2021 年 29 巻 3 号 p. 396
慢性呼吸器疾患患者は,急性増悪を繰り返しながらやがて終末期へ移行する.その過程において,「その人らしく生きていく」ことができるようセルフマネジメント,呼吸リハビリテーション,在宅酸素療法,終末期医療の選択,エンド・オブ・ライフケアなど,臨床上多様な課題に直面することが多い.さらに,進行する高齢化に伴う認知症高齢者の増加により課題はより複雑なものとなってきている.これらの課題に対応し,患者・家族がその人らしく生きていくことを支えるためには,的確に患者の状況を捉え判断し,ケアを創造し提供していくことが必要となるが,実際には悩むことが多いのではないだろうか.
本邦では,1995年に複雑で解決困難な看護問題を持つ個人,家族及び集団に対して水準の高い看護ケアを効率よく提供するため,大学院修士課程を修了し特定の専門看護分野の知識・技術を深めた専門看護師(Certified Nurse Specialist: CNS)制度が導入され,現在13専門分野2,279名(2018年12月時点)のCNSが登録されている.本ワークショップでは,慢性呼吸器疾患患者のケアで悩むことが多いであろうエンド・オブ・ライフケア,集中治療室での支援,認知症高齢者の意思決定に関して,それぞれの専門分野のCNSの方より看護の技についてご講演いただいた.
慢性疾患看護CNSの竹川幸恵さんには,慢性呼吸器疾患患者のエンド・オブ・ライフケアとして,最終末期の患者がその人らしく生き抜くために,真の意志は何かを問い続けながらチームでケアを実践していくことの実際についてお話いただいた.急性・重症患者看護CNSの木下佳子さんからは,集中治療室で治療を受けた患者が日常生活を取り戻す過程として,ICUでの患者の体験の実態や退室後にICUでの体験や記憶を再構築する看護支援の実際と,その研究成果についてお話いただいた.また,老人看護CNSの松本佐知子さんには,慢性疾患のある認知症高齢者のエンド・オブ・ライフケアにおいて,高齢者の日々の細やかな生活の質を保ち,その人らしく生ききるための意思決定のあり方についてお話いただいた.
本ワークショップは,昨年に引き続き,看護師をはじめ多くの医療者の方に参加していただき,専門看護師が行う慢性呼吸器疾患患者への看護の技について共有できる機会となった.参加した皆様にとって,さらに質の高いケアの実践を行う上での一助になれば幸いである.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.