日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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シンポジウム
在宅呼吸ケアにおいて高いパフォーマンスを発揮するための能力と行動
横田 直子石山 亜希子宇佐美 記子柳 恩英遠藤 直子丸山 ゆかり武知 由佳子
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2020 年 29 巻 1 号 p. 17-22

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要旨

在宅呼吸ケアにおける高いパフォーマンスの発揮を,①患者本人と家族がWell Beingな状態で生活できるための援助:専門性の高い,個々のサービスの提供と多職種連携②人材の育成と働きつづけられる職場づくり③ケア事業所の生み出す良い循環と継続の3つを柱に,具体的な例を交えて述べる.

はじめに

在宅呼吸ケアにおいて高いパフォーマンスを発揮するとはどういうことを指すのであろうか.仮に,①患者本人と家族がWell Beingな状態で生活できている(場合によっては満足した人生の終焉にむけて援助ができる).②ケアの従事者がいきいきと活躍できており,質の高いサービスを追求する文化が定着している.③ケア事業所が継続できるだけの利益をあげることができている.とする.①~③が良い循環を生み出し,継続していくことは,望ましい状態と言えるのではないだろうか.今回は,①~③について具体的な例を交えて述べていきたい.現在,私は在宅療養支援診療所よりの訪問リハビリテーションに従事しているため,その立場から述べる.

①患者本人と家族がWell Beingな状態で生活できるために~専門性の高い,個々のサービスの提供と多職種連携について~

在宅というフィールドの特性の一つは,生活の場であり,その方の,今までの人生の思い出や価値観が反映された環境である事と言える.ただし,それは必ずしもその方の現状とマッチしているとは限らず,また本人中心の環境や空間とも限らない.経済状況や価値観,介助者の労力の分配も含めて,様々なケースが存在する.

在宅では患者毎にケアチームのスタッフが異なり,それぞれ別の事業所に属するため,スタッフが毎日顔を合わせるわけではなく,必要な時に患者の元にすぐに駆け付けることも難しい.このような環境では,より患者自身と家族,ケアチームの意思統一とそれぞれの習熟度や,Action Planの理解とスムーズな適用の重要性が増す.まさにチームの在宅力と患者のセルフマネジメント能力をいかに育めるかが,安定した,Well Beingな在宅生活の構築を左右するのである.また,他のフィールドより,「利用者に事業所が選ばれる」という要素が強いことも特徴の一つと言える.事業所の存在と,自分たちが提供できる包括的呼吸ケア・リハビリテーションがどのようにその方の生活に貢献できるのか,知ってもらわなければサービスがスタートしない.

このようなフィールドで,一人の専門職として,患者を取り巻くチームの一員として,どのように考え,ふるまうべきか.実際の訪問リハビリテーションの事例をあげて考えていきたい.

症例)気腫合併肺線維症,II型呼吸不全,うっ血性心不全,慢性腎不全を呈した80代男性.30代で脳挫傷.麻痺はごく軽度(軽度の左側無視,脱抑制,失行,運動性失語あり).

一軒家の1階に居住.妻,娘,孫二人,ネコ5匹と同居.娘や孫が就労しているため,日中は認知症の妻と二人.修正MRC grade 5.修正Borg scale 2-7.動作時の息こらえと性急な動作パターンがあり,夜間や排泄動作でのSpO2の低下と強い呼吸困難感を呈している.体動時の呼吸困難のため姿勢の変化が乏しく,座椅子による圧迫で仙骨部褥瘡を呈す.呼吸困難感への強い不安があり,夜間に大声を出し,同居家族も不眠と疲労で疲弊していた.

呼吸器内科医による訪問診療と,訪問看護,訪問リハビリテーションが開始.この症例を取り巻くチームを図1に示す.専門医による投薬や酸素量の調整が行われた.訪問看護師や,訪問リハビリテーションの提案で家具や物品の配置,座椅子型の昇降椅子,褥瘡予防用マットレスの導入などの環境調整(図2)を行った.排泄動作,移動などのADL動作方法,休憩の入れ方,本人の高次脳機能に配慮したわかりやすい声掛けや介助の仕方を家族と練習.チームスタッフと共有した.

図1

包括的呼吸ケア・リハビリテーションチームの構成

図2

環境設定の一例

看護師のアセスメントを元に,家族の注意が夫に集中して淋しい思いを抱えている妻への声掛けと,家族には笑顔でいてほしい,という患者本人の意向に配慮した声掛けとし,「しっかり働いてくれた優しいお父さん」に対する家族の思いを伝える,回想を取り入れるなど,本人の自己肯定感を高める働きかけをチーム全体で統一してケアに当たった.

酸素量の調整や環境整備により,強い呼吸困難感に起因する不安から解放され,妻と笑顔で,こたつで座ってすごす生活が送れるようになった.

原疾患の急性増悪による2週間の入院中,息苦しさ,不安,苦痛で不穏となり,ベッドに拘束せざるをえず,毎晩家族が交代で付き添う.家族の強い希望で退院となる.

退院後NPPV(閉鎖回路・O2 14.0 L)を在宅で導入.食べたいという本人の希望をかなえるため,口腔ケア,食事の際の酸素の併給方法,流量,ケアの方法を主治医,訪問リハビリテーション,訪問看護で検討して家族と練習.SpO2を保つことで呼吸困難感が緩和でき,経口摂取が可能となった.命が切迫した状態であるが,家族とケアスタッフが自信をもってケアできること,安心感を持って自宅ですごせることを,チームの統一した目標として援助した.

更衣,排泄,入浴などもTPOに合わせた酸素量検討,体位排痰,褥瘡予防の体位検討,NPPVのマスクフィッティング,トロミのつけ方などを家族と一緒に練習し,介助方法と声掛けをチームで統一した.気胸を発症して亡くなるまで,奥さんのいるこたつの隣で,大好きなコーヒーを飲み,娘や孫,大好きな猫たちと笑顔ですごす生活を送られた.

②ケアの従事者がいきいきと活躍でき,質の高いサービスを追求する文化が定着するために~人材の育成と職場づくりについて~

人材を育成する際に,そのスタッフが医療人としての数々のすばらしい素養を持っていることは望ましい.しかし,全てのスタッフがキャリアの初めからすばらしい素養を持っているわけではない.仕事を通して獲得したり伸ばしたりする能力や,職業人としての振る舞いがある.また,良い素養を持つスタッフも,良い人材育成の機会がなければ才能を伸ばし,現場で活躍することは困難であろう.

ある事業所で,それまでに経験のない新しい疾患の患者依頼を受けることを例に考えてみる(図3).まず,新しい疾患の患者を受け入れるという一歩を踏み出し,そのケアの為の学習を新たにする.また,そのケアを実際の患者さんに行う中で,多くのフィードバックが得られたり,学習と実践の過程において多くの人との接点ができたりするであろう.次なる展開が開け,自分とそのチームに対する自己効力感が生じ,また増す.それは良い行動の循環を生む「はじめの一歩を踏み出す」ことへのモチベーションを高め,次なる一歩につながる.そのような姿勢は,「変化し続ける状況や環境」に対する柔軟性を維持する事にもつながる.逆もまたしかりである(図41,2

図3

ケアチームが良い方向へ動き続ける好循環

図4

ケアチームが動かずにいる悪循環

組織を構成する個々のスタッフが,現在どのようなライフステージにあるのかということも大事な要素である.ある急性期病院から在宅介護までの展開をする法人全体の統計では,職員全体の約10%がサポートを要するライフステージにあった(産休育休の前後,子育て中,介護中その他).ただし,そのライフステージの多くは数年しか継続しない.その時期をこころよくサポートしあえる職場が作れるかは,離職率を左右する可能性がある(図59,10,11,12

図5

組織におけるスタッフの役割は変化し,交代しうる

働き方の工夫の一例として,育休復帰直後の訪問リハビリテーションスタッフと職場としての体制を考えてみよう.子供が生まれたばかりのスタッフであれば,家庭環境や家族の協力体制などにもよるが,子供が3歳くらいになるまでは外部の勉強会(Off the job training)に参加しにくいことが多い.

職場で安心感を持って働いてもらうために,いくつかの段階にわけて業務に復帰してもらうような工夫があるとよい.まずは,子供を預けて規定時間いっぱい(多くは時短勤務)働くことに慣れる段階.この時期は休んでいる間の職場の人員や業務の流れの変化や診療報酬や制度の変更など,継続して働いているスタッフが自然と対応してきた変化に対応する時期でもある.オリエンテーションや研修,同行訪問などのOn the job trainingを厚くし,訪問業務の件数は抑える.この段階では職場復帰への不安軽減と,仕事内容が一定の質に達することを目指す.

次の段階では,業務時間内にこなせる仕事の量を増やす.スタッフ間での不公平感を感じず,お互い気持ちよく働けるように,どのくらいの期間をかけてどのくらいの量の仕事をしてもらう事を目指しているか,スタッフ全員で共有しておく(例:時短勤務のスタッフは,復帰3ヶ月後には,訪問件数をフルタイムのスタッフの月の訪問件数の,85~90%を訪問できることを目指す.かつ,1件ごとか,または目標訪問件数超過分の1件ごとに手当を付けるなど,業務量のばらつきを,手当てによって不公平感を減じる工夫をしている職場もある).子育てや介護などをしながら働くことは,どのスタッフでもあり得ることであり,本人の意に反して突然休まざるを得ないことは,ままあるものである.「お互いにフォローしあい,出勤中はしっかりと働いていこう」と,スタッフ全員で意識を共有できる職場づくりが重要である.

あるスタッフを一人前の職業人に育てるまでの,また,その組織において一人で考えて仕事ができるまでの人的,時間的,費用的な投資を考えれば,サポートしあい「居心地の良さ」を感じて働き続けてもらう為の努力は,組織にとって極めて効率のよい投資ではないだろうか.職場を引っ張って働くことができるライフステージ,家庭のことに労力を注ぐライフステージは,長期的にはそれぞれ入れ替わり循環しうる(図5).それぞれの立場のスタッフが互いに不公平感を持たず,支えあい,役割を交代しながら気持ちよく働ける,職場の文化を醸成していくこと.それは,その組織が高い質のサービス提供力を保つことができるかをも,時に左右する.少子高齢化が進み,労働人口の減少が懸念される現在において,男女ともに,結婚,出産,子育て,病気療養,介護など様々なライフステージの変化があっても,仕事内容や働き方を柔軟に変化させながら離職しないで働けるような職場となれるのか.目の前のスタッフが辞めても次の良い人材が来る時代は,終わりを告げている.

③ケア事業所が継続できるだけの利益をあげ続けるために~良い循環を生み,継続していくことについて~

①の項でも述べた通り,在宅というフィールドの特徴の一つは,他よりも「利用者に事業者が選ばれる」要素が強いことと思われる.在宅における包括的呼吸ケア・リハビリテーションも,世間一般への周知が十分とは言えない現状では,自分たちがどのようなサービスが提供できるのかをプレゼンテーションする力と,自分の活動する地域にサービスが認知されていくための取り組みは重要である(図6).依頼者に生活の仕方としてどのような選択肢が可能となるのか,包括的呼吸ケア・リハビリテーションを取り入れることでどのようなメリットがあるのか.その方とご家族が本当に希望していることに,どう貢献できるのか,相手にわかりやすく伝えられるか否か.ここでも高いコミュニケーション能力が必要とされる.

図6

対象者にプレゼンテーションする力

一例として,図7に良いサービスが良い循環を生み,事業が継続していく例を示す.

図7

在宅ケアにおける好循環の例~訪問リハビリテーションの場合~

まとめ

在宅呼吸ケアにおいて,高いパフォーマンスを発揮するために必要とされる能力,行動について,①~③の項目について述べてきた.「日常の診療とかけ離れた特別な何か」が新しく必要とされるわけではなく,目の前の課題に対し,小さな一歩を踏み出せること,それを継続できる組織づくりと,他事業所との関係づくりは大切なことである.

謝辞

発表および論文にまとめるにあたり,快くご協力下さった患者様,ご家族様,また,改編した図の掲載を御快諾下さった相原孝夫先生,職業人としてのコンピテンシー,人を育てるということについて貴重なご意見をくださった方々に深謝いたします.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
  • 1)  相原孝夫:ハイパフォーマー彼らの法則,日本経済新聞社,2014.
  • 2)  相原孝夫:仕事ができる人はなぜモチベーションにこだわらないか,幻冬舎,2013.
  • 3)  日本呼吸ケア・リハビリテーション学会呼吸リハビリテーション委員会/日本呼吸器学会ガイドライン施行管理委員会/日本リハビリテーション医学会・呼吸リハビリテーション策定委員会/日本理学療法士協会呼吸リハビリテーションガイドライン作成委員会編:呼吸リハビリテーションマニュアル—患者教育の考え方と実践—.照林社,2007.
  • 4)  中田隆文:在宅呼吸ケア.塩谷隆信,高橋仁美編.呼吸リハビリテーション最前線—身体活動の向上とその実践—,医歯薬出版,2015,193-197.
  • 5)  武知由佳子:在宅療養支援診療所.塩谷隆信,高橋仁美編.呼吸リハビリテーション最前線—身体活動の向上とその実践—,医歯薬出版,2015,198-205.
  • 6)  武知由佳子:慢性呼吸不全慢性安定期の確立;入院させたら危険?!:医師の立場から.在宅0-100 2: 204-211, 2017.
  • 7)  古賀幸恵:自分らしい在宅療養の継続のために—入院回避のための訪問看護の実際—訪問看護師の立場から.在宅0-100 2: 212-217, 2017.
  • 8)  横田直子:できるだけ入院させない在宅医療—在宅療養支援診療所で働く理学療法士として—理学療法士の立場から.在宅0-100 2: 218-223, 2017.
  • 9)  根本 敬:ホスピレートとは?~「すべての医療者が働きやすい病院」をめざして~神奈川県理学療法士協会会員ライフサポート部活動報告.職場環境を考える 第59報,2017.
  • 10)  熊切博美:ワークライフバランスの取り組み~桜ヶ丘中央病院の仕事と育児の両立への取り組み~神奈川県理学療法士協会会員ライフサポート部活動報告.職場環境を考える 第58報,2017.
  • 11)  寺田詩子:産休育休にともなう人員確保に関する調査報告~第2報:51回学術大会発表報告~神奈川県理学療法士協会会員ライフサポート部活動報告.第56報,2016.
  • 12)  根本 敬:「今どきの働き方はいろいろ!?」常勤?非常勤?週1回もあり?これからの働き方を考えよう!!平成28年 ライフサポート部主催 託児所付研修会&交流会資料.
 
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