2022 年 30 巻 2 号 p. 195-200
【背景と目的】慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:以下COPD)患者の入院原因を調査するとともに,併存疾患による入院と健康関連生活の質との関連を検討すること.
【対象と方法】安定期のCOPD患者を対象に過去1年間の入院の有無・回数・原因とCOPD assessment test(以下CAT),を評価した.
【結果】解析対象者は103例で,入院回数は全原因を含めて63回であった.そのうち併存疾患による入院は28回(44%)で,内訳は心血管疾患が10回(16%)と最も多く,運動器疾患など他の疾患は5%程度であった.また,重回帰分析の結果,併存疾患による入院とCATとの関連は認められなかった(P=0.607).
【結語】COPDの増悪に加えて,心血管疾患を含めた併存疾患にも配慮した全身管理やセルフマネジメント指導の必要性が示唆された.
慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:以下COPD)は,長期間の喫煙や全身性の炎症に関連して併存疾患の有病率が高い1).Divoら2)の調査では,併存疾患はCOPD患者の生命予後と関連する重要な要因であることが報告されている.また最近では,併存疾患による入院がCOPD患者における全入院原因の48-59%を占め,増悪による入院と同等であることが明らかにされている3,4).したがって,安定期にあるCOPD患者では併存疾患の管理は重要な課題の1つである.
COPDの代表的な併存疾患として,心血管疾患や骨粗鬆症,栄養・骨格筋機能障害,精神疾患などがある5).これら各疾患の併存率は,年齢や喫煙歴,COPDの重症度に加えて,表現型の相違が影響し,気腫型がCOPD患者の約90%を占める本邦では6),その特徴が欧米と異なることが指摘されている7).欧米では,心血管疾患の併存率が高く,増悪と並んでCOPD患者の入院原因となっている3).これに対して本邦では,心血管疾患の併存率が低く,骨粗鬆症や栄養・骨格筋機能障害の併存率が高いと報告されているが7),原因別入院状況に関する報告はない.
また一般的に,入院は生命予後や健康関連生活の質(health-related quality of life:以下HRQOL)に影響する重要なイベントである.特に後者は,治療効果や管理目標の達成を評価する上で重要なアウトカムであり,COPD患者においても,増悪による入院がHRQOLを低下させることが報告されている8).一方で,併存疾患による入院がHRQOLに及ぼす影響については十分に検討されていない.
仮説として,気腫型の多い本邦では,心血管疾患による入院が少なく,骨粗鬆症や骨格筋機能障害に関連した運動器疾患による入院が多いことが考えられる.また,これら併存疾患による入院は,COPD患者のHRQOL低下と関連する重要な要因であることが予測される.以上より,本研究は本邦のCOPD患者の入院原因について,併存疾患による入院を含めて調査するとともに,併存疾患による入院とHRQOLとの関連を明らかにすることの2点を目的とした.
多施設共同横断的観察研究
2. 対象2018年9月から2019年9月までの期間に,長崎呼吸器リハビリクリニック,田上病院,霧ヶ丘つだ病院,宇都宮内科医院の各施設で外来,通所,訪問によるリハビリテーションを実施し,過去4週以内に増悪による入院の既往がないCOPD患者を対象とした.除外基準は本研究の趣旨が理解できない者,研究参加に同意が得られない者とした.なお,本研究は長崎大学大学院医歯薬学総合研究科倫理委員会にて承認(許可番号18080901-2)後,全対象者に文書と口頭で研究の趣旨,目的,調査内容などについて十分に説明し,書面にて同意を得て実施した.
3. 調査方法下記の項目について診療録および問診により調査を行った.なお,基本情報,HRQOL,身体機能は過去4週以内,呼吸機能は過去6ヶ月以内の評価結果を解析に用いた.
基本情報は年齢,性別,body mass index(以下BMI),COPDの診断からの期間,喫煙歴(喫煙指数),併存疾患の有無と内訳を診療録から収集し,問診にてmodified Medical Research Council(以下mMRC)息切れスケール9)と過去1年間の転倒歴を調査した.呼吸機能は1秒量,予測1秒量,努力性肺活量,1秒率を診療録から収集し,Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease(以下GOLD)分類9)によるCOPDの重症度もあわせて評価した.入院歴は,過去1年間の入院の有無,原因,回数について問診および診療録より調査した.なお,入院原因については,医師による診断を元に診療録から判別した.HRQOLの評価には,COPD assessment test(以下CAT)10)を用いた.身体機能は,握力,short physical performance battery(以下SPPB)11),フレイルの有無を評価した.フレイルはSPPBの合計点を用いてカットオフ値を参考に,正常(SPPB≧10),プレフレイル(7≦SPPB≦9),フレイル(SPPB≦6)に分類した12).
4. 統計解析データは中央値[四分位範囲],人数または回数(割合)で表記した.COPD患者の入院状況については,原因別に入院の回数および割合に関する記述統計を行い,入院回数はその合計と年間1人あたりの回数を算出した.その後,入院歴が認められなかった「非入院群」,COPDの増悪による入院歴が認められた「増悪群」,併存疾患による入院歴が認められた「併存疾患群」,COPDの増悪と併存疾患による入院がそれぞれ1回ずつ以上認められた「混合群」の4群に分類し,Mann-WhitneyのU検定を使用して,各群間でCATの多重比較を行った.また,CATを従属変数,併存疾患による入院の有無を独立変数とした重回帰分析を実施した.その際,調整変数はHRQOLに影響すると考えられる年齢,性別,COPDの診断からの期間,COPDの増悪による入院の既往,1秒量とした.これらの解析には統計解析ソフトウエアIBM SPSS Statistics ver. 25(SPSS Japan)を用い,統計学的有意水準は5%とした.
研究実施期間中に113例が対象となった.うち,3例を研究参加の拒否,7例をデータ欠損のため除外し,103例を解析対象とした(図1).対象者103例の特性を表1に示す.年齢は中央値で77歳であり,81例(79%)が1つ以上の併存疾患を有していた.mMRC息切れスケールはgrade 0,1が合わせて52例(50%)であり,GOLD分類では中等症を示すstage IIが43例(42%)と最も多かった.また,プレフレイル,フレイルの割合はそれぞれ16%および10%であった.
対象者フローダイダグラム
n=113例,うち研究参加拒否:3例,データ欠損:7例
解析対象=103例
全体 (n=103) | 非入院群 (n=58) | 増悪群 (n=24) | 併存疾患群 (n=17) | |
---|---|---|---|---|
年齢,歳 | 77[71-83] | 75[69-81] | 78[74-85] | 78[73-84] |
男性,例 | 81(79) | 43(74) | 21(88) | 13(77) |
BMI,kg/m2 | 22.4[19.9-24.6] | 22.4[19.9-24.8] | 21.4[19.2-23.8] | 22.8[20.2-24.7] |
診断歴,年 | 7[ 4-12] | 7[ 4-12] | 5[ 3- 8] | 11[ 6-12] |
喫煙歴,pack-years | 40[20-71] | 39[ 0-62] | 58[40-93] | 35[20-63] |
併存疾患,例 | 81(79) | 40(69) | 22(92) | 16(94) |
高血圧 | 28(27) | 13(22) | 7(29) | 7(41) |
心不全 | 15(15) | 4( 7) | 8(33) | 3(18) |
冠動脈疾患 | 11(11) | 3( 5) | 6(25) | 2(12) |
脂質異常症 | 11(11) | 5( 9) | 4(17) | 2(12) |
がん | 11(11) | 3( 5) | 4(17) | 4(24) |
糖尿病 | 12(12) | 2( 3) | 7(29) | 3(18) |
逆流性食道炎 | 7( 7) | 2( 3) | 2(8) | 3(18) |
骨粗鬆症 | 6( 6) | 3( 5) | 2(8) | 1( 6) |
mMRC,例 | ||||
0 | 29(28) | 21(36) | 3(13) | 5(29) |
1 | 23(22) | 17(29) | 1( 4) | 5(29) |
2 | 27(26) | 11(19) | 9(38) | 3(18) |
3 | 16(16) | 7(12) | 7(29) | 2(12) |
4 | 8( 8) | 2( 3) | 4(17) | 2(12) |
1秒量,L | 1.29[0.79-1.93] | 1.35[0.92-1.95] | 0.80[0.52-1.34] | 1.80[1.17-2.28] |
予測1秒量,% | 62[35-76] | 66[44-81] | 35[25-58] | 75[63-86] |
努力性肺活量,L | 2.34[1.65-2.87] | 2.57[1.66-3.04] | 2.00[1.29-2.50] | 2.51[1.65-3.25] |
1秒率,% | 63[45-72] | 65[53-74] | 44[38-56] | 70[59-75] |
GOLD分類,例 | ||||
I | 22(21) | 16(28) | 0 | 6(35) |
II | 43(42) | 23(40) | 8(33) | 9(53) |
III | 20(19) | 12(21) | 7(29) | 1( 6) |
IV | 18(17) | 7(12) | 9(38) | 1( 6) |
握力,kg | 30.0[24.5-37.0] | 31.1[25.3-38.0] | 25[21-32] | 32.6[26.9-40.0] |
SPPB | 11[ 9-12] | 11[10-12] | 10[ 7-12] | 11[10-12] |
フレイル,例 | ||||
正常 | 76(74) | 48(83) | 12(50) | 13(76) |
プレフレイル | 17(17) | 7(12) | 7(29) | 2(12) |
フレイル | 10(10) | 3( 5) | 5(21) | 2(12) |
転倒歴,例 | 17(17) | 8(14) | 6(25) | 3(18) |
中央値[四分位範囲],例(%)
BMI: body mass index, mMRC: modified Medical Research Council dyspnea scale,GOLD: Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease,SPPB: short physical performance battery
※混合群(n=4)は解析から除外
入院歴の結果を表2に示す.対象者103例中,45例(44%)に入院の既往を認め,年2回以上入院した患者は11例(11%)であった.入院の原因別では,増悪群が24例(23%),併存疾患群が17例(17%)を占めていた.各群の対象者特性を表1に示す.GOLD分類に関して,stage IVの割合は非入院群,増悪群,併存疾患群それぞれ12%,38%,6%であった.またフレイルの割合は,増悪群で21%,非入院群と併存疾患群は5%,12%であった.なお,「混合群」については4例と症例数が少ないため,解析から除外した.
n=103 | |
---|---|
入院歴なし | 58(56) |
入院歴あり | 45(44) |
入院回数 | |
1 | 34(33) |
2≤ | 11(11) |
入院原因 | |
COPDの増悪 | 24(23) |
併存疾患 | 17(17) |
混合 | 4( 4) |
例(%)
表3に入院原因別にみた入院回数を示す.対象者全体の1年間の入院回数は,合計63回(1人あたり0.61回)であり,COPDの増悪が35回(56%),併存疾患は28回(44%)であった.また,併存疾患による入院の内訳は,心血管疾患による入院が10回(16%)と最も多く,運動器疾患など他の疾患は全て5%程度であった.
入院回数 | |
---|---|
全原因 | 63(100) |
COPDの増悪 | 35( 56) |
併存疾患 | 28( 44) |
心血管疾患 | 10( 16) |
運動器疾患 | 4( 6) |
がん | 5( 8) |
呼吸器疾患(COPDを除く) | 5( 8) |
消化器疾患 | 2( 3) |
その他 | 2( 3) |
回(%)
心血管疾患:心不全,不整脈,心筋梗塞,末梢動脈疾患,脳卒中
運動器疾患:上腕骨近位端骨折,大腿骨転子部骨折,腰椎圧迫骨折,変形性膝関節症
呼吸器疾患:気胸,気管支喘息
消化器疾患:胃潰瘍,胆管炎
その他:貧血,双極性障害
CATの点数は,非入院群,増悪群,併存疾患群それぞれ10[7-15],15[9-22],11[7-19]であった.図2にCATの群間比較の結果を示す.増悪群は非入院群と比較して有意に高値を示したが(P=0.032),増悪群と併存疾患群,および非入院群と併存疾患群の間に有意差は認められなかった(P=0.485, 0.289).また重回帰分析を実施した結果,調整変数で補正後も併存疾患による入院はCATと有意な関連を認めなかった(P=0.607)(表4).
入院歴とCATとの関連
各群の比較にMann-WhitneyのU検定を使用
中央値[四分位範囲]
非入院群10[7-15],増悪群15[9-22],
併存疾患群11[7-19]
*:P<0.05
coefficient(95%CI) | P | |
---|---|---|
併存疾患による入院 | 0.956(-2.723-4.635) | 0.607 |
重回帰分析を用いて併存疾患による入院とCATとの関連を検討
従属変数:CAT
独立変数:併存疾患による入院
調整変数:年齢,性別,COPDの診断からの期間,増悪による入院の既往,1秒量
本研究の結果より,COPD患者における全入院原因の約半数を併存疾患が占め,特に心血管疾患による入院が多いことが明らかとなったが,併存疾患による入院とHRQOLとの関連は認められなかった.本研究は,筆者らが知る限り,本邦のCOPD患者の原因別入院状況を明らかにするとともに,併存疾患による入院とHRQOLとの関連を示した最初の報告である.
本研究結果では,併存疾患による入院が全入院回数の44%を占めており,欧米の報告3,4)と概ね一致していた.これは,COPDの表現型が欧米と異なる本邦においても,併存疾患による入院頻度は大差がないことを示唆している.しかしながら,併存疾患による入院の内訳について,心血管疾患が全入院回数の16%と最も多く,運動器疾患を含めたその他の原因は5%程度にとどまり,仮説と異なる結果であった.これは対象者の年齢や呼吸機能,身体機能に依存した可能性が考えられる.本研究の対象者は,先行研究3,4,13)と比較して,高齢で呼吸機能が良好であり,フレイルの罹患率が低値であった.年齢は心血管疾患発症の危険因子であることから14),その増加に寄与したと考えられた.また,呼吸機能や身体機能は骨密度や転倒と関連することが報告されている15,16).したがって,骨粗鬆症の併存率や転倒率が先行研究7,16)と比較して低く,運動器疾患による入院が少なかったと推察された.
併存疾患による入院とHRQOLとの関連について,本研究では両者の間に有意な関連は認められなかった.先行研究17,18)では,併存する疾患ごとにHRQOLに与える影響が異なることや,疾患特異的評価は包括的評価と比較して,HRQOLに対する併存疾患の影響が反映されにくいことが報告されている.本研究では,COPDの特異的評価であるCATを用いてHRQOLを評価した.また,併存疾患による入院も心血管,運動器,がんなど様々な原因が認められた.したがって,症状は呼吸器に由来するものに限られなかったことが本研究結果に影響したと考えられた.今後はMOS 36-item short-form health surveyのような包括的評価も併用して,入院原因別に両者の関連を検討する必要があると思われる.
本研究には3つの限界がある.1つ目は,対象者数が103例と欧米の先行研究3,4)と比較して少ないサンプルサイズでの検討であったことが挙げられる.今後はサンプルサイズを増やした本邦での大規模な疫学研究の必要性が示唆された.2つ目は,対象者が安定期で呼吸リハビリテーションを実施中の患者に限定されていたことである.COPD患者に対する呼吸リハビリテーションは,再入院を減少させることが報告されており19),入院頻度に関して選択バイアスが生じている可能性が否定できない.今後は,リハビリテーション非実施者も含めた検討が必要であろう.3つ目は,研究デザインが横断研究であり,入院前のHRQOLを評価できていないことが挙げられる.本研究では,併存疾患による入院とHRQOLとの関連は認められなかったが,入院前後で比較するとHRQOLは悪化している可能性も考えられる.今後は前向きに追跡調査を実施して,両者の関連性を検討していく必要がある.
本研究の強みとして,以下の2点が挙げられる.まず,多施設で調査を実施しているため,安定期にあるCOPD患者の特性を概ね反映していると考えられる.加えて,筆者らが知る限り,本邦のCOPD患者の入院原因について初めて言及した研究である.本研究結果より,併存疾患による入院回数はCOPDの増悪によるものと同等であることが明らかとなった.これは,COPD患者の併存疾患の把握と関連する症状の管理の重要性を示すものである.例えば,呼吸困難は増悪のみならず,心不全や抑うつによっても生じる.Vanfleterenら20)は,併存疾患を有するCOPD患者に対し,喀痰の量や色調,咳嗽といった呼吸器症状だけでなく,体重や抑うつの程度を管理することで,呼吸困難がどの疾患の悪化によって引き起こされたかを判断し,早期の適切な治療につながるとしている.また,このような管理を行うことで,呼吸器に関連する入院が減少したことが報告されている20).以上のように,COPD患者の入院を予防するために,併存疾患の把握とそのマネジメントを呼吸リハビリテーションのプログラムに追加することが重要であると考えられる.
本研究では,COPD患者の併存疾患による入院とHRQOLとの関連は認められなかったが,その入院回数は増悪と同等であったことから,安定期にあるCOPD患者は増悪に加えて,併存疾患を適切に管理することの重要性が改めて示された.今後は,併存疾患を把握し,それに配慮した全身管理やセルフマネジメントを指導する必要性を強調したい.
本研究への参加を快諾してくださった対象者の皆様,ならびに多大なご協力をいただきました田上病院,長崎呼吸器リハビリクリニック,霧ヶ丘つだ病院,宇都宮内科医院の関係スタッフの皆様,統計解析をご指導いただきました長崎大学病院臨床研究センター臨床研究ユニットの佐藤俊太朗助教に心から感謝申し上げます.また,本研究のご指導をいただきました澤井照光教授,石松祐二教授ならびに長崎大学大学院医歯薬学総合研究科内部障害リハビリテーション学研究室の皆様に深謝いたします.
津田徹;講演料(ベーリンガーインゲルハイム,アストラゼネカ,帝人在宅医療,杏林製薬),神津玲;講演料(帝人在宅医療)