差ありと設定した.本研究は当院倫理委員会の承認を得た.

結果

調査群581例,対象群604例で,平均年齢は調査群70.7歳,対象群72.2歳であった.平均年齢,男女比に有意差は認めず,診断群分類包括評価(Diagnosis Procedure Combination: DPC)から算出した主病名は両群ともに呼吸器感染症が最多であり,入院中の呼吸不全極期のHugh-Jones分類の平均値は同等であった(表1).

表1 患者背景の比較
調査群
(n=581)
対象群
(n=604)
P値
平均年齢(歳)(平均±標準偏差)70.7±15.172.2±15.50.09
男女比370:211405:1990.25
入院時のDPCにおける主病名
 呼吸器感染症,%(人)53.9%(313)55.8%(337)0.52
 肺癌,%(人)33.7%(196)30.0%(181)0.17
 間質性肺炎,%(人)5.5%(32)5.0%(30)0.7
 COPD,%(人)3.6%(21)2.6%(16)0.4
 喘息,%(人)1.9%(11)3.1%(19)0.2
 その他,%(人)1.4%(8)3.5%(21)
入院中の呼吸不全極期のHugh-Jones分類,(平均±標準偏差)2.18±1.862.37±1.660.08

平均入院期間は全入院患者,入院中にリハビリが実施された症例(以下,リハ実施例),リハビリが実施されなかった症例(以下,リハ非実施例)の何れにおいても有意差をもって調査群が短縮していた(図1).入院症例におけるリハビリ実施率は有意差をもって調査群で上昇し,入院からリハビリ開始までの平均期間も対象群では5.3日であったが,調査群では3.9日で有意に短縮していた(図2).死亡退院率は全入院患者・リハ実施例・リハ非実施例ともに調査群で低下していた(図3).リハビリ稼働額は対象群が約3.4千万円であったのに対して調査群では約3.9千万円と増加し,病棟稼働額は対象群が約6.3億円であったのに対して調査群では約6.6億円と増加していた.

図1

平均入院期間の比較

図2

リハビリ実施率および開始までの期間の比較

図3

死亡退院率の比較

調査群のうち,カンファレンスで実際に討議できた症例数は延べ187例で,同一入院期間内に複数回検討された症例も散見された.

考察

呼吸リハビリテーションの有用性はCOPDを中心に確立されてきており4,近年では集中治療を要する重症患者5に加え,肺癌6や特発性肺線維症7においても有効性が提唱されてきている.本邦でも各種ガイドラインおよびステートメント8,9においても呼吸リハビリテーションの必要性は提唱されており,多職種および急性期,回復期,維持期におけるシームレスな介入を推奨している.また,呼吸器疾患に関わらず,急性疾患に伴う身体の不活動により廃用症候群が引き起こされることから,症例毎にリハビリテーションの必要性を検討する必要がある.

当科ではこれまで各主治医と関係スタッフ,またはスタッフ同士で時間を調整して,症例毎に治療方針・リハビリテーション内容・退院後支援方法などの検討を行ってきたが,関係スタッフが一堂に会して患者支援を含む包括的な治療方針の相談を行うシステムは構築されていなかった.

一方,当院では2014年よりICU症例においては救急科・呼吸器科・循環器科医師,ICU看護師,理学療法士・作業療法士などによる多職種定期カンファレンスを開催し,治療方針を決定している1.ICUカンファレンスが開始されたことで,集中治療例の定期的かつ職種間の垣根を超えた多職種介入が可能となり,実務および心理面での各職種間の負担も大きく軽減した.当科では以前より多職種介入による定期カンファレンスの必要性が討議されていたが,ICUカンファレンスの有用性を踏まえ,非ICU例においても多職種介入による定期カンファレンスの必要性が再認識され,2015年4月より呼吸器疾患非ICU例においても多職種参加型の定期カンファレンスを開始した.カンファレンス開始後,主治医および関係スタッフの実務的・心理的負担は軽減した実感はあり,カンファレンス以外の場でのコミュニケーションも円滑になった印象はあったが,本当に有効であるかは不明であった.

我々が検索した限りでは,呼吸器疾患非ICU例における多職種参加型定期カンファレンスの有用性を検証した本邦からの文献は認められなかった.カンファレンスには多職種および多人数を一定時間拘束することから,有効性の検討は必要と考えられた.そのため,カンファレンス開始前後1年間について比較した.

今回の検討では,調査群は対象群に比し,リハビリ実施率が有意に増加し,リハビリ開始までの平均期間も有意に短縮していた.当院ではリハビリの依頼は主治医が行うため,医師が早期にリハビリ介入を行う必要性を認識したと考えられた.また,カンファレンスによりコメディカル間の垣根が低くなったことで,リハビリ適応に悩ましい症例のコメディカル間での検討も容易となり,コメディカルから主治医に入院早期よりリハビリ介入を行うように提案する例もみられるようになった.

また,カンファレンスで実際に討議された症例が調査群の約30%であったにも関わらず,調査群は対象群に比較し,有意に入院期間が短縮し,死亡率も低下傾向を示していた.これらはリハ実施例のみならず,リハ非実施例でも同様の結果となった.リハ実施例においては適切なプログラムが速やかに導入され,退院時のADL・認知機能を見据えた退院後の環境調整を入院早期より施行された結果と推測された.カンファレンスで実際に検討できた症例は限られていたが,検討例を抽出する際に全ての入院例に対してリハビリ介入が必要かを検討するようになった結果,リハ非実施例においてもリハ以外の栄養・退院後環境調整などを早期より介入するようになり,リハ非実施例においても入院期間短縮,死亡率低下につながったと推測された.従って,今回の研究結果はカンファレンスを行ったことによる直接的な有用性のみでなく,カンファレンスを開始したことによるスタッフの意識変容や多職種間の連携改善などの間接効果も反映していると考えられた.

本研究は単施設の後方視的観察研究であり,リハビリに介入できる人的・設備的条件は施設毎にことなることから,一般化することは難しい.また,時代とともに患者背景が異なり,本検討では平均年齢・入院時のDPCにおける主病名・入院中の呼吸不全極期のHugh-Jones分類で有意差は認められなかったが,患者背景が異なっていた可能性は否定できないと考えられた.また,病棟稼働額の増加においても本検討では有意差は認めないが肺癌症例の割合が増加し,2015年12月以降に日常臨床で使用可能となったニボルマブなどの高額な新規治療薬が影響している可能性も示唆された.従って,今回の検討で多職種参加型カンファレンス開始後に入院期間短縮・死亡率低下を確認できたことは極めて有意義ではあるが,今後の更なる検討が必要であると思われる.

結語

当科の非ICU入院例における多職種参加型定期カンファレンスの有用性を検討した.カンファレンス導入後は導入前と比較し,リハビリ実施率は有意に増加し,リハビリ開始までの期間も有意に短縮していた.また,平均入院期間も有意に短縮し,死亡退院率も低下した.カンファレンスにより関係スタッフが症例の病態・生活背景を共有し,入院早期より多角的に疾患加療・生活環境調整を実施したことで,リハビリ実施例において入院期間短縮・死亡率低下につながったと考えられた.非ICU例においても多職種参加型カンファレンスは有用と考えられた.

謝辞

統計学的見地から本論文の執筆にご指導頂きました当院佐藤洋之先生,病棟稼働額およびリハビリ稼働額算出にご尽力いただきました事務の東聖氏に深謝致します.

備考

本論文の要旨は,第28回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2018年11月,千葉)で発表し,座長推薦を受けた.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
© 2020 一般社団法人日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
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