日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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原著
慢性閉塞性肺疾患患者におけるエネルギー必要量の推定式の作成
守川 恵助, 田平 一行, 武村 裕之, 稲葉 匠吾, 楠木 晴香, 橋爪 裕, 鈴木 優太, 天白 陽介, 畑地 治
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2021 年 30 巻 1 号 p. 109-114

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要旨

目的:本研究は慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者のエネルギー必要量(EER)の推定式を作成し,その妥当性について検討することを目的とする.

方法:対象はCOPD急性増悪の診断で入院し,間接熱量測定を実施した96名を対象とした.安静時エネルギー消費量(REE)に1.5を乗じた値を実測推定エネルギー必要量(mEER)とした.mEERの回帰モデル式を作成し,mEER推定式の妥当性の検討にはmEERの回帰モデル式から算出した予測推定エネルギー必要量(pEER),Harris-Bendict式から算出した予測推定エネルギー必要量(pEERHB)とmEERの系統誤差と妥当性の検討をBland-Altman解析を用いて実施した.

結果:回帰モデル式はpEER=1994.1+22.0×体重-16.0×年齢となった.pEERとmEERに系統誤差は認めず,一致度は82.4%であった.pEERHBとmEERとの間には加算誤差を認め,一致度は64.7%であった.

結論:本研究で作成したCOPD患者のmEERの推定式は,pEER=1994.1+22.0×体重-16.0×年齢であり,pEERはpEERHBと比較して信頼性が高く,誤差が少ないことが示唆された.

緒言

Nippon COPD Epidemiology studyで得られた慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive lung disease;以下,COPD)の有病率から,40 歳以上の日本人の約530 万人がCOPDに罹患していると考えられ1),2030 年には世界的に死因の第3位になると予測されている.COPD患者の予後規定因子の一つとして,体重の減少があげられ2),COPD患者では高頻度に栄養障害が存在し,呼吸機能,感染防御能,運動耐容能の低下に深く関与していると考えられている3).従ってCOPD患者の栄養状態の改善や体重を増やす取り組みは重要であると考える.COPD患者の栄養状態の改善に関する論文が多数報告4,5,6)されているが,体重を増やすためには正確な推定エネルギー必要量(estimated energy requirements; EER)の算出が必要である.一般的にEERはHarris-Benedict式(以下,HB式)にて基礎エネルギー消費量(basal energy expenditure;以下,BEE)を推定し,これに活動係数とストレス係数を乗じて算出している.しかし,HB式は欧米人,21~70歳の健常者を対象に作成されたものであり7),また係数の値の根拠が不十分であるとの報告8)もあり,日本人に適応するにはその精度が懸念されている.正確なEERを算出するためには,安静時エネルギー消費量(resting energy expenditure;以下,REE)を算出する必要があり,呼気ガス分析器を用いた間接熱量測定が有用であるとされている9).日本呼吸器学会のガイドライン10)によると,COPD患者の体重を増加させるにはREEに1.5以上を乗じたEERの摂取が必要であるとされているが,間接熱量測定を実施する機器は高価であり,実施できる施設は限られている.このように正確なEERの算出には多くの問題が残されている.また日本人のCOPD患者を対象としたEERの報告は皆無である.

そこで本研究はCOPD患者を対象に,臨床的な基本情報からEERの推定式を作成し,間接熱量測定をもとにしたEERとの比較からその妥当性について検討した.

対象と方法

1) 対象

対象は2017年5月~2020年4月の間に松阪市民病院に気道感染を契機にCOPD急性増悪診断10,11)で入院し,間接熱量測定を実施した男性患者とした.除外基準は調査項目に欠損値があった場合,在宅酸素療法を実施している場合,入院期間中酸素療法を実施している場合とした.尚,本研究は松阪市民病院の研究倫審査理委員会の承認を得てから行った(承認番号:J-66-200124-5-5).

2) 調査項目

調査は全て診療録より後方視的に調査した.

① 患者の基本特性

調査項目は年齢,性別,身長,体重,Body mass index(以下,BMI)とし,体重は 0.1 kg単位,身長は 0.1 cm単位まで記録した. また,入院前のADL・薬物療法の内容,併存疾患の有無,入院後の治療内容も調査した.

② 臨床検査所見

血液・生化学検査としては白血球(White blood cell;以下,WBC),C反応性蛋白(C-reactive protein;以下,CRP),血清アルブミン(Albumin;以下,Alb)とし,REE測定日の前後1日以内の値を採用した.肺機能検査は入院時より,過去3か月以内に測定した予測1秒量(forced expiratory volume one second predicted; %FEV1),1秒率(forced expiratory volume in 1 second/forced vital capacity;以下,FEV1/FVC)を採用した.

③ 間接熱量測定によるREEの測定

間接熱量測定は全身状態安定後,可及的早期に実施した.測定条件は食後4時間以上経過後,30分間安静をとらせた後,呼気ガス分析器(エアロモニタ-AE100i,ミナト医科社製)を用いて仰臥位にて20分間,酸素摂取量(Oxygen consumption; V ˙ O2)と二酸化炭素排出量(dioxide production; V ˙ CO2)を測定した.REEは下記のWeir12)の尿中尿素排泄量を用いない変式から算出した.

REE(kcal/day)=(3.94× V ˙ O2(mL/min)+1.11× V ˙ CO2(mL/min))×1.44

本研究ではREEに1.5を乗じた値を実測推定必要エネルギー量(measured estimated energy requirement以下,mEER)と定義した13).また,REEの測定前の体温,SpO2も調査した.

④ HB式による予測推定エネルギー必要量の算出

HB式からEERを算出する場合,HB式を用いてBEEを算出し,活動係数1.3とストレス係数1.3を乗じて(≒1.7)求める方法がある13).本研究においても,同様にBEEに1.7を乗じた値を予測推定エネルギー必要量(predicted estimated energy requirement from Harris-Benedict;以下,pEERHB)として算出した.

3) 解析方法

mEER推定式の作成(検討1)

Shapiro-wilk検定を実施し各項目の正規性を確認した.その後,mEERと各項目の関連について相関分析を行った.mEERと有意な相関関係を認めた項目を独立変数,mEERを従属変数としたStep wise法による重回帰分析を用いて,mEERの回帰モデル式を作成した.

mEER推定式の妥当性の検討(検討2)

作成した回帰モデル式から算出した値を予測推定エネルギー必要量(predicted estimated energy requirement from regression equation;以下,pEER)とした.mEERとpEER,pEERHBの誤差と妥当性(一致度)の検討にはBland-Altman解析を用いた.系統誤差の解析は加算誤差と比例誤差の有無の確認を実施した.加算誤差はmEERとpEER,pEERHBの差の平均の95%信頼区間を求め,同区間が0を含まない場合を加算誤差が存在すると判定した.比例誤差はBland-Altman plotを作成し,mEERとpEER,pEERHBの差とmEERとpEER,pEERHBの平均値の回帰式を作成し,回帰式が有意と判断された場合,比例誤差が存在すると判定した.一致度は先行研究14)に準じて,mEERとpEER,pEERHBとの差が±10%以内の割合で検討した.統計解析には,IBM SPSS Statistics Ver. 25を使用し,いずれの解析において有意水準は5%とした.

結果

① mEER推定式の作成

対象は2017年5月~2019年4月の間で,除外基準を満たさなかった62名であった.患者背景は表1に示し,REEの測定は入院後4.8±2.2日,mEERは 1,870±331 kcalであった.また,mEERと相関関係は表2に示した.重回帰分析の結果,mEERの独立した因子は体重(β: 0.640,p<0.001),年齢(β: -0.304,p=0.002),自由度調整済みR2は0.483であった.回帰モデル式はpEER=1994.1+22.0×体重-16.0×年齢であった.

表1 患者背景
検討1
(N=62)
検討2
(N=34)
p値
年齢(歳)78.4±6.379.1±5.70.616
身長(cm)160.7±4.9160.0±4.40.249
体重(kg)51.6±9.652.1±8.50.792
BMI(kg/m2)20.0±3.720.4±3.10.521
BI(点)96.4±9.697.1±8.40.732
%FEV1(%)46.4±22.050.6±25.00.390
FEV1/FVC(%)46.9±16.148.8±17.10.592
WBC(/μl)7539±23967500±23540.939
Alb(mg/dl)3.2±0.53.3±0.60.713
CRP(mg/dl)2.39±3.012.09±3.080.943
<入院前の治療内容>
LAMAの使用(有/無)61/134/0―
LABAの使用(有/無)51/1130/40.633
ICSの使用(有/無)22/4013/210.963
<併存疾患>
糖尿病(有/無)9/535/290.979
肝疾患(有/無)3/591/330.656
喘息(有/無)29/3313/210.419
心不全(有/無)30/3219/150.740
<代謝測定>
体温(°C)36.5±0.336.6±0.30.607
SpO2(%)92.9±1.793.0±1.80.437
REE(kcal)1247±2211264±1540.696
mEER(kcal)1870±3311895±2320.666
<入院中の治療内容>
抗生剤の使用(有/無)62/034/0―
ステロイドの使用(有/無)26/3514/200.789

患者背景を表している.

数値は平均値±標準偏差

BMI; body mass index, BI; Barthel Index, %FEV1; forced expiratory volume one second predicted, FEV1/FVC; forced expiratory volume in 1 second/forced vital capacity,

WBC; White blood cell, Alb; albumin, CRP; C-reactive protein, LAMA; long-acting muscarinic antagonist, LABA; long-acting β-agonists, ICS; inhaled corticosteroid,

SpO2; oxygen saturation of peripheral artery, REE; resting energy expenditure, mEER; measured estimated energy requirements

表2 mEERと各項目の相関関係
相関係数(p値)
年齢-0.238(p=0.049)
性別-0.085(p=0.399)
身長0.149(p=0.224)
体重0.597(p<0.001)
%FEV10.034(p=0.785)
FEV1/FVC0.191(p=0.314)
WBC0.244(p=0.045)
Alb0.205(p=0.093)
CRP-0.233(p=0.056)
LAMA-0.015(p=0.889)
LABA0.040(p=0.706)
ICS0.065(p=0.537)
糖尿病0.094(p=0.374)
肝疾患-0.033(p=0.755)
喘息0.085(p=0.417)
心不全0.053(p=0.612)
ステロイドの使用-0.146(p=0.167)

mEERと各項目の相関関係を表している.

%FEV1; forced expiratory volume one second predicted, FEV1/FVC; forced expiratory volume in 1 second/forced vital capacity, WBC; White blood cell, Alb; albumin, CRP; C-reactive protein, LAMA; long-acting muscarinic antagonist, LABA; long-acting β-agonists, ICS; inhaled corticosteroid

② mEER推定式の妥当性の検討

対象は2019年5月~2020年4月の間に除外基準を満たさなかった34名であった.患者背景は表1に示し,REEの測定は入院後4.9±2.1日であった.患者背景は検討1と検討2ですべての項目で有意差は認めなかった.mEERは 1,895±232 kcal,pEERは 1894±183 kcal,pEERHBは 1,790±190 kcalであった.Bland-Altman plotは図1,図2に示した.mEERとpEERの加算誤差(0.7±79.5 kcal,95 CI: -27.1~28.5,p=0.959),比例誤差(r=0.266,p=0.129)は有意差を認めず,一致度は82.4%であった.mEERとpEERHBの加算誤差(-104.8±183.5 kcal,95 CI: -168.8~-40.8,p=0.002)は有意差を認め,比例誤差(r=-0.212,p=0.229)は有意差を認めず,一致度は64.7%であった.

図1

pEERとmEERのBland-Altman plot

pEERとmEERのBland-Altman plotを表している.

X軸はpEERとmEERの平均値を表している.

Y軸はpEERとmEERの差値を表している.

Mean:平均値,SD:標準偏差

図2

pEERHBとmEERのBland-Altman plot

pEERHBとmEERのBland-Altman plotを表している.

X軸はpEERHBとmEERの平均値を表している.

Y軸はpEERHBとmEERの差値を表している.

Mean:平均値,SD:標準偏差

考察

本研究はCOPD患者を対象に,臨床的な基本情報からmEERの推定式を作成し,間接熱量測定をもとにしたmEERとの比較からその妥当性について検討することを目的とした.先行研究では安定期のCOPD患者のREEと体重は関連していることが報告されており15),COPD患者のREEから算出したmEERにおいても同様の結果であった.また,本研究で作成されたmEERの回帰モデル式の寄与率は48.3%であった.Scholsらは安定期のCOPD患者のREEの回帰モデル式の寄与率は34%であったのに対し,健康な高齢者患者では84%であったと報告している16).これらのことは,COPD患者のmEERはREEと同様,体重,年齢以外の因子の影響を受けている可能性が考えられる.COPD患者の総エネルギー消費量やREEは全身性炎症反応,肺動的過膨張,呼吸筋力の低下と相関しており,これは主に換気メカニクスの障害に基づく呼吸筋酸素消費量の増大によるものと考えられている17).本研究ではFEV1/FVC,%FEV1,WBC,Alb,CRP等も含めてmEERとの関連性について検討したが,mEERの独立した因子としては抽出されず,COPDの重症度等とmEERは関係ないことが示唆され,予測に反しCOPD患者特有の推定式とはならなかった.本研究では健常人のmEERを測定しないため言及はできないが,恐らく健常人の推定式は今回の式と説明変数は同じで係数の異なったものになったと考える.COPD患者の栄養障害には全身性炎症に伴うtomor necrosis factor-αやsoluble TNF-α receptorなどの炎症性サイトカインの増加が関与しているとも考えられており18,19),今後はこれらの指標を含めた要因分析も必要であると思われた.

本研究で得られたmEERの予測式の妥当性を検討する際,mEERとpEER,pEERHBの回帰式の傾きから検討することが多いが,系統誤差の検討が不十分であり20,21,22),本研究ではBland-Altman解析を用いて解析した.その結果,mEERとの一致度は,pEERで82.4%,pEERHBで64.7%であり,pEERの方が一致度は良好であった.mEERとの系統誤差については,pEERでは加算誤差および比例誤差ともに認めなかったが,pEERHBでは加算誤差を認めた.これらのことからpEERはpEERHBと比較して一致度が高く,誤差が少ないことが示唆され,mEERをREEの1.5倍とした場合,HB式に1.7の係数を乗じた値は過少評価する可能性が示唆された.これらの理由としては,HB式は欧米の健常人を対象として作成された基礎代謝量を推定する式であり,日本のCOPD患者を対象として作成された式ではないため,mEERとの間に誤差を生じたと推察した.

本研究の限界としては,後方視的研究である点,またBland-Altman分析によるmEERの推定式の信頼性の検討はあくまでも統計的な手段の一つに過ぎず,臨床的有用性を判断するためにはさらなる研究が必要であると思われる.

本研究の結果は,COPD患者におけるmEERの推定式を作成した最初の報告であり,新規性があると考える.本研究で得られたmEERの推定式は間接熱量測定を実施できない施設の栄養療法の評価にも適用可能であり,COPD患者の栄養療法を実施する上で有益である可能性がある.

結論

本研究で作成したCOPD患者のmEERの推定式は,pEER=1994.1+22.0×体重-16.0×年齢であり,pEERはpEERHBと比較して信頼性が高く,誤差が少ないことが示唆された.

備考

本研究において開示すべき利益相反に相当する事項はない.

文献
 
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