日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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症例報告
運動療法と栄養療法により筋力・骨格筋量が改善した集中治療室獲得性筋力低下の一例
野々山 忠芳 重見 博子成瀬 廣亮重見 研司松峯 昭彦石塚 全
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2022 年 30 巻 3 号 p. 350-354

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要旨

症例は59歳男性.出血性ショック,敗血症となりICU入室し,人工呼吸器,PCPS,CHDF管理となった.第4病日よりリハビリテーション開始となったが,平均MRC sum scoreは1.8点であり,ICU-AWと考えられた.同日より両下肢に対する神経筋電気刺激療法を開始した.ICU退室後は離床を開始するとともに,①神経筋電気刺激療法を併用した運動療法,②タンパク質摂取量の 1.3-1.5 g/kg/dayへの設定,③HMBの摂取を開始した.その結果,MRC sum scoreの改善,四肢の骨格筋量の増加を認めた.杖歩行が可能となり第257病日に転院となった.ICU入室中は著明な筋力低下や安静度制限により積極的な運動が困難であったが,神経筋電気刺激療法により早期から筋収縮を促すことが可能であった.また,ICU退室後より運動療法と栄養療法を併用し,筋力,骨格筋量の改善が得られた.

緒言

ICU獲得性筋力低下(ICU-acquired weakness: ICU-AW)とは,ICU入室後数日以内に発症する急性,左右対称性の四肢筋力低下を呈する症候群であり,発症率はICUにおける重症患者の46%1とされる.早期リハビリテーションはICU-AW発症率を低下させる2が,発症3ヶ月以降の回復は乏しく3,長期的な身体機能障害が残存する4.発症後においても,運動療法を中核としたリハビリテーションが重要であるが,重症例では著明な筋力低下により十分な筋収縮が得られず,改善に難渋するため工夫が必要である.さらに,ICU-AWでは筋タンパクの異化亢進により著明な骨格筋量減少を認めるため運動療法とともに栄養療法も重要となるが,具体的な実施方法やICU退室後の筋力,骨格筋量の改善効果については不明である.

今回,ICU-AW発症後直ちに神経筋電気刺激療法(Neuromuscular electrical stimulation: NMES)を開始,ICU退室後よりNMESを用いた運動療法とβ-ヒドロキシ-β-メチル酪酸の摂取を含めた栄養療法を併用し,筋力,骨格筋量の改善を認めた症例を経験したので報告する.

症例

症例:59歳,男性.

既往歴および家族歴:特記事項はなし.

現病歴:落下事故にて左寛骨臼骨折と左橈骨遠位端骨折を受傷し,術中肺塞栓で心停止となった.蘇生後,血栓溶解療法後の術創部からの大量出血による出血性ショックのため手術中止,ICU緊急入室となった.急性腎不全,肺炎,敗血症を認め,挿管・人工呼吸管理,経皮的心肺補助法,持続的血液濾過透析管理が必要となった.

入室後経過(図1):第3病日に経皮的心肺補助装置より離脱し,第4病日よりリハビリテーション開始となった.開始時のRichmond Agitation-Sedation Scale 0,Critical-Care Pain Observation Tool 0点,Intensive care delirium screening checklist 0点であった.骨折部位の左手関節,左股関節,後に腓骨神経麻痺が判明した左足関節を除いた平均Medical Research Council(MRC)sum scoreは1.8点であり,ICU-AWと考えられた.著明な筋力低下や骨折による安静度制限により運動が困難であったため,同日よりNMES(ホーマーイオン社製,G-TES)を開始した.刺激部位は両下肢とし,大腿近位部もしくは腹部,大腿遠位部,両下腿遠位部にベルト式電極を装着した.刺激モードは20 Hz(5 秒 on,2 秒 off の Duty cycle)とし,刺激時間は30-40分/日,刺激強度は目視・触知にて筋収縮が確認できる程度5より開始し徐々に増大した.実施中の有害事象は認めなかった.また,栄養療法は栄養サポートチームにより計画された.Harris-Benedictの式を用い基礎エネルギー消費量 1,550 kcal,活動係数1.15,ストレス係数1.2として,エネルギー必要量 2,100 kcal,タンパク質1.2 g/kg/dayを目標とした.第4病日より経腸栄養を開始,第18病日より経口摂取を開始し,第40-60病日のエネルギー充足率は概ね90-100%となった.第11病日人工呼吸器離脱,第50病日維持透析へ移行,第58病日左寛骨臼骨折骨接合術を施行し,第59病日離床開始,第60病日ICU退室となった.ICU退室時のfunctional status score for the ICU(FSS-ICU)6点,Barthel index 10点であった.

図1

経過

リハビリテーションと栄養療法の経過,体重,C反応性蛋白,白血球,血清アルブミン,総蛋白,Barthel index,FSS-ICU,上肢・下肢の平均MRC sum score,骨格筋量変化率の経過を示す.

HMB: beta-hydroxy-beta-methylbutyrate, NMES: neuromuscular electrical stimulation, FSS-ICU: functional status score for the ICU

ICU退室後は,tilt tableや平行棒内での立位練習,歩行練習,四肢筋力トレーニングを実施した.骨盤骨折術後のため左下肢は完全免荷の立位練習より開始し(図2,左),第82病日より全荷重となった.また,NMESの刺激モードは変更しなかったが刺激強度は刺激に耐えうる強度6へ増大した.特に下肢では筋力低下が著しく関節運動を伴う自動運動はわずかに可能な状態であった.そのため,スリングで床面との摩擦を除去することで自動運動が実施しやすいよう工夫し,間欠的な電気刺激による筋収縮に合わせ,等尺性膝伸展運動,股関節内転運動を30分/日実施し(図2,右),抵抗運動が可能になるにつれ,座位での膝伸展運動,臥位でのヒップアップ運動,平行棒内スクワット運動やホリゾンタルレッグプレスを用いた下肢粗大伸展運動を実施した.また,作業療法士により上肢関節可動域運動,重錘を用いた筋力トレーニングが実施された.疾患別リハビリテーション実施単位数は4-5単位/日であった.

図2

ICU退室後のリハビリテーション

Tilt tableや平行棒内での立位練習(左),NMESの通電に合わせた運動療法(右)を継続した.

ICU退室後の栄養療法の方針は,基礎エネルギー消費量 1,528 kcal活動係数1.2,ストレス係数1.2として,エネルギー必要量 2,200 kcal,タンパク質 1.3-1.5 g/kg/dayとし,加えて,L-グルタミン 7 g,L-アルギニン 7 g,β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸 (Beta-hydroxy-beta-methylbutyrate: HMB)1.5 gを含む栄養食品(アボットジャパン株式会社,アバンド®)の摂取を1日1回実施した.食欲不振を伴いエネルギー充足率は60-80%程度で推移していたが,第150病日以降は概ね100%を達成できていた.

また,定期的に筋力,骨格筋量を測定し経過を観察した.平均MRC sum scoreに関して,第4病日では,上肢2.6点,下肢0.8点であったが,第256病日では上肢4点,下肢3.4点へ増加した.また,骨折部位である左手関節背屈は3点,左股関節屈曲2点であり,左足関節背屈は0点と改善を認めず,左腓骨神経麻痺と診断された.骨格筋量に関しては浮腫の軽減を認めた第105病日より体組成計(InBody社製,InBody S10)を用いた生体電気インピーダンス法により測定し,四肢骨格筋量から算出した四肢骨格筋指数は第105病日 6.58 kg/m2,第256病日 7.44 kg/m2であった.上肢,下肢の増加率はそれぞれ5.6%,15.6%であり,下肢でより増加していた.第256病日FSS-ICU 33点,Barthel index 90点であり,第257病日転院となった.

なお本報告に関して,患者とその家族に説明し署名にて同意を得ている.

考察

ICU-AWによる筋力・骨格筋量低下を来した症例に対し,NMESの早期導入,ICU退室後のNMESを併用した運動療法と栄養療法を実施し,筋力と骨格筋量の改善を認めた.ICU患者に対するNMES により筋力の改善を認めたこれまでの報告7,8では,コントロール群・肢での積極的離床・運動の実施はされておらず,筋力の改善を認めなかった報告9,10では,コントロール群で早期離床・運動が実施されている.本症例は骨盤骨折の再手術(第58病日)までの長期間に及ぶ離床制限が必要であったことを考慮すると,NMESの良い適応であったと考えられる.ICU-AW発症後より筋力は改善傾向であり,NMESが一助となったかもしれない.

ICU退室後は,NMESを併用した運動療法とタンパク質摂取量の設定,HMB摂取を行なった.体組成計による骨格筋量は浮腫,骨接合術の金属植え込みによる過大評価の可能性があったにも関わらず,初回測定時の骨格筋量指数はサルコペニアのカットオフ値11である 7.0 kg/m2を下回っていた.これまで,運動療法とアミノ酸やロイシンの併用によるICU退室後の患者における運動耐容能の増大12,サルコペニアにおける筋力,骨格筋量の改善について報告されている13.さらに今回補食として摂取したHMBは必須アミノ酸であるロイシンの代謝産物であり,筋合成促進,分解抑制,筋力の増加に寄与する.運動療法とHMBの併用は,気管支拡張症患者における筋力,除脂肪体重増加14,筋力トレーニング未経験者や高齢者における筋力,骨格筋量増加効果を認めており15,16,筋力・骨格筋量が低下した状態でのHMB摂取は効果的であったと考えられた.

また,本症例は重症期を過ぎ安静度制限が解除となり積極的な運動療法が実施できる状況でのタンパク質増量,HMB摂取開始となった.ICU患者へのEMSを含めた早期離床・運動とHMB併用効果をみた検討17では,重症例ではなく中等症例において筋萎縮抑制効果を認めており,回復期に入った段階からのHMB投与が効果的な可能性があると述べている.骨格筋量増強を目的とする場合,栄養療法単独では効果を認めず18,運動療法との併用はICU-AW発症後の筋力,骨格筋量の改善に寄与したと考えられた.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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