パーキンソン病の経過中,急性声門下喉頭炎を発症し,挿管人工呼吸管理となり,離脱困難となっている症例の理学療法を経験した.介入時は,意識的に呼吸練習を促しても傾眠様となり自発呼吸が持続しなかった.そこで日中の覚醒改善目的に多職種で目標や離床方法,スケジュールなどを共有し離床時間延長を図った.離床時間確保に伴い嚥下訓練,ADL練習,吸気筋トレーニングなど日中の能動的な活動や呼吸練習にチームで取り組むことで,装着332日目には人工呼吸器の離脱に成功した.
長期にわたる人工呼吸管理は一年以内の死亡リスクの増加,長期の機能不全や生活の質が損なわれるだけでなく,医療費高騰と関連している1)など重要な問題になっている.今回,人工呼吸器装着期間が長期化した症例を担当し,多職種と連携し,積極的に離床を行っていくことで人工呼吸器の離脱にまで至った症例を経験したので経過とともに考察を加え報告する.
76歳女性,身長:150㎝ 体重:38.2 kg BMI(body mass index): 16.8.
診断名:パーキンソン病 Hoehn-Yahr:V度.
現病歴:パーキンソン病にて療養病棟入院中.難病規定疾患によりリハビリ継続介入中であったが,2016年10月急性声門下喉頭炎により挿管人工呼吸器管理となる.不穏行動もなく鎮静せず経過.挿管翌日よりリハビリテーション介入再開となり,全身状態に合わせて体位ドレナージなどの排痰訓練,ベッド上四肢機能練習,端座位練習を実施.装着3日目にはウィーニング試みるも頻呼吸となり離脱に至らなかった.装着10日目には分泌物の増加,発熱を認め人工呼吸器関連肺炎を発症し,臥床時間の増加,昼夜逆転など日中の覚醒低下を顕著に認めるようになった.そのことから人工呼吸管理が長期化することが予測されたため装着15日目には気管切開術を施行した.その後も理学療法介入時に呼吸練習や段階的な離床を試み,状態に応じてウィーニングも行うが,日中の発動性低下や自発呼吸の低下が顕著となり人工呼吸器の離脱に至らなかった.
2. 介入時(装着130日目)の評価Japan Coma Scale(以下:JCS)はII-10と日中の覚醒度の低下を認め,声かけの反応は書字などを用いて一部可能.呼吸状態は気管切開下人工呼吸管理 モードSynchronized intermittent mandatory ventilation(SIMV),Tidal Volume(TV): 420 ml, Respiratory Rate(RR): 13回,Pressure Support(PS): 5 cmH2O, Positive End-expiratory pressure(PEEP): 5 cmH2O, fraction of inspiratory oxygen(FIO2): 0.21にてSpO2 98%であるが自発呼吸は消失し,徒手介助により自発呼吸誘導しても持続しなかった.しかし胸部CT所見にて浸潤影や肺実質の障害は認めなかったことや聴診においても副雑音は聴取されず肺胞呼吸音聴取可能であった.嚥下機能は藤島の摂食・嚥下能力グレードI-2と経口摂取困難.運動機能は両上肢屈曲90°,両股関節伸展-30°,両膝関節伸展-30°,両足関節背屈-25°と可動域制限を強く認め,Barthel Index(以下:BI)0点とADL全介助レベル,端座位保持は軽介助で可能も10分程度であった.
3. 呼吸リハビリテーション経過理学療法介入時のみの離床や呼吸練習では日中の発動性に影響を及ぼさず,離脱よりも日中の覚醒度向上を目的にカンファレンスを実施した.経口摂取という本人の訴えも共有しながら言語聴覚介入時でも離床を実施し,病棟看護師も呼吸練習を徹底するなど日中の生活リズム構築を目的に週6回多職種でスケジュール管理の下実施した.また,離床時の利便性や同調性を考慮し人工呼吸器をVELAからVIVO 50設定PCV,吸気圧 14~18 cmH2O,PEEP4 cmH2Oに変更した.喀痰貯留は少なく胸郭モビライゼーション,四肢自動運動練習,寝返り動作練習,端座位練習,起立練習を積極的に行い,呼吸練習よりも能動的な動きを出すことを最優先させ多職種で段階的に離床を進め活動性を高めた.装着136日目には車椅子離床開始,座位時に深呼吸練習や徒手的に自発呼吸を誘導するなど呼吸練習も併用.装着140日目に30分程度の離床が可能となり食事動作,整容動作,車椅子駆動などベッド上や座位上でのADLの拡大を図った.この頃には日中覚醒度向上,自発呼吸の出現を認めており,離床時間延長と並行して理学療法介入時に呼吸筋の活動向上目的として横隔膜を中心とした吸気筋トレーニングを開始した.負荷量設定は修正ボルグスケール4程度とした.装着200日目にはBIは10点に改善し,離床時間は60分以上可能,嚥下機能も藤島の摂食・嚥下能力グレードII-4と改善認めたことから本人の希望である直接嚥下訓練開始となった.さらに同時期には日中の自発呼吸増加も認めており,気管切開チューブのカフを脱気しての発声練習も開始した.装着225日目には主治医の確認の下,換気回数を6回に変更しても無呼吸や呼吸パターンの変動認めず経過.装着230日目には人工鼻に変更したon-off法での離脱練習が10分程度可能,装着240日目には30分以上の離脱でSpO2 98%,呼吸数18回で努力呼吸所見は認めず,pH: 7.413,PaCO2: 41.6 Torr,PaO2: 100.7 Torrと血液ガス所見も正常範囲内であった.離床時間延長に加え離脱下での深吸気練習や発声練習なども積極的に実施し呼吸機能改善をさらに図った.装着280日目には離床時間が90分程度可能になっただけでなく半日の離脱が可能,装着310日目には日中離脱,装着332日目には完全離脱となった.また発声時の呼吸苦も認めず気管切開カニューレもレティナカニューレに変更となった(図1).身体所見を含めた最終評価は(表1)に示す.
離床時間と離脱時間の経過
挿管人工呼吸管理当日をX日と表記
離床時間の延長に伴い離脱時間の延長を認めている。
装着130日目(介入時) | 装着332日目 | |
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<呼吸管理> | ||
人工呼吸設定 | SIMV | OFF |
離脱 | 困難 | 終日 |
酸素濃度 | 21% | 21% |
<身体所見> | ||
日中の覚醒度(JCS) | II-10 | I-2 |
SpO2 | 97% | 98% |
呼吸数 | 0-2回 | 18回 |
呼吸パターン | 腹式呼吸 | |
発声機能持続時間 | 0 | 13秒 |
藤島の摂食・嚥下能力 | グレードI-2 | グレードII-4 |
Barthel Index | 0点 | 10点 |
離床時間 | 10分 | 120分以上 |
人工呼吸器装着患者のうち約30%はウィーニングが長期化する2)とされている.離脱が失敗する原因として,横隔膜の収縮力の低下,横隔膜の不動による筋の蛋白質の分解および合成が減少するという報告がある3).また,吸気努力を抑制する補助換気は横隔膜の筋萎縮をもたらす4)こと,横隔膜を中心とした呼吸筋の萎縮などは人工呼吸器装着後24時間以内に始まる5)だけでなく,パーキンソン病では最高吸気圧・最高呼気圧はUnited Parkinson Disease Rating Scale(以下UPRDS)が重症度と負の相関がある6)ことから,呼吸機能が容易に低下しやすく早期の離脱に至らなかったと考えられた.さらに離脱失敗を繰り返すだけでなく人工呼吸器関連肺炎を発症し臥床時間が増加したこと,またパーキンソン病ではドーパミンの減少に伴ってGABA作動性出力が亢進し,大脳皮質活動が低下するだけなく,基底核-脳幹系を介して脳幹網様体の活動が低下する7)こと,高率に非運動症状を呈し,睡眠構築の異常,覚醒系の障害や概日リズムの脆弱化などの睡眠障害を生じやすい8)ことから発動性の低下や自発呼吸の低下に繋がり離脱に至らなかったと考えた.そのため早期の呼吸練習や離脱よりも日中活動性向上に伴う自発呼吸の回復を優先に多職種で連携してスケジュール管理を徹底し,離床機会を増加させ抗重力活動による姿勢筋緊張の刺激や中枢神経の賦活を図った.このように長期的に離床を中心とした能動的な活動を優先的に促すことで離床時間延長に伴う日中の覚醒度の向上,自発呼吸の増加につながり,人工呼吸器の離脱に至ったと考える.
また抵抗を加えた吸気筋トレーニングは吸気筋力・吸気筋持久力を向上させる9)とされているが本症例は自発呼吸が低下していたため徒手的な刺激により横隔膜呼吸を誘導し,意識的に深呼吸を促しながら徒手的な抵抗を加えた吸気筋トレーニングを実施した.さらに発声は声帯振動に必要な一定の圧を保つために呼気コントロールが重要で,肺活量の25~45%程度の呼気量を必要とする10)ことから,カフを脱気し発声練習などを通して呼気のコントロールにも配慮して呼吸機能面の強化を段階的に図っていった.これらの呼吸筋トレーニングなども並行して長期的に行ったことが最大吸気圧・呼気圧の改善をもたらし,最終的に人工呼吸器の離脱にも貢献したのではないかと考えられた.
今回,長期人工呼吸管理の症例に対して,呼吸練習や離脱よりも多職種連携により長期的に包括的リハビリテーションを提供することが離床時間延長による覚醒度向上,自発呼吸の増加を認め,離脱にまで至ったことが考えられた.しかし換気量など,呼吸機能面を中心に客観的な評価は不足していたことが考えられ,今後は客観的な評価を行い,早期より離脱を検討していくことが課題としてあげられた.
本論文の要旨は,第28回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2018年11月,千葉)で発表し,座長推薦を受けた.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.