日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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原著
誤嚥性肺炎後の廃用症候群に対する回復期リハビリテーションの転帰
石田 洋子石井 暁菅原 英和水間 正澄石川 誠
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2020 年 29 巻 1 号 p. 111-116

詳細
要旨

【背景】誤嚥性肺炎後の廃用症候群に対するリハビリテーション(リハ)では,回復に難渋する例や状態が悪化する例も多い.

【対象と方法】2002~2018年,当院回復期リハ病棟に誤嚥性肺炎後の廃用症候群で入院した232例において,藤島Grade,FIM(Functional Independence Measure),急性期病院への転院率,退院先など35項目を後ろ向きに調べ比較検討した.

【結果】急性期病院への転院率は30.6%,在宅復帰率は58.6%,3食経口摂取獲得率は41.0%であった.

【考察】誤嚥性肺炎後の廃用症候群では転院率が高く在宅復帰率が低い.全身状態を慎重に管理することが大切である.

緒言

誤嚥性肺炎後の廃用症候群に対する回復期リハビリテーション(リハ)では,嚥下機能・身体機能・日常生活活動(ADL: activities of daily living)の回復に難渋する例や,経過途中で全身状態が悪化し転院を要する例も多い.日々の臨床において,入院時の嚥下機能が低い例では,意識障害・痰吸引・気管切開・尿道カテーテル(カテ)留置・低栄養・褥瘡などの阻害要因がある場合が多く,退院時までに嚥下機能・FIMが上がりにくく入院期間を要し,全身状態不良により転院を要する例や在宅復帰困難な例が他疾患よりも明らかに多いのではないか,逆に,入院時の嚥下機能が低い例でも,これらの阻害要因があまりない場合には,退院時までに嚥下機能・身体機能が劇的に改善し,在宅復帰を十分目指せる可能性があるのではないか,と考えた.誤嚥性肺炎後の廃用症候群の予後や転帰を検討された報告は見当たらない.そこで今回,後ろ向き調査を行った.

対象と方法

2002年6月3日~2018年10月23日に当院回復期リハ病棟に入院した患者11893例のうち廃用症候群としてリハ治療を行った1055例の患者で,誤嚥性肺炎後に廃用症候群を生じたことが明らかである232例を対象とした.

対象の年齢,性別(男女比),入院期間,原疾患,入退院時意識レベル(Japan Coma Scale: JCS I/II/III桁),入退院時藤島Grade,藤島Grade利得,入退院時FIM(Functional Independence Measure)(運動,認知,合計),FIM利得,入退院時痰吸引の有無,入退院時気管切開の有無,入退院時酸素使用の有無,入退院時尿道カテ留置の有無,入退院時褥瘡の有無,入退院時Alb,入退院時BMI(Body Mass Index),嚥下内視鏡検査(VE: videoendoscopic examination of swallowing)/嚥下造影検査(VF: videofluoroscopic examination of swallowing)実施有無,栄養手段確保(胃瘻造設等)の転院有無,急性期病院への転院(胃瘻造設等を除く)有無,最終的な退院先,嚥下機能改善手術有無について,カルテより後ろ向きに調査を行った.原疾患は,病歴から最も誤嚥性肺炎に関与したと思われる病名とした.また,入院時・退院時は可能な限り入退院数日以内の状況を反映し,採血結果(Alb)は入院日・退院日から直近の値を反映した.BMIは,身長や体重が未測定の8例を除き,224例の結果で検討した.

対象を,入院時の嚥下機能により,I群(重症:藤島Grade 1~3:3食経管栄養)(144例),II群(中等症:藤島Grade 4~6:一部経管栄養)(24例),III~IV群(軽症~正常:藤島Grade 7~10:3食経口摂取)(64例)の3群に分け,各々の項目について比較検討した.

年齢,入院期間,入退院時藤島Grade,藤島Grade利得,入退院時FIM(運動,認知,合計),FIM利得,入退院時Alb,入退院時BMIに対する3群間比較には,Kruskcal-Wallis検定(Scheffe法)を用いた.その他の項目については,Fisher直接確率法を使用した.意識レベル(JCS)についてはI桁の率で比較した(表1).

表1 各項目の結果と比較
I群(144例)II群(24例)III~IV群(64例)全体(232例)嚥下高度改善群
(I群51例II群8例)
I群 vs.
II群
II群 vs.
III~IV群
I群 vs.
III~IV群
全体 vs.
嚥下高度改善群
1年齢(歳)79.2±11.1(13~100)80.0±8.8(52~93)80.3±10.0(47~96)82±10.6 (13~100)79.1±9.3(95~45)p=0.6256p=0.6256p=0.6256p=0.5193
2性別 男/女(%)75.0/25.079.2/20.878.1/21.975.9/24.174.6/25.4p=0.8002p=1.0000p=0.7261p=0.8657
3入院期間(日)95.7±54.4(3-273)99.8±98.4(16-502)70.4±36.0(2-154)87±57.0 (2-502)102±44.1(33~273)p>0.05p>0.05p=0.0040**p=0.0139*
4入院時 意識レベル JCS I/II/III桁(%)91.7/7.6/0.795.8/4.2/0.0100.0/0.0/0.094.4/5.2/0.493.2/6.8p=0.6954p=0.2727p=0.0197*p=0.7565
5退院時 意識レベル JCS I/II/III桁(%)89.6/8.3/2.191.7/8.3/0.0100.0/0.0/0.092.2/6.5/1.394.9/5.1p=1.0000p=0.0721p=0.0034*p=0.5851
6入院時藤島Grade1.9±0.6(1~3)5.2±0.8(4~6)7.6±0.9(7~10)3.8±2.7(1~10)2.4±1.2(1~6)p<0.0001**p<0.05*p<0.0001**p=0.0000**
7退院時藤島Grade4.0±2.7(1~9)6.2±2.5(1~9)7.7±1.8(1~10)5.2±3.0 (1~10)7.3±1.3(4~9)p<0.0001**p>0.05p<0.0001**p=0.0000**
8藤島Grade利得2.1±2.6(-2~7)1.0±2.5(-4~4)0.1±1.5(-6~2)1.4±2.5(-6~7)4.9±1.3(3~7)p>0.05p>0.05p<0.0001**p=0.0000**
9入院時FIM(運動)(点)19.8±11.1(11~76)32.1±19.0(13~82)35.3±17.5(13~70)25.3±15.7(11~82)23.9±14.6(13~62)p<0.0001**p>0.05p<0.0001**p=0.7781
10入院時FIM(認知)(点)12.0±7.2(5~34)16.6±7.4(5~33)17.1±7.7(5~35)13.9±7.7(5~35)14.1±7.6(5~34)p>0.05p>0.05p<0.0001**p=0.7862
11入院時FIM(合計)(点)31.8±17.4(8~112)48.7±25.5(18~114)52.2±23.5(18~103)39.2±22.2(8~114)38.3±21.9(18~112)p<0.0001**p>0.05p<0.0001**p=0.9419
12退院時FIM(運動)(点)28.0±20.8(13~113)42.0±24.4(13~85)44.3±22.8(13~90)33.9±23.0(13~113)37.5±23.8(13~87)p>0.05p>0.05p<0.0001**p=0.1589
13退院時FIM(認知)(点)13.3±7.9(5~35)18.5±8.0(5~35)18.6±7.7(5~35)15.3±8.2(5~35)16.8±8.2(5~35)p<0.05*p>0.05p<0.0001**p=0.1821
14退院時FIM(合計)(点)40.4±25.7(8~118)60.5±31.4(18~120)62.9±29.3(18~125)48.7±29.3(8~125)54.1±29.7(18~120)p<0.0001**p>0.05p<0.0001**p=0.1058
15FIM利得(点)8.6±15.1(-19~70)11.8±15.7(-10~44)10.7±15.3(-37~56)9.5±15.2(-37~70)15.8±17.2(-13-70)p=0.0853p=0.0853p=0.0853p=0.0022**
16入院時痰吸引率(%)61.112.515.643.545.8p<0.0001**p=1.0000p<0.0001**p=0.7708
17退院時痰吸引率(%)51.416.79.436.216.9p=0.0017**p=0.4474p<0.0001**p=0.0048**
18入院時気管切開率(%)19.44.24.713.822.0p=0.0813p=1.0000p=0.0055p=0.1561
19退院時気管切開率(%)11.80.01.67.85.1p=0.1355p=1.0000p=0.0148p=0.5851
20入院時酸素使用率(%)10.44.29.49.58.5p=1.0000p=0.6685p=1.0000p=1.0000
21退院時酸素使用率(%)16.04.29.412.90.0p=0.0025**p=0.6685p=0.0003**p=0.0012**
22入院時尿道カテーテル留置率(%)31.912.518.826.425.4p=0.0558p=0.7510p=0.0649p=1.0000
23退院時尿道カテーテル留置率(%)4.94.23.14.33.4p=1.0000p=1.0000p=0.7245p=1.0000
24入院時褥瘡保有率(%)13.212.54.710.81.7p=1.0000p=0.3387p=0.0866p=0.0371*
25退院時褥瘡保有率(%)12.54.21.68.60.0p=0.3161p=0.4734p=0.0089**p=0.0175**
26入院時Alb(g/dl)3.1±0.5(1.2~4.2)3.1±0.6(1.6~3.9)3.2±0.5(2.2~5.1)3.1±0.5(1.2~5.1)3.2±0.5(2.3~4.3)p=0.2415p=0.2415p=0.2415p=0.1913
27退院時Alb(g/dl)3.3±0.5(1.6~4.4)3.4±0.6(1.9~4.4)3.4±0.5(2.2~5.1)3.3±0.5(1.6~5.1)3.5±0.4(2.6~4.4)p=0.0962p=0.0962p=0.0962p=0.0618
28入院時BMI17.6±2.7(12.2~24.3)17.8±3.0(13.8~24.4)18.8±3.3(11.9~27.1)18.0±3.0(11.9~27.1)18.4±2.9(12.2~24.3)p=0.0803p=0.0803p=0.0803p=0.2622
29退院時BMI17.7±2.7(11.8~24.7)18.5±3.4(12.6~26.3)18.9±3.1(12.3~25.7)18.2±2.9(11.8~26.3)18.7±2.8(11.8~24.7)p>0.05p>0.05p=0.0431*p=0.1310
30VE/VF実施率(%)66.775.034.458.669.5p=0.4865p=0.0008**p<0.0001**p=0.1376
31栄養手段確保の転院率(%)20.18.31.613.83.4p=0.2554p=0.1794p=0.0002**p=0.0235*
32急性期病院への転院率(%)36.816.721.930.66.8p=0.0636p=0.7691p=0.0372*p<0.0001**
33心肺停止から死亡に至った率(%)3.50.00.02.20.0p=1.0000p=1.0000p=1.0000p=0.5869
34在宅復帰率(%)50.775.070.358.674.6p=0.0289*p=0.7933p=0.0099**p=0.0348*
35嚥下機能改善手術実施率(%)1.40.00.00.90.0p=1.0000p=1.0000p=1.0000p=1.0000

1, 3, 6~15, 26~29

平均±標準偏差(最小値~最大値)を記載

I群, II群, III~IV群: 3群間比較: Kruskal-Wallis検定(Scheffe法)

全対 vs. 藤島Grade利得が3以上の群: Mann-WhitneyのU検定(両側検定)

2, 4, 5, 16~25, 30~35

各率(%)を記載

I群 vs. II群, II群 vs. III~IV群, I群 vs. III~IV群:Fisher直接確率法(両側確率)

* p<0.05 5%有意差あり

** p<0.01 1%有意差あり

また,入院中に嚥下機能の改善が大幅に見られた例の特徴を調べるため,藤島Grade利得が3以上であった59例(I群51例II群8例)を嚥下高度改善群とした.全体と嚥下高度改善群の2群間に対しても,各々の項目について比較検討した.年齢,入院期間,入退院時藤島Grade,藤島Grade利得,入退院時FIM(運動,認知,合計),FIM利得,入退院時Alb,入退院時BMIに対する2群間比較については,Mann-WhitneyのU検定を用いた.その他の項目については,上記同様,Fisher直接確率法を使用した(表1).

また,在宅復帰率に関連がある項目を調べるにあたり,多変量解析(相関分析,ロジスティック回帰分析)も行った.入退院時BMIは統計処理の除外項目とした.

なお,今回の調査内容ついては,倫理委員会で承認を得ている.

結果

全対象者の年齢は平均82±10.6歳,男女比は平均75.9%/24.1%,入院期間は平均87±57.0日,原疾患は脳梗塞26.7%,神経筋疾患13.3%,脳出血9.9%,認知症9.0%,慢性肺疾患3.9%,頭部外傷3.5%,くも膜下出血3.5%,心血管手術後3.5%,消化器疾患3.0%,大腿骨骨折3.0%,その他9.1%であった(図1).明らかな原疾患を認めない例が11.6%あった.入院時JCSI桁は94.4%,退院時JCSI桁は92.2%であった.入院時藤島Gradeは平均3.8±2.7,退院時藤島Gradeは平均5.2±3.0,藤島Grade利得は平均1.4±2.5,入院時FIM(運動/認知/合計)は平均25.3±15.7点/13.9±7.7点/39.2±22.2点,退院時FIM(運動/認知/合計)は平均33.9±23.0点/15.3±8.2点/48.7±29.3点,FIM利得は9.5±15.2点であった.入院時痰吸引率は43.5%,退院時痰吸引率は36.2%,入院時気管切開率は13.8%,退院時気管切開率は7.8%,入院時酸素使用率は 9.5%,退院時酸素使用率は12.9%,入院時尿道カテ留置率は26.4%,退院時尿道カテ留置率は4.3%,入院時褥瘡保有率は10.8%,退院時褥瘡保有率は8.6%であった.入院時Albは平均 3.1±0.5 g/dl,退院時Albは平均 3.3±0.5 g/dlであった.VE/VF実施率は58.6%,栄養手段確保の転院率は13.8%,急性期病院への転院率は30.6%,心肺停止から死亡に至った率は2.2%,最終的な退院先における在宅復帰率は58.6%,嚥下機能改善手術実施率は0.9%であった(表1).嚥下機能改善手術実施例はI群の2例のみで,喉頭挙上術・輪状咽頭筋切除術が行われた例と,喉頭挙上術・輪状咽頭筋切除術・咽頭弁形成術が行われた例であった.

図1

原疾患(%)

3群間の比較で統計学的に有意差を認めた項目は,入院期間,入退院時意識レベル(JCS),入退院時藤島Grade,藤島Grade利得,入退院時FIM(運動,認知,合計),入退院時痰吸引率,退院時酸素使用率,退院時褥瘡保有率,退院時BMI,VE/VF実施率,栄養手段確保の転院率,急性期病院への転院率,在宅復帰率であった(表1図2).

図2

3群間比較 有意差あり Kruskal-Wallis検定

*p<0.05 5%有意差あり **p<0.01 1%有意差あり

なお,3食経口摂取獲得率(藤島Grade 7~10に改善)はI群30.5%,II群62.5%であり,一部経口摂取獲得率(藤島Grade 4~6に改善)はI群13.9%であった.口から十分食べられずに経管栄養が必要な状態で入院したI・II群(藤島Grade 1~6)全体における3食経口摂取獲得率(経管栄養離脱率)は41.0%であった.他,気管切開抜去率は43.8%,尿道カテ離脱率は83.6%,低栄養(BMI 18.5 kg/m2未満)率は入院時73.3%,退院時70.0%であった.

栄養手段確保の転院において,栄養手段の内容は,胃瘻27例,腸瘻2例,CVポート3例であった.急性期病院への転院で一番多かった原因は肺炎であった.次いで多かった原因は,心不全,消化管出血,意識障害等であった(図3).心肺停止から死亡に至った例は,どれもI群の5例であり,そのうち3例は院内にて心肺停止で発見され当院で死亡確認となり,他2例は他院に搬送され死亡確認となっていた.

図3

急性期病院への転院原因(%)

全体と嚥下高度改善群の比較で統計学的に有意差を認めた項目は,入院期間,入退院時藤島Grade,藤島Grade利得,FIM利得,退院時痰吸引率,退院時酸素使用率,入退院時褥瘡保有率,栄養手段確保の転院率,急性期病院への転院率,在宅復帰率であった(表1).

また,多変量解析にて,在宅復帰率と相関があった項目は,入退院時藤島Grade,退院時FIM(運動,合計),FIM利得,入院時尿道カテ留置率,急性期病院への転院率であった(表2).この7項目に対し,変数増加法ならびに変数減少法を使用したロジスティック回帰分析で得られた項目は,入院時藤島Grade,入院時尿道カテ留置率,急性期病院への転院率であり,有意であったのは,入院時藤島Gradeと急性期病院への転院率のみであった.判別的中率は61.2%であった(表3).

表2 在宅復帰率との相関
1年齢(歳)p=0.6531
2性別 男/女(%)p=0.4900
3入院期間(日)p=0.0856
4入院時 意識レベル JCS I/II/III桁(%)p=0.2411
5退院時 意識レベル JCS I/II/III桁(%)p=0.6293
6入院時藤島Gradep=0.0004**
7退院時藤島Gradep=0.0007**
8藤島Grade利得p=0.7431
9入院時FIM(運動)(点)p=0.617
10入院時FIM(認知)(点)p=0.4420
11入院時FIM(合計)(点)p=0.1271
12退院時FIM(運動)(点)p=0.0422*
13退院時FIM(認知)(点)p=0.0767
14退院時FIM(合計)(点)p=0.0197*
15FIM利得(点)p=0.0244*
16入院時痰吸引率(%)p=0.9237
17退院時痰吸引率(%)p=0.0671
18入院時気管切開率(%)p=0.7299
19退院時気管切開率(%)p=0.1910
20入院時酸素使用率(%)p=0.0694
21退院時酸素使用率(%)p=0.0610
22入院時尿道カテーテル留置率(%)p=0.0061**
23退院時尿道カテーテル留置率(%)p=0.4738
24入院時褥瘡保有率(%)p=0.3376
25退院時褥瘡保有率(%)p=0.3913
26入院時Alb(g/dl)p=0.1581
27退院時Alb(g/dl)p=0.1304
30VE/VF実施率(%)p=0.4681
31栄養手段確保の転院率(%)p=0.7299
32急性期病院への転院率(%)p<0.0001**
33心肺停止から死亡に至った率(%)p=0.0602
35嚥下機能改善手術実施率(%)p=0.7948

* p<0.05 5%有意差あり ** p<0.01 1%有意差あり

表3 ロジスティック回帰分析の結果
変数偏回帰係数有意確率オッズ比
定数0.401p=0.17775
6入院時藤島Grade0.143p=0.013401.15
22入院時尿道カテーテル留置率(%)-0.616p=0.057700.54
32急性期病院への転院率(%)-1.208p=0.000080.30
判別的中率 61.2%

考察

今回の比較検討において,緒言で述べた予測のように,入院時嚥下機能I,II,III~IV群の順に比例した結果は得られなかった.しかし,統計学的に有意差があった項目(表1)より,入院時嚥下機能が低いI群はIII~IV群と比較し入退院時意識レベルは悪く痰吸引が約4倍多いこと,入退院時FIM(運動,認知,合計)並びにFIM利得は低いこと,退院時の栄養状態は不良である(BMIが低く褥瘡が多い)こと,入院期間も約25日長く,栄養手段確保の転院は12.6倍多く急性期病院への転院も1.7倍多いこと(転院に伴い退院時酸素使用率も1.7倍高い),在宅復帰率は約20%低いことが示された.入院時酸素・褥瘡・BMI,入退院時気管切開・尿道カテ・Albはあまり関連がなかったことは意外であった.

また,今回の比較検討結果より,入院時嚥下機能が低い群でも,藤島Grade利得は高めであり,VE/VF実施率は高かったことより,どの例においても,嚥下機能向上のための評価と適切なリハをしっかり行うべきであるということが,今回改めて分かった.

嚥下機能が劇的に改善した嚥下高度改善群では,FIM利得が高く,栄養手段確保の転院や急性期病院への転院が圧倒的に少なく,退院時に酸素使用や褥瘡がなく,在宅復帰率が高いということも示された.嚥下高度改善群であっても,入退院時のFIMが格別高いわけではないこと,入院時の栄養状態や気管切開・酸素・尿道カテ留置などはあまり関係がないこと,退院時の痰吸引を要している例が比較的多いことは意外であった.

なお,2017年の当院データより,他疾患を含む当院入院全体(脳血管障害 67%,脊椎・下肢等の骨折10%,廃用症候群9%)/今回の対象全体を比較すると,FIM利得は平均22.2点/9.5点,退院時の低栄養率(BMI 18.5 kg/m2未満)17.4%/70.0%,経管栄養離脱率は63.9%/41.0%,気管切開抜去率は72.0%/43.8%,尿道カテ離脱率は89.0%/83.6%,急性期病院への転院率は9.7%(胃瘻造設等を含む)/30.6%(胃瘻造設等を除く),在宅復帰率は80.1%/58.6%1であった.他疾患を含むデータと比較しても,誤嚥性肺炎後の廃用症候群では,FIM利得が低いこと,低栄養率が高いこと,経管栄養離脱率が低いこと,気管切開抜去率が低いこと,急性期病院への転院率が高いこと(転院理由は肺炎が最多),在宅復帰率が低いことも改めてわかった.

なお,ロジスティック回帰分析の結果(表3)は,判別的中率が低かったため,在宅復帰率に一番に大きな影響を与えるという項目を挙げることはできなかった.しかし,多変量解析にて在宅復帰率と相関があった項目(表2)より,入院時嚥下機能,退院時FIM(運動,合計),FIM利得,入院時尿道カテ留置率,急性期病院への転院率,に注意してリハビリに取り組んでいく必要があると考えた.特に,回復期リハ病院にて急性期病院への転院を要し再入院した例では在宅復帰率が低いことは過去にも報告があり2,誤嚥性肺炎後の廃用症候群において,嚥下機能・身体機能を回復させるためには,必要外の転院などを要することがないよう,慎重な全身管理をしっかり行うことが非常に大事であると考えた.

また,嚥下機能の改善に向けて,当院では,入院時に経管栄養を必要とする例に対しては,経鼻胃管留置よりも3食経口摂取獲得率が高い(1.3~1.5倍)3,4とされる間欠的経管栄養法を行っている.これももっと普及されていくべき手法であると考える.

廃用症候群では,急変による転院や死亡の割合は,他疾患群よりも高く5,転院理由に肺炎も多い1.肺炎後の廃用症候群では,他の原因による廃用症候群よりも,自宅退院が有意に少ないとされ6ることは既知であったが,今回は誤嚥性肺炎後の廃用症候群に対象を絞り予後や転帰を検討した.

誤嚥性肺炎は,抗生物質の選択と嚥下リハだけではマネージメントはできない7.嚥下障害治療には高度な知識と技術,チームアプローチが求められ8,9,社会的ニーズは極めて高いにも関わらず,普及はニーズに追いついていない状態である.

急性期病院では,早期リハ介入により,嚥下機能・身体機能・ADLをできるだけ落とさないことが大切であり,回復期リハ病棟では,様々な角度から嚥下機能・身体機能・ADL・全身状態をしっかり評価すること,状態を悪化させることが無いよう全身管理を慎重に行うこと,十分にリスク管理に配慮した的確なリハプランを立てること,ならびに多職種がしっかり連携して立ち上げに取り組むことが大切である.今後,社会のニーズに対して,更なる急性期・回復期・生活期の連携や,廃用の予防,ならびに嚥下機能・身体機能・ADLの改善に取り組むための体制を整えていくことが望ましいと考える.

備考

本論文の要旨は,第28回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2018年11月,千葉)で発表し座長推薦を受けた.

著者のCOI(conflict of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
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  • 4)  菅原英和,石川 誠,高山仁子,他:経管栄養の方法が脳卒中嚥下障害患者の経口摂取確立に及ぼす影響 間欠的経管栄養法と経鼻胃管栄養法の比較.Jpn J Compr Rehabil Sci 6: 1-5, 2016.
  • 5)  小林由紀子,赤星和人:オーバービュー—回復期リハにおけるリスク管理.J Clin Rehabil l: 626-632, 2008.
  • 6)  船越正範,徳永能治,井出 睦,他:臨床研究 Clinical Research 一般病床から退院した廃用症候群の多施設実態調査.J Clin Rehabil 25: 622-626, 2016.
  • 7)  藤谷順子:特集 高齢者の誤嚥性肺炎 誤嚥性肺炎の院内連携.Geriatr Med 28: 1637-1641, 2010.
  • 8)  藤島一郎:嚥下障害の機序と治療,リハビリテーション.日老医誌 37: 661-665, 2000.
  • 9)   Inoue  M: Dysphagia Rehabilitation in Japan. J Nutr Sci Vitaminol 61: 72-73, 2015.
 
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