日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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シンポジウム
本邦の睡眠呼吸障害―ながはまコホートの結果から
松本 健陳 和夫
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2021 年 30 巻 1 号 p. 33-38

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要旨

睡眠呼吸障害は高血圧や糖尿病との関連から近年注目を集めているが,本邦のデータは不足していた.そこで我々は,地域住民を対象としたながはまコホートの参加者を対象に,7,000人を越える客観的な睡眠時間,睡眠呼吸障害のデータを収集し,相互の関係や生活習慣病との関連を検討した.睡眠呼吸障害の頻度は明確な性差が認められ,男性23.7%,閉経後女性9.5%,閉経前女性1.5%に中等症以上の睡眠呼吸障害を認めた.そして睡眠呼吸障害が重症化すると睡眠時間が短くなっていた.また,睡眠呼吸障害は男女とも高血圧に関連しており,その重症度が高くなるにつれて関連度が高くなったが,糖尿病に関しては女性においてのみ関連していた.特に閉経前女性においては,中等症以上の睡眠呼吸障害があると糖尿病との関連度が28倍と著明に高くなっていた.さらに,高血圧や糖尿病に対する肥満の関与は睡眠呼吸障害により約20%間接的に媒介されており,性差が認められた.

睡眠呼吸障害とは

2003年2月26日,山陽新幹線運転士の居眠り運転によって広く社会に認知されることとなった睡眠時無呼吸症候群は,睡眠時の無呼吸・低呼吸により,睡眠分断を生じて満足な睡眠が得られず,日中の過度の眠気を引き起こし,社会生活に重要な影響を与える疾患である.そればかりでなく,交感神経活動亢進により,高血圧,インスリン抵抗性,心血管疾患を引き起こすことが知られており,近年多くの注目を集めている1.睡眠時無呼吸症候群を含む睡眠呼吸障害は治療可能な疾患であり,その社会的重要性からもわが国の頻度を知ることが望まれるが,自覚症状や周囲からの睡眠時無呼吸の指摘を受けて受診した患者を対象とした,病院ベースの研究では実際の頻度を知ることができず,一般人口を対象とした疫学調査が必要となる.本稿では,本邦において行われた世界最大規模の疫学研究であるながはまコホート研究を中心にご紹介する.

過去の睡眠関連の疫学研究について

睡眠呼吸障害については,上記のように本邦で広く知られる以前から,アメリカ合衆国において研究がすすめられていた.おそらくもっとも有名な睡眠呼吸障害の疫学研究でのデータは,Wisconsin Sleep Cohort Studyにおいて示された,睡眠1時間あたりの無呼吸低呼吸数(無呼吸低呼吸指数,apnea hypopnea index,以下AHI)が5回以上で,かつ日中の過度の眠気がある人は男性4%,女性2%という結果であろう2.AHIが5回/時間以上ということに限ると,男性で24%,女性で9.0%であった.長らく本結果が睡眠呼吸障害の頻度として認識され,引用されてきたが,最近の疫学研究では,より高い頻度が報告されている.最近報告された,スイスで行われたHypnoLaus Studyでは,実に男性で83.8%,女性で60.8%がAHI 5回/時間以上の睡眠呼吸障害を有し,さらには男性で49.7%,女性で23.4%がAHI 15回/時間以上の睡眠呼吸障害を有していたとされる3.本邦では過去にCirculatory Risk in Communities Studyという研究が行われており,パルスオキシメーターを用いた研究になるが,こちらでは男性で39.7%,女性で18.6%が3%酸素飽和度低下指数(oxygen desaturation index,以下ODI)5回/時間以上の睡眠呼吸障害を有していたという結果が出ている4.しかし,睡眠呼吸障害については男女差以外にも,閉経前後でも差が認められることが報告されているため5,閉経を含めた性差についても検討することが望ましいが,本邦でのデータは不足しており,その研究が望まれていた.

睡眠呼吸障害・短時間睡眠の弊害について

睡眠呼吸障害は高血圧,糖尿病のリスクとなることが知られている.Wisconsin Sleep Cohort Studyでは,AHIが15以上で高血圧の発症リスクが2.9倍であったと報告されている6.カナダのコホート研究からは,AHIが30以上で糖尿病の発症リスクが1.3倍であったと報告されている7.また,睡眠時間については本邦,海外ともに減少傾向にあり,アメリカ合衆国におけるアンケートでは,6時間以下の短時間睡眠は1985年と比較して1.3倍になっていると報告されている8.その短時間睡眠も高血圧,糖尿病に関連していることが知られており,Sleep Heart Health Studyでは6時間未満の短時間睡眠で高血圧のリスクが1.7倍9,5時間以下の短時間睡眠で糖尿病のリスクが2.5倍であったと報告されている10.しかし,これらは主観的な睡眠時間を用いた研究であり,客観的な睡眠時間を用いた最近の研究では否定的な結果が出ている.例えば,Multi-Ethnic Study of Atherosclerosisでは,睡眠時間ではなく閉塞性睡眠時無呼吸が血糖異常に関連していたと報告されており11,Hispanic Community Health Study/Study of Latinosでは短時間睡眠は高血圧と関連を認めなかったと報告されている12.よって,客観的睡眠時間に関する大規模な疫学研究も望まれていた.

ながはまコホートについて

上記に答えるべく,我々はながはまコホートのデータを解析した.ながはまコホート研究とは,滋賀県長浜市と京都大学が共同して行っている,市民の健康づくりと最先端の医学研究を目的として実施されている事業であり,5年ごとに一般の特定健診項目に加えて,遺伝子解析を含む血液検査や睡眠検査などの様々な検査が行われている.我々はこのコホート研究において,客観的な睡眠時間と睡眠呼吸障害の重症度を測定した.客観的な睡眠時間については,腕時計型の加速度計(Actiwatch 2®もしくはActiwatch Spectrum Plus®,いずれもPhilips Respironics社)と睡眠日誌を用いて,7日間の平均時間を計算した.加速度計は1日ごとに睡眠日誌を見ながら就床・離床時刻を決め,そこからアルゴリズムに従って計算された客観的な睡眠時間を抽出した.睡眠呼吸障害については,パルスオキシメーター(PULSOX-Me300®,コニカミノルタ社)を用いて,4日間の平均3%ODIを計算した.なお,ODIについては,同時測定の加速度計で得られた客観的睡眠時間を用いて補正することで,よりポリソムノグラフィーでの結果に近づくように工夫した.こうして補正された3%ODIを用いて重症度を決定し,1時間当たり5回以上を軽症,15回以上を中等症,30回以上を重症の睡眠呼吸障害とした13

本邦の睡眠呼吸障害の頻度

ながはまスタディでは,2013年から2016年までの4年間で参加した34-80歳の地域住民9,850人のうち,加速度計で週末1日を含む5日以上の測定とパルスオキシメーターで2日以上の測定の有効なデータが取得可能であった7,051人(全体の71.6%)を解析対象とした.結果を見ると,睡眠時間は平均6時間ほどであまり性差は見られなかったが,睡眠呼吸障害の頻度については明確な性差が認められた.睡眠呼吸障害は男性において81.0%と半分以上に認められていたが,閉経前女性では25.1%,閉経後女性でも60.2%であった.また,治療対象と考えられる,中等症以上の睡眠呼吸障害の頻度は男性で23.7%と多いこと,閉経前女性では1.5%と少ないものの,閉経後女性では9.5%と頻度が高くなることが判明した(図1).また,これらの患者背景をみると,睡眠呼吸障害の重症度が高くなるにつれて年齢,男性の割合,BMIが高くなっているが,特に,中等症以上の睡眠呼吸障害を有する閉経前女性においてBMIが高いことがわかった(表1).これら本邦における大規模コホートからの結果を鑑みると,一般人口における睡眠呼吸障害の頻度が思いの他高く,その存在に注意する必要があること,また,女性では閉経後に睡眠呼吸障害の頻度が急激に高まり注意する必要があるが,閉経前女性であっても,肥満があれば中等症以上の睡眠呼吸障害を有している可能性があり,注意する必要があると言える.

図1

本邦における客観的睡眠時間と睡眠呼吸障害の分布

(A)全体と性別・閉経前後ごとに分けた際の客観的睡眠時間の頻度.(B)全体と性別・閉経前後ごとに分けた際の3%ODI(oxygen desaturation index)で評価した睡眠呼吸障害の頻度(3%ODIは客観的睡眠時間で補正した値を使用).

表1 ながはまスタディにおける患者背景
睡眠呼吸障害の重症度正常軽症中等症重症P
男性431(19.0%)1,305(57.4%)437(19.2%)101(4.4%)
閉経前女性1,187(74.9%)375(23.7%)23(1.5%)0(0%)
閉経後女性1,258(39.8%)1,601(50.7%)264(8.4%)37(1.2%)
年齢(歳)男性56.1±12.460.5±12.2*64.2±11.0*, †65.5±11.6*, †<0.001
閉経前女性43.6±4.944.5±5.4*46.8±6.4*<0.001
閉経後女性61.2±7.465.1±7.2*67.9±7.2*, †67.8±6.9*<0.001
性別(男性,%)14.939.660.073.2<0.001
BMI
(kg/m2
男性21.7±2.323.0±2.8*24.6±3.3*, †25.5±3.9*, †, ‡<0.001
閉経前女性20.7±2.722.7±3.9*27.3±4.6*, †<0.001
閉経後女性20.9±2.622.4±3.2*24.3±3.5*, †26.5±4.8*, †, ‡<0.001
3%ODI
(回/時間)
男性3.8
[3.0-4.4]
8.7
[6.7-11.2]*
19.8
[16.9-23.7]*, †
35.7
[32.7-43.4]*, †, ‡
<0.001
閉経前女性2.9
[2.2-3.8]
6.6
[5.7- 8.4]*
17.9
[16.0-22.7]*, †
<0.001
閉経後女性3.4
[2.6-4.2]
7.9
[6.2-10.2]*
18.2
[16.3-21.5]*, †
36.3
[32.1-42.0]*, †, ‡
<0.001

*: P <0.05 vs 正常;†: P <0.05 vs 軽症;‡: P <0.05 vs 中等症

BMI, Body mass index; ODI, oxygen desaturation index.

睡眠呼吸障害と客観的睡眠時間,高血圧,糖尿病との関係

睡眠呼吸障害と客観的睡眠時間の関係については,男女性ともに睡眠呼吸障害の重症度が上がるに従って睡眠時間の減少を認めた(図2).なお,肥満も重症度が増加するに従い,睡眠時間の減少を認めた.

図2

睡眠呼吸障害の重症度ごとの客観的睡眠時間

睡眠呼吸障害は客観的睡眠時間で補正した3%ODIが5/h未満を正常,5/h以上15/h未満を軽症,15/h以上を中等症/重症と定義.年齢,BMI,飲酒,喫煙で調整して計算.

次に,高血圧,糖尿病の関連度について,睡眠呼吸障害,肥満,客観的睡眠時間の三者の関連を見るため,同時にモデルに入れて検討した.すると,睡眠呼吸障害は重症度が上がるに従って高血圧,糖尿病ともに関連度が増加した(図3).肥満も同様の傾向が認められたが,短時間睡眠は高血圧,糖尿病との関連は認めなかった.睡眠呼吸障害と高血圧,糖尿病との関連を性別ごとに分けて検討すると,高血圧では男性の方が女性よりも睡眠呼吸障害の影響が大きい結果であった.また糖尿病では男性は睡眠呼吸障害の関連は認めず,女性でのみ認められ,しかも閉経前女性では中等症以上の睡眠呼吸障害で28倍と著明な関連度の増加を認めた(図4).

図3

睡眠呼吸障害の重症度ごとの高血圧,糖尿病の調整後オッズ比(全体)

睡眠呼吸障害は客観的睡眠時間で補正した3%ODIが5/h未満を正常,5/h以上15/h未満を軽症,15/h以上を中等症/重症と定義.高血圧は投薬加療中,収縮期血圧が 140 mmHg以上,拡張期血圧が 90 mmHg以上のいずれかを満たすもの,糖尿病は投薬加療中,HbA1cが6.5%以上のいずれかを満たすものと定義.年齢,性別,BMI,飲酒,喫煙,日中活動量,睡眠時間で調整して計算.

図4

睡眠呼吸障害の重症度ごとの高血圧,糖尿病の調整後オッズ比(性別)

睡眠呼吸障害は客観的睡眠時間で補正した3%ODIが5/h未満を正常,5/h以上15/h未満を軽症,15/h以上を中等症/重症と定義.高血圧は投薬加療中,収縮期血圧が 140 mmHg以上,拡張期血圧が 90 mmHg以上のいずれかを満たすもの,糖尿病は投薬加療中,HbA1cが6.5%以上のいずれかを満たすものと定義.年齢,BMI,飲酒,喫煙,日中活動量,睡眠時間で調整して計算.

今回,肥満や睡眠呼吸障害の重症度が高いと睡眠時間は短かったが,短時間睡眠ではなく,睡眠呼吸障害もしくは肥満が高血圧や糖尿病に関連していた.よって,短時間睡眠における予後悪化の過去の報告は,併存する睡眠呼吸障害の影響を受けていた可能性がある.また,睡眠呼吸障害の糖尿病への影響は女性でのみ認められ,閉経前女性ではその影響は特に大きいという結果であったが,閉塞性睡眠時無呼吸の糖尿病への高い寄与率は過去にも女性でのみ報告されており14,肥満や性ホルモンの影響の違いがインスリン抵抗性の進展に関連している可能性がある.そして,特に閉経前女性において,睡眠呼吸障害の糖尿病への影響が強く,その群は平均BMIが 27 kg/m2と特に高かったため,肥満には注意しなければならないと言える.

今回の結果を見ると,肥満,睡眠呼吸障害ともに高血圧,糖尿病と関連が強かったが,肥満が高血圧,糖尿病のリスクであることは周知の事実であるため,肥満からの高血圧,糖尿病への直接的な影響と,睡眠呼吸障害を介した間接的な影響を調べるため,媒介分析を行った.すると,高血圧,糖尿病ともに約20%睡眠呼吸障害が間接的に影響しており,高血圧では男性の方が,糖尿病では女性の方がその影響が大きいという結果であった(図5).過去には,肥満の閉塞性睡眠時無呼吸患者を対象とした研究で,持続陽圧呼吸(continuous positive airway pressure,以下CPAP)療法のみ,減量のみ,CPAP療法と減量のいずれが血圧やインスリン感受性が改善するかをみた研究があるが,結果としては,体重減少を認めなくてもCPAP療法のみにて血圧が改善した15.今回の結果はこの既報に合致するが,やはり減量の効果が高いことが示唆され,減量の重要性が再認識された.

図5

肥満と高血圧/糖尿病との関連のメディエーターとしての睡眠呼吸障害に対する媒介分析

肥満はBMIが 25 kg/m2以上,睡眠呼吸障害は客観的睡眠時間で補正した3%ODIが15/h以上と定義.高血圧は投薬加療中,収縮期血圧が 140 mmHg以上,拡張期血圧が 90 mmHg以上のいずれかを満たすもの,糖尿病は投薬加療中,HbA1cが6.5%以上のいずれかを満たすものと定義.年齢,性別,BMI,飲酒,喫煙,日中活動量,睡眠時間で調整して計算.

SDB: sleep disordered breathing

まとめ

男性で約24%,閉経前女性で約1.5%,閉経後女性で約10%に中等症以上の睡眠呼吸障害が認められた.睡眠呼吸障害は短時間睡眠や肥満と関連しており,それらと独立して高血圧や糖尿病との関連を認めた.その関連度には性差が認められ,女性,特に閉経前女性において糖尿病のリスクは高かった.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

陳 和夫;寄付講座(フィリップス・ジャパン,レスメドジャパン,フクダ電子,フクダライフテック京滋)

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