日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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リハビリテーション栄養の視点で考える誤嚥性肺炎予防
若林 秀隆
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2020 年 29 巻 1 号 p. 81-86

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要旨

誤嚥性肺炎患者には,発症前からサルコペニアや低栄養を認めることが多い.また,誤嚥性肺炎の発症でサルコペニアや低栄養がさらに悪化して,摂食嚥下機能や呼吸機能が低下しやすい.そのため,誤嚥性肺炎とサルコペニアの悪循環を断つことが,誤嚥性肺炎予防に重要である.それには,リハビリテーション栄養の視点による医原性サルコペニアの予防や,攻めのリハビリテーション栄養管理によるサルコペニアの改善が求められる.全身のサルコペニア予防が,摂食嚥下障害や誤嚥性肺炎の予防につながる.また,誤嚥性肺炎入院時の「とりあえず安静」「とりあえず禁食」「とりあえず水電解質輸液」の指示が,医原性サルコペニアやサルコペニアの摂食嚥下障害の原因であり,誤嚥性肺炎の再発につながる.サルコペニアとリハビリテーション栄養を視野に入れたチーム医療を臨床現場で実施して,医原性サルコペニアと誤嚥性肺炎を予防してほしい.

はじめに

誤嚥性肺炎患者には,発症前からサルコペニアや低栄養を認めることが多い.また,誤嚥性肺炎の発症でサルコペニアや低栄養がさらに悪化して,摂食嚥下機能や呼吸機能が低下しやすい.実際,誤嚥性肺炎のマウスモデルで,四肢骨格筋だけでなく呼吸筋や嚥下関連筋にも筋萎縮を認めた報告がある1.その結果,さらに誤嚥性肺炎を生じやすくなるという悪循環に陥りやすい.この悪循環を断ち切るためには,リハビリテーション栄養の視点による医原性サルコペニアの予防や,攻めのリハビリテーション栄養管理によるサルコペニアの改善が求められる.本稿では,リハビリテーション栄養,サルコペニア,サルコペニアの摂食嚥下障害について解説する.

リハビリテーション栄養とは

リハビリテーション栄養とは,国際生活機能分類による全人的評価と栄養障害・サルコペニア・栄養摂取の過不足の有無と原因の評価,診断,ゴール設定を行ったうえで,障害者やフレイル高齢者の栄養状態・サルコペニア・栄養素摂取・フレイルを改善し,機能・活動・参加,QOLを最大限高める「リハからみた栄養管理」や「栄養からみたリハ」である2,3.摂食嚥下障害で入院リハを要する高齢者の約5割にサルコペニアを認め3,サルコペニアを認める場合には,嚥下機能やADL(Activities of Daily Living,日常生活活動)の改善が悪く,自宅退院の割合が低い4.そのため,サルコペニアの評価と対応は,リハビリテーション栄養に欠かせない.

リハビリテーション栄養ケアプロセス

質の高いリハビリテーション栄養の実践には,以下の5段階で構成されるリハビリテーション栄養ケアプロセスの活用が有用である(図12

①リハビリテーション栄養アセスメント・診断推論:国際生活機能分類による全人的評価,栄養障害・サルコペニア・栄養素摂取の評価・推論

②リハビリテーション栄養診断:栄養障害・栄養素摂取の過不足・サルコペニア(表1

③リハビリテーション栄養ゴール設定:仮説思考でリハや栄養管理のSMART(Specific:具体的,Measurable:測定可能,Achievable:達成可能,Relevant:重要・切実,Time-bound:期間が明記)なゴール設定

④リハビリテーション栄養介入:「リハビリテーションからみた栄養管理」や「栄養からみたリハビリテーション」の計画・実施

⑤リハビリテーション栄養モニタリング:リハビリテーション栄養の視点で栄養状態や国際生活機能分類,QOLの評価

図1

リハビリテーション栄養ケアプロセス 文献2)より引用

リハビリテーション栄養アセスメント・診断推論,リハビリテーション栄養診断,リハビリテーション栄養ゴール設定,リハビリテーション栄養介入,リハビリテーション栄養モニタリングの5つのステップで構成される.このサイクルを回し続けることが,質の高いリハビリテーション栄養の実践に有用である.

表1 リハビリテーション栄養診断
①栄養障害
・低栄養:飢餓,侵襲,悪液質
・過栄養:エネルギー摂取過剰,エネルギー消費不足,疾患
・栄養障害のリスク状態:低栄養・過栄養
・栄養素の不足状態
・栄養素の過剰状態
・なし
②サルコペニア
・あり:加齢,活動,栄養,疾患
・筋肉量のみ低下:加齢,活動,栄養,疾患
・筋力and/or身体機能のみ低下:加齢,活動,栄養,疾患
・低下なし
③栄養素摂取の過不足
・栄養素の摂取不足
・栄養素の摂取過剰
・栄養素摂取不足の予測
・栄養素摂取過剰の予測
・なし

リハビリテーション栄養診断で重要なことは,単に栄養障害,サルコペニア,栄養素摂取の過不足の有無を評価するだけでなく,これらの原因をしっかり考えることである.これらの原因を考えなければ,リハビリテーションと栄養管理の適切なゴール設定を行うことは困難である.

栄養のゴール設定では,以下の2つの質問が重要である.両者とも「はい」の場合に,栄養改善を目指したゴールを設定できる.

① 改善すべき低栄養・サルコペニアか?

栄養改善しながらリハビリテーションを行うことで,呼吸機能やADLなどの改善を期待できるかどうかを多職種で検討する.例えば高位頸髄損傷で完全四肢麻痺の場合には,栄養改善しても生活機能の改善を期待できない.むしろ,脂肪による体重増加で介護負担が増加する可能性があるため,栄養維持を目標にすることが望ましい.

② 改善できる低栄養・サルコペニアか?

低栄養の場合,その原因と程度によって,栄養状態の改善,維持,悪化軽減の方向性が決まる.低栄養の原因が飢餓なし,侵襲なしもしくは同化期(例:CRP 3 mg/dl以下),前悪液質の場合には,栄養改善の方向性でゴールを設定する.一方,高度の飢餓やRefeeding症候群,高度の侵襲(例:CRP 10 mg/dl以上),不応性悪液質(終末期)の場合には栄養改善は困難であり,栄養維持,もしくは栄養悪化の軽減の方向でゴールを設定する.

栄養のゴール設定は,SMARTに設定する.SMARTなゴールの例は,1ヶ月で 1 kgの体重増加,2週間後に病棟内のT杖歩行自立などである.一方,栄養改善,ADL向上は,数値や期間の記載がないため,SMARTなゴールではない.リハビリテーションも栄養管理も,できる限りSMARTなゴールを設定して,モニタリングで達成できたかどうかを振り返り,次のアセスメント・診断推論につなげてサイクルを回し続けることが重要である.

「リハビリテーションからみた栄養管理」では,機能訓練の内容を考慮した栄養管理を行う.例えば,1日3時間の機能訓練で1日 300 kcal消費しているのであれば,1日エネルギー必要量に 300 kcal追加することが必要である.また,栄養改善を目指したゴールを設定した場合には,攻めの栄養管理を行う.例えば,1か月後に体重 2 kg増加を栄養のゴールとした場合,1日エネルギー必要量=1日エネルギー消費量+1日エネルギー蓄積量(約 500 kcal)と設定する.約 7000 kcal のエネルギーバランスがプラスになることで,1 kgの体重増加が理論的には得られるためである.攻めの栄養管理を行うときは,必ずレジスタンストレーニングを併用する.栄養管理だけ攻めてレジスタンストレーニングを行わないと,筋肉ではなく脂肪で体重増加してしまう.

「栄養からみたリハ」では,栄養管理が不適切な場合,筋肉量増加をめざしたレジスタンストレーニングや,持久力改善をめざした持久性トレーニングは行わない.例えば,当院で摂食嚥下障害に対するリハ依頼があった入院高齢患者の1日エネルギー摂取量を評価したところ,4人に1人が 648 kcal以下であった3.つまり,摂食嚥下リハビリテーションを要する入院高齢患者では,栄養管理が不適切な場合が少なくない.ただし,栄養管理が不適切でも1日中ベッド上安静ですごしていると,廃用性筋萎縮が進行してしまうため,最大筋力の30~40%程度の軽負荷の筋力トレーニングは実施すべきである.

リハビリテーション栄養診療ガイドライン2018年版

日本リハビリテーション栄養学会では,質の高いリハビリテーション栄養実践のために,リハビリテーション栄養診療ガイドライン2018年版を作成した.脳血管疾患5,大腿骨近位部骨折6,成人がん7,急性疾患8の4疾患が対象である.各疾患のクリニカルクエスチョン(CQ)とステートメントは,以下に示す.脳血管疾患,大腿骨近位部骨折,急性疾患でリハを行っている場合には,通常の栄養管理だけでなく,強化型栄養療法を行うことを弱く推奨している.日本リハビリテーション栄養学会のホームページにリハビリテーション栄養診療ガイドラインの全文が公開されているので活用してほしい9

・脳血管疾患

【CQ】リハビリテーション実施されている高齢の脳血管疾患患者に,強化型栄養療法は行うべきか?

【推奨】リハビリテーションを実施されている急性期の高齢の脳血管疾患患者において,死亡率・感染の合併症を減らし,QOLを向上する目的に,強化型栄養療法を行うことを弱く推奨する(弱い推奨/エビデンスの確実性:低い).強化型栄養療法の介入方法は,個別栄養管理により患者の状態に応じた投与量・経路を選択した上で,濃厚補助栄養剤や高蛋白食品,サプリメントの追加などを考慮する.

・大腿骨近位部骨折

【CQ】リハビリテーションを実施している65歳以上の大腿骨近位部骨折患者に,強化型栄養療法を行うべきか?

【推奨】リハビリテーションを実施している65歳以上の大腿骨近位部骨折の患者において,死亡率および合併症発症率の低下やADLおよび筋力の改善を目的として,術後早期からのリハビリテーションと併用して強化型栄養療法を行うことを弱く推奨する(弱い推奨/エビデンスの確実性:低い).なお,強化型栄養療法の介入方法として,高エネルギー蛋白質栄養剤の追加による補助栄養療法や,管理栄養士によるカウンセリングや栄養サポートを考慮する.

・成人がん

【CQ】不応性悪液質を除く成人がん患者にリハビリテーションと栄養指導を組み合わせたプログラムを行うべきか?

【推奨】補助化学療法または放射線療法を行う成人がん患者に対して,リハビリテーションと栄養指導を組み合わせたプログラムを行うことについて一律・一定の推奨はしないこととする.(エビデンスの確実性:非常に低い)ただし患者および家族の意向と病状を勘案し,リハビリテーションと栄養指導の必要性を個別に判断することが望ましい.低栄養や悪液質を有し,ADL低下を認める成人がん患者に対するリハビリテーションと強化型栄養療法の組み合わせ効果については現時点でエビデンスが存在せず特定の推奨を行うことはできない.

・急性疾患

【CQ】リハビリテーションを実施されている急性疾患患者に強化型栄養サポートを行うべきか?

【推奨】リハビリテーションを実施されている急性疾患患者に対して強化型栄養療法を行うことを弱く推奨する.ただし,自主的リハビリテーションに加え強化型リハプログラムの併用が望ましい.(弱い推奨/エビデンスの確実性:非常に低い)

サルコペニア

サルコペニアとは,転倒,骨折,身体機能障害および死亡などの不良の転帰の増加に関連しうる進行性および全身性に生じる骨格筋疾患である.2019年10月24日にアジアのワーキンググループ(Asian Working Group for Sarcopenia, AWGS)によって,アジアにおけるサルコペニアの新たなコンセンサス論文,AWGS2019が公開された10.低骨格筋量に加えて低筋力もしくは低身体機能を認めた場合にサルコペニアと診断するという点では,2014年版と同じである.しかし,生体電気インピーダンス法(BIA)や二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)で骨格筋量を評価できない一般の診療所や地域での評価(図2)と,骨格筋量の評価が可能な医療施設や研究を目的とした評価(図3)で,診断方法を変更した.前者のセッティングでは,サルコペニアの可能性ありと診断する.また,アジア人のエビデンスをもとに,男性の握力(26 kg未満から 28 kg未満)と歩行速度(0.8 m/s以下から 1.0 m/s未満)の基準値が改訂された.呼吸リハビリテーションを要するすべての患者に,AWGS2019を用いてサルコペニアの有無を評価してほしい.

図2

プライマリケアや地域でのサルコペニア診断 文献10)より引用

この場合,サルコペニアの可能性ありと診断する.

図3

医療施設や研究でのサルコペニア診断 文献10)より引用

この場合,サルコペニアもしくは重症サルコペニアと確定診断できる.

サルコペニアの原因と医原性サルコペニア

サルコペニアの原因は,加齢,活動,栄養,疾患に分類される(表211.加齢では,40歳以降で1年に1%程度,筋肉量が減少する.活動では,1日中ベッド上で安静にすごすと,筋肉量は1日0.5~1%減少する.栄養では,エネルギー摂取量が必要量の半分程度の場合,筋肉量が1日約0.2%減少する.疾患では,誤嚥性肺炎などの急性炎症である侵襲,慢性閉塞性肺疾患などの慢性炎症である悪液質,多発性筋炎などの神経筋疾患などが含まれる.高度な急性炎症の場合には,1日に 1 kg筋肉が減少することがある.

表2 サルコペニアの原因 文献11)より改変引用
加齢加齢の影響のみで,活動・栄養・疾患の影響はない
活動廃用性筋萎縮,無重力,閉じこもりがちな生活
栄養飢餓,エネルギー・たんぱく質摂取量不足,消化吸収不良
疾患侵襲:急性疾患・炎症(骨折,手術,外傷,,急性感染症など)
悪液質:慢性疾患・炎症(がん,慢性心不全,慢性腎不全,慢性呼吸不全,慢性肝不全,関節リウマチなどの膠原病,慢性炎症を伴う創傷など)
原疾患:筋萎縮性側索硬化症,多発性筋炎,甲状腺機能亢進症など

これらのうち,①病院での不適切な安静や禁食が原因の活動によるサルコペニア,②病院での不適切な栄養管理が原因の栄養によるサルコペニア,③医原性疾患によるサルコペニアを,医原性サルコペニアと呼ぶ2,3.医原性サルコペニアは,急性期病院での誤嚥性肺炎患者に対する「とりあえず安静」「とりあえず禁食」「とりあえず水電解質輸液のみ」の指示で生じやすい.医原性サルコペニアを予防することが,誤嚥性肺炎の再発予防につながるため,適切な評価のもとで早期離床,早期経口摂取,早期からの適切な栄養管理を行うことが大切である.

サルコペニアの摂食嚥下障害

サルコペニアの摂食嚥下障害とは,全身および嚥下関連筋の筋肉量減少,筋力低下による摂食嚥下障害である.現在の日本における摂食嚥下障害の三大原因疾患は,脳卒中,認知症,サルコペニアであると考える.特に誤嚥性肺炎の場合には,サルコペニアによって摂食嚥下障害が悪化しやすい.実際,肺炎の入院患者のうち,81%(187人中152人)にサルコペニアの摂食嚥下障害を認めた12.そのため,すべての誤嚥性肺炎患者に,サルコペニアの摂食嚥下障害の存在を疑うべきである.

2019年に日本サルコペニア・フレイル学会,日本摂食嚥下リハ学会,日本リハ栄養学会,日本嚥下医学会の4学会によって,「サルコペニアと摂食嚥下障害」の4学会合同ポジションペーパーが発表された13.ポジションペーパーの日本語訳は,4学会すべてのホームページに公開されている.

急性期病院のリハ科に摂食嚥下リハの依頼があった入院患者のうち,32%にサルコペニアの摂食嚥下障害を認めた3.また,入院前には摂食嚥下障害のなかった高齢入院患者で入院後2日間以上,禁食となった患者を対象に,60日後の摂食嚥下障害の発生とその要因を比較した研究がある15.対象者の26%に新たに摂食嚥下障害を認め,摂食嚥下障害となった患者全員に,全身のサルコペニアを認めた.つまり,全身のサルコペニアを認めない場合には,入院後2日間以上,禁食となっても摂食嚥下障害の新規発生がなかった.つまり,全身のサルコペニアの予防が,摂食嚥下障害と誤嚥性肺炎の予防につながる.また,入院後2日以内に適切に摂食嚥下機能評価を行った上で早期経口摂取を開始することが重要である.入院時にサルコペニアを認めると,入院中に摂食嚥下障害を生じやすいことも報告されている16.サルコペニアの摂食嚥下障害の診断には,診断フローチャートが有用である(図414

図4

サルコペニアの摂食嚥下障害診断フローチャート 文献14)より引用

最初に全身のサルコペニアの有無を評価する.次に摂食嚥下機能の低下を評価する.次に,明らかな摂食嚥下障害の原因疾患の有無を評価する.例えば,脳卒中が存在して,摂食嚥下障害の原因が脳卒中だけと考えられる場合には,サルコペニアの摂食嚥下障害とは診断しない.最後に嚥下関連筋群の筋力評価として,舌圧を測定する.嚥下関連筋群の筋力低下は,舌圧が 20 kPa以上か未満かで評価する.舌圧低下を認める場合には,サルコペニアの摂食嚥下障害の「可能性が高い」と判断する.一方,舌圧低下を認めない場合および舌圧測定が困難な場合には,サルコペニアの摂食嚥下障害の「可能性あり」と判断する.

おわりに

リハビリテーション栄養,サルコペニア,サルコペニアの摂食嚥下障害について解説した.誤嚥性肺炎予防には,全身の筋肉,呼吸筋,嚥下関連筋のサルコペニアの予防と治療が有用である.加齢によるサルコペニアに対しては,レジスタンストレーニングとたんぱく質や分岐鎖アミノ酸の摂取の併用が有用である.一方,活動,栄養,疾患によるサルコペニアに対しては,原因によって対応がことなり,リハビリテーション栄養の視点が有用である.サルコペニアの有無だけでなく原因までしっかり考えたうえで,最適な呼吸リハビリテーションと栄養管理を実施してほしい.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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© 2020 一般社団法人日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
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