日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
Online ISSN : 2189-4760
Print ISSN : 1881-7319
ISSN-L : 1881-7319
シンポジウム
NPPV効果を高めるための多職種による工夫:重症心身障害児(者)や神経筋疾患を中心に
石川 悠加黒岩 靖
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2020 年 29 巻 2 号 p. 210-211

詳細

神経筋疾患患者も重症心身障害児(者)も,欧米のガイドラインでは,非侵襲的陽圧換気療法(non-invasive positive pressure ventilation=NPPV)を用いて,気管切開をできるだけ回避することが推奨される1.そして,神経筋疾患の臨床研究の蓄積は,重度の運動障害と知的障害を合併する多様な病態の総称である重症心身障害児(者)にも今後応用が可能であるとされている.

ドイツの在宅人工呼吸ガイドラインでは,在宅人工呼吸センターの拠点を整備し,急性呼吸不全でICU入院後のウィーニングを十分に行い,NPPVの継続使用を要する例は,気管切開とは別に,NPPV専門病棟を新設して在宅移行の調整を行うことを提案している1.NPPVを効果的に行うためには,神経筋疾患では,国際ガイドラインに基づく肺・胸郭コンプライアンスの維持,気道クリアランスなど,肺の状態を良好に保つ呼吸リハビリテーションが重要である.中でも,徒手や機械による咳介助(mechanically insufflation-exsufflation)は,国際ワークショップで推奨された2.また,神経筋疾患において,NPPVは睡眠呼吸障害を引き起こすこともあり,そのトラブルシューティングに習熟したスタッフも求められる3.NPPV条件としては,閉鎖系回路(呼気弁のある回路)による量保障換気の効果も期待される3

2016年にNPPVに関するウェブサイト(www.breathenvs.com)を立ち上げたバック教授は,「NPPVの限界は,咽頭や喉頭の機能の低下や上気道の痙性により,咳介助によっても十分な咳が維持できない場合,例えば12歳以上で咳のピークフロー(cough peak flow)が270L/分以下,NPPVを使用してもSpO2が95%を保てない場合」としている4.実際の現場では,看護師や理学療法士,臨床工学技士など,多職種のチームが連携し,疾患の進行や加齢により日々生じる課題に対し,英知をしぼり,地道なケアを積み重ねている.それでも,このような希少疾患の患者や家族の期待に応えることができず,落胆することもしばしば経験する.

その実際を,5人の演者の方にご講演いただいた.国立病院機構医王病院 第一診療部 臨床工学技士 岡野安太朗先生には,NPPVの種々の人工呼吸器の回路のスタンダードを解説していただき,モードの選択のための基本的知識を整理していただいた.国立病院機構西別府病院 医療安全管理室 主任臨床工学技士 阿部聖司先生からは,睡眠時NPPV条件を調整するためには,睡眠時の観察と経皮CO2モニタと人工呼吸器のログデータを総合して判断することの重要性を解説いただいた.滋賀県立成人病センター・滋賀県立小児保健医療センター 臨床工学部 臨床工学技士 大野進先生からは,急性期から慢性期までのネーザルハイフローとNPPVの選択の実際が示された.国立病院機構八雲病院 看護師 竹内伸太郎先生には,NPPVのインターフェイスフィッティングと人工呼吸器条件とのマッチングの重要性を解説いただいた.国立病院機構仙台西多賀病院 リハビリテーション科 理学療法士 片山望先生からは,機械による咳介助の多職種への在宅指導について,保険診療上も種々の制約がある中でも,地域の拠点病院として実施していることをお話しいただいた.

疾患の特徴をふまえたNPPVと咳介助を用いた呼吸ケアの専門的な取り組みを推進したい.

著書のCOI(conflict of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものは無い.

文献
 
© 2020 一般社団法人日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
feedback
Top