2022 年 31 巻 1 号 p. 75-78
訪問看護を利用する慢性呼吸器疾患の療養者は,高齢者が多い.さらに数年~10年以上の期間で訪問看護を利用する療養者もおり,そのプロセスの中で療養者は疾患進行以外にも加齢に伴う心身機能や在宅環境に変化が生じている.例えば,認知機能の低下,家族の介護負担,自身の状態変化を他者に発信できない自己管理能力の衰えなどである.訪問看護では,このような療養者の多様な変化に伴走しながら,療養者が望む在宅生活の継続を支援している.そのためには,多施設多職種と協働する必要があり,さらには必ずおとずれる終末期及び最期に関する支援も欠かせない.今回は,訪問看護における療養者への実際の支援を紹介する.
慢性呼吸器疾患の療養者は,最期まで病とむきあう日々であり,地域の中での継続した包括的な医療およびケアの支援体制が重要となる.訪問看護は,身体面だけでなく家族や生活環境についても把握しやすいメリットがあり,療養者の生活に合った形の医療やケアの提案や調整をしやすい立場にあると考える.また,24時間体制による増悪などの緊急時対応も行いやすい.訪問看護介入の効果には,療養者のQOLを高め1),国内では継続的な介入で入院を減らす効果2)が報告されている.
筆者が活動をしてきた訪問看護ステーションでは,慢性呼吸器疾患の療養者が,その人らしく,人間らしく過ごせるような支援を目指している.療養者の疾患は,COPDや間質性肺炎,肺結核後遺症など多様であり,使用する医療機器はHOT,NPPV,TPPVやハイフローセラピーなど高度化してきた.しかし,これらを医療や介護の質を担保したかたちで療養者に提供するためには,訪問看護だけでなく,地域内での多施設多職種とのチーム連携は欠かせない.
訪問看護を利用する療養者は,半数以上が年齢80歳以上であり,約3割が日常生活自立度が寝たきり(ランクBまたはC)の状態にある3).さらに群馬県内の訪問看護を調査したところ,COPD療養者の約8割は後期高齢者,約2割は認知症を併せもち,約8割はHOTを,約2割はNPPVを使用していた4).つまり訪問看護を使用している慢性呼吸器疾患の療養者は,疾患重症度や介護必要度が高く,医療管理や日常生活全般において他者による支援を必要とする状態であるといえる(表1).
n=138 | |||
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項目 | n | % | |
年齢 | 65-74歳 | 25 | 18.1 |
75歳以上 | 113 | 81.9 | |
認知症 | 26 | 18.8 | |
自宅独居 | 21 | 15.2 | |
介護保険の介護度注1) (n=96) | 要支援1・2 | 23 | 16.7 |
要介護1・2 | 39 | 29.3 | |
要介護3 | 15 | 10.9 | |
要介護4・5 | 18 | 13.0 | |
申請中 | 1 | 0.7 | |
介助の程度 | 寝床から一人で離れられず常に要介助 | 20 | 14.5 |
部分的に要介助 | |||
受診時以外の外出 | 81 | 58.7 | |
入浴 | 65 | 47.1 | |
更衣 | 43 | 31.2 | |
介助をうけないで外出できる | 27 | 19.6 | |
HOT | 107 | 77.5 | |
NPPV | 21 | 15.2 |
注2)文献4から一部引用.調査結果は,回答のあった群馬県の訪問看護ステーション79施設であり,2018年9月~10月時点の数値を反映している.
また療養者は,訪問看護を年単位で利用することも少なくない.訪問看護ステーションにおける2019年度に訪問した慢性呼吸器疾患の療養者(がん性疾患は除く)の訪問期間は,平均約5年(最長10年以上)である(表2).その間に訪問看護では,療養者の二つの変化を目の当たりにしている.一つの変化は,療養者が「生活の中で出来ることが増えたと実感できる」日々である.療養者および家族は,セルフマネジメント力が高まり,趣味活動や知人との交流が再開できたりするなどの変化がおこる.しかし年月の経過とともに療養者はもう一つの変化をおこす.それは,「日常生活行動や今までと同じ自己管理方法を行うことが辛い」日々である.自分のためにと信じて行ってきた自己管理方法を一つ一つ手放し,人の手を必要とすることが増えていく.訪問看護では,これらの変化をみせる療養者に対し,看護の内容も量も変えながら支援を続けており,今回はその一部を紹介する.
n=14 | ||
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療養者の背景 | n | |
平均利用月数±SD(中央値) | 62.5±41.4(48) | |
平均年齢±SD(中央値) | 訪問開始時 | 77.1±4.9(76) |
2019年時 | 82.2±3.5(82) | |
介護保険(n=10) | 介護度アップ | 5 |
介護度変化なし | 3 | |
介護度ダウン | 2 | |
HOT | 導入または酸素流量増 | 7 |
流量変化なし | 5 | |
使用なし | 2 | |
NPPV | 開始時から使用 | 3 |
導入 | 4 | |
使用なし | 7 | |
1年以内の入院経験 | 増悪を理由 | 1 |
併存疾患を理由 | 3 | |
CAT(n=死亡3名) | 0~4 | 1 |
5~9 | 1 | |
10以上 | 1 |
注)対象は,2019年度に当ステーションで訪問した療養者.
慢性呼吸器疾患療養者は,MCI(軽度認知障害)や認知機能低下のリスクが報告されている5,6).さらに認知症は,加齢そのものもリスクであり,2025年には65歳以上人口の約20%を占めると予測されている7).訪問看護では,「HOTの操作やNPPVの使用法を忘れる」「酸素ルートを切る」「外来受診日を忘れる」「昔の習慣を優先して真夏でも冷房を切る」など,一人では健康も生活も維持することが難しい療養者に出会う.
このような療養者に対して訪問看護では,まずは認知機能をアセスメントすることが必要と考える.ある療養者は,服薬カレンダーを使って薬の自己管理を行ってきたが,飲み忘れや過剰服薬をおこすようになっていた.短期記憶障害と時間に対する見当識障害が潜んでいたことがわかり,療養者は服薬カレンダーに記載された「曜日」や「時間帯」をみても,今が服薬の時間だと理解と判断ができない状態であった.
このような療養者に対して訪問看護ができるケアの工夫には,多職種との協働があげられる.服薬管理は介護職と協働し,吸入手技時は薬剤師らと声かけの方法を統一することを心がける.ただし,管理方法を変更したりすることは,認知症の療養者からは,いつもと違う家の光景になり,周りが変えた変化に適応できず混乱しやすい.そのため支援者全員が,ケア方法変更後の療養者の様子を確認し,新しい生活様式に馴染むようなフォローをする必要がある.
2. 家族の高齢化と介護負担の増加療養者の変化や衰えとともに,家族の介護量は増えていく.しかし家族もまた療養者と同じように年齢を重ねている存在である.当訪問看護ステーションでは,同居家族が高齢配偶者のみであることも多い.主介護者の家族の体調不良や入院によって,療養者が脱水や増悪などの状態変化を起こすこともあった.そのため訪問看護では,療養者のいない場所で家族の話を傾聴したり,家族の代わりに入浴や更衣の介助などの直接的ケアを行ったり,家族の負担が軽減できるような介護サービス等へつないだりなど,積極的に家族支援を行う必要がある.
また訪問看護では,家族の体調不良や不在時に備えた場合を想定した体制を構築する視点も必要と考える.療養者は,家族や親類・知人などのサポートを必ずしも得られるとは限らない.そのため訪問看護では,ケアマネジャーに相談しながら,介護保険申請や利用できるサービスを予め紹介をしている.しかし,NPPVなど医療機器を使用している療養者は,地域によっては夜間看護師不在等の理由のためショートステイ(短期入所)先を見つけることに難渋する課題がある.
3. 自ら状態の変化に気づく・発信する力の衰え医療職が24時間傍にいる環境ではないことは,病院と在宅の違いである(家族が医療者,看護師常駐の高齢者施設は除く).そのため在宅の療養者は,自分自身で状態変化に気付き,医療にアクセスする行動が求められる.その変化の気づきと行動を促す手段の一部として,私たちはセルフモニタリングやアクションプラン(行動計画)を使用している.セルフモニタリングは,療養者が自らの体を客観的に把握できるので,その人用の日誌を作成している.またアクションプランは,療養者がどのような行動をとったらよいかという指標となる.これらを取り入れることで,療養者の増悪時の入院回避に繋がった8).しかしながら,全ての療養者が自立してこれらのセルフマネジメント技術を実施できるわけではない.認知機能低下や終末期などの変化に伴い,記録で埋まっていた日誌が白紙になる,緊急時の電話連絡や判断ができなくなるなど,自らの体調変化を発信できなくなる療養者もいる.
そのため訪問看護では,家族や訪問・通所サービスとの連携を心がけることが大切である.担当者会議や日々の電話やICT(情報通信技術)で連絡を取り合い,療養者の観察するポイントを具体化し,皆でノートに記録していく.アクションプランは,部屋に貼ったりデイサービスへ持っていたり,療養者以外も含めた共有ツールとすることもある.しかし在宅サービスは,経済的事情や介護保険制度の上限額の理由で,サービスの量または回数で補うだけでは限界がある.家族や在宅サービス以外の介護者がいない場合,住む場所の意思決定を行う必要がある.
4. 最期にむけた意図した調整とエンドオブライフケア療養者が終末期及び急性的な変化をおこした時,療養者や家族は「そんなに悪かったのか」という言葉を発することがある.そのたびに私たちは,療養者や家族が終末期及び最期に近づいていると認識していたのか,そして療養者や家族の思いを汲み取って最期に向けた意図した関わりと体制づくりをしていたか,ということを痛感させられる.
慢性呼吸器疾患の療養者の記録を振り返った時,療養者には入院に至る急性的な変化はなくても,生活の中では徐々にゆったりとした変化が起こっていることがある.例えば,非増悪時のCAT(COPDアセスメントテスト)スコア(表2)及び修正Borgスケール値の上昇などの数値上の変化,荒れた庭などの生活の光景の変化である.従って訪問看護では,評価スケールを用いて,客観的な数値で療養者の評価を積み重ねることが重要である.さらに,家族や介護職らがもつ食事摂取量など生活に密着した情報を統合させ,在宅での療養者の身体状況および生活全体の変化を把握する役割があると考える.そして,その情報を病院および医師へ発信し,療養者の終末期判断や今後おこりうるプロセスの検討など,医療的な判断材料につながるように努めている.
この先を予想する作業は,いざという時に必要な医療を提供できるような在宅療養環境を予め整えておくためにも必要と考える.在宅で療養者の終末期を見据えた時,訪問診療や訪問による麻薬管理可能な調剤薬局などの存在は欠かせない.しかしこれらが療養者の住む近隣地域に存在しない理由などから,多施設多職種をさがす・つなぐことに時間を要するケースもある.そのため,今必要だけではなく今後の可能性を想定しながら在宅療養環境の調整を進めるようにしている.
また,療養者と家族の終末期や今後の病気の過程の認識という点では,モニタリング日誌など状態を見える化した媒体も活用した状態共有とコミュニケーションの積み重ねを心がけている.さらに療養者が一人で外来受診している場合,外来での医師からの説明や検査結果を把握しやすいよう,家族にはできる範囲での受診同行の提案も行っている.
日本看護協会は訪問看護の倍増策の推進を9),国は機能強化型ステーションに対する加算評価を実施しており,在宅医療推進のために訪問看護に関連する施策・政策は活発化している.しかし訪問看護ステーションという組織を見た時,病院など関連・併設施設がない(単独型訪問看護ステーション),看護師以外の職種がいない,などの背景をもつ事業所も珍しくない.自己や組織としてスキルアップをしたい時,専門的な研修が組織内で企画できるとは限らず,組織外でも訪問看護対象に特化した研修も少ない現状である.
私たちの訪問看護ステーションも単独型であり,非がん疾患への麻薬管理や看取り,新しい人工呼吸器導入など,初めての経験の積み重ねの連続である.そのたびに私たちは,事業所内での職員間協働に加え,事業所外の多施設多職種との継続的な関わりに助けられてきた.今後,どの訪問看護ステーションにおいても,高齢化に伴う様々な背景をもつ呼吸器疾患の療養者と出会うことになる.地域には,呼吸器疾患や他分野の専門・認定看護師,あるいは資格に関係なく様々な経験をもつ訪問看護ステーションや多施設多職種が存在している.地域内の人と施設が継続的につながり,相談支援体制が活発になる地域づくりもますます必要になると考える.
当ステーションでは,群馬県訪問看護事業所支援事業の担当支援ステーション10)として,ともに活動してきた前橋市の呼吸ケア研究会の協力を得ながら,座学形式やシミュレーター活用による実技形式など,訪問看護を対象とした研修会開催なども行ってきた.今後も訪問看護として療養者及び地域医療に貢献できるよう努めていきたい.
いつも助けてくださっている前橋の呼吸ケア研究会の皆様,地域の皆様に感謝申し上げます.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.