日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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訪問看護を中心としたネットワーク
大平 峰子石川 朗
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2020 年 29 巻 2 号 p. 245-249

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要旨

高齢化率が高く,地理的条件から通院リハビリテーションが困難な長野県北部(北信地方)において,2006年より北信ながいき呼吸体操研究会は,「訪問看護を導入した多施設間包括的呼吸リハビリテーションプログラム」を開始し,慢性呼吸不全患者の呼吸リハビリテーションに取り組んできた.訪問看護を中心としたネットワークの構築により,患者のADL維持と医療費節減への効果を認めた.

はじめに

北信ながいき呼吸体操研究会は,2006年より高齢化率が高く地理的条件から通院リハビリテーションが困難な長野県北部(北信地方)において,「訪問看護を導入した多施設間包括的呼吸リハビリテーションプログラム(以下,包括的呼吸リハ)」を開始し,慢性呼吸不全患者の呼吸リハビリテーションに取り組んできた.

今回は,訪問看護を中心としたネットワークの構築と,その効果について報告する.

長野県北信地区について

長野県の面積は全国第4位でありその46%は森林であり,人口は207万人であり,高齢化率は30.1%で全国平均26.6%(2015年)を上回っているが,一人あたりの後期高齢者医療費は全国40位の81.3万円で2015年の全国平均93.4万円を下回っている.また,平均在院日数は全国3位の24.1日であり,2015年の全国平均29.1日を下回っている(表1).一方,高齢者単身,夫婦世帯が増加しており,65歳以上の高齢者がいる世帯の49.5%を占める.

表1

長野県地域医療構想素案1

長野県は,団塊の世代がすべて75歳以上となる2025年において,総人口に占める75歳以上の割合が初めて20%を超え,5人に一人75歳以上になると見込まれている.一方,15歳から64歳までの生産年齢人口は2010年から2025年までの15年間で128万人から108万人へと20万人減少すると推計されている.

高齢化の進展に伴い,今後とも医療や介護を必要とする方がますます増加することから,将来を見据え限られた医療・介護資源を有効に活用し,必要な医療・介護サービスを確保してゆくことが課題となっている.特に,高齢化が進むと癌などを原因とする慢性疾患を中心とする医療ニーズの増大が見込まれるため,ニーズに対応した病床の機能分化と連携を推進することにより入院医療機能の強化を図るとともに,患者の状態に応じて退院後の生活を支える在宅医療等の充実を図ることが求められている.

地域包括的ケアシステム

地域包括的ケアシステムは,保険者である市町村や都道府県が,地域の自主性や主体性に基き地域の特性に応じて作り上げてゆくことが必要と示されている.しかし,地域で暮らすうえでは,病状の進行により「自宅で暮らせない」「介護量が増えた」という問題が生じ,急性増悪による時間外受診や緊急入院となる.そして,その原因として多くを占めているのが,呼吸器感染症の肺炎である.

これらに対し,北信ながいき呼吸体操研究会は包括的呼吸リハを実施,継続してきた.今回は,急性増悪を予防できる可能性を示唆する結果を得たので呈示する.

北信ながいき呼吸体操研究会

1. 概要

北信ながいき呼吸体操研究会は,基幹病院6施設,診療所・他28施設,訪問看護ステーション17施設,開局薬局5施設より構成されている(表2).

表2 北信ながいき呼吸体操研究会
訪問看護を導入した包括的呼吸リハビリテーションプログラム参加施設
病院6か所 診療所ほか28か所 訪問看護ST17か所 開業薬局5か所
病院訪問看護ステーション
・独立行政法人国立病院機構東長野病院・清水内科クリニック・相澤訪問看護STひまわり塩尻営業所
・厚生連篠ノ井総合病院・下鳥内科クリニック・飯綱訪問看護ST
・長野市民病院・鈴木医院・須高訪問看護ST
・新生病院・高橋内科・長野市民病院訪問看護ST
・飯山赤十字病院・竹中医院・長野赤十字病院訪問看護ST
・町立飯綱病院・たけまえ医院・訪問看護STあいあい
・立岩医院・訪問看護STあゆみ
診療所・その他・豊城内科・訪問看護STきたしなの
・安達医院・ながさき医院・訪問看護STこもろ
・甘利内科呼吸器科クリニック・中島医院・訪問看護STしののい
・安茂里堀越内科クリニック・長野市国保戸隠診療所・訪問看護STしらかば
・磯村クリニック・仲俣医院・訪問看護STスマイル
・市川内科医院・三浦医院・訪問看護STとがくし
・大口医院・松寿荘・訪問看護STとよの
・太田糖尿病内科クリニック・ゆうき内科クリニック・訪問看護STながの(いなさと・ふるさと)
・加藤内科・訪問看護ST希望
・川中島クリニック開業薬局・訪問看護STふれあい田町
・北信州診療所・あさひ薬局・訪問看護ST嫩草
・小池医院・三才薬局
・コスモスあもり・溝口薬局
・小谷医院・もめんや薬局
・さかまき内科クリニック・わかば堂薬局
・栄村診療所
2017.9.18 現在

第12回日本呼吸管理学会学術集会巻頭言にて工藤翔二先生は,「HOTに始まる呼吸ケアは,生まれ落ちた時からチーム医療でした」という言葉を述べられた.いろいろな設備が整い多くの職種をかかえた大きな病院において,チーム医療を実施すること比較的容易で,その中で完結できる.一方,“小さな施設の患者はなんの恩恵も受けられないのではないか?小さな施設では何ができるのか?行うのなら,きちんとしたことを行いたい”という発想より,研究会の活動は始まった.

2. プログラムの実際

包括的呼吸リハとは,かかりつけ医から紹介された患者に基幹病院で約2週間の教育入院にて包括的にプログラムを実施,また入院中に訪問看護師と合同カンファレンスにて情報共有を開始する.退院後はかかりつけ医と訪問看護師による経過観察を実施し,定期的に基幹病院で評価を行う(表34).

表3 訪問看護との連携による呼吸リハビリテーションとは

表4 包括的呼吸リハプログラムクリティカルパス

3. 研究会としての活動

約3か月毎に合同ミーティングを行い,加えて年1,2回の講演会や学会発表,市民公開講座などを開催している.

プログラムは,2004年7月から2017年1月までに196名(平均年齢77.0±6.7歳)に導入,疾患としてはCOPDが最多である(表5).

表5 結果:身体機能
・身体機能は,18ヵ月後のSF-36の心の健康では有意に低下したが(P=0.014),その他の評価項目に有意な低下はなし
導入時12ヵ月後24ヵ月後
体重kg51.8±9.951.4±10.451.6±9.7
BMIkg/m220.5±3.520.3±3.620.4±3.3
VCL2.4±0.72.3±0.72.3±0.8
FEV1L1.07±0.511.06±0.511.08±0.55
%FEV144.5±22.045.1±23.947.1±28.1
6MWDm287.3±139.5301.5±125.0298.4±149.6
ADL64.6±21.463.2±24.658.6±29.7

6分間歩行距離(6-minute walk distance : 6MWD)n.s.

COPDに対する2週間入院プログラムと訪問看護介入に関する身体的・経済的効果2

1. 対象

2004年7月から2006年12月に,北信ながいき呼吸体操研究会に所属する基幹病院において包括的呼吸リハを導入したCOPD患者11名(75.9±4.8歳,BMI 20.5±3.5 kg/m2),VC2.4±0.7L,FEV1 1.07±0.51L,%FEV1 44.5±22.0%でCOPD病期はI期1名,II期4名,III期1名,IV期5名であった.包括的呼吸リハ導入時HOT2名であったが,導入1年目でHOT2名,NPPV1名が追加になった.

2. 評価

身体的効果(体重,BMI,肺機能,6分間歩行テスト,動脈血ガス分析,NRADL,CRQ,SF36)は,呼吸リハ導入時と退院より6か月毎に2年間測定した.経済的効果(外来費,入院費,訪問日,総医療費,外来受診回数,入院回数,入院日数,訪問回数)は,呼吸リハ導入前1年間と導入後2年間調査した.

3. 結果

身体機能は18か月後のSF36の心の健康では有意に低下したが(P=0.014),その他の評価項目に有意の低下はなかった(表67).受診,入院状況については,大きな変化がみられた.総入院はプログラム導入前21回から1年目16回,2年目6回と減少し,総入院日数は369日から1年目204日,2年目90日と激減した.一方,在宅で過ごすことが多くなったため,総訪問回数,平均訪問回数は増加した.

表6 リハプログラム導入について
・リハビリプログラム期間
2004年~2017年1月末
・196名 男女比 4:1 平均年齢 77歳±6.72
・疾患内訳
COPD126名COPD+Old Tb4名
COPD+肺癌6名COPD+前立腺がん1名
Old Tb31名(特発性)間質性肺炎15名
アスベスト肺3名気管支喘息4名
その他6名

表7 結果:受診・入院状況
導入前1年目2年目
総外来受診回数147160188
総入院回数21166
総入院日数36920490
総訪問回数6502715
平均外来受診回数13.4±7.514.5±2.917.1±4.2
平均入院回数1.9±1.21.5±2.30.5±0.9
平均入院日数33.5±28.818.5±31.88.2±14.3
平均訪問回数0.5±1.045.6±30.365.0±55.1

・外来受診回数,訪問回数は呼吸リハ導入1年目,2年目に増加した.

・入院回数,入院日数は経年的に減少した.

医療費総額は,1年目に導入前より増加しており,外来費が増えたためと考えられた.特に,プログラム導入時にHOTとNPPVを導入したことによるものであり,入院費は大幅に減少した(表89).

表8 結果:QOL
CRQunit導入時12ヵ月後18ヵ月後24ヵ月後
呼吸困難3.4±0.83.9±1.33.6±1.43.3±1.3
感情機能4.9±1.05.2±1.14.9±1.44.9±1.0
疲労4.4±0.54.6±1.04.4±1.14.0±1.4
支配感4.4±0.65.0±1.44.9±1.14.7±1.0
SF-36偏差得点
身体機能44.0±9.838.8±11.739.7±9.939.3±8.3
日常役割機能(身体)46.7±9.946.2±10.747.2±11.045.4±11.3
身体の痛み48.7±9.446.9±9.247.1±13.551.3±11.9
全体的健康感46.0±8.544.4±7.543.7±7.743.8±5.8
活力49.8±8.348.1±10.845.9±9.446.6±10.1
社会生活機能49.4±6.947.1±12.243.4±13.144.0±13.8
日常役割機能(精神)48.5±9.646.4±11.347.5±11.346.8±11.9
心の健康52.4±6.446.9±10.542.5±12.2*45.9±9.2

*P<0.05

表9 結果:外来費の内訳
導入前1年目2年目
指導料4,266,9506,322,8007,224,950
 /外来費62.5%66.1%68.5%
院外処方費1,510,8401,975,1501,872,330
 /外来費22.1%20.6%17.7%
 月平均指導料は,
  HOT導入70,349±11,365円
  HOT+NPPV導入131,965±16,944円
 診療報酬点数表から換算した場合
  HOT利用月80,000円
  HOT+NPPV利用月142,300円

4. 小括

COPDは経時的に機能が低下してゆく進行性疾患であるが,本研究では全ての評価項目で2年間身体機能を維持することが可能であった.身体的,経済的負担が大きい入院が経年的に減少し,包括的呼吸リハ導入により経済的負担を最小限の増加にとどめることが可能であった(表10).結果的に,COPDに対する2週間入院プログラムと訪問看護介入による包括的呼吸リハの有効性が示唆された.

表10 結果:総医療費の内訳
導入前1年目2年目
総医療費18,393,100100.0%20,545,540100.0%19,447,186100.0%
総外来費6,829,05037.1%9,567,24046.6%10,552,64654.3%
総入院費11,480,85062.4%6,321,34030.8%2,833,68014.6%
総訪問費83,2000.5%4,656,96022.7%6,060,86031.2%
総外来費6,829,05037.1%9,567,24046.6%10,552,64654.3%
指導料4,266,9506,322,8007,224,950
14,126,150100.0%14,222,740100.0%12,222,236100.0%

フライングディスク競技

本研究会では,東北大学の黒澤一教授より「呼吸器障がい者の国体参加種目としてのフライングディスク競技の普及に協力を」との勧めをうけ,2007年より運動療法の一環としてフライングディスク練習会を開催している(表11).

表11 障害者フライングディスク競技の紹介

障がい者フライングディスクは,正確性を競うアキュラシー競技と飛距離を競うディスタンス競技があり,本研究会ではアキュラシー競技を行っており,多職種が参加し患者サポートを行っている.また,練習会後の情報交換会は,患者同志の繋がりの中から自主発生的に行われるようになり,練習会もより情報交換会を楽しみにしているという声もきかれる.

まとめ

当初,地域包括ケアでの呼吸ケアの確立に向け当院を退院する患者中心に始めたプログラムであったが,現在は北信地区の患者へと広がった.また,患者同士の仲間つくりや社会活動のひとつとしてフライングディスク競技を支援している3.さらに,訪問看護とのネットワークが,現在は訪問看護を中心に栄養士・開局薬剤師へと広がりをみせている.

今後は地域住民を中心に,啓蒙活動が重要と考えている.加えて,非医療職の専門職に呼吸ケアについて知識を深めてもらえるような機会も必要と考えている.ネットワークの構築には,デイサービスやホームヘルパーと連携の不可欠であり,ICTなどを活用しつつ,顔の見える関係作りを目指したい.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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