日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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急性増悪した慢性呼吸不全患者の回復を支えるケア
松井 憲子井上 昌子
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2020 年 29 巻 1 号 p. 28-32

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要旨

慢性呼吸不全患者では,気管支炎,肺炎などの呼吸器感染症を契機に,急速に呼吸器症状が悪化することがあり,慢性閉塞性肺疾患の急性増悪では,患者のQOLや呼吸機能を低下させ,生命予後を悪化させる.したがって,急性増悪により緊急入院した際は,速やかな回復への支援と合併症の予防が重要である.急性・重症患者看護専門看護師は,患者とその家族に寄り添い,早期回復を目指す実践と医療チームの協働を先導する役割が求められる.

今回,急性増悪した慢性閉塞性肺疾患の患者において,急性期のリハビリテーションと合併症予防のケアによって,人工呼吸器離脱を支援した症例を報告した.症例は,入院当初は体外式膜型人工肺による補助循環が必要な状態であったが,第8病日に人工呼吸器離脱に至った.この症例で,急性・重症患者看護専門看護師の実践と多職種協働を振り返り,急性増悪した慢性呼吸不全患者の回復を支えるケアについて検討した.

緒言

慢性呼吸不全の患者では,気管支炎,肺炎などの呼吸器感染症を契機に急速に呼吸器症状が悪化することがあり,慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease: COPD)の急性増悪では,患者のQOLや呼吸機能を低下させ,生命予後を悪化させる1,2,3.中でも人工呼吸器管理を必要としたCOPD患者は離脱困難に陥る場合が多く,死亡リスクも増加する3.さらに近年,集中治療後症候群(Post intensive care syndrome: PICS)の概念が定着しつつあり,ICUに入室した重症患者の長期的な身体機能障害,精神障害,認知機能低下,QOLの低下などの問題も重要な課題となっている4.したがって,COPD急性増悪により緊急入院した重症患者においては,速やかな回復への支援と合併症の予防,長期的なPICSの予防が重要であり,患者とその家族を心身ともに支えていく必要がある.

今回,COPD急性増悪の患者で,入院当初は体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation: ECMO)による補助循環が必要な状態であったが,第8病日に人工呼吸器離脱に至った症例を報告した.この症例において,急性・重症患者看護専門看護師(Certified nurse specialist: CNS)の実践と多職種協働を振り返り,急性増悪した慢性呼吸不全患者の回復を支えるケアについて検討した.

事例紹介

1. 現病歴,家族構成

患者は70歳代の男性,60歳代でCOPDの診断を受けた.入院数日前から,発熱と咳嗽により近医を受診し緊急入院となったが,急性呼吸不全と血圧低下を認め,転院搬送となった.COPD急性増悪,肺炎の悪化と急性呼吸窮迫症候群(Acute Respiratory Distress Syndrome: ARDS)合併,敗血症の診断で人工呼吸器管理となった.患者は妻との二人暮らしで,入院前の日常生活動作(ADL)は自立しており,近隣に長男が住んでいた.

2. 入院後の経過

患者は転院時に敗血症性ショックも併発しており,循環不全に陥りV-A(Veno-Arterial)ECMOの導入となった.心機能も悪化し,左室駆出率は10%まで低下した.初期の主な治療は,原疾患の治療として感染のコントロールと,V-A ECMOによる呼吸・循環の維持であった.輸液,水分出納管理も重要であったが,患者は急性腎不全も合併し,入院後第2病日に持続的腎代替療法(continuous renal replacement therapy: CRRT)を導入した.この間,家族には急変の危険性が非常に高く,生命維持の危機的状況にあることについて,医師から説明が繰り返された.家族は,できる限りの積極的な治療を希望し,患者が自宅へ退院できることを望んでいた.

3. 倫理的配慮

症例報告として個人の特定につながる記載は明記せず,個人が特定されないよう配慮した.

結果

入院時は,ショック状態により生命の危機的状況であったため,患者の目標は「生命の危機を早期に脱却する」ことであった.また,それと同時に患者の治療が長期に及ぶ可能性も推察し,患者は生命の危機を脱した後も,人工呼吸器離脱困難,回復遅延,QOL低下などの悪循環を招くリスクが高いと考えた.したがって,医師,看護師のほか理学療法士との協働を取り入れたケア計画を立案し,「人工呼吸器離脱を阻害する要因を除去し,早期の離脱を目指す」という目標を設定した.

1. ECMO離脱まで(入院~第5病日)

1) 敗血症性ショックへのアプローチ

転院搬送後,ECMOを導入した急性期は,生命の危機的状況を回避するために,まず敗血症性ショックからの速やかな脱却が必須であった.急性腎不全も合併しており,これ以上の臓器障害の合併は多臓器不全へと移行し,患者の生命の危機的状況からの脱却が困難になる可能性があった.したがって,看護師には些細な患者の状態変化も見逃さないケアが求められた.CNSは,循環動態の緻密な観察と評価,呼吸の評価として酸素化の維持,改善について医療チームで共有することを主眼におき,平均血圧や尿量(ml/kg/hr),動脈血酸素分圧(PaO2)の値やP/F値(PaO2/FIO2)の目標値を医師,看護師とともに確認した.また,乳酸値の推移をチェックし,悪化がある場合は速やかに医師に報告することも確認した.患者は,入院翌日よりデータの改善がみられ,敗血症性ショックから速やかに脱却したことを確認できた.

2) 合併症予防へのアプローチ

肺コンプライアンスが低下しているこの時期は,人工呼吸器の設定で肺保護戦略を徹底し,人工呼吸器関連肺損傷(ventilator-induced lung injury: VILI)を防ぐ必要があった.ECMOによる酸素化維持および改善によって,臓器障害の進行を予防できていることをSOFA(Sequential Organ Failure Assessment)スコアで評価した.患者は,様々な要因により人工呼吸器離脱困難に陥るリスク,長期臥床と不動化のリスクも高かった.合併症予防のケアとして,排痰ケアと早期リハビリテーションの開始が重要であると判断し,医療チームで共有した.この時期のリハビリテーションは,コンディショニングを中心として,ポジショニングとROM訓練が主であった.さらに人工呼吸器の早期離脱のために,患者の「自発覚醒トライアル(Spontaneous Awakening Trial: SAT)」を確認する時期について査定した.十分な苦痛緩和のもとで,鎮静コントロールの実施と目標とする鎮静レベル,せん妄予防についても医療チームで共有し,日中は浅い鎮静管理としてSATを実施した.患者の呼吸・循環動態は改善し,第5病日にECMOを離脱した.

2. ECMO離脱から人工呼吸器離脱後ICU退室まで(第5~第14病日)

1) 人工呼吸器離脱に向けた自発呼吸トライアル(Spontaneous Breathing Trial: SBT)の実施

ECMO離脱後は,一日でも早い人工呼吸器の離脱が様々な合併症予防につながり,回復を促進すると考えた.ARDSと敗血症性ショックを合併したCOPD急性増悪の患者には,人工呼吸器離脱を阻害する要因が多数存在した.それらは,コンプライアンスの低下,呼吸筋疲労による呼吸仕事量の増加,気道内分泌物の増加と痰の貯留,心機能障害,鎮静,重症疾患関連神経・筋症(ICU-acquired weakness: ICU-AW),せん妄,低栄養状態,そして不安などの精神状態であった.医療チームのカンファレンスでは,患者の人工呼吸器離脱を阻害する要因を共有し,離脱へ向けたケアについて有効な対策について話し合った.薬物療法のほか,水分出納や栄養管理など全身状態の適切な管理のもと,SBTの実施と排痰を中心に呼吸管理を実施した.SBTの実施に向けては,浅い鎮静管理とせん妄予防が不可欠であり,鎮静剤の選択やSBTの中止基準について医療チームで共有し,患者の呼吸状態の変化についてのアセスメントを十分実施することを確認した.

2) 早期離床へのアプローチ

人工呼吸器離脱に向けては,四肢および呼吸筋の筋力低下が著明であったため,呼吸リハビリテーションと早期離床も重要な課題であった.そこで,患者に背面開放の姿勢を取り入れることを目指し,安全性と苦痛緩和に十分配慮しながら,人工呼吸器管理中も端座位保持テーブルを使用した「背面開放座位」を実施した.当施設では,脳卒中患者に対して「起きるケアプログラム5」の一環として背面開放座位を取り入れてきたが,医療チームで話し合い,人工呼吸器管理中の患者においても取り組みが可能と判断した.この際も,やはり浅い鎮静にコントロールする必要があり,これはせん妄予防にもつながることを医療チームで共通認識としてもつよう話し合った.

3) 認知面・心理面へのアプローチとPICSを念頭においたケア

患者はECMO離脱後も現状が理解できず混乱し,せん妄のリスクが高かったため,本人に説明を繰り返し,リハビリテーションを実施できる環境を整えた.この時期の心理面へのアプローチは特に重要と考え,医療チームでも情報共有やケアについて十分話し合った.また,家族に対しても,混乱している患者には家族の協力が必要だということを説明し協力を仰いだが,厳しい現状を繰り返し説明された家族に対する心理的なアプローチも同時に実施した.患者は敗血症の過大侵襲によるICU-AWの併発とPICSに陥るリスクが高く,急性期からPICSを念頭においたケアが求められること,早期人工呼吸器離脱はPICSを予防することにもつながるということを,医療チームで共有した.

以上のように,患者はECMO離脱後も様々な問題を抱えていたが,第8病日に人工呼吸器を離脱することができた.しかし,人工呼吸器離脱後も患者は現状認識がおいつかず,「わけがわからない」,「触るな,何もしてほしくない」など拒否的な反応が続いた.患者はせん妄併発と悪化のリスクも引き続き高い状態が続いていたので,日中ははっきりと覚醒できるよう薬剤を調節した.また,心理的ストレスの軽減につながるよう,環境整備や非薬理的なせん妄予防のためのケアを実施した.心理面へのアプローチとして,患者が様々な苦悩と混乱により現状を受け入れられず拒否的,逃避の反応を示していることを医療チーム全員で理解できるよう働きかけた.同時に,リハビリテーションを積極的に進め,離床へ向けての支援を継続した.患者は精神面でも徐々に落ち着き,第14病日にICUを退室した.

考察

1. 患者の治療経過を見据えたケアとキュアの融合

今回,CNSが治療の長期化を予測することで,最初から患者の問題を一つひとつクリアし,ステップアップできるよう医療チームに働きかけることが可能になったと考える.ECMO装着の時期は生命の危機を乗り越えるために,そして同時に様々な人工呼吸器離脱を阻害する要因を除去するために,ケアとキュアを融合したアプローチが重要であった.時間の経過とともに刻々と変化する患者の状態をリアルタイムに捉え,臨床推論をケアに結びつけるところで,CNSの実践の役割が発揮されたと考える.それらを医療チームで共有し,次のステップを見据える視点は,重症患者の回復促進には不可欠であったと考えられた.

2. 人工呼吸器離脱と回復促進のために,覚醒と心理面を支えたケア

敗血症の併発と長期の人工呼吸器管理は,ICU-AWやせん妄によってPICSのリスクが高まると言われている6,7.人工呼吸器離脱に向けては,浅い鎮静管理によるSBT実施が重要であるが8,9,その際本人の苦痛に十分配慮する必要があり,心理面のサポートは不可欠である.さらに,重症患者の家族もまた精神的に不安定になりやすく,PICSの概念にはPICS-Familyも含まれており4,併せてケアを考えることが重要であった.また,PICSの予防には早期リハビリテーションの有用性が報告されており10,11,12,リハビリテーションのステップアップを医療チームで十分話し合い進めていく必要がある.

今回,特に有効であったリハビリテーションとして,人工呼吸器管理中から「起きる」ための背面開放座位を実施したことが挙げられる.背面開放座位は,副交感神経活動を低下させて交感神経活動を上昇させるため身体の活動性が高まること5,座位による機能的残気量の増加は,肺コンプライアンスの増加や酸素化が改善すること13,14などの利点がある.一方で,浅い鎮静管理と離床をすすめることは,心肺機能において予備能力の低い重症患者にとっては負荷が大きく,心理的にも苦痛を強いることになりかねないため,医療チームが一丸となって徐々にステップアップを図る必要がある.

さらに,人工呼吸器離脱後に現状認識が追い付かず混乱が続く時期の心理面のケアも重要であり,患者が苦悩を抱える中でリハビリテーションをすすめ離床を促すことは容易ではない.ここでも医療チーム全員が患者の苦悩を理解してケアを実践することが重要となり,そのために共通認識を促し理解を得ることは,CNSの重要な役割であったと考える.このように,重症患者の回復促進においては多職種の協働は不可欠となり,CNSが協働を促進することで,身体面と心理面の両側面からのアプローチが可能になり,リハビリテーションも効果的に進められたと考えられた(表1).

表1 COPD急性増悪した患者の回復を支えた看護支援
ECMO実施中ECMO離脱後人工呼吸器離脱後
Care and Cureの調整人工呼吸器離脱と回復促進のために
「身体面と心理面」を支える調整
実施したケア・ショックの離脱と酸素化維持
(肺保護戦略)
・バイタルサイン注意
(心不全・出血)
・体位調整・排痰ケア
・日中の覚醒・SAT実施
・早期リハビリテーション開始
・コンディショニング,ROM訓練
・日中の覚醒,浅い鎮静,十分な鎮痛,SBT実施
・リハビリテーションの継続
・背面開放
・体位調整・排痰ケア
・せん妄,合併症の予防
・心理的ストレス軽減に向けたケア
・家族の協力を得る
・家族の心理面のケア
・日中の覚醒と活動促進
・リハビリテーションの継続
・離床へ向けた支援
・排痰ケアの継続
・心理面のケア(現状認識の困難,混乱など本人が抱える苦悩について,医療チームの理解を促す)
・家族の心理面のケア

3. 今後の展望と課題

CNSは,重症患者の回復のステップアップの過程の中で,いかにその段差を小さくできるか,そのために何をすべきかを分析し実践と評価に結び付け,継続的にチームに還元することで回復は促進すると考えられた.中でも今回の症例のように,慢性呼吸不全の急性増悪で人工呼吸器管理となった重症患者では,PICSの視点からも長期的な視点をもち,急性増悪による入院で著明に低下したQOLの回復と維持・向上を目指すことが重要である.CNSがこれを十分認識し,ケアに取り入れていく視点をもち,多職種医療チームの各職種の役割発揮を促進して効果的な協働を目指すことは,特に重要であると考える.

米国クリティカルケア看護師協会のシナジーモデル15によれば,患者自身のもつ脆弱性,複雑性,回復力など患者の特性と,臨床判断やケアリング,協働,擁護など看護師のもつ能力の相互作用により最善の患者アウトカムが得られ,回復は促進すると考えられている.CNSは,今回の患者のような生命維持装置に身を委ねる重症患者の擁護者となり,回復促進に必要な関係性を構築し患者の回復力を十分に引き出す能力が求められると考えられる.そして,それらを医療チームに還元するために具体的に言語化,可視化していく必要があり,今後の課題である.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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