日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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シンポジウム
誤嚥性肺炎患者のケア統一に向けての一助
―誤嚥性肺炎看護プログラムの作成―
藤川 啓子
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2020 年 29 巻 2 号 p. 200-205

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要旨

誤嚥性肺炎の看護は多様なケアの集約である.看護師は交替制勤務をしながら看護を展開し,継続看護をしていく中で,誤嚥性肺炎に関する知識の習得やケアのスキルアップは重要である.そして,多様なケアであるからこそ各専門性を持った多職種で構成するチームとしての関わりも重要である.看護ケアの質向上とチーム医療の強化を目的とし,誤嚥性肺炎看護を標準化した誤嚥性肺炎看護プログラムを作成した.今回,誤嚥性肺炎看護プログラム運用の成果の検証により,プログラム導入によって他科紹介率の向上,退院支援の早期介入及び他職種との協働に効果をもたらし,平均在院日数短縮につながるという結果が得られた.

緒言

近年の超高齢社会に伴い,多くの医療施設が誤嚥性肺炎に対するチーム医療を展開している1,2.誤嚥性肺炎看護は多様なケアの集約であり,根拠に基づいた看護ケアの効果を評価しながらケアを継続することが求められる.しかし,看護師の誤嚥性肺炎に関する知識のレベルは各人各様で,交替制勤務をしながら継続ケアを行っている現状に対し,スタッフが同じ認識を持って統一したケアをすることが望まれる.そこで,看護ケアの質向上とチーム医療の強化を目的とし,誤嚥性肺炎看護を標準化した誤嚥性肺炎看護プログラム(以下プログラム)を呼吸器病棟独自で作成し,平成26年より運用している.当院の誤嚥性肺炎患者の入院現状から,呼吸器病棟のみのプログラム運用だけでなく,院内全体での運用拡大が望まれ,出前講座や教育ツールの作成などの教育活動を行ってきた.教育活動を継続するにはマンパワーや時間,異動による指導スタッフの減少という問題がある.また,プログラム運用は呼吸器病棟のみの運用であり,活性化に繋がらない原因として医療も含めた運用システムの見直しも課題である.

今後も増加し続ける誤嚥性肺炎患者は再燃を繰り返し経過していく.看護師の役割は,入院前と同じ状態の生活環境に戻りたいという患者・家族の思いに寄り添い,その人らしく生活が送れるように援助していくことである.そのための病棟看護師の取り組みを紹介する.

当院における誤嚥性肺炎患者の現状

当院は高松市の中心部に位置する病床数576床,平均在院日数12.8日(平成29年7月現在),入院基本料7:1の高度急性期を目指す地域の中核病院である.当病棟(以下A病棟)は呼吸器内科と胸部・乳腺外科を専門とした呼吸器主幹病棟であり,在宅酸素療法や化学療法や外科手術の治療を行う患者を主に担当している.

当院の平成28年度の誤嚥性肺炎入院患者は,患者数149名(患者検索方法はDPC病名において「入院契機病名日本語名称」が「誤嚥性肺炎」である)であった.このうち,A病棟の入院は34名,A病棟以外の入院は115名であった.年齢は6~101歳であり,平均年齢は82.5歳.在院日数は27日.担当診療科について,誤嚥性肺炎患者の担当は全ての内科系診療科の中堅以下の医師で分担されている.成人を受け入れる一般病棟であれば,どの病棟でも誤嚥性肺炎患者を受け入れている.担当診療科は10科で,内訳は循環器内科32%,消化器内科25%,呼吸器内科22%,血液内科7%,内分泌内科6%,神経内科5%,脳神経外科1.2%,小児科0.6%,消化器外科0.6%,呼吸器外科0.6%であった.

受け入れ病棟は9病棟で,救急病棟,一般病棟(7病棟),小児病棟である.一般病棟の受け入れ内訳は,A病棟22%,A病棟以外78%であった.ほぼ全例の患者に入院後禁飲食指示が確認できた.

退院後の転帰について,大きくは療養型病院への転院,介護関連施設への転院,自宅退院,死亡の4つに分かれる.内訳は自宅退院34%,介護関連施設への転院28%,療養型病院への転院25%,死亡13%であった.自宅退院34%のうち,自宅で訪問介護や訪問看護のサービスを受けるものは16%,サービスを受けないものは18%であった.退院施設について療養型病院への転院は20施設,介護関連施設への転院は20施設であった.介護関連施設への転院や自宅で介護サービスを利用する患者に関しては,退院前に入院病棟で介護連携や共同指導が行われている.

誤嚥性肺炎看護プログラムについて

A病棟での看護の統一と質向上を目指し,病棟BSCに載せてスタッフ全員で取り組んだ.平成24年4月より学習を含めた2年をかけてプログラムを完成させた.平成26年4月より1年間の試験運用を経て平成27年4月より本格運用している.

1. 誤嚥性肺炎看護プログラムとは

1)誤嚥性肺炎患者に提供する看護として,「口腔ケア」「呼吸ケア」「ポジショニング」「摂食・嚥下」「早期離床」の5つの視点でまとめたプログラムであり,患者の身体機能維持,再発防止を目的に質の高い看護を患者・家族に提供できるように標準化したものである.

2)高齢者のQOL維持のために,医療チームで多方面から誤嚥性肺炎を治療し,再発防止のために患者・家族へ理解を深めていただくためのものである.

2. 誤嚥性肺炎看護プログラムの詳細

1) プログラム使用対象者

入院時に医師により誤嚥性肺炎と診断された患者とする.

2) フローチャート(図1

看護師はフローに沿うことで観察や問診から情報を得られ,アセスメントし,対象患者に適した個別的なケア決定に至るようになっている.

図1

誤嚥性肺炎看護プログラムのフローチャート

フローチャート内の四角の枠内は観察項目,情報収集項目,行動内容を示している.丸い枠内はケア内容を示している.

3) ケアチェックシート(図2

フローチャートをシート化し,項目をチェック出来るようにしたものである.項目に沿って情報を集約しやすく,全体像が見えるようになっている.誤嚥性肺炎患者が入院中に,定期的に行う看護評価の際に使用する.部分的に項目の詳細を知りたい場合には,次に述べる誤嚥性肺炎看護ケアブックの指定されている頁を参照すれば,観察やアセスメント,ケアの方法を知ることができる.

図2

誤嚥性肺炎看護プログラムの看護ケアチェックシート

4) 誤嚥性肺炎看護ケアブック

プログラム運用マニュアルと誤嚥性肺炎看護を5つの視点でまとめた基本的知識及びケアマニュアルを1つのファイルにまとめている.ファイル単独でも使用できるが,看護評価の際にはケアチェックシートと連動して使用することも出来る.

問診の重要性

私たちは入院前の情報を出来るだけ集め,入院前の状態に出来る限り近づけて退院していただくこと,患者・家族の思いに寄り添ってケアしていくことを目指している.そのためには問診が非常に重要であり,関わりの時間が多く持てる看護師だからこその問診力が必要である.日常生活における睡眠,口腔清潔,食事,排泄,休息,姿勢等のような場面ではどうだろうか.例えば,夜間睡眠時では,睡眠時の体位や睡眠時無呼吸の有無,就寝前の義歯・口腔ケアの状況の問診.食事時のむせの有無や食事内容に関する問診.排泄状況では,便秘にてトイレで息んだ際に嘔吐して誤嚥したという例もある.また,施設での経管栄養の内容は情報提供書や看護添書で確認できても,投与速度や投与時の姿勢等の情報はなく,家族からの情報提供で問題となる状況が考えられ,栄養内容を見直し退院できたという事例も過去にあった.

入院中と共に入院前の生活状況を確認することにより,リスク要因を引き出して誤嚥性肺炎発症・再発防止への援助が出来るのは看護師の力も大きいと考える.

3. 運用から現在まで

1) 院内教育活動

平成27年4月からの本格運用に伴い,院内ケア統一に向け,院内教育活動を始めた.

(1)出前講座

平成27年10月~12月にかけて要望のあった5病棟で実施した.13時~14時または18時前後の時間帯に1回30分~1時間を合計3~5回の数回に分けたシリーズ化形式で概論,口腔ケア,ポジショニング,摂食・嚥下,呼吸ケア,早期離床の6つの項目について行った.出前講座を行った病棟には誤嚥性肺炎ケアブックを1冊ずつ配布した.

(2)教育用DVD作成

DVDは出前講座の内容と同じものを収録しており,2枚組で視聴時間は合計1時間20分である.平成28年3月にDVDを5病棟に配布した.

2) 院内教育の結果と現状

(1)出前講座

全講義を終了するのに時間がかかる事,聴講者全員が毎回聴講できていない結果であった.また,ナースステーションで行うとナースコール対応や急ぎの業務優先となり,聴講者の出入りが激しく,集中して講義・聴講出来ない状況であった.しかし,体験実習も含めて指導することで直に伝えることが出来ることや,直接質問のやりとりが出来ることは反応が見えて良かった面もある.可能であれば,講義は集中出来る時間と場所の確保が望ましい.

約1年後に行った出前講座後の状況を質問したアンケートより,実際にプログラム運用している病棟は無かった.聴講者個人が部分的に印象に残ったケアを行っているという意見もみられたが,実際のプログラム運用を出前講座だけで行うのは難しかったという結果であった.出前講座を継続するにも,時間やスタッフの確保,労力の問題があり,教育用DVD作成に至った.

2)DVD作成

DVD視聴後のアンケート3にて,自由回答では「自分の時間で繰り返し見られるのが良かった」「実技もあり,大変分かりやすかった」「理解不十分なところはケアブックで確認できるのが良い」「機種によって再生が出来なかった」などの意見があった.内容の理解について約6割が「理解できた」と答えており,「理解できなかった」の回答は無かった.

DVDでの院内教育は学習の動機付けになり,且つ,いつでも自分の時間を使って繰り返し使える教材であろう.作成の際には,編集ソフトや視聴する機器についてあらかじめ考慮しながら作成することが必要であった.

誤嚥性肺炎看護プログラムによる成果の検証

プログラムの効果判定を行うには,様々なデータ検証が必要であるが,今回は平成28年度の死亡率,在院日数,他科紹介率,多職種へのインタビューの限られた情報から検証を行う.なお,プログラム運用の有無での比較検討を行うため,プログラム運用をしているA病棟のデータをA群,A病棟以外のデータをB群として表す.

1. 死亡率

死亡率はA群14.7%,B群11.3%であった(図3).

図3

H28年度 A群とB群における死亡率と他科紹介率

死亡率についてはA群の方が上回っていた.呼吸器病棟に入院する患者は全体の22%であるにも関わらず,死亡率が高いことが分かる.これは,重症例では呼吸器内科の担当となり,呼吸器主幹病棟である呼吸器病棟に入院する割合が多いためと考えられる.

2. 在院日数の変化

平成28年度はA群21.2日,B群29.5日であり,その差は8.3日であった(表1).平成26年度よりプログラム運用を開始したが,平成26年度25.9日,平成27年度27.9日である.今回,平成26,27年度のB群については検討していない.

表1 呼吸器病棟での在院日数の変化
入院患者数平均在院日数
H26年度40名25.9日
H27年度61名27.9日
H28年度33名(116名)21.2日(29.5日)

(括弧内はB群)

3. 他科紹介率

プログラムでは他科紹介として耳鼻科,歯科口腔外科,リハビリテーション(以下リハビリ)科への紹介を組み込んでいる.耳鼻科では嚥下機能評価の依頼や言語聴覚士による嚥下リハビリ,歯科口腔外科では歯科医や歯科衛生士による定期的な口腔内ケア,リハビリ科では理学療法士や作業療法士による早期離床や機能維持の為のリハビリを目的としている.歯科口腔外科に関してはA群48.5%,B群40.9%,リハビリ科はA群78.8%,B群73.0%,耳鼻科はA群36.4%,B群52.2%であった(図3).

歯科口腔外科やリハビリ科への紹介率はA群が上回っている.リハビリ科への紹介率は両群とも7割を超えており,プログラム運用に限らずリハビリへの意識は高いと言える.プログラムの中ではリハビリ科への紹介は入院後1週間までに行えるように組み込んでいる.紹介された例で全ての主治医や病棟看護師が早期離床を意識しているかどうかは判断できない.反対に歯科口腔外科への紹介率は全体的に5割以下と低い.対象となる患者は超高齢であり,義歯を使用している患者は多い.総義歯や残存歯数が数本のみであれば,病棟看護師による口腔ケアで歯科口腔外科への紹介はしていない事もある.耳鼻咽喉科への紹介率はA群とB群で15.8%も差が見られ,A群の方が紹介率は低い.これは死亡率から推測すると,呼吸器病棟へ重症度が高い患者が多く入院しており,紹介までに至らなかったものと考えられる.

4. 他職種へのインタビュー

3職種のインタビュー回答内容(表2)に基づいて,次のように考察した.

表2 他職種へのインタビュー
職 種インタビュー回答
MSW呼吸器病棟は積極的な退院支援が出来ていると思う.スタッフもMSWも早めの情報収集や退院先の援助内容やサービス内容の確認に努めている.
言語聴覚士摂食嚥下療法の課程で,ポジショニング等看護師にも協力を依頼する際,病棟によっては思うように進まないことも正直ある.やはり看護師の認識の差は感じている.摂食嚥下療法には看護師の協力は必須である.
理学療法士リハビリテーションの進め方に関しては,どの病棟も大きな差は感じない.個人的に感じるのは,呼吸器病棟は座位時間を決めて設けていることが多く,リハビリ側としてはありがたい.体位ドレナージも積極的に行っていると思う.他病棟では体位ドレナージは行っていない.

<MSW>

MSWから見ると,呼吸器病棟は積極的な退院支援が出来ているようである.実際,MSWは毎日病棟を訪れて病棟師長やリーダー看護師との情報交換を行う他,病棟で行われる週1回の退院支援カンファレンス以外にもリハビリカンファレンス(週1回)に参加し,情報の共有を行っている.病棟スタッフからも何か情報があれば直接MSWに連絡するなど密な関係性が築けている.高齢者の患者の中には家族関係が希薄で,入院中になかなか家族と面談できないケースも少なくない.また,患者の一番近い病棟看護師が患者を多角的に観察し,早期の段階で患者・家族の本心を引き出す関わりが求められる4.このことを踏まえ,本プログラムは入院日から入院48時間までの間で摂食・嚥下に関して「食事に対する患者・家族の希望」,早期離床に関して「入院前のADL状況の聞き取り」の項目をケアチェックシートに組み込み,どのような状況で退院したいのかを早期に情報収集出来るようにしている.

<言語聴覚士>

当院の摂食機能療法に関わる言語聴覚士は1名であり,食事に関して入院病棟の看護師の協力は不可欠であり,チーム医療を行ううえで,職種間の相互理解が望まれる5.実際に病棟によって協力が得られないという現状があることから,専門性に頼りすぎて任せてしまうのでは無く,他職種が患者のために出来ることを共有し,協力できる環境作りを強化しなければならない.

<理学療法士>

リハビリの進め方に関してどの病棟も大きな差は感じていないということから,リハビリの進め方にプログラムの影響がある訳では無いことが分かる.しかし,リハビリにかかる時間以外で病棟によって離床や座位時間を設けることはリハビリ時間の増加となり,在院日数短縮にも繋がると考える.患者の生活行動の中で看護師は様々な情報を統合しながら判断し,リハビリ介入を行っていることを評価され,看護師の意識に浸透することを望む6

以上より,プログラム導入により,A群では歯科口腔外科やリハビリ科への積極的な紹介,早期からの退院支援の介入,看護師の他職種への協力等により早期退院が促され,平均在院日数の短縮に繋がっていると考えられた.

結語

今回の検討で,プログラムにより誤嚥性肺炎看護の認識は高まり,ケアの実行や他職種との協働に良い影響があったと考える.また,積極的な退院支援にも影響し,より早期に介入出来る手段ともなっていることが分かった.平均在院日数に関してもプログラム運用による効果はあったと思われる.しかし,患者の重症度,他職種介入までの日数,患者満足度,医療費抑制効果などは検討できておらず,それらを踏まえた成果の検証は今後の課題である.

チーム医療を展開するには,他職種の情報共有や同じ認識で患者と接することは重要である.チーム医療のキーパーソンと言われる看護師の役割7は,入院前と同じ状態の生活環境に戻りたいという患者・家族の思いに寄り添ってケアをしていくこと,その人らしく生活が送れるように援助していくことである.その一助として,今後も院内でのプログラム認知度向上に向け,医師やコメディカルも含めた運用システムの浸透や教育活動の継続をしていくと共に,療養型病院や介護関連施設との連携強化を目指していく所存である.

備考

本論文の要旨は,第27回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2017年11月,宮城)でシンポジウム演題として発表したものである.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
  • 1)  小山珠美,東名厚木病院 摂食・嚥下チーム:早期経口摂取実現とQOLのための摂食・嚥下リハビリテーション—急性期医療から「食べたい」を支援するために—,メディカルレビュー社,東京,2010,28-31.
  • 2)  林 裕子,畠山和美,吉澤 環:家族の思いに沿った個別的な退院支援—誤嚥性肺炎を繰り返さないためのチームでの家族支援を振り返って—.第46回日本看護学会—ヘルスプロモーション—学術集会抄録集,2015,149.
  • 3)  藤本真由美,藤川啓子,真鍋恵美,他:誤嚥性肺炎看護プログラム運用に関するDVDの作成とその教材としての効果.第48回日本看護学会—看護教育—学術学会抄録集,2017,212.
  • 4)  田中博子,伊藤綾子,真野響子:急性期病院から自宅へつなぐ退院支援調整看護師の役割,東京医療保健大学紀要 6: 65-71, 2012.
  • 5)  土肥信之,三重野英子,小野光美,他:鷹野和美編,チーム医療論,医歯薬出版,東京,2015,37.
  • 6)  日本看護協会:平成30年度診療報酬改定に関する要望書,東京,2017,2.
  • 7)  坂本すが:「チーム医療の推進に関する検討会」報告書を読み解く,看護師の役割拡大と特定看護師(仮称).看護 62: 47-49, 2010.
 
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