日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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原著
要支援・要介護後期高齢者の咳嗽力と呼吸機能,身体機能の関連
武田 広道 山科 吉弘田平 一行
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2022 年 30 巻 2 号 p. 217-222

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要旨

【目的】要支援・要介護後期高齢者の咳嗽力と呼吸機能,身体機能の関連を明らかにすること.

【方法】要支援・要介護後期高齢者33名を対象とし,咳嗽時最大呼気流量(以下,CPF),肺機能,呼吸筋力,胸郭拡張差,最長発声持続時間,5 m歩行時間,握力,膝関節伸展筋力,片脚立位時間,Timed up & go test(以下,TUG)を測定した.統計解析ではCPFと呼吸・身体機能との相関分析を行った.また,CPFを従属変数,呼吸・身体機能を独立変数として重回帰分析を行った.

【結果】CPFと肺活量,吸気筋力,胸郭拡張差,最長発声持続時間,5 m歩行時間,握力,TUGで有意な相関がみられた.重回帰分析では,吸気筋力,胸郭拡張差が有意な関連因子として抽出された.

【結論】要支援・要介護後期高齢者の咳嗽力には胸郭可動性,吸気筋力との関連が認められた.

緒言

内閣府による令和2年版高齢社会白書では,我が国の75歳以上の後期高齢者人口は総人口に占める割合が14.7%と65~74歳人口(13.8%)を上回っているとされており,2040年には,20.1%,2065年には25.5%にまで達すると推計されている1.また,要支援・要介護認定を受けた第1号被保険者のうち前期高齢者は11.3%であるのに対して,後期高齢者は88.7%と大きく上昇する2.このような状況で医療・介護費の急増が懸念される中,介護予防,重症化予防,疾病の再発予防は重要な対策であると考えられる.高齢者の死因として常に上位に入る疾患としては肺炎があり,高齢者の肺炎の約70%以上は誤嚥性肺炎であるとされている3.誤嚥を直接的に防御する機構としては咳嗽があり4後期高齢者における誤嚥性肺炎の予防には咳嗽力が一つの指標になると考えられる.

咳嗽力の客観的な指標としては,咳嗽時最大呼気流量(cough peak flow:以下,CPF)が使用されている.山川ら5は中高齢入院患者を対象とした研究で,自己排痰の可否および気管吸引の必要性の有無について,それぞれCPFが 240 L/min,100 L/minが判別水準になると報告している.CPFと呼吸機能に関連する要因については,地域在住高齢者を対象にした研究では,CPFは加齢とともに低下する6ことや努力性肺活量(forced vital capacity:以下,FVC),最大吸気口腔内圧(maximum inspiratory pressure:以下,PImax)が関連する7とされている.さらに,女性と比較して男性でCPFが高値となり,女性では,第10肋骨レベルでの胸郭拡張差,予備吸気量,呼気筋力と関連があり,男性では第10肋骨レベルでの胸郭拡張差,吸気筋力,1秒量に関連があるとされている8. CPFと身体機能の関係については,30-s Chair stand test, Timed up & Go test(以下,TUG)と有意な相関があった7との報告がなされている.

このようにCPFに関連する要因は多く報告されているが,これまでに誤嚥性肺炎のリスクが高いと考えられる,要支援・要介護後期高齢者を対象にした研究はみられない.そこで今回は,要支援・要介護後期高齢者の咳嗽力には呼吸機能,身体機能が関連するという仮説を検証することを目的に予備的な調査を行った.

対象と方法

1. 対象

対象は大阪市にある通所介護事業所を利用している要支援・要介護高齢者33名とした.適格基準は75歳以上の後期高齢者,在宅または施設入居の者とした.除外基準は呼吸器疾患,認知機能障害を有する者とした.対象者には本研究の目的や方法などを書面で十分に説明し,同意書に署名をすることで承諾を得た.なお,本研究は畿央大学倫理委員会の承諾(承認番号H30-02)を得て実施した.

2. 方法

対象者の基本情報(年齢,性別,要介護度)は通所介護事業所のカルテから情報収集を行った.身長,体重を計測し,Body mass index(以下,BMI)を算出した.身長の計測には%VCを算出する際の脊柱変形の影響を考慮し,先行研究9で推奨されているアームスパンの値を代用した.アームスパンは両肩関節外転位で手指を伸展し,両中指間の距離を計測した.脊柱アライメントの指標としては円背指数を測定した.円背指数はMineら10が提唱した円背の評価方法である.本来は立位で測定するものであるが,対象者の安全性を考慮し,寺垣ら11が発表した足底非接地の安楽座位での方法で実施した.座位での測定でも信頼性と妥当性は得られている11.円背指数は第7頸椎から第4腰椎までの弯曲に沿って自在曲線定規をあて,その弯曲を紙にトレースし,第7頸椎から第4腰椎までの距離(L)と弯曲の頂点からLまでの距離(H)を計測する.そして,H/L×100(%)の式に代入することで算出される.観察による脊柱後弯評価と座位での円背指数の関係については,正常は9.2±2.5,軽度円背は12.7±3.6,中等度円背は17.9±2.5,重度円背は22.3±2.5であったと指標が示されている11

1) CPF,肺機能,呼吸筋力の評価

CPFと肺機能の測定には,スパイロメーター(Vitalograph社製,Pneumotrac)を使用した.CPFの測定はスパイロメーターに接続されているフェイスマスクを口と鼻を覆うように当て,最大吸気位からの随意的咳嗽を実施するように指示をした.測定は3回行い,最大値を採用した.本研究では反射的咳嗽の測定は行わなかったが,急性期脳卒中や嚥下障害のある患者の肺炎リスクは反射的咳嗽ではなく,随意的な咳嗽と関連している12という先行研究もあることから,今回は随意咳嗽のみの測定とした.肺機能はVC,1秒率(forced expiratory volume in 1 second/forced vital capacity:以下,FEV1/FVC)を測定した.測定方法は日本呼吸器学会の呼吸機能検査ガイドライン13に準拠して実施した.呼吸筋力は口腔内圧計(木幡計器製作所社製,IOP-01)を使用して測定した.今回はBlackら14の方法を用いて最大呼気口腔内圧(maximum expiratory pressure:以下,PEmax),PImaxを測定し呼気筋力,吸気筋力とした.測定は2回実施し,最大値を採用した.

2) 胸郭可動性の評価

胸郭可動性の評価として胸郭拡張差の測定を行った.最大吸気位と最大呼気位との胸骨剣状突起部における胸郭周径の差をテープメジャーで測定した.測定は同一の理学療法士が2回実施し,最大値を採用した.

3) 声門閉鎖機能の評価

声門閉鎖機能の指標としては最長発声持続時間(maximum phonation time:以下,MPT)を計測した15.MPTは最大吸気位から発声をはじめ,「自然な話し声でできるだけ長くあーと声を出し続けてください」と指示し,ストップウォッチで発声時間を測定した.測定は2回行い最大値を採用した.

4) 身体機能の評価

身体機能の指標として,5 m歩行時間,握力,膝関節伸展筋力,片脚立位時間,TUGを測定した.5 m歩行時間は,通常歩行速度で 7 mを歩き,中央の 5 mの歩行時間をストップウォッチで測定した.測定時は日常的に使用している歩行補助具の使用は許可した.握力は,握力計(株式会社タニタ社製,ハンドグリップメーター6103)を使用し,立位で測定した.膝関節伸展筋力は,ハンドヘルドダイナモメーター(アニマ株式会社製,μTas F-1)を使用して測定した.測定は端座位で膝関節90°屈曲位にし,下腿遠位部前面に測定パッドを当てた状態で最大努力の膝関節伸展をさせるようにした.片脚立位時間の測定は両上肢を胸の前で交差させ,開眼で片脚を床から 5 cm持ち上げさせるようにした.持ち上げた脚が床に触れるか支持脚が動いた時に測定終了とした.最大で30秒保持できた場合も測定終了とした.測定にはストップウォッチを使用した.TUGは椅子座位から立ち上がり,3 m先のコーンを回り,椅子に戻って座るまでの間の時間をストップウォッチで測定した.測定は通常歩行速度で実施した.すべての項目は2回ずつ測定し,5 m歩行時間,TUGは最速値,それ以外は最大値を採用した

3. データ解析方法

データ解析では,山川ら5のカットオフ値を参考にし,CPF≦240 L/min(以下,CPF低値群)とCPF>240 L/min(以下,CPF維持群)の2群に分けて群間比較を行った.統計手法については,基本属性,CPF,呼吸機能,身体機能の比較には,T検定,Mann–WhitneyのU検定,χ2検定またはFisher の正確確率検定を行った.また,CPFと呼吸機能,身体機能の相関分析を行い,Pearsonの積率相関係数またはSpearmanの順位相関係数を算出した.最後に,CPFを従属変数,年齢と性別を共変量,CPFと有意な相関が認められた呼吸機能,身体機能の評価項目を独立変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を行った.なお,有意水準は5%とした.統計ソフトはSPSS statistics 26を使用した.

結果

CPF低値群とCPF維持群における基本属性,呼吸機能,身体機能の比較を表1に示した.対象者33名の内,CPF低値群は12名(36%),CPF維持群は21名(64%)であった.基本属性ではCPF低値群の方が有意に女性が多く,身長は(アームスパン)有意に低かった(p<0.05).円背指数は両群間に差はなく,全体で16.2±5.1と概ね中等度円背11の高齢者集団であった.呼吸機能,身体機能については,CPF低値群の方がCPF,VC,PImax,胸郭拡張差,MPT,握力,膝関節伸展筋力は有意に低値を示し,TUGは有意に遅い結果となっていた(p<0.05).

表1 CPF低値群とCPF維持群における基本属性,呼吸機能,身体機能の比較
全体CPF低値群(n=12)CPF維持群(n=21)P値
基本属性
 年齢(歳)83.6±5.483.8±5.883.5±5.30.891
 性別(男/女)13/202/1011/100.047
 身長[アームスパン](cm)156.3±8.6152.1±6.3158.7±9.00.032
 体重(kg)61.4±9.958.6±7.963.0±10.70.221
 BMI(kg/m224.4(22.3-27.0)24.4(22.5-27.6)23.7(21.4-26.6)0.667
 円背指数16.2±5.117.0±5.215.8±5.10.510
 要介護度(人)
  要支援111380.355
  要支援216790.392
  要介護14130.536
  要介護31010.636
  要介護41100.364
呼吸機能
 CPF(L/min)261.9(201.7-308.9)189.9(159.5-219.5)293.6(264.4-317.6)<0.001
 VC(L)1.99(1.61-2.38)1.60(1.33-1.79)2.14(1.82-2.44)0.002
 %VC(%)111.0(94.2-130.6)101.9(81.3-121.7)114.1(95.1-131.6)0.144
 FEV1/FVC(%)75.7±6.773.3±6.477.1±6.60.123
 PEmax(cmH2O)41.7±17.438.6±21.043.4±15.30.472
 PImax(cmH2O)21.9(18.0-37.6)18.6(13.9-31.4)25.2(20.5-39.6)0.045
 胸郭拡張差(cm)2.0(1.5-4.0)1.5(1.0-3.5)2.8(2.0-4.9)0.025
 MPT(秒)16.2±5.212.5±2.718.3±5.1<0.001
身体機能
 5 m歩行時間(秒)6.1(5.4-7.9)7.4(5.8-8.9)5.8(5.1-7.3)0.054
 握力(kg)20.3±4.218.0±4.621.6±3.30.014
 膝関節伸展筋力(kgf)20.7±7.417.3±5.522.7±7.70.042
 片脚立位時間(秒)4.0(0.0-6.8)3.6(0.0-6.8)5.6(2.0-7.7)0.372
 TUG(秒)12.3(9.5-15.9)14.6(12.9-17.3)10.8(9.2-13.5)0.038

平均値±標準偏差,中央値(四分位範囲).

T検定,Mann-WhitneyのU検定,χ2検定,Fisher の正確確率検定による解析.

BMI: body mass index, CPF: cough peak flow, VC: vital capacity, FEV1/FVC: forced expiratory volume in 1 second/forced vital capacity, PEmax: maximum expiratory pressure, PImax: maximum inspiratory pressure, MPT: maximum phonation time, TUG: timed up & go test.

CPFと呼吸機能,身体機能の相関分析の結果を表2に示した.CPFとの間にはVC(r=0.548,p<0.01),%VC(r=0.399,p<0.05)PImax(r=0.515,p<0.01),胸郭拡張差(r=0.544,p<0.01),MPT(r=0.432,p<0.05),5m歩行時間(r=-0.436,p<0.05),握力(r=0.425,p<0.05),TUG(r=-0.393,p<0.05)で有意な相関がみられた.

表2 CPF,呼吸機能,身体機能の相関分析
CPFVC%VCFEV1/FVCPEmaxPImax胸郭拡張差MPT5 m歩行時間握力膝関節伸展筋力片脚立位時間
VC.548**
%VC.399*.642**
FEV1/FVC0.1520.099-0.201
PEmax0.323.400*0.353-0.165
PImax.515**.563**.642**-0.146.568**
胸郭拡張差.544**.507**.499**-0.1720.2810.274
MPT.432*.347*0.1990.059-0.047.374*0.180
5 m歩行時間-.436*-.474**-.398*0.031-0.354-.533**-.395*-0.292
握力.425*.518**0.071-0.1450.2720.223.459**.384*-.548**
膝関節伸展筋力0.2170.264-0.106-0.2350.2180.2290.195.395*-.396*.753**
片脚立位時間0.1860.2660.245-0.1860.1670.3350.2950.045-.654**0.2440.128
TUG-.393*-.395*-0.1420.011-0.295-0.342-.355*-0.224.875**-.499**-0.250-.691**

*:p<0.05,**:p<0.01.

Pearsonの積率相関係数またはSpearmanの順位相関係数.

CPF: cough peak flow, VC: vital capacity, FEV1/FVC: forced expiratory volume in 1 second/forced vital capacity, PEmax: maximum expiratory pressure, PImax: maximum inspiratory pressure, MPT: maximum phonation time, TUG: timed up & go test

CPFを従属変数とした重回帰分析の結果を表3に示した.共変量として年齢と性別を調整したとしても,胸郭拡張差(β=0.60,p<0.01),PImax(β=0.32,p<0.05)が有意な関連因子として抽出された.Variance inflation factorは胸郭拡張差が1.37,PImaxが1.06と多重共線性の問題は認められなかった.自由度調整済みR2は0.571であった.

表3 CPFを従属変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)
B(95% CI)βP値VIF
年齢-4.11( -8.53-0.30)-0.240.0661.11
性別38.2(-14.43-90.8)0.200.1481.23
胸郭拡張差28.9( 14.96-42.8)0.60<0.0011.37
PImax2.23(  0.48-3.97)0.320.0151.06

自由度調整済みR2=0.571

性別は男性=1,女性=0.

B: 偏回帰係数,β: 標準偏回帰係数

CPF: cough peak flow, CI: confidence interval, VIF: variance inflation factor, PImax: maximum inspiratory pressure.

考察

本研究は要支援・要介護後期高齢者のCPFと呼吸機能,身体機能の関連について検討した.その結果,胸郭拡張差,PImax,がCPFの有意な関連要因であることが明らかとなった.CPFと身体機能の関係については,5 m歩行時間,握力,TUGで有意な相関がみられたものの,重回帰分析で年齢と性別を調整すると,有意な関連因子としては抽出されなかった.

CPFとPImaxとの関連があったことについては,日本人の地域在住一般高齢者を対象にCPFとPImaxとの関連を示したKanekoら7の報告を支持する結果となった.咳嗽の吸気相での空気の取り込みは呼気筋を適度に伸張する役割があり,これにより,圧縮相での気道圧迫や呼気相での速い呼気流速が促進される4.このことから,PImaxの低下は吸気相における空気の取り込みが不十分となり,咳嗽力の低下と関係している可能性が考えられる.CPFと胸郭可動性についてはYawataら8の地域在住一般高齢者を対象とした研究によると,男女ともにCPFと第10肋骨レベルの胸郭拡張差が関連していたとされている.今回測定した剣状突起レベルの胸郭拡張差は胸郭全体の可動性を反映している16とされていることから,本研究結果と類似する結果であると考えられる.さらに咳嗽における胸郭可動性低下の影響としては,呼吸筋の収縮効率低下が考えられる.呼気に作用する筋は腹筋群(腹直筋,内腹斜筋,外腹斜筋,腹横筋)であるが,咳嗽ではこれらが収縮することで呼気相での速い呼気流速を発生させる.また,表面筋電図を使用した咳嗽時の腹筋群の活動を検討した研究では,腹直筋と比較し,内腹斜筋,外腹斜筋の筋活動の方がはるかに大きく17,腹斜筋が咳嗽における圧力生成に最も力学的に寄与しているとされている18.内腹斜筋と外腹斜筋はそれぞれ,第5~12肋骨の外面,第10~12肋骨の下縁に付着部を持つ19ことから,咳嗽吸気相での胸郭の拡張が制限されると筋が通常よりも伸張されにくくなることが予想される.このことから,筋の長さ―張力関係が不良となり呼気相での筋力発揮が得られにくくなると考えられる.これは胸郭の収縮方向への制限についても同様に,横隔膜が通常よりも伸張されにくいため,吸気相での横隔膜の筋力発揮が得られにくくなることが推測される.このように胸郭拡張差の低下は咳嗽の吸気相と呼気相の両方に悪影響を及ぼすことが考えられる.これらのことから,重回帰分析の標準偏回帰係数から胸郭拡張差がCPFへの影響度合いが最も強くなっていると考えられた.

本研究では,CPFとVCおよびMPTの間には相関があったものの,重回帰分析ではCPFの有意な影響因子と認められなかった.VCは吸気相での空気の取り込みを反映しており,CPFとFVCの関連が報告7されていることから,VCは咳嗽力に影響を及ぼすと考えられる.MPTは声門閉鎖機能の指標とされ,咳嗽の圧縮相,呼気相の部分で咳嗽力に影響すると考えられる.しかし年齢,性別を調整するとVC,MPTはCPFの関連因子とはならなかったことから,要支援・要介護後期高齢者ではその影響は小さいと考えられる.これは,CPFの予測にはVC,MPTよりも胸郭拡張差が良好な指標となることを示している.

身体機能については,CPFと 5 m歩行時間,握力,TUGの間に相関が認められた.地域在住一般高齢者を対象とした研究では,CPFと3分間歩行テスト6や身体活動レベル20との関連が報告されていたが,本研究では全身の筋力の指標である握力との関連も明らかにした.しかし,これらは性別や呼吸機能の要因を含めるとCPFに対する関係は乏しかった.また地域在住一般高齢者を対象とした調査では,咳嗽力が低下(CPF<240 L/min)している者は26%であったと報告されている7.一方,本研究では咳嗽力が低下した者は36%と先行研究よりも多かった.これは,本研究の対象者である要支援・要介護後期高齢者では一般高齢者よりも誤嚥性肺炎リスクが高い者が多く存在していることを示唆している.この一要因として,本研究の対象者には多くの円背高齢者(円背指数16.2±5.1)が含まれており,脊柱アライメントの影響を受けて咳嗽力が低下していた可能性が考えられた.肺炎は常に日本における死因の上位となっていることからも,その予防の一つとして咳嗽力の維持・向上は重要である.その対策として,本研究の結果から,要支援・要介護後期高齢者では,胸郭可動性や吸気筋力の維持・向上が有効である可能性が示唆された.

本研究の限界としては,サンプルサイズが少ない予備的な横断研究であるため,因果関係を明らかにするにはいたらなかった.また,CPFや肺機能検査の実施が困難な認知機能障害のある高齢者が除外されていることや単施設での検討であることから,要支援・要介護高齢者全体を十分に反映しているとは言い難いと考える.

結論として,本研究は要支援・要介護後期高齢者の咳嗽力(CPF)には胸郭可動性,吸気筋力が関連していることを明らかにした.この結果は咳嗽力維持・向上するための戦略に役立つ可能性がある.今後は,サンプルサイズを増やして縦断的にデータ収集・分析を行い,CPFに影響を及ぼす要因について調査する必要があると考える.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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