日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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原著
慢性閉塞性肺疾患のセルフマネージメント日誌の継続に関わる軽度認知障害との関連性
白仁田 秀一日高 晴菜上村 育久猿渡 聡林 真一郎渡辺 尚
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2020 年 29 巻 1 号 p. 136-140

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要旨

目的:慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease,以下COPD)に対して,セルフマネージメント日誌(以下,日誌)記載の継続と,軽度認知障害(mild cognitive impairment,以下,MCI)との関連性について,日本語版Montreal Cognitive Assessment(以下,MoCA-J)を用いて検討した.

方法:COPD47例が対象で,日誌記載を2ヶ月間継続できた者を継続群(n=22),以外を非継続群とした.各群でMCI有病率を調査し,また,日誌記載の継続の影響因子をMoCA-Jの項目から抽出した.

結果:継続群のMCI疑い有病率は36.3%,非継続群は92.0%(p<0.05)であった.また,日誌記載の継続の影響要因として時計描画と文章復唱が抽出された.

考察:日誌記載の継続にはMCIが影響していた.

緒言

慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease,以下COPD)は,気道感染や大気汚染などによる増悪を引き起こしやすく,また,一度増悪を起こすと繰り返す可能性が高い1.その増悪は,予後が悪化することも知られ2,COPDの治療管理として増悪予防が掲げられている3.増悪予防に向けて,長期在宅での治療計画による自己管理能力を必要とする.その自己管理能力の向上に向けた治療計画に,日々の症状や歩数など記載するセルフマネージメント日誌(以下,日誌)が用いられ,増悪予防や身体活動性の向上に有用な手段として報告されている4.しかし,日誌の実施や継続は全ての患者を対象に行う事は困難であり,患者からは『面倒』や『忘れた』との反応が聴取されることが多い.その要因として,認知能力の低下が影響していると考えられる.

COPDの認知能力の低下は,喫煙や加齢の影響に加え,全身性炎症や低酸素血症によって注意や遂行機能を担う前頭葉の高次脳機能や認知能力の障害とされている5,6,7,8,9.COPDの軽度認知障害(mild cognitive impairment,以下MCI)の有病率は36%と報告があり10,まだ多数のCOPDにMCIが併存していることが予測される.

認知面など日常生活に支障がないCOPDにおいて,新しい動作指導や治療プログラムに理解が乏しく,また定着しない事を多く経験する.これはMCIや高次脳機能障害による影響と考えられ,簡単に行える動作や治療計画においても,理解や遂行能力が軽度低下していることで,『面倒』などの拒否反応が起きると考えられる.このような影響は自己管理能力を向上させる日誌の記載の継続に影響すると考えられた.しかし,先行研究において,このような新しい指導や治療計画が定着しない原因を追究した報告は少ない.そのため,本検討において自己管理能力にMCIが影響していると仮説を立て,日誌の継続とMCIの検査であるMoCA-Jとの関連について調査を行う事とした.

対象と方法

1. 対象

対象は2015年1月から2017年3月までに外来診療所で理学療法を行っている病状安定期にあるCOPDとした.対象は病態管理や日誌の記載を行う理由などを医療従事者から口頭で説明を受けた.また,病態管理や自己管理を理解したことを確認するため Lung Information Needs Questionnaire(以下,LINQ)が16点以上のCOPDは除外し,その対象において日誌の記載に同意が得られた患者を対象とした.

その他の除外対象は,Mini-Mental State Examination(以下,MMSE)が24点未満の認知症の疑いがある者,書字や歩行などの動作に介助を要するまたは6分間歩行テストが完遂できなかった者,就労している者,研究趣旨に理解と同意が得られなかった者とした.

その日誌を2ヶ月間連続で記載した群を継続群とし,日誌の記載が続かなかった者と拒否した者を非継続群とした.

倫理的配慮はヘルシンキ宣言に則り,対象患者に不利益にならないよう使用データを匿名化保管し,個人情報保護に努めるとともに,情報の漏洩防止を徹底した.また,本研究の実施にあたり各患者に説明するとともに,評価結果の使用について口頭にて同意を得た.

2. 方法

1) 日誌

日誌の目的は,増悪予防や身体活動性の向上など自己管理能力の向上とし,その記載項目と内容は図1に示すとおりで,体温,体重以外は選択肢の選択を行ってもらった.また,対象は日記を行う目的について,「ご自身の毎日の歩数や,息切れの程度などを日誌に記載することにより,自分の状態を知ることができ,自分の病気や生活を上手く管理して,病気の進行を自分でも予防することができるためです」と医療従事者によりに説明を受けた.対象者は日誌の記載を2ヶ月間にわたって行い,医療従事者はその内容を最低2週間に一回チェックし,体重や症状または歩数を状況からフィードバッグを行った.

図1

セルフマネージメント日誌

2) 日本語版 Montreal Cognitive Assessment

日本語版 Montreal Cognitive Assessment(以下,MoCA-J)は,軽度認知機能低下のスクリーニングツールであり,多領域の認知機能(注意機能,集中力,実行機能,記憶,言語,視空間認知,概念的思考,計算,見当識)について,約10分という短い時間で評価することができる.合計で30点満点であり,日本語版では26点以上が健常範囲と考えられる.小項目の内容(配点)は1.Trail Maiking(1点),2.視空間認知機能(立方体)(1点),3.視空間認知機能(時計描画)(3点),4.命名(3点),5.数字順逆唱(2点),6.ヒジアランス(1点),7.計算(3点),8.復唱(2点),9.語想起(1点).10.抽象的思考(2点),11.遅延再生(5点),13.見当識(6点),14.学歴(1点)となっている.測定する際は,MoCA-J教示マニュアルの記載通りに行い,また,個室で検査者と被験者が1対1となって行った11

3) 評価項目

全対象の年齢,性別,Body Mass Index(以下,BMI),modified Medical Research Council(以下,mMRC)息切れスケール,予測値努力性肺活量(以下,%FVC),予測値1秒量(以下,%FEV1),COPD Assessment Test(以下,CAT),6分間歩行テストによる歩行距離(6 Minute Walking Distance 以下,6MD),LINQ,MMSEを評価した.呼吸機能検査はスパイロメータ(ミナト医科学社製Auto Spiro AS-507)を用いて3回測定し,FVCの結果が良好なものを解析に用いた.CATとLINQは対象者が自筆にて記載し,また,MMSEは個室で検査者と被験者が1対1となって行った.6MDの測定は10mの直線コースで20mを往復する歩行路で行い,それ以外は運動療法マニュアルに記載されている方法を用いて行った.

4) 統計解析

継続群と非継続群のそれぞれの比較において正規性を確認後,2群間のMCI疑い有病率の比較では,χ2独立性検定で,また,MoCA-Jの合計点または小項目の点数の比較をstudent t-testもしくはMann-WhitneyのU検定を行った.日誌の継続の要因の抽出を,従属変数を日誌継続の有無,独立変数を継続群と非継続群でMoCA-Jの小項目の比較において有意差が認められた項目とし,重回帰分析のstep wise法を用いて行った.上記解析には統計解析ソフトSPSS(version 21.0,米国IBM社製)を用い,統計学的有意水準は5%とした.

結果

結果の対象特性を表1に記載する.

表1 継続群と非継続群の対象特性
全体継続群非継続群
n(人)472225
年齢(歳)77.6±7.474.5±7.780.4±6.1
性別(男)442123
BMI(kg/cm223.0±4.123.3±4.122.8±4.1
mMRC1.6±0.81.2±0.51.9±0.9
%FVC(%)70.8±14.471.8±15.270.7±14.8
%FEV1(%)55.8±20.256.8±18.856.4±23.3
CAT(点)13.9±7.711.7±7.415.8±7.5
6MWD(m)369.6±134.6420.5±129.7332.4±121.9
LINQ(点)8.6±4.28.4±3.99.4±5.2
MMSE(点)27.1±2.228.2±1.626.2±2.2

BMI: Body Mass Index, mMRC: Modified Medical Research Council Dyspnea Scale, %FVC: 予測値努力性肺活量,%FEV1: 予測値1秒量,CAT: COPD Assessment Test, 6MWD: 6 Minute Walking Distance, LINQ: Lung Information Needs Questionnaire, MMSE: Mini-Mental State Examination

数値は平均±標準偏差で記載している.

本検討の解析対象に至った経緯として,2015年1月から2017年3月までに外来理学療法の処方されているCOPDで,明らかな認知能力の低下や歩行能力が低下していた症例を除外した62名を対象とし,さらにMMSEが24点未満の対象が3名,LIMQが16点以上の対象が2名,6MDが完遂できなかった対象が2名,就労者が2名,研究同意が得られなかった対象が2名,研究同意が得られていたが開始にあたり,『面倒』として拒否した対象が1名,検討開始から2カ月間通院が困難となった対象が2名を除外とした47名を対象として行った.

日誌継続群と非継続群のMCI疑い有病率は,継続群で36.3%,非継続群が92.0%で非継続群が有意にMCI疑いが多かった.また,MoCA-Jの合計点においても,継続群で25.1±2.7点,非継続群で19.7±3.7点と非継続群で有意に点数が低かった(図2).

図2

MoCA-JのMCI疑い有病率と合計点の結果

MoCA-Jで26点未満をMCI疑い有病率の割り合いとし,また,MoCA-Jの合計点を記載する.有病率の割合の比較をχ2 検定を使用し,合計点の比較を2標本のt検定を使用した.数値は割合%と平均±標準偏差で記載している.

MoCA-Jの小項目の比較結果は,1.Trail Maiking,2.視空間認知機能(立方体),3.視空間認知機能(時計描画),5.数字順逆唱,8.復唱,10.抽象的思考,11.遅延再生,13.見当識に有意差が認められ,非継続群で点数が低かった(表2).

表2 MoCA-J小項目の比較結果
継続群非継続群p値
Trail Making0.7±0.50.4±0.5<0.05
立方体模写0.9±0.30.6±0.5<0.01
時計描画2.9±0.32.3±0.7<0.001
命名3.0±0.02.7±0.5ns
数字逆唱1.9±0.31.4±0.7<0.01
ヒジアランス1.0±0.00.9±0.3ns
計算2.5±0.62.2±0.9ns
復唱1.6±0.50.8±0.6<0.001
語想起0.3±0.50.2±0.5ns
抽象的思考1.8±0.41.4±0.8<0.05
遅延再生1.7±1.50.7±1.2<0.05
見当識5.9±0.55.4±1.1<0.05
学歴0.9±0.30.9±0.3ns

それぞれの点数の比較を2標本のt検定を使用した.

数値は平均±標準偏差で記載している.

日誌の継続に必要な認知能力の項目を抽出するため,従属変数を日誌継続の有無とし,独立変数を継続群と非継続群でMoCA-Jの小項目の比較から有意差が認められた項目とした重回帰分析を行った結果,日誌継続に必要な認知能力は設問3の視空間認知機能(時計描画)と設問8の復唱が抽出された(表3).

表3 日誌の継続の影響要因の抽出結果
β95%信頼区間p値
復唱0.570.16~0.51<0.001
時計描画0.350.82~0.45<0.01

日誌の継続の影響要因を検討するため,従属変数を日誌の継続の有無,独立変数を,MoCA-Jの小項目で継続群と非継続群で有意差が認められた項目として,重回帰分析のステップワイズ法を使用した.

考察

COPDの増悪予防や身体活動性の向上は病態を管理する上で重要であり,その対策に日誌による自己管理能力の向上は有用である.しかし,日誌継続におけるアドヒアランスの不良,MCIが影響していると仮説を立て,本検討を行った.

MCI疑いの判定において,VilleneuveらはCOPDのMCI識別について,MMSEよりMoCA-Jでの判定が優れていたと報告している12.そのため,本検討の判定はMoCA-Jを用いて行った.また,本検討で使用した日誌は当院で使用されている日誌で2カ月分が1冊とした冊子である.経験上,2カ月間の日誌記載が継続できれば自己管理能力が高いと判断している.そのため,当院では自己管理能力の向上の一歩目として日誌を2カ月間と設けている.今回の検討も同様に日誌の継続群を2カ月間と設定して行った.

非継続群のMCI疑いは継続群と比較し有意に多く,MCI疑いが一つの要因として示唆された.MCI疑いが日誌の継続や定着が困難な理由として,遂行機能障害などの非健忘型MCIの影響が考察される.その非健忘型MCIの要因に,インターロイキン6やC-反応性タンパク質などの炎症性マーカーが影響すること,また,それらは遂行機能や視空間認知能力を低下させる報告がある13,14,15.COPDは全身性炎症疾患で増悪を起こしやすい疾患である.そのため,炎症性メディエーターの影響を受けやすく,非健忘型MCIが多数併存することが推測される.先行研究においてもSingh Bらは,COPDには非健忘型MCIが多い事を報告している16非健忘型MCIによる遂行機能障害は,毎日の状態を日誌に記載していく単純作業である行為を『面倒』と感じさせていたと考えられる.また,非健忘型MCIによる視空間認知能力の低下によっても,日誌の記載項目が多項目かつ細かな記載欄が影響し,『面倒』と感じさせる行為になったと考えられる.高次脳機能の観点から,岡島らはCOPDにステレオタイプの抑制障害が多くなっている事を報告している9.新しい生活習慣や治療計画が定着することが困難になりやすく,新しく始める自己管理の日誌の継続を困難にさせていたと考えられる.

日誌の継続の影響要因として,MoCA-Jの小項目中,特に設問3の視空間認知機能(時計描画)と設問8の復唱が抽出された.設問8は検査者から「太郎が今日手伝う事しか知りません」「犬が部屋にいる時は,猫はいつもイスの下にかくれていました」の2文の文章を聞き,それぞれの文章を1句とも間違えずに復唱する文章課題である.聴覚保持能力が必要と考えられ,文章を聞き取ることができるが理解能力が低下していると減点になる検査である.本検討では,自己管理や日誌の趣旨を口頭で説明し,その場で理解する必要があった.説明時には理解を得られていたが,全説明の過程において理解が困難であったと考えられた.MCIが併存しているCOPDにおいては,口頭説明だけではなく絵や写真を用いる方法が理解と定着の促進になると考えられた.

時計描画では検査者が「時計を描いてください.文字盤に数字を全て描き,10時10分をさすよう針を描いてください』と口頭で指示をする.定まった場所に時計の枠・数字・10時10分を指す針を描画する検査で聴覚での情報を視覚での記載位置と運動機能へ伝える能力が必要となり,視空間認知能力が主に必要とされる検査である.細かい日誌への書字位置が考えられ,日誌自体の問題も考えられる.しかし,本検討の対象は真の認知症がなく,認知機能としてMCIレベルのCOPDを対象としており,時計の図は想起できているにもかかわらず,その時計自体をうまく表出することが困難な対象も多く,視空間認知と同様に遂行機能も影響していると考えられた.MCIが併存しているCOPDにおいて,日誌内容の単純化を図る,または他者が一緒に記載していく方法などで自己管理を促進する必要があったと考えられる.

今回のように認知面や病識に問題が少ないCOPDにおいても,MCIによる遂行機能の低下などにより,自己管理能力を低下していることが予測された.先行研究において,気管支拡張薬の自己管理の悪化と認知症について報告されている17.そのため,日常生活で問題がないCOPDにおいても,今回のような自己管理能力の向上にむけた日誌の記載は勿論のこと,気管支拡張薬や酸素療法などの自己管理を促す時には,MCIの検出を行い,自己管理の可否の検討を行うことが重要である.また,その検討から患者個々に沿った自己管理の方法を検討するべきであると考えられた.

本研究の限界として,日誌の継続を認知能力の観点からしか検討を行っていない.そのため,性格などの他の影響要因の可能性も除外できない.今後は性格判定検査や健康統制感検査などを認知面以外の観点も含めて自己管理の促進に向けた検討を行わなければならない.また,検討した日誌の継続期間が2カ月間では検討期間が短く,また根拠としても乏しいと考えられる.今後は日誌の継続期間や自己管理能力に重要な日誌継続期間との関連においても検討が重要となる.

今回,症例数が47例と少ない.そのため,年齢や生活環境などの影響要因を除外できなかった.今後は,年齢や生活環境等の要因も検討することも重要である.

備考

本論文の要旨は,第27回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2017年11月,宮城)で発表し,座長推薦を受けた.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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