日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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シンポジウム
病院における呼吸リハビリテーション
―健康寿命延伸のための取り組み―
川越 厚良柴田 和幸渡邊 暢佐川 亮一原田 郁菅原 慶勇高橋 仁美長谷川 傑円山 啓司塩谷 隆信
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2021 年 30 巻 1 号 p. 13-19

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要旨

病院における呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)の役割は様々である.当院では救命を前提とした超急性期医療における呼吸リハ,そして急性期症状を脱した亜急性期および外来における安定期の呼吸リハを提供している.急性期においては,救命後の長期予後に関わる重要な責務を担っており,平成30年度の診療改訂における集中治療室の早期離床・リハビリテーション加算の新設は,当に救命治療の最中における予後不良因子の問題解決を主要な目的としている.安定期における役割は,機能面・活動性向上による生活の質の改善,並びに外来における定期的な評価による状態把握と増悪に対する早期対応が求められる.呼吸リハを提供できる施設がまだ十分ではない昨今において,病院と地域における相互の連携・情報共有(病院-地域間連携)を密接に行い,必要とする患者さんにシームレスな医療を継続していくことも,健康寿命延伸を目指した超高齢化社会の課題である.

はじめに

呼吸リハビリテーション(以下,呼吸リハ)は,病院における急性期医療から,在宅における生活期まで,その施設に応じた提供の形態や役割は多岐にわたる.近年では地域包括ケアシステムの構築により,在宅への復帰を促進させる医療介護連携による取り組みが普及している.病院における呼吸リハの役割も集中治療室(Intensive Care Unit;以下,ICU)における超急性期の救命処置に伴う合併症の予防から始まり,在宅生活復帰の実現,そして安定期における更なる機能改善と維持的管理に向けた取り組みなど,健康寿命延伸を目指す上で重大な責務を担っている.本稿では,急性期から安定期における当院の取り組みの紹介と患者の予後に関わる因子のエビデンスを提示しながら,病院と地域における連携の重要性と課題を提言させていただく.

急性期における呼吸リハと健康寿命延伸

1. ICU入室中の人工呼吸器管理患者における主な問題点

ICUの人工呼吸器管理を要する患者の長期予後に関わる問題点として,ICU関連筋力低下(Intensive Care Unit-Acquired Weakness,以下ICU-AW)1やICU関連せん妄(Intensive Care Unit-Acquired Delirium,以下ICU-AD)2,集中治療後症候群(Post Intensive Care syndrome,以下PICS)3,そして人工呼吸器関連肺炎(Ventilator Associated Pneumonia,以下VAP)4が挙げられる.ICU-AWは重症患者に発症する,原因が特定されないびまん性の筋力低下の状態であり,敗血症や多臓器不全,長期人工呼吸器管理などの重症患者の内,46%に発症しているとされる5.ICU-AWの発症は人工呼吸器の離脱遅延,入院日数の延長,死亡率の増加といった原因になりうる6,7.またICU-ADはICU-AWと同様に独立した予後悪化因子の一つであり8,人工呼吸器管理患者におけるICU入室および入院期間の延長,死亡率の増加の原因とされる9.ICU-ADの発症は16%から80%にみられるとされ2,米国集中治療医学会によるガイドラインでは認知症や高血圧,アルコール中毒の既往,昏睡状態,ベンゾジアゼピン系鎮静薬の使用などが発症リスクになると報告している8.PICSは重症疾患の発症後あるいは急性期治療以降に新しく,または悪化した身体機能,認知機能,メンタルヘルス障害の総称であり,身体機能の面にはICU-AWも含まれている.また,患者本人に限らず,患者家族におけるメンタルヘルスに関連した症状はPICS-F(Family)と呼ばれる3.VAPは患者が気管挿管による人工呼吸開始後に発症する肺炎であり,人工呼吸器管理患者の肺炎の内8-28%はVAPが原因とされ,VAPによる死亡率は24-50%,時には76%にまで及ぶことが報告されている4

2. 予後不良因子に対する早期離床・リハビリテーションの効果検証

前述のような問題点による予後不良の改善に向けた,早期離床・リハビリテーション(以下,早期リハ)の効果を検討した報告は散見されている.2015年におけるCastroら10のレビューによると,機能面に対する早期リハの効果は認められないが,退院時における自立歩行は有意に獲得できていたと報告されている.一方,Fernandezら11による早期離床とリハビリテーションによる効果のレビューにおいてはICU-AWの発症率には一定の見解は得られていないが,退院時の運動耐容能や筋力,歩行距離,健康関連QOLは有意に改善したと報告している.日本集中治療医学会によるエキスパートコンセンサス12においても,早期リハの効果はある一定の可能性を有するに留まっており,ADL能力の再獲得や,ICU在室日数,人工呼吸器装着日数に関しては更なる検討を要すると明記されている.

当院においても,ICU入室患者における早期リハの効果を検証すべく,早期リハ加算算定を開始した2018年5月から9月のICU入室患者(以下,早期群)と,historical controlとして早期リハ加算算定前(2017年4月から2018年3月)にリハビリテーションが処方されたICU入室患者(以下,対照群)のカルテを後方視的に調査し,治療経過におけるアウトカムの比較検討を行った.スタディデザインとしては後方視的観察研究であり,連続症例による比較対照試験である.早期リハを進めるプロトコルとしては,Morrisら13の報告を参考に一部改変し,市立秋田総合病院のプロトコルとして運用した(図1).平成30年度診療報酬改定による特定集中治療室管理料等の見直しにおいて,新設された早期離床・リハビリテーション加算の算定要件に基づき,当該患者にはICU入室後48時間以内に早期リハを開始し,5年以上の経験を有する医師・看護師・理学療法士で構成された多職種のチームによるカンファレンスを毎日実施し,早期リハの取り組みについても評価した(図2).

図1

市立秋田総合病院における早期離床に向けたリハビリテーションプロトコル

(引用文献13を参考に改変)

図2

当院における早期離床・リハカンファレンス風景

ICU常勤医師を始め,各担当症例の主治医,理学療法士,看護師,臨床工学技士にて,情報の共有,治療・リハビリ方針を確認している

結果として,年齢や性別に有意差は見られていないが,内訳としては早期群では循環器疾患が多く,対照群では呼吸器疾患が多い結果となった.早期リハを開始できた症例数は,有意に早期群で多く,せん妄の発症率は早期群で有意に低下していた.病院の入院日数とICU入室日数には有意な減少を認め,退院時の歩行自立度,Bathel index(以下,BI),そして自宅復帰率については有意な高値を示していた(表1).

表1 早期群と対照群における疾患内訳とアウトカムの比較
mean±SD
早期群,n=45対照群,n=28
年齢(歳)75±1776±15
性別(男/女)28/1720/8
疾患内訳(人)呼吸器疾患719
循環器疾患283
消化器疾患40
神経筋疾患33
その他33
早期リハ(有/無)41/4(91.1%)**11/16(40.7%)
入院からリハビリ開始までの日数2.5±4.84.2±3.3
リハビリ開始から離床までの日数10.8±20.111.2±11.9
入院日数33.6±25.1**53.9±39.6
ICU入室日数6.4±5.6*10.1±7.9
せん妄 (有/無)9/36(20.0%)**13/11(54.1%)
病前歩行の自立度(自立/非自立)36/9(80.0%)17/11(60.7%)
退院時歩行の自立度(自立/非自立)25/19(56.8%)**6/20(23.1%)
病前ADL能力(BI)86.0±35.066.8±44.9
退院時ADL能力(BI)72.8±36.4**39.3±46.3
病前生活(自宅/自宅以外)37/8(82.2%)*12/16(42.9%)
退院先(自宅/自宅以外)25/20(55.6%)*8/20(28.6%)

ICU; Intensive Care Unit, BI; Bathel index, ADL; Activities of Daily Living

Non-paired t-test or χ2-test; *p<0.05, **p<0.01

考察として,当然ながら入室後48時間以内に早期リハが開始されている症例は早期群で有意に多く,多職種によるチームカンファレンスを頻回に実施していることが,早期リハを必要とする患者をより多く拾いあげていることが示唆される.その結果,せん妄の発症率の低下を導き,ICU入室日数が有意に減少することで,入院日数の短縮にも繋がっていることが考えられる.入院前の歩行自立度やBIといった項目には有意差がないにも関わらず,退院時の同様の項目には有意な改善が認められているが,自宅復帰率に関しては入院前生活の結果が反映されている可能性も示唆される.しかし,本検討の結果には疾患内訳によるバイアスを考慮しなければならず,同一疾患における解析を行うには,今後症例を蓄積していくことが課題である.

以上より,早期リハ加算新設に伴う,ICUにおける取り組みにより,より多くの患者さんに早期リハを提供することができ,入院日数の短縮や,自立歩行下での自宅復帰の実現を期待できる可能性も示唆される.

安定期における呼吸リハと健康寿命延伸

当院では,安定期のCOPD患者を始めとした慢性呼吸器疾患患者を対象に,低強度在宅運動プログラムを中心とした包括的リハビリテーションを提供している14図3).健康寿命延伸を目指すための本プログラムの役割としては,機能・活動性向上による生活の質の改善,定期的な評価による状態把握とその結果に応じた対応,そして急性増悪の早期発見・早期治療である.機能・活動性に対するアプローチとしては,当院における,高橋らのCOPD体操15や,栄養療法を併用した低強度運動療法介入16,歩数計によるフィードバックを利用した活動性向上プログラム17などの包括的なアプローチによる一定の効果は示されている.さらに長期に渡る定期的な評価により,状態の把握に努めており,患者さんに応じた運動処方内容の変更や日常生活動作指導などを適時実施している.また,患者教育を目的とした呼吸教室の開催により,自己管理方法について周知し,急性増悪の予防・早期発見,早期治療を図っている.2018年のレビューにおいても,外来と在宅運動プログラムにおいて,QOLや運動耐容能に対する効果に差はないと報告しており18,Kwsslerら19の重症COPD患者を対象とした在宅中心のモニタリング介入の効果を検証した報告では,モニタリングをしない場合と比べ,死亡率は有意に低下したと報告している.本邦における超高齢化社会の実情から,在宅・地域を中心とした自己管理プログラムは,介護・医療費節減の視点からも,今後一層推進され,よりシステム化された取り組みを検証していくことが重要となる.

図3

当院における低強度在宅運動プログラムを主体とした包括的呼吸リハビリテーションプログラム

秋田県における病院-地域間連携の重要性と課題

当院の急性期・亜急性期から退院された呼吸器疾患患者において,呼吸リハを継続して提供していく必要があるものの外来通院が困難である症例も少なからず存在する.そのような症例が,後に地域あるいは介護保険下における施設において,呼吸リハを継続して提供されているのかどうかは,不透明なことが現状である.秋田県の現状として,呼吸リハの面における,病院と施設・地域との連携方法については,定まった手段が確立しておらず,シームレスな呼吸リハが提供できているかどうか不明な点が多い.

そこで,筆者らは公益社団法人秋田県理学療法士会の協力の下,生活期(施設・通所・訪問など)に従事している会員を対象に,呼吸リハの実態調査を行った.方法は郵送書面によるアンケート調査であり,調査期間は2017年11月15日から12月8日である.郵送先施設数は63施設であり,回収施設数は31施設(有効回答部数;72部),回収率は42%であった.

結果として,過去1年間に呼吸器疾患を有する利用者を担当したことがあると回答した人数は72名中59名(82%)であり,呼吸器疾患を有する利用者に呼吸リハを行うことがあると回答した人数は59名中47名(78%)であった(図4).また,急性期病院から提供してほしい情報については,回答率が70%以上であった項目が,「リスク管理上の注意点」,「現病歴・経過」,「呼吸困難が出現する指標」,「退院時ADL能力」であった(図5).

図4

生活期に従事する秋田県理学療法士会員におけるアンケート調査結果(1)

a. 過去1年間に呼吸器疾患を有する利用者を担当したことがある会員数とその割合

b. 呼吸器疾患を有する利用者に呼吸リハを行ったことがある会員数とその割合

図5

生活期に従事する秋田県理学療法士会員におけるアンケート調査結果(2)

病院から提供してほしい情報の内容とそれを選択した会員数および割合

本調査の結果からも,介護保険下のサービス利用者の中に,呼吸器疾患を有し,呼吸リハを必要とする利用者は少なからず存在しており,生活期に従事する理学療法士の約8割は担当する機会があること,そして実際に呼吸リハを提供していることが明らかとなった.さらに,呼吸器疾患を有する利用者を担当する上で,病院から生活期へ提供することが望ましい情報も明らかとなり,病院-地域間連携における重要な要素になりえると考える.本調査を手掛かりに,病院から地域の一方向に留まらず,双方向による情報連携が可能となるツールの運用が求められる(図6).呼吸リハのみならず,他領域も包括できる情報連携ツールを運用することにより,患者さんの動向に合わせ,より円滑でシームレスなリハビリを各施設・保険下において提供することが実現できれば,健康寿命の延伸にも寄与することが可能ではないだろうか.

図6

情報連携ツールの運用イメージ

まとめ

当院における,呼吸リハの取り組みの紹介を通じて,呼吸器疾患患者の健康寿命延伸への可能性について言及した.施設毎によって役割や提供できる内容は多岐にわたるが,急性期病院としての役割は超急性期の段階から始まっており,自立度の高い生活期へ移行させること,そして安定期においても更なる機能改善と維持的な自己管理に向けた取り組みを導入していくことが健康寿命の延伸を図る上で重要である.その一つには呼吸リハに限らない他領域も含めた医療介護連携,すなわち病院-地域間連携の強化が,一翼を担うことが予想され,病院から積極的に働きかけていくことも求められる.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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