日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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原著
調剤薬局薬剤師における吸入指導介入回数の比較とその特性の検討
伊田 瞳 須賀 達夫逸見 和範原 史郎青木 康弘
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2022 年 30 巻 2 号 p. 207-210

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要旨

【背景と目的】吸入療法は薬剤師による指導を始めとした吸入指導介入が重要である.指導介入は複数回に渡り同様の内容で行われることが望ましいが,薬剤師による指導介入の回数と内容を検討した報告はこれまでにないため,本研究ではこれを報告する.

【対象と方法】埼玉県北部を中心とした薬剤師会を通し保険調剤薬局薬剤師にアンケートを送付した.

【結果】75名から有効な回答が得られ,内21名は1患者当たりの吸入指導回数を1回以下,54名は2回以上と回答した.両群を比較すると2回以上と回答した群は有意に吸入デバイスの扱いに自信を有していた.また2回の吸入指導内容を比較すると,2回目指導時は1回目指導時に比べ有意に指導時間が短く,指導項目数が少なく,デバイスや説明書を用いた説明を行わず,指導者や患者による実演を行っていなかった.

【結語】本研究結果を機に,同地域では定期的な勉強会やより密な医薬連携を図るべく研究会が設立された.

緒言

気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:以下COPD)などの慢性呼吸器疾患の管理において,吸入療法は中心的な役割を果たす1,2.吸入療法の効果は吸入手技の誤りにより大きく損なわれ,気管支喘息やCOPD患者の健康転機に影響を及ぼすことが知られている3.気管支喘息やCOPD患者の69%において吸入手技に何らかの誤りがある事が報告されており,この状況は40年間に渡って改善されておらず看過できない問題とされている4.吸入手技の改善にはビデオや対面での実演,疾患教育などが含まれる吸入指導が効果をもたらす.また,単回での吸入指導の効果は短期的であることが知られており,複数回の指導介入が推奨されている5.吸入指導には薬剤師の果たす役割が大きく,ビデオやパンフレットでの指導に比べ患者の適切な吸入手技に寄与したという報告がある6. 一方で,特に1回目の吸入指導後も吸入手技の誤りは多くの患者に認められることが知られている.1回目の吸入指導後,指導を受けた患者のうち59%が何らかの手技の誤りを認め,さらに2回目の指導時にも53.6%に何らかの手技の誤りを認めたと報告されている7,8.そのため吸入指導は複数回に渡り同様の内容で行われることが望ましいが,1回目指導時と2回目指導時の吸入指導内容を検討した報告はこれまでにない.我々は地域の調剤薬局薬剤師に対しアンケート調査を行い,実地臨床での吸入指導回数及び1回目指導時と2回目指導時の吸入指導内容を比較検討した.

対象と方法

1. 対象と方法

2015年9月から2015年10月まで埼玉県北部を中心とした深谷市薬剤師会,熊谷薬剤師会を通し所属する保険調剤薬局にアンケートを送付した.アンケートの送付は手渡し,あるいはFAXとし記入後の返送も同様とした.アンケートでは性別,実働年数,1か月当たりの吸入指導人数,1患者当たりの吸入指導回数,各吸入デバイス(ディスカス®,タービュヘイラー®,エリプタ®,ブリーズヘラー®,ハンディヘラー®,ツイストヘラー®,ディスクヘラー®,スイングヘラー®,加圧噴霧式定量吸入器,スペーサー®,ソフトミスト定量吸入器)の吸入指導の自信の有無について聴取した.回答者のうち1患者当たりの吸入指導回数を1回以下と答えた回答者と,2回以上と答えた回答者との2群に割り付けその特性を比較した.また1患者当たりの吸入指導回数を2回以上と答えた回答者に対し,1回目の指導時と2回目の指導時の吸入指導時間,項目(疾病に関する病態の説明,薬剤の特性・効能についての説明,副作用や安全性についての説明,吸入デバイスの操作方法の説明,コントローラー・レリーバーの違いについての説明,治療継続の重要性の説明)毎の指導の有無,デバイスや説明書を用いての指導の有無,指導者による実演の有無,患者の実演確認の有無について聴取した.

2. 統計解析

我々は全ての統計解析にJMP15(米国SAS Institute Inc.,ノースカロライナ州)を用いた.結果は数,パーセンテージ,平均±標準偏差にて記載した.得られたデータのうち連続変数にはウィルコクソンの符号付き順位検定を,カテゴリカル変数にはピアソンのカイ二乗検定を用いて統計学的有意差を検討した.有意水準は5%未満とした.

結果

2015年9月から2015年10月にかけて102人にアンケートを送付し,全例から回答が得られた.内27人に性別を始めとした必須項目の記載のない回答があった.これを除外した75人の回答を検討した(表1).75人の回答者のうち,33人(44.0%)が男性であり,32人(42.7%)は実働年数が10年未満であった.1か月当たりの吸入指導人数は21人(28.0%)が5人以下,54人(72.0%)が6人以上であった.1年に1回以上の学習機会を有する者は36人(48.0%)であった.次に,1患者当たりの吸入指導回数を1回以下と回答した21人と2回以上吸入指導を行うと回答した54人と2群に割り付けその特性を検討した.性別,実働年数,1か月当たりの吸入指導人数,1年当たりの学習機会に有意差は認めなかった.一方で吸入デバイス毎の自信の有無については聴取した11デバイスの内9デバイスと大部分において2回以上吸入指導を行うと回答した群で有意に自信を有する割合が高い事が示された.

表1 アンケート回答者の背景と特性
全体
(n=75)
吸入指導
1回以下
(n=21)
吸入指導
2回以上
(n=54)
p値
性別(男性)33(44.0%)9(42.9%)24(44.4%)0.9010
実働年数
 10年未満32(42.7%)11(52.4%)21(38.9%)0.2888
 10年以上43(57.3%)10(47.6%)33(61.1%)
調剤実績(/1か月)
 5人以下21(28.0%)18(85.7%)36(66.7%)0.0990
 6人以上54(72.0%)3(14.3%)18(33.3%)
学習機会(/年)
 0回39(52.0%)10(47.6%)29(53.7%)0.6358
 1回以上36(48.0%)11(52.4%)25(49.3%)
吸入デバイスへの自信
(ある,%)
 ディスカス®63(84.0%)14(66.7%)49(90.7%)0.0107*
 タービュヘイラー®56(74.7%)12(57.1%)44(81.5%)0.0296*
 エリプタ®25(33.3%)3(14.3%)22(40.7%)0.0291*
 ブリーズヘラー®32(42.7%)5(23.8%)27(50.0%)0.0395*
 ハンディヘラー®36(48.0%)6(28.6%)30(55.6%)0.0357*
 ツイストヘラー®14(18.7%)1( 4.8%)13(24.1%)0.0539
 ディスクヘラー®50(66.7%)10(47.6%)40(74.1%)0.0291*
 スイングヘラー®17(22.7%)1( 4.8%)19(29.6%)0.0209*
 加圧噴霧式定量吸入器27(36.0%)3(14.3%)24(44.4%)0.0146*
 スペーサー®16(21.3%)4(19.0%)12(22.2%)0.7632
 ソフトミスト定量吸入器41(54.7%)7(33.3%)34(63.0%)0.0206*

次に,吸入指導を1回以下と回答した回答者と2回以上吸入指導を行うと回答した回答者間の1回目の吸入指導内容を比較した.結果を表2に示す.説明項目のうち治療継続の重要性(33.3% vs 64.8%,p=0.0196)について説明する割合は有意に少なかったものの,他項目で有意差は認めなかった.

表2 1回目指導時と2回目指導時の吸入指導内容
吸入指導
1回以下
(n=21)
吸入指導
2回以上
(n=54)
1回目指導時p値1回目指導時2回目指導時p値
吸入指導時間
 5分以上11( 52.4)0.179638( 70.4)5( 9.3)p<0.0001*
 5分未満10( 29.6)16( 29.6)49(90.7)
説明項目(ある,%)
 疾病に関する病態3( 14.3)0.151918( 33.3)8(14.8)0.0124*
 薬剤の特性・効能13( 61.9)0.055846( 85.2)17(31.5)0.4112
 副作用や安全性12( 57.1)0.172640( 74.1)25(46.3)0.0595
 吸入デバイスの操作方法21(100.0)-54(100.0)39(72.2)-
 コントローラー・レリーバーの違い6( 28.6)0.787318( 33.3)12(22.2)0.0011*
 治療継続の重要性7( 33.3)0.0196*35( 64.8)30(55.6)0.1638
デバイスや説明書を用いての指導
(ある,%)
21(100.0)-54(100.0)27(50.0)p<0.0001*
指導者による実演(ある,%)8( 38.1)0.314828( 51.9)7(13.0)p=0.0046*
患者の実演確認(ある,%)7( 33.3)0.199528( 51.9)8(14.8)p=0.0036*

さらに,2回以上吸入指導を行うと回答した回答者に対し1回目と2回目の指導内容について比較検討した.結果を表2に示す.2回目の指導時は1回目の指導時に比べ有意に5分未満と答えた回答が多く(29.6% vs 90.7%,p<0.0001),説明項目のうち疾病に関する病態(33.3% vs 14.8%,p=0.0124)やコントローラー・レリーバーの違い(33.3% vs 22.2%,p=0.0011)について説明する割合が少なく,デバイスや説明書を用いた説明を行う割合が少なく(100.0% vs 50.0%,p<0.0001),指導者による実演を行う割合が少なく(51.9% vs 13.0%,p=0.0046),患者の実演確認を行う割合が少なかった(51.9% vs 14.8%,p=0.0036).

考察

埼玉県北部を中心に,保険調剤薬局薬剤師に対し吸入指導の回数とその指導内容についてのアンケート調査を施行した.1患者当たりの吸入指導を1回以下と回答した者は2回以上と回答した者に比べ各吸入デバイスへの吸入指導に自信がないと考える傾向にあり,治療継続の重要性について説明しない傾向にあった.2回以上と回答した者も初回指導に比べ再指導は吸入指導の時間が大幅に減少し内容が損なわれる事が明らかになった.薬剤師会からは「2回目の吸入指導に関して実際の業務では5分以上の時間をかけることは難しく,10分の吸入指導時間の確保は不可能に近い」との業務上の問題提起があった.こういった背景から,吸入指導に自信がない薬剤師にとって短時間での吸入指導は病態に関する説明の減少や薬剤師および患者の吸入実演の省略といった不適切な吸入指導に直結していると考えられた.

調剤薬局薬剤師の吸入手技の向上には,グループセッションや個別面談による教育的介入が有効である9.本邦では定期的な勉強会やフィードバックの機会を設け,医薬連携を図りより標準化された適切な吸入指導を普及させるため各地域で取り組みが行われている.喘息管理手帳や吸入指導依頼書を用いる10,11,認定吸入指導薬剤師制度を設ける12,マニュアルを作成するとともに定期的に勉強会を開催するなど地域毎に独自の対策が取られている13

本研究結果を踏まえ,当院では地域における吸入指導と医薬連携を広めるために埼玉県北部地域の薬剤師会の協力を得て「埼玉喘息・COPD研究会」を立ち上げた14.本研究会では薬剤師の吸入指導に関する勉強の機会を設ける事,薬剤師が吸入指導の結果を主治医へフィードバックできるシステムを構築する事を目的とし,2020年11月までに13回の開催を行った.研究会では,全てのデバイスに対し実際に触れる機会を作る事から始め,デバイス毎の特徴や指導のコツ,ピットフォールの学習を重ね,ロールプレイによる指導の実演を繰り返し行った.本研究の結果を反映し,特に治療継続の重要性についての指導を徹底するよう呼びかけた.吸入指導の目標は,5分以内で薬剤師が自信を持って指導でき,その正確性を向上することとした.このために全デバイスを8つのステップとして統一手順書を作成し,地域の調剤薬局全てにおいて使用できるようにした.また,全デバイスの吸入指導の勉強会に参加した薬剤師には吸入指導マイスターとして,市民がその所在地を確認できる取り組みを行い,モチベーションの向上に努めた.この結果,薬剤師会より「薬剤師の指導の自信が向上し吸入指導を率先して行う薬剤師が増えた」,「吸入指導を断る患者が減り,指導に関する満足度が改善しているようだ」との回答を得た.実際に,薬剤師の吸入指導デバイス毎の自信については,僅かながら改善の傾向が見られるようになった.この結果,埼玉県北部においてこれまで見られなかったお薬手帳を用いた吸入指導の依頼と医師への指導のフィードバックが散見されるようになった.また,令和2年より吸入薬指導加算が新設されており当研究会を中心にそのシステム構築を開始した.今後は,埼玉県内全域で本研究会の統一手順書を広め,全ての調剤薬局において吸入指導スキルが担保された薬剤師による吸入指導が行われるよう各地域の薬剤師会との連携を進めている.

本研究の限界として,アンケートは薬剤師にのみ配布されており,吸入指導のアウトカムとして重要な患者の吸入手技に対する理解度や習得度についてのデータは得られていない事が挙げられる.また,アンケート回答者のうち半数が吸入指導についての学習機会のない者であり,自己申告による吸入デバイスに対する自信や自身の指導内容についての評価が必ずしも実際の指導内容を反映していない可能性について留意すべきである.

結語として,本研究では調剤薬局薬剤師が時間の制限や技術面の不安など種々の要因により1回目の吸入指導に比べ2回目の吸入指導が適切に施行できない現況を示した.また,それらの状況を改善するために地域間での医薬連携と継続的,具体的な学習機会を持つことの有効性が明らかになった.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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© 2022 一般社団法人日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
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