日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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シンポジウム
在宅における呼吸リハビリテーション
金子 弘美石橋 由里子山中 悠紀大平 峰子石川 朗
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2021 年 30 巻 1 号 p. 20-22

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要旨

少子高齢社会を迎える我が国において必要な医療・介護サービスを確保していくためには限られた医療・介護資源を有効に活用する必要がある.北信ながいき呼吸体操研究会は長野県北信地域において在宅呼吸リハビリテーションの実践と普及のための活動を行うなかで地域連携の在り方を模索してきた.在宅での呼吸リハビリテーションは継続が要であり,そのためには患者を支える医療・介護の関係機関が連携し,共通認識を持って効果的かつ効率的な支援・サービスを行うことができる体制を構築することが重要である.

はじめに

超高齢社会を迎える我が国において,医療・介護需要の増大への対応は喫緊の課題であり,地域単位で医療・介護の関係機関が連携して効率的に支援・サービスを提供する仕組みである地域包括ケアシステムの構築が進められている.我々,北信ながいき呼吸体操研究会は長野県北信地域において在宅呼吸リハビリテーションの実践と普及のための活動を続けてきた1.当初は地域の訪問看護ステーション,特別養護老人ホーム,老人保健施設のスタッフを対象とした勉強会であったが,そこで培われた連携体制を軸として基幹病院,開業医,訪問看護ステーションを中心とした地域連携包括的呼吸リハビリテーションプログラムを展開しており,現在も活動を継続するなかでより良い地域連携の在り方を模索している.ここでは,長野県の在宅医療・介護の現状を踏まえ,北信ながいき呼吸体操研究会が行ってきた地域連携による在宅呼吸リハビリテーションに関する取り組みを紹介するとともに今後の展望について述べたい.

長野県における医療・介護の現状

長野県の高齢化率は30.1%と全国平均26.6%を上回っており,高齢者が含まれる世帯の55.4%が高齢者単身および夫婦のみ世帯であるにも関わらず,さまざまな取り組みによって一人あたりの後期高齢者医療費は全国第41位に抑えられている2.ただ,2017年に発表された長野県地域医療構想では,団塊の世代が全て75歳以上となる2025年には5人に1人が75歳以上となり,15歳から64歳までの生産年齢人口が2010年から2025年までの15年間で128万人から108万人へ20万人減少すると推計されている.また,高齢化が進むとがんなどを原因とする慢性疾患に対する医療ニーズの増大が見込まれるため,病床の機能分化と連携を推進することで入院医療機能の強化を図る必要があり,患者の状態に応じて退院後の生活を支える在宅医療などの一層の充実が求められる3.よって,今後訪れる少子高齢社会のなかで必要な医療・介護サービスを確保するためには,限られた医療・介護資源をいかに有効活用していくかが重要な課題である.

地域連携による呼吸リハビリテーション

我々は基幹病院で2週間の入院呼吸リハビリテーション実施後に訪問看護ステーションがプログラムを引き継ぐことで継続した支援を行う地域連携包括的呼吸リハビリテーションプログラムを展開している.入院時には生活指導,禁煙指導などの患者教育を中心に服薬・栄養管理,心理的サポート,運動療法を含む包括的プログラムをクリティカルパスに沿って実施し,訪問看護師がカンファレンスに参加することで情報共有をはかり退院後も一貫したフォローアップを行うとともに,基幹病院での定期的な呼吸機能,運動能力,ADL,健康関連QOLの測定を行うなどプログラムの質を高める取り組みを継続している.訪問看護によるフォローアップでは,患者状況や要望にあわせ訪問回数(1~12回/月程度)を決定し,バイタルサイン,呼吸状態,食事摂取量,睡眠状況,歩数(日々の記録を利用),運動状況などを確認してプログラムに即した指導を行うとともに,状況に応じて介護サービス導入などの環境整備,プログラムに沿った運動実施の支援,在宅での患者情報を入院時の連携施設への提供などを行っている.

2004年から現在までに地域連携による呼吸リハビリテーションプログラムを導入した患者は200名(平均年齢 77.0±6.7歳,男女比4:1,COPD 136名,肺結核後遺症31名,特発性間質性肺炎15名,その他18名)におよび,最長13年のフォローアップを継続している.プログラムの効果として,1年後の運動耐容能や健康関連QOLの有意な改善と3年後の機能維持,訪問看護の介入による急性増悪の未然防止などを報告している1,4.また,2004年7月から2006年12月には基幹病院で包括的呼吸リハを導入したCOPD患者11名を対象として医療費・入院日数に関する検討を行い,外来受診回数,訪問回数は呼吸リハ導入1年目,2年目に増加したが,入院回数,入院日数は経年的に減少し,プログラム導入前後で医療費に大きな変化を認めないことを示している(表125

表1 受診・入院状況
導入前1年目2年目
総外来受診回数147160188
総入院回数21166
総入院日数36920490
総訪問回数6502715
平均外来受診回数13.4±7.514.5±2.917.1±4.2
平均入院回数1.9±1.21.5±2.30.5±0.9
平均入院日数33.5±28.818.5±31.88.2±14.3
平均訪問回数0.5±1.045.6±30.365.0±55.1

外来受診回数,訪問回数は呼吸リハ導入1年目,2年目に増加したが,入院回数,入院日数は経年的に減少を示した

表2 総医療費の内訳
導入前1年目2年目
総医療費18,393,100100.0%20,545,540100.0%19,447,186100.0%
総外来費6,829,05037.1%9,567,24046.6%10,552,64654.3%
総入院費11,480,85062.4%6,321,34030.8%2,833,68014.6%
総訪問費83,2000.5%4,656,96022.7%6,060,86031.2%

北信ながいき呼吸体操研究会の活動と今後の展望

北信ながいき呼吸体操研究会では,合同ミーティングによる情報交換・症例検討,ミニレクチャー・講演会(年1~2回程度),プログラムの効果検証のための研究活動,地域ケアスタッフを対象とした学習会,市民公開講座の開催,フライングディスククラブのサポートなどの活動を行ってきた.当初は患者ケアの充実を目的に知識・技術の習得やクリティカルパスの理解,施設間の情報交換やケアスタッフの地域での仲間づくりの場としての役割が主であったが,現在ではその連携が訪問看護を中心に栄養士,開局薬剤師,地域包括スタッフやケアマネージャーへと広がっている.また,社会的活動として,患者が参加するフライングディスククラブの支援に携わるとともに,疾病予防の観点から地域住民を対象とした啓蒙活動にも取り組んでいる.とくに,フライングディスククラブの活動に関しては,地域での仲間づくりや情報交換の場として楽しみにしている患者やその家族も多く,ボランティアとしてご遺族の参加もみられる.

2015年からはデイサービスやホームヘルパーとの連携にも力を注いでおり,ICTなどを活用した顔の見える関係づくりを模索するとともに,地域の非医療職を含む多職種を対象としてCOPDや誤嚥性肺炎についての講習会を開催している6.ICTについては試験的運用段階であるが,ヘルパーからは在宅中はいつも呼吸困難を訴え,横になっている患者が運動強化型デイサービスでマシントレーニングをしている姿を見て,「あれだけの運動をしているのなら家でも動いて良いのだとわかった」という言葉が聞かれている.また,デイサービス利用中,看護師が右足足背の浮腫に気付き,画像を送信し,受信した主治医は前年のエピソードをふまえ,整形外科受診を指示した結果,右足蜂窩織炎の診断で外来での治療で留まり入院が回避できた事例などを経験している.ただ,共有する情報が客観性のあるものでなければ,それに翻弄されることもあり,情報を見極めるためにはそこに関わる全ての人の共通認識が不可欠となることから,知識の共有と相互理解のための機会を積極的に設けていくことが重要であると感じている.

結語

在宅における呼吸リハビリテーションは継続が要であり,患者のモチベーションを維持するためには,患者家族だけでなく,地域を含めそこに関わる全ての人が共通認識を持って患者を支える必要がある.呼吸リハビリテーションを導入した病院スタッフはもちろん,在宅を支援するスタッフの理解と協力も大きな影響を与える.仲間との交流,地域住民の理解も必要であり,そのような環境の構築を進め,有益かつ効率的な支援・サービスを行うことができる地域連携体制の構築が健康寿命の延伸に結びつくと考える.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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