日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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原著
高齢肺炎患者における骨格筋量指数と退院時普通食経口摂取の検討
天白 陽介守川 恵助今岡 泰憲武村 裕之稲葉 匠吾楠木 晴香橋爪 裕廣瀬 桃子鈴木 優太畑地 治
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2020 年 29 巻 2 号 p. 327-333

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要旨

近年,サルコペニアと摂食嚥下機能障害の関連性について注目されており,骨格筋量の減少は摂食嚥下機能障害の要因となると報告されている.本研究は骨格筋量の指標である骨格筋量指数(以下 SMI)が高齢肺炎症例の退院時普通食経口摂取可否を予測する因子となるかを検討することとした.

対象は肺炎の診断名で当院に入院した101名(84.3±9.5歳 男性/女性:63/38)とした.普通食経口摂取の基準は退院時Functional-oral-intake-scale(以下 FOIS)6以上とした.評価項目は言語聴覚士介入時に合わせて評価した.対象を退院時FOISの値で2群に分類し,検討した.

群間比較の結果では体重,Body mass index,Mini-Mental State Examination,除脂肪量,SMIにおいてFOIS6以上群が有意に高い結果であった.ロジスティック回帰分析ではSMIが独立した因子として抽出された. Receiver Operatorating Characterristic curveでは男性 5.8 kg/m2,女性 4.3 kg/m2がカットオフ値として算出された.

SMIは高齢肺炎症例の退院時普通食経口摂取可否を予測する因子である可能性が示唆された.

緒言

本邦では平成23年以降肺炎が死因の第3位となっており,90歳以上に限定すれば死因の第1位は肺炎である1.高齢者肺炎の発生機序には摂食嚥下機能障害に起因する誤嚥性肺炎が指摘されている2.近年では急性期の肺炎症例においても可能であれば嚥下機能の維持や治療期間の短縮のため経口摂取を早期から開始することが推奨されており3,簡便で,なおかつ高齢肺炎患者の病態に即した評価の充実が求められている.

従来では反復唾液嚥下テスト(RSST: repetitive saliva swallowing test),改定水飲みテスト(MWST: modified water swallow test),フードテスト(FT: food test)などが一般的にスクリーニングテストとして行われてきた.しかし,RSSTの結果は高齢者の認知機能と言語コミュニケーションに左右されるという報告4や,MWSTやFTでは経口摂取の可否を判断することは困難であるという報告5もある.また,RSST や水飲みテストは,ベッドサイドの簡便なスクリーニング検査としては有用であるが,認知機能障害やせん妄などを伴っている患者の場合は,1回のスクリーニング検査で摂食状況を推測することは危険であり,ある程度の検査の限界を有する6との報告もあり,既存のスクリーニングテストのみで高齢者の摂食嚥下機能障害を評価することは困難である.

近年,高齢者の摂食嚥下機能障害の一因としてサルコペニアに伴う嚥下関連筋の筋肉量や筋力低下が挙げられている7.若林らは加齢に伴う摂食嚥下機能の低下を老嚥と呼び,さらにサルコペニアが進行することにより嚥下障害を呈するとしている8.サルコペニアの診断基準は様々なワーキンググループより提案されているが,2014年にAsian Working Group for Sarcopenia(以下AWGS)より発表された診断基準9によれば握力,歩行速度に加え骨格筋量指数(Skeletal Muscle Mass Index 以下SMI)の測定によって診断される.SMIの測定にはDual Energy X-Ray Absorptiometry(以下DXA法),CT,magnetic resonance imaging(以下MRI)に加え bioimpedance analysis(以下BIA)が用いられるが,AWGSの診断基準ではCT,MRIに関しては高コストであり,測定に際してはDXA法,BIA法を使用することが推奨されている.BIA法によるSMI評価の利点としては,生体電気インピーダンス法を用いて行われるため,非侵襲的かつベッドサイドで評価可能である点が挙げられている.

先行研究では離床困難な重症例に対して体組成を評価する際に有用であったと報告されている10.近年ではSMIの減少と摂食嚥下機能障害の関連性を示唆する先行研究も散見されており3,7,SMIの減少が摂食嚥下機能障害の一因となると報告されている7.しかしながらSMIを高齢肺炎症例の普通食経口摂取の可否を予測する予後予測因子として用いた先行研究は我々が検索しえた限り存在しない.

本研究においては,SMIが急性期の高齢肺炎症例の退院時普通食経口摂取の可否を予測する因子の一つと成り得ると仮説を立て,SMIと退院時普通食経口摂取の関連性を検討したので報告する.

対象と方法

(1)対象

対象は,2017年4月1日から2019年4月1日までに肺炎の診断名で当院に入院加療を要しかつ摂食嚥下機能評価,訓練を目的として言語聴覚療法の依頼があった122名中,測定項目に欠損値を認めず,本研究の測定項目を十分に評価可能であり,退院時に食形態を評価可能であった101名とした.対象選択の流れを図1に示す.除外基準は1)65歳以下の症例2)外科手術後の肺合併症として肺炎を発症した症例3)入院から言語聴覚士(以下ST)介入までに1週間以上経過している症例4)評価に欠損値がある症例5)ペースメーカー埋め込み術後の症例6)入院前より経口摂取していない症例7)死亡転帰とした.また,同一期間に同じ症例が4名再入院したが,再度測定項目を評価し,除外基準に当てはまっていない場合は独立した1症例として退院時まで介入し食形態を評価した上でデータに組み入れた.

図1

フローチャート

入院した肺炎症例(n=122)から除外基準に当てはまらなかった101名を退院時FOIS6以上群(n=31)とFOIS6未満群(n=70)の2群間に分類するまでの流れをフローチャートで示す.

嚥下訓練の内容としては初回評価上,嚥下困難な症例に対しては口腔内保清,排痰を実施しながら徒手的な嚥下諸器官のストレッチ,冷圧刺激法などを実施した.また,経口摂取可能な症例に対しては理学療法士,作業療法士と共同で早期離床を検討しながら認知機能,嚥下機能に応じた間接的嚥下訓練,直接的嚥下訓練を段階的に実施した(図1).

(2)測定項目

評価はST介入時(入院後2.8±1.9日)に実施した.測定項目は患者基本属性として身長,体重,在院日数,ST介入日数,既往歴,肺炎の情報(初発/再発,誤嚥性肺炎/細菌性肺炎)肺炎重症度として市中肺炎重症度分類(以下 A-DROP)使用薬剤に関して評価した.体格評価としてBody mass index(以下BMI),嚥下機能評価としてMWST,The Mann assessment of swallowing ability(以下MASA),認知機能評価としてMini-Mental State Examination(以下MMSE),栄養評価としてGeriatric Nutritional Risk Index(以下GNRI),体組成評価としてSMIを評価した.また,退院時の食形態にはFunctional-oral-intake-scale(以下FOIS)を評価した.FOIS11は,1(経口摂取なし)から7(正常)の範囲で評価される.本研究における退院時普通食経口摂取の可否はMaedaら7の先行研究における摂食嚥下機能障害の基準を参考にし,退院時FOIS 6以上を普通食経口摂取可能群,6未満を普通食非経口摂取群と定義した.7および6と判断された患者は制限なく経口摂取可能または刻み食や嚥下食など特別な調理は必要とせず全粥や軟菜を経口摂取可能であることを示す.また,6未満群は特別な準備や代償を必要とする食形態であることを示す.

A-DROP12は年齢,脱水,呼吸不全,意識障害,血圧の5項目を評価し,5点満点で評価する.点数が高いほど肺炎は重症であると評価する.the Mann assessment of swallowing ability(以下,MASA)13はMannらによって開発された脳卒中患者を対象とした摂食嚥下機能の評価法で,24項目200点満点で構成されている.点数に応じて摂食嚥下機能障害の重症度,誤嚥のリスクに関して評価することができ,摂食嚥下機能障害の重症度評価では168~177点で軽度,139~167点で中等度,138点以下で重度の摂食嚥下機能障害と判定する.また,149~169点で軽度,141~148点で中等度,140点以下で重度の誤嚥のリスクがあると判定される.MMSE14は30点満点で評価される認知機能検査で,点数が低いほど認知機能障害が重篤であると評価される.GNRI15は14.89×血清アルブミン値+41.7×目標体重/理想体重(目標体重>理想体重の場合=1)の計算式で算出され,客観的指標のみで構成されるため再現性が高いことが特徴とされる.SMI16は四肢の筋肉量/身長の2乗で算出される.先述したAWGSのサルコペニア診断基準など,各地域でのサルコペニアの診断基準として広く用いられている.また,単純な身長と体重のみでは評価できない高体脂肪率型のサルコペニアの検出にも適している.また,指示理解が困難である症例や随意運動が困難な症例に対しても測定可能である.

体組成評価にはIn Body(In Body S10 In Body社 東京)を用いた.体組成評価にあたっては測定する条件を統一して行った.具体的には栄養前(経口摂取や経管栄養)リハビリ実施前(理学療法,作業療法,言語療法実施前)とした.しかし,末梢輸液や代替栄養が実施されている場合,明確に影響を除外することが困難であるため,本研究においては体動や処置の少ない午後に実施した.上下肢の位置に関しては,可能な限りメーカーの推奨する方法に沿って行った.

(3)検討方法及び統計処理

全ての評価結果には正規性の検定としてShapiro-Wilk検定を行い,その結果に基づいて以後の検定を選択した.退院時FOIS6以上と6未満の2群に分類し,群間比較をχ2検定,Mann-WhitneyのU検定を用いて比較した.有意差を認めた項目を独立変数,退院時FOIS6以上,6未満を従属変数とし,ロジスティック回帰分析を行った.さらに,独立した因子が抽出された場合はReceiver Operating Characteristic curve(以下,ROC 曲線)によって曲線下面積,カットオフ値,感度,特異度を算出した.有意水準は5%未満とした.統計解析にはSPSS ver. 25を用いて検討した.

(4)倫理的配慮

対象者のデータは研究目的以外に用いられることはなく,研究成果は公表するが数量的な処理を行い個人が特定されることはないよう配慮を行った.本研究の実施に際しては松阪市民病院倫理委員会の承認を得た上で実施した(受付番号180601-6-3 2018年6月14日承認).

結果

(1)群間比較

退院時FOISの値によって分類した患者一般情報の群間比較では,FOIS6以上群は31名,FOIS6未満群は70名であった.FOIS6以上群はFOIS6未満群に比し体重が有意に高かった.また,FOIS6以上群では肺炎再発症例,誤嚥性肺炎症例が有意に少なかった.使用薬剤はFOIS6以上群ではセファロスポリン系の薬剤の使用が有意に少ないが,ペニシリン系薬剤の使用は有意に多かった.

両群間の諸評価では,FOIS6以上群はFOIS6未満群に比しBMI,MMSE,SMIにおいて有意に高かった(表1表2).

表1 両群間の患者一般情報に関する群間比較の結果
全体(n=101)FOIS6以上(n=31)FOIS6未満(n=70)p value
基本属性
年齢(歳)84.3±9.585.3±8.182.0±11.80.244
性別(男/女)63/3817/1446/240.298
在院日数(日)44.5±19.848.1±20.640.7±18.70.301
ST介入日数(日)33.7±16.036.4±17.532.1±14.60.467
肺炎(初発/再発)63/3828/335/350.001
誤嚥性肺炎/その他の肺炎73/2817/1456/140.009
A-DROP(点)2.6±0.92.8±0.22.5±0.20.281
体重(kg)43.6±10.349.2±12.641.1±8.10.002
使用薬剤
カルバペネム系27(27%)11(35%)16(23%)0.186
セファロスポリン系48(48%)7(23%)41(59%)0.001
ニューキノロン系4(4%)2(6%)2(3%)0.393
ペニシリン系22(22%)11(35%)11(16%)0.026
既往歴(人)
22(22%)4(13%)18(26%)0.150
脳血管疾患40(40%)13(42%)27(39%)0.524
心疾患32(32%)9(29%)23(33%)0.703
呼吸器疾患18(18%)5(16%)13(19%)0.767
肝疾患6(6%)2(6%)4(6%)0.885
腎疾患13(13%)4(13%)9(13%)0.994
糖尿病22(22%)6(19%)16(23%)0.694

FOIS: Functional-oral-intake-scale A-DROP:市中肺炎重症度分類

全体(n=101)の平均値と標準偏差を示し,退院時FOIS6以上群(n=31)と退院時FOIS6未満群(n=70)の基本属性,使用薬剤,既往歴に関する群間比較の結果.各群の比較はMann-WhitneyのU検定,χ2検定を実施.

表2 両群間の諸評価に関する群間比較の結果
全体(n=101)FOIS6以上(n=31)FOIS6未満(n=70)p value
体格評価
BMI(kg/m218.2±3.920.6±4.317.1±3.10.001
嚥下機能評価
MWST(点)2.9±0.32.9±0.22.9±0.30.568
MASA(点)117.2±25.5125.6±28.9113.4±23.10.136
認知機能評価
MMSE(点)11.4±9.116.8±8.49.0±8.40.001
栄養評価
GNRI(点)79.3±7.680.7±8.578.6±7.10.172
体組成評価
SMI(kg/m25.0±1.15.9±1.14.5±0.90.001

MWST: modified water swallow test MASA: The Mann assessment of swallowing ability MMSE: Mini-mental state examination

GNRI: Geriatric Nutritional Risk Index SMI: Skeletal Muscle Mass Index

FOIS: Functional-oral-intake-scale BMI: Body mass index

全体(n=101)の平均値と標準偏差を示し,退院時FOIS6以上群(n=31)と退院時FOIS6未満群(n=70)の嚥下機能評価,体格評価,栄養評価,認知機能評価,体組成評価に関する群間比較の結果.各群の比較はMann-WhitneyのU検定,χ2検定を実施.

(2)ロジスティック回帰分析

退院時FOIS6以上,6未満を従属変数,群間比較にて有意差を認めた項目から多重共線性の影響を考慮してBMI,MMSE,SMIを独立変数としたロジスティック回帰分析ではSMIが独立した因子として抽出された(オッズ比:4.078 95%信頼区間:1.811-9.183 p値:0.001)(表3).

表3 ロジスティック回帰分析の結果
オッズ比95%信頼区間p value
MMSE1.0630.989-1.1420.096
BMI1.1980.982-1.4620.074
SMI4.0781.811-9.1830.001

MMSE: Mini-mental state examination BMI: Body mass index

Skeletal Muscle Mass Index: SMI

群間比較にて有意差を認めた項目を独立変数としたロジスティック回帰分析の結果.

(3)ROC曲線

退院時のFOISの値を従属変数としたSMIのROC曲線では男性がcut-off: 5.8 kg/m2 AUC: 0.973 感度94% 特異度96%.女性はcut-off: 4.3 kg/m2 AUC: 0.897 感度86% 特異度83%であった(図2).

図2

退院時普通食経口摂取の可否を決するSMIのROC曲線の結果

SMIのROC曲線の結果を男女別に数値とグラフにて示す.

考察

急性期の高齢肺炎症例の退院時普通食経口摂取可否を予測する因子としてBIA法を用いたSMIの有用性を検討した.ST初期介入時のSMIが急性期高齢肺炎症例の普通食経口摂取の可否に独立した因子として抽出され,男性 5.8 kg/m2 女性 4.3 kg/m2以上であれば退院時普通食経口摂取に至る可能性があることが示唆された.

本研究における評価はST介入時(入院後2.8±1.9日)に実施されており,肺炎の病名で入院後早期に評価したデータを基に退院時普通食経口摂取可否を予後予測することが可能か検討している.BIA法は先述の通り重症な症例に対しても非侵襲的にベッドサイドで簡便に評価することが可能である.また,肺炎急性期には電解質異常や炎症反応高値に伴う意識障害や脱水を来す症例が多いと報告されている17.これまでの摂食嚥下機能評価で評価困難な場合においても状態改善後の普通食経口摂取の可否を予後予測できることは早期経口摂取,早期退院に向けて大変有益であると考える.

SMIの低下と摂食嚥下機能障害の関連性に関して,嚥下筋は組織学的には横紋筋であるが,四肢の骨格筋とは異なる特徴を有しており,嚥下時以外にも呼吸中枢からの制御を受けて主に呼気に連動した活動を示し,舌骨上下筋群は呼吸と連動した活動を行なっていると報告されている18.そのため,四肢の骨格筋とは異なり廃用性の筋萎縮を生じにくいと考えられる.しかし,Komatsuら19の報告では誤嚥性肺炎症例において舌や横隔膜で筋分解が亢進し,また,嚥下筋の筋力低下を引き起こすと報告している.Maedaら20はさらに直接的に高齢入院患者では全身のサルコペニアは,摂食嚥下障害のリスク因子であったと報告している.これらの先行研究よりSMIの減少している症例においては嚥下筋群の筋肉量も減少している可能性があり,SMIと摂食嚥下機能に関連性を認めたのではないかと考察する.

また,患者一般情報を評価した結果,FOIS6未満群ではFOIS6以上群に比し誤嚥性肺炎の割合が高く,肺炎再発の割合も高かった.使用薬剤としてはFOIS6未満群ではセファロスポリン系抗菌薬の使用割合が高く,FOIS6以上群ではペニシリン系抗菌薬の使用割合が高かった.誤嚥性肺炎と肺炎再発の割合に関しては先行研究19,20に述べられているように肺炎の発症が嚥下筋の筋力低下を引き起こすため,肺炎の既往を有する症例は嚥下機能の低下のため誤嚥性肺炎を発症する割合が高く,食形態に何らかの調節を必要としたのではないかと考察する.また,誤嚥性肺炎に対する治療薬の選択はJAID/JSC感染症治療ガイドラインに記載されており21入院治療が必要で耐性菌リスクがない場合には,sulbactam/ampicillin(SBT/ABPC)が第1選択薬とされているが,ceftriaxoneも選択肢の1つになるとする報告もあり22,当院においてもセファロスポリン系抗菌薬が誤嚥性肺炎症例に多く用いられていたことは妥当であると考える.また,ペニシリン系抗菌薬がFOIS6以上群に対して多く用いられているが,JAID/JSC感染症治療ガイドラインでは多剤耐性菌のリスクがある場合は多剤耐性菌をカバーするため抗緑膿菌活性をもつ広域の抗菌薬を選択するとしており,第1選択として推奨される薬剤の中にTAZ/PIPCを挙げている.FOIS6以上群では誤嚥性肺炎以外の肺炎の診断で入院した症例が多く,多剤耐性菌をカバーするためペニシリン系抗菌薬の使用率が高くなったと考察する.

本研究におけるSMIの普通食経口摂取可否に関するカットオフ値は男性 5.8 kg/m2,女性は 4.3 kg/m2と算出された.Maedaら7の先行研究では,入院時に嚥下障害を認めない65歳以上の高齢者で,入院後2日以上禁食となった患者に対して入院中に摂食嚥下機能障害を生じた患者と生じなかった患者のリスク因子に関して調査している.この先行研究では摂食嚥下機能障害をFOIS5以下としており,上記した本研究の普通食経口摂取の定義と合致している.また,リスク因子としてSMIの減少が挙げられているが,ROC曲線で算出したカットオフ値は男性 6.0 kg/m2 女性 4.2 kg/m2という結果であった.このカットオフ値は本研究のカットオフ値と類似した結果であり,本研究の結論を支持する内容であると考える.

本研究の限界は,肺炎急性期における体内の水分量に関する検討が困難であった点があげられる.先述の通り,肺炎急性期には脱水などを呈する症例も多く2,また,低栄養の患者では浮腫を呈する症例も存在するため,肺炎急性期には体内の水分バランスが変化しやすい傾向にある.先行研究10では重症で低栄養の症例に関しては浮腫が生じるため,体水分量が多く算出されることにより測定誤差が発生するとしている.本研究でも肺炎急性期の症例を対象としたため脱水や浮腫の影響を受けている可能性は少なくないものの,明確なデータを示した先行研究は我々が渉猟した限り存在しない.また,本研究のROC曲線の結果,男性ではAUC: 0.973,女性AUC: 0.897と高い検査価値を示している.以上より本研究において算出されたSMIのカットオフ値は,急性期高齢肺炎症例の退院時普通食経口摂取の可否を予測する因子として有用であると考える.

また,本研究のカットオフ値はあくまでも予後予測因子としてのカットオフ値であり,SMIのみで経口摂取の可否を判断することは出来ない.実施可能であれば嚥下造影,嚥下内視鏡を合わせて実施し,評価される事が望ましい.

今後の展望としては,SMIが本研究のカットオフ値以下ではあるが,普通食経口摂取可能であった症例について分析し,低SMI症例においても退院時普通食経口摂取可能となるような方法に関して検討していきたい.

以上より本研究では,急性期の高齢肺炎症例の退院時普通食経口摂取可否を予測する因子としてBIA法を用いた体組成評価が有用であるかを検討した.SMIが急性期高齢肺炎症例の普通食経口摂取の可否に独立した因子として抽出され,男性 5.8 kg/m2 女性 4.3 kg/m2以上であれば普通食経口摂取に至る可能性があることが示唆された.

著者の COI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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