日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
Online ISSN : 2189-4760
Print ISSN : 1881-7319
ISSN-L : 1881-7319
教育講演
メディカルスタッフのためのやさしイイ胸部画像教室
長尾 大志
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2020 年 29 巻 2 号 p. 191-194

詳細
要旨

メディカルスタッフが胸部X線写真を見る機会はそれほど多くないかもしれないが,救急の現場など急を要する場面などで読影をすることができれば,現場での診療に役立つと考えられる.X線写真を「ぱっと見てわかる」重要な所見は,肺の大きさの変化,構造物の移動や左右の対称性,気胸や縦隔気腫の存在などである.それ以外に胸部X線写真が有用なものとしては,肺炎をはじめとする感染症,そして肺癌などがあるが,肺野に明らかな陰影があれば異常に気づくことはそれほど困難ではない.一方で心陰影や横隔膜裏などの物陰・死角にある陰影はしばしば見逃されることがある.そのような陰影に気づくためのポイントとして,シルエットサインが有用である.シルエットサインは陰影の存在する場所を推定するために使われているが,シルエットサインが陽性である場合,その構造物に隣接して病変が存在するということが示唆される.

緒言

メディカルスタッフにとって胸部X線写真とはどのようなものであろうか.メディカルスタッフとして胸部X線写真を見る機会はそれほど多くないかもしれない.おそらくどの施設でも,胸部X線写真を撮影して読影をするのは医師の仕事であろう.しかしながら例えば救急の現場で,メディカルスタッフが大雑把であっても胸部X線写真の読影をすることができれば,大いに現場での診療に役立つと考えられる.特に急を要する現場では,「ぱっと見てわかる」大まかな異常を多くのスタッフの目で確認できるならば,見落としを減らすことにもつながるであろう.

胸部X線写真の見かた

「ぱっと見てわかる」異常とは,肺の大きさの変化,構造物の移動や左右の対称性などの所見である.正常な肺の大きさは,右第10後肋骨が右横隔膜と鎖骨中線付近で交差する(図1).肺の大きさの変化には大きくなる場合と小さくなる場合がある.主な鑑別診断としては,肺が大きくなった時,すなわち横隔膜の低下を見た時(図2)には,まず考えるCOPD(両側),それと緊張性気胸の時には胸腔内が陽圧になって横隔膜が低下するが,これは通常片側で起こる現象である.

図1

正常写真と肋骨

図2

COPDと肋骨

それから肺が縮んだ時,すなわち横隔膜が挙上した時に考えるのは,線維化病変と無気肺が代表である.線維化病変は通常両側にあり,肺野のすりガラス陰影や網状影を伴う.一方で無気肺の場合は,通常は片側であり肺野の濃度は真っ白になるのが通例である.それ以外にも,肺切除術後であれば横隔膜が挙上し,その側の肺は小さくなる.また前縦隔に腫瘍があり,横隔神経麻痺をきたした場合には,横隔膜が挙上するが肺野に所見は見られない.

肺の大きさと同時に,気管や縦隔の動きを見ておく.気管や縦隔が正中よりも右にはみ出しているものを右への偏位(図3),左にはみ出しているものを左への偏位(図4)というが,偏位をきたす場合,肺が縮む病変(無気肺や線維化)があればそちらに引っ張られることになり,逆に腫瘤や胸水が存在すればそちらから圧されるという変化も考えられる.このように横隔膜に加えて縦隔の動きを見ることで,そこに縮む病変がある,あるいはできものがある,という質的評価が可能となる.

図3

右への偏位

図4

左への偏位

呼吸器症状を呈して救急でやってきた症例の場合,気胸や縦隔気腫の存在に気づくことは重要である.これも「ぱっと見て」その存在に気づくことができる所見であるため,特徴的な所見を知っておきたい.

気胸の場合は黒い部分(肺外の空気)と白い部分(縮んだ肺)の境界線がしっかりと見られ(図5),肺の虚脱が強ければ肺野濃度の左右差が明らかに見られる(図6)はずである.また縦隔気腫では,主に気管周囲に黒い縦線(縦隔内の空気:図7),それに加えて皮下気腫が見られる.

図5

気胸で見られる肺の外縁

図6

気胸で見られる肺野濃度の差

図7

縦隔気腫

気胸や縦隔気腫以外に,救急対応が必要な病態で胸部X線写真が有用なものとしては,肺炎をはじめとする感染症,そして肺癌などが挙げられる.これらの画像診断において,肺野に明らかな陰影があれば異常に気づくことはそれほど困難ではない.コツとしては,同じ高さの肺野は左右おおよそ同じような血管分布であり,その結果肺野濃度が概ね同じになることから,左右差同じ高さの肺野を左右対称に見る(図8)ことで肺野濃度の左右差に気づきやすくなる.左右差がある場合,何らかの異常があると考えられる.

図8

肺野の左右差をみる

心陰影や横隔膜裏などの物陰・死角にある陰影はしばしば見逃されることがある.そのような陰影に気づくためのポイントとして,シルエットサインが有用である.シルエットサインに用いる線は,心陰影(右1弓・2弓,左1弓・2弓・3弓・4弓),下行大動脈,そして左右の横隔膜である.右1弓は上大静脈,2弓は右房,左1弓は大動脈弓,2弓は左心耳,3弓・4弓は左室であり,各々右1弓はS3,2弓はS5,左1弓はS1+2,2弓はS3,3弓・4弓はS5,横隔膜は左右ともS8,下行大動脈は中肺野でS6,下肺野でS10に接している(図9).このようにシルエットサインは陰影の存在する「場所」を推定するために使われるものだと思われているが,シルエットサインが陽性である場合,その構造物に隣接して病変が存在するということが示唆される.

図9

シルエットサイン

例えば高齢者の誤嚥性肺炎は,しばしば左底区(心臓の裏)に存在することになるので認識しにくいことも少なくないが,その場合下行大動脈が消失する(シルエットサイン陽性)ことが多い(図10)ので,そこに注目すれば見逃すことは少なくなると考えられる.

図10

左誤嚥性肺炎

結語

以上,メディカルスタッフのための,胸部X線写真読影の基礎をかいつまんで説明したが,まだまだ胸部X線写真読影は奥が深いものである.『レジデントのためのやさしイイ胸部画像教室』など,わかりやすい書籍が多く出版されている1ので,興味を持たれた方は一度通読されてみることをお勧めする.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
© 2020 一般社団法人日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
feedback
Top