日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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シンポジウム
終末期のHFNCについて
横村 光司
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2022 年 30 巻 3 号 p. 264-269

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要旨

HFNC(high flow nasal cannula)の終末期患者における利用は,その簡便性・快適性といった特徴から有用性が高いと考えられる.十分なエビデンスが得られている領域ではないが,諸外国の報告もふまえ国内の複数のガイドラインやマニュアルにもその有用性が言及されるようになった.当院でもHFNCの利用頻度は年々増加しており,挿管管理までは行わない間質性肺炎患者での使用においてNPPV(non-invasive positive pressure ventilation)との比較で後ろ向きに検討し,忍容性とQOLの面で優れることを報告した.多くの患者にHFNCを使用した場合,病院内で大量の酸素が必要となること,緩和的な面では吸気の熱感が強く作動音が大きいこと,また在宅利用は保険診療上 認められていないことなど,解決すべき問題点は残されるが,当院での終末期患者での使用状況を実例を交えて紹介した.

緒言

HFNC(high flow nasal cannula)は,酸素化の改善のために低濃度から高濃度まで幅広い吸入酸素濃度の調節が可能である.加えて1回換気量の増加・呼吸数の減少といった効果は換気効率の改善や呼吸仕事量の軽減につながり,加温加湿は使用患者のエネルギー消費の軽減につながるといったように様々な利点を有しており,これら複数の効果により呼吸困難の改善が期待される,簡便性・快適性に優れた非侵襲的な呼吸管理法である.このような特徴や利点から,呼吸困難を有する終末期患者にも有用であろうことは想像されるが,終末期患者に大規模な比較試験を行うのは容易でないこともあり,十分なエビデンスは構築されていないのが実情である.本稿では,呼吸器疾患における終末期の呼吸困難とHFNCの緩和的利用に関する限られたエビデンス,当院でのHFNCの使用状況を紹介し,呼吸器疾患の終末期における利用方法や今後の課題等について考えてみたい.

終末期患者の呼吸困難

がん患者において呼吸困難の発生する頻度は46~59%と高く,肺がんの患者だけに限るとその頻度はさらに増加し75~87%になるとされている1.非がん患者においても呼吸困難の頻度が高いことは指摘されており,肺がん患者と非がんの慢性呼吸器疾患患者において終末期に生じた症状を比較した検討では,最後の1年間に呼吸困難を生じた割合はそれぞれ78%対94%,最後の1週間では69%対91%といずれも後者においてその頻度が高く,呼吸困難が強かったと報告されている2.また,がん・AIDS・心疾患・COPD・腎疾患の終末期患者において,呼吸困難を含む共通した11症状を報告していた64研究の統合解析でも,がん患者の呼吸困難は10~70%であったのに対し,COPDでは90~95%とより高率であったことが確認されている3.さらには,スウェーデンの緩和ケアレジストリのデータを使用した肺がん患者と間質性肺疾患患者の最後7日間の症状比較においても,42%対75%と後者において呼吸困難が高率であったことが示されている4.このように悪性疾患に限らず,非がんの呼吸器疾患の終末期に高率に生じる呼吸困難を緩和することは重要な課題である.

終末期患者の呼吸困難に対するHFNCの報告

冒頭に述べた通り,終末期のHFNC利用に関する大規模な前向き比較試験の報告は無いのが実情である.単施設での後方視的な検討となるが,米国のMemorial Sloan Kettering Cancer Center(MSKCC)では,HFNCが使用された担癌患者353例のうち183例を無作為抽出し,その有用性を報告している.患者はほぼ全例低酸素血症を有し,半数以上がDNR(do not resuscitate)の診療方針のもとでHFNCが使用されていたが,患者の感じる快適さ・酸素飽和度・他のデバイスへの変更の有無などから総合的に臨床効果を判断したところ,41%に改善,44%に安定が得られ,継続困難であったのは鼻の不快感を訴えた2例のみであったことから,担癌患者の呼吸不全の症状緩和に有効かつ忍容性が高かったとしている5.また,Mayo ClinicではICU(intensive care unit)に入院治療した低酸素血症と臨床症状(呼吸困難・頻呼吸)を有するDNI(do not intubate)の診療方針であった50症例においてHFNC使用後のNPPVへの移行の有無を主要評価項目,治療前後の経皮酸素飽和度と呼吸数,HFNCの忍容性を副次評価項目として後方視的検討を行っている.50例のうち悪性疾患は14例,その他は肺線維症・肺炎・COPD(chronic obstructive pulmonary disease)といった非がん患者であったが,HFNCの使用により有意な呼吸回数の減少及び酸素飽和度の改善が得られ,41例(82%)はHFNCのまま経過し,NPPVへの移行は9例(18%)であった.この研究における死亡率はNPPV移行例で6/9例(67%),HFNC継続例で24/41例(58%)と高率であったことから,低酸素血症を有する重症患者におけるHFNCの治療的・緩和的意義は大きく,挿管までは行わない患者におけるNPPV以外の選択肢となり得ると報告された6.前向きの検討としては,M.D. Anderson Cancer Centerにおいて,酸素療法を行っても呼吸困難のある担癌患者30例を対象に,HFNCとNPPVによる治療の2群に無作為に割り付け,2時間の治療介入を行った後に各々クロスオーバーさせる形でさらに2時間の治療介入を試み,初回治療デバイスでの完遂率及び呼吸困難スコアの変化等を評価している.この検討では各群の直接比較は行われていないが,HFNC群でNRS(numeric rating scale)及び修正Borgスケールで評価された呼吸困難が有意に低下し,2時間の介入が完遂出来なかったのは1例のみで,問題となる有害事象は生じなかったことが報告された7

日本のガイドライン等におけるHFNC

前述の諸外国の報告も受け,がん患者の呼吸器症状緩和に関するガイドライン1においては,呼吸困難を訴えるがん患者に低酸素血症があり,通常の酸素投与で効果が不十分な場合,患者の状態や希望及び療養場所・施設の状況や高炭酸ガス血症の有無をふまえた上で,HFNCやNPPVを検討するように提案しており,HFNCは2C(弱い推奨,弱いエビデンス)で推奨されている.また,酸素療法マニュアル8においては,HFNCはNPPVや酸素マスク以上に患者の快適性が高く,一般病棟でも実施可能であり,各種疾患の終末期やNPPV拒否患者において低酸素血症改善,呼吸困難軽減目的に緩和ケアとして使用出来るとしている.一方,肺炎9やCOPD10診療に関するガイドラインでは,改定される毎に各疾患の終末期を意識した診療や治療選択,ACP(Advanced Care Planning)の重要性等に関しての記載が増えているが,HFNCの位置づけについては現時点では言及されていない.

終末期の間質性肺炎におけるHFNCの有用性と忍容性(当院での後ろ向き検討)

間質性肺疾患の増悪に伴う呼吸状態悪化時には挿管人工呼吸管理まで行っても改善が得られる可能性が低いこともあり,気管内挿管までは行わないDo Not Intubate(DNI)の方針となる場合が少なくないが,その際には症状緩和方法やQOL(quality of life)を考えた診療が重要となる.そこで当院ではDNIの診療方針となった間質性肺疾患の呼吸不全患者におけるHFNCの有用性及び忍容性を後ろ向きに検討した11.2010年4月~17年2月の期間に入院し,低酸素血症に対してHFNCかNPPVを使用した間質性肺疾患患者113例のうち,DNIの方針となった84例(HFNC群54例,NPPV群30例)を対象とした検討で,急性増悪症例が約6割含まれていた.HFNC群及びNPPV群の患者背景に差はなく,30日生存率は31.5%と30.0%,院内死亡は79.6%と83.3%と同様であった.患者希望による使用の一時的な中断は2例(3.7%)と7例(23.3%),中止は0例(0%)と3例(10%),副作用は1例(1.9%)と7例(23.3%)でいずれもHFNC群の方が少なかった.また,HFNC群において治療開始後に呼吸数の減少が得られ,より最期まで食事や会話が可能であった(表1)ことから,HFNCはより忍容性が高く終末期患者のQOLにも寄与し,NPPVに替わりうる有効な治療手段と考えられた.

表1 間質性肺疾患に伴う呼吸不全患者の転帰
HFNC群(n=54)NPPV群(n=30)p値
院内死亡43例(79.6%)25例(83.3%)0.78
患者希望による一時的な使用中断2例(3.7%)7例(23.3%)0.009
患者希望による使用の中止0例(0%)3例(10.0%)0.043
副作用1例(1.9%)7例(23.3%)0.003
最終の食事から死亡まで2日(1-5日)(n=43)4日(2-8日)(n=25)0.037
最終の会話から死亡まで1日(1-2日)(n=43)2日(1-4日)(n=25)0.042

文献11)より

HFNC: high flow nasal cannula

NPPV: non-invasive positive pressure ventilation

当院の終末期患者に対する酸素療法の実情

当院は急性期医療を中心に,主に静岡県西部の地域医療を担っている病床数934床の総合病院であるが,経年的にHFNC使用件数は増加傾向となっている(図1).2018年度の1年間に呼吸器内科にはのべ1,639例の入院,そのうち164例の死亡があった.死亡例の内訳は,肺癌85例(51.8%),肺炎38例(23.2%),間質性肺炎22例(13.4%),結核8例(4.9%)等で,肺炎の30/38例(78.9%)は誤嚥性肺炎であった(図2).死亡例の155/164例(93.9%)では入院中にいずれかの時点で酸素療法が行われており,HFNCは42/164例(25.6%),NPPVは11/164例(7.1%),IPPV(invasive positive pressure ventilation)は9/164例(5.5%)で用いられていた.間質性肺炎での使用はHFNCが14/22例(63.6%),NIPPVが4/22例(18.2%),IPPVが5/22例(22.7%)であった(図3).死亡時には146/164例(89.0%)が酸素投与を受けており,投与方法は経鼻カニュラが62/146例(42.5%),マスクが43/146例(29.5%),HFNCが27/146例(18.5%), NPPVが8/146例(5.5%),IPPVが6/146例(4.1%)であった.肺癌85例と間質性肺炎22例において,死亡時に酸素投与が行われていたのはそれぞれ75/85例(88.2%)と21/22例(95.5%),投与方法は経鼻カニュラが41/75例(54.7%)と3/21例(14.3%),マスクが23/75例(30.7%)と0/21例(0%),HFNCが9/75例(12%)と10/21例(47.6%),NPPVが1/75例(1.3%)と4/21例(19.0%),IPPVが1/75例(1.3%)と4/21例(19.0%)であった.また,間質性肺炎では10/22例(45.5%)で呼吸困難に対してオピオイドの持続注射が行われていた(表2).データには示さなかったが,肺癌や誤嚥性肺炎においては間質性肺炎より高流量の酸素が必要となる割合が少なく,全身の衰弱や疾患の進行に伴い意識障害を伴う場合も多かった.一方,間質性肺炎では意識が保たれたまま高流量の酸素を要する場合が多く,HFNCを使用しても強い呼吸困難を生じるためモルヒネによる症状緩和を必要とすることが少なくなかった.症状の緩和方法は今後の検討課題と思われる.

図1

当院におけるNPPV及びHFNC使用件数

IPPV: invasive positive pressure ventilation

NPPV: non-invasive positive pressure ventilation

呼内:呼吸器内科

循内:循環器内科

図2

入院患者及び死亡患者数(2018年度,聖隷三方原病院呼吸器内科)

2018年度の聖隷三方原病院呼吸器内科の入院患者数及び死亡患者数

COPD: chronic obstructive pulmonary disease

NTM: non-tuberculous mycobacteriosis

BF: bronchofiberscopy

(BFは気管支鏡検査入院)

図3

入院中の酸素療法とHFNC・NPPV・IPPV

入院中いずれかの時点で酸素投与が行われた患者数と割合及びHFNC・NPPV・IPPVを使用した患者数と割合(重複あり)

IPPV: invasive positive pressure ventilation

NPPV: non-invasive positive pressure ventilation

HFNC: high flow nasal cannula

表2 死亡時の酸素投与の有無と酸素投与方法
死亡時の酸素投与の有無と酸素投与方法死亡時のオピオイド持続投与
死亡時酸素投与の有無酸素投与例での投与デバイス
なしありIPPVNPPVHFNCマスク経鼻カニュラ
全体(164例)18例11.0%146例89.0%6例4.1%8例5.5%27例18.5%43例29.5%62例42.5%61例37.2%
疾患毎肺癌(85例)10例11.8%75例88.2%1例1.3%1例1.3%9例12.0%23例30.7%41例54.7%49例57.6%
誤嚥性肺炎(30例)7例23.3%23例76.7%0例0.0%0例0.0%4例17.4%10例43.5%9例39.1%0例0.0%
間質性肺炎(22例)1例4.5%21例95.5%4例19.0%4例19.0%10例47.6%0例0.0%3例14.3%10例45.5%

死亡時酸素投与の有無毎の症例数及び比率

酸素投与が行われていた場合の投与デバイス毎の患者数及び比率

死亡時にオピオイドの持続投与が行われていた患者数及び比率

を記載した.

IPPV: invasive positive pressure ventilation

NPPV: non-invasive positive pressure ventilation

HFNC: high flow nasal cannula

高流量酸素投与を要した肺がん患者でのHFNC使用経験

在宅でのHFNCを考えるにあたり,示唆に富む症例を経験したため紹介する.

[症例]56歳女性.

[経過]6年前にT4N3M1a StageIVの肺腺癌と診断された.低酸素血症に対し在宅酸素療法(home oxygen therapy: HOT)が導入され,carboplatin(CBDCA)+ pemetrexed(PEM)での化学療法を4コース施行後PEM単剤での治療を外来で長期に継続していた.化学療法は有効で酸素需要は一時減少したが徐々に病勢コントロールが困難となり,3か月前からは常時 5 L/分の酸素吸入が必要となっていた.定期外来受診時に 5 L/分でもSpO2 80%程度の低酸素血症を呈するようになったため入院となった.

[入院後経過]経口モルヒネを併用しつつ,HFNC 45 L/分 FiO2 80%(飲食時:HFNC 10 L/分 FiO2 100%)でハイフローセラピーを開始したところ,SpO2は90~95%に維持され,呼吸困難の軽減が得られた.在宅療養の可能性を探るため,酸素濃縮器2台分での最大酸素流量となる 14 L/分とし,安静時はリザーバーマスク,食事中は経鼻カニュラとしたところ,安静時の酸素化は保たれHFNC使用時に苦痛を感じていた吸入気の熱感が軽減した点は快適と評価されたが,食事中のSpO2低下と呼吸苦を軽減させる流量の酸素を経鼻投与した場合には,鼻粘膜の乾燥と刺激による苦痛が問題となった.また,自宅でのハイフローセラピーの可能性も検討する目的で,空気配管を必要とせず施行可能なmyAIRVO2®を使用し,酸素流量 14 L/分でFiO2 70~80%程度とすること想定して総流量 20 L/分で試みたところ,SpO2は90%前後で維持することが可能であった.空気配管と酸素を利用したブレンダータイプのHFNCを 40 L/分の高流量で使用した場合と比較して,熱感が少ないことに加え,音が小さいことも患者さんの不快や精神的苦痛の軽減に有効であった.また,食事の際にもカヌラへの変更を要さずにいつでも経口摂取が可能で酸素化も維持されることからリザーバーマスク+経鼻カニュラの組み合わせと比べても良いと評価された.介護力の問題等もあり,自宅療養は行わなかったが,以後患者はmyAIRVO2®の使用を希望し,ベットサイドでのトイレ使用やリハビリも継続的に可能で,強い呼吸困難の訴えは無くTV鑑賞などを行いながら,穏やかに過ごすことが可能であった.入院第83病日に呼吸状態が増悪しモルヒネの持続皮下注を開始したが,翌日に亡くなる直前まで経口摂取や家族との会話も可能であった.

終末期HFNCの適応と今後の課題

良悪性を問わず,呼吸器疾患終末期の酸素療法としてHFNCの有用性は高いと考えられる.入院中には高濃度酸素を高流量で使用することも可能で,重度の低酸素血症を有する場合でもDNI・DNRの診療方針であれば終末期まで使用出来るが,患者1人あたりの酸素使用量が多くなるため,多数例が使用した場合には,病院全体の酸素使用量に占める割合の増加やコストの面で問題となる可能性が高い.また,ブレンダー型のHFNCで生じる気流音は,吸気の湿度や温度とともに患者の苦痛につながる可能性があり,使用に際し考慮すべき点と思われる.その点,myAIRBO2®は静音性の面で優れており,ブレンダー型の問題点を改善してくれる可能性があり,さらには空気配管を使用しないため在宅での使用も期待される.ただ,在宅使用時の酸素供給は酸素濃縮器に頼ることになるため高濃度の酸素投与は行えないこと,現時点では在宅での使用は保険診療上認められていないことは問題である.

以上,HFNCの終末期利用に関して報告した.まだまだ解決すべき,検討すべき課題は多いが,終末期患者の苦痛軽減・QOLの改善に寄与する可能性は高い酸素療法であり,今後さらなる経験及びエビデンスの集積が期待される.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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