2023 年 31 巻 2 号 p. 208-214
間質性肺炎では,労作時に著明な低酸素血症を呈することが多く,6分間歩行試験等でその実態を明らかにすることは大変重要である.また,急性増悪時には高度の呼吸不全を呈するため,使用法が簡便かつ患者の不快が少ない高流量鼻カニュラ療法が主流となっている.
間質性肺炎は,労作時の呼吸困難による身体機能低下がディコンディショニングをもたらすため,呼吸リハビリテーションは改善効果が期待できる.特に顕著な胸郭の運動制限を認める上葉優位型肺線維症患者では,コンディショニングおよび低負荷から継続可能な運動療法を施行することが重要である.また,急性増悪合併時には,大量のステロイド投与などによる筋力低下や呼吸機能障害をのこす可能性が高いことから,早期からの呼吸リハビリテーションが必要となる.
そこで今回,間質性肺炎患者に対する急性期および慢性期の酸素療法および呼吸リハビリテーションの現状と課題について述べたい.
間質性肺炎には,慢性かつ進行性に線維化病変が悪化していく一群が存在し,なかでも特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis; IPF)は,最終的に不可逆的な蜂巣肺を形成し,高度の拘束性換気障害および肺拡散能障害を呈する予後不良な疾患である1).運動時に著明な低酸素血症を呈することが多く,労作時の呼吸困難による身体機能低下がディコンディショニングをもたらし,運動耐容能の減少,健康関連生活の質(health-related quality of life; HRQoL)の低下,不安やうつ状態に繋がると考えられる2).
間質性肺炎の急性あるいは慢性の悪化時に,適切なタイミングで酸素療法を導入することは,患者の自覚症状の改善のみならず,全身臓器の低酸素血症によりもたらされる悪影響を是正する意味も大きい.一方,呼吸リハビリテーション(以下,呼吸リハ)は,コクランレビューでも証明されたように,運動耐容能,呼吸困難,HRQoLを改善し,IPFに限定しても同様の短期効果は認められている3).間質性肺炎患者に対して,これら酸素療法ならびに呼吸リハを行う際に,医師のほか,看護師,理学療法士,作業療法士,栄養士,歯科衛生士らとの多職種連携が必要不可欠である.多職種での定期的なミーティングを行うことにより,間質性肺炎の種類別による特徴や重症度,患者の性格,生活環境,家族構成などを共有することができる.さらに終末期の患者においては,緩和ケアを同時に提供することにより,無理のない介入が行われている.したがって,今後は患者一人一人の間質性肺炎の種類,重症度,介入時期,合併症などに合わせた最適な呼吸リハプログラムの普及が求められる.
1. 間質性肺炎診療における診断の流れ間質性肺炎は「間質」と呼ばれる肺胞壁で,繰り返す肺胞上皮細胞傷害と異常な創傷治癒が生じ,線維化を形成する疾患の総称である1).労作時の息切れや乾性咳嗽に加えて,聴診上,背下部で吸気終末時の捻髪音(fine crackles)を聴取した場合や,胸部X線で間質性陰影や肺容積減少などを認めた際は,間質性肺炎を鑑別疾患に入れる必要がある.間質性肺炎の原因としては,自己免疫性疾患(膠原病),主に職業性に長期間の粉塵吸入により生じる塵肺,真菌の胞子や鳥の排泄物などの有機粉塵が抗原となって起こる過敏性肺炎,各種薬剤により惹起される薬剤性肺炎,サルコイドーシスなどの全身性疾患に合併して発症するものなどがあげられる.一方で,原因が特定できないものも存在し,それらを特発性間質性肺炎(IIPs)と呼び,2013年のATS/ERSによるIIPs改訂国際新分類では,主なIIPsとして6型,まれなIIPsとしてpleuroparenchymal fibroelastosis(上葉優位型肺線維症),特発性リンパ球性間質性肺炎の2型,さらに分類不能型IIPsを加え計9型に分けられた4).その中で最も患者数が多いのが特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis; IPF)であり,慢性かつ進行性の臨床経過を辿り,最終段階で不可逆的な蜂巣肺を形成するもので,呼吸機能検査では拘束性換気障害および肺拡散能障害を呈する.患者は数年から数十年以上かけて緩徐に進行していくものや,急速に進行していくもの,さらには経過中に急性増悪を含む増悪を繰り返し,進行性に悪化するものなどがみられる1).診断において高分解能CT(high resolution computed tomography; HRCT)は,線維化病変の質や肺全体の分布を把握することができるため,診断上必須の検査である.本邦の診断手順(図1)を参考に検査を行うことにより,早期診断,早期治療につながる5).その際に間質性肺炎の診断に精通した臨床医,放射線画像診断医,病理医による集学的協議(multidisciplinary discussion; MDD)が重要とされている.さらに,2018年に発表されたIPF診断の国際ガイドライン6)では,胸部HRCT画像パターンによってUIP(典型的なUIP),Probable UIP(UIPの可能性が高い),Indeterminate for UIP(UIPと断定できない),Alternative Diagnosis(他疾患が考えられる)の4つに区分され,最近,一部改訂された(表1)7).上述のUIPおよびProbable UIPパターンでは,臨床的にIPFと診断されることが多い.また,この最新のIPFガイドライン7)では,経気管支クライオ肺生検を外科的肺生検の代替検査として条件付きで容認された.しかしながら,このような診断プロセスはすべての施設で行えるものではなく,IPFの最終診断の精度を高めるためにもできるだけ速やかに専門医に相談,紹介するべきである.
間質性肺炎の診断フローチャート
(「日本呼吸器学会 びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編:特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 2022,改訂第4版,p.5-6,2022,南江堂」より引用改変)
UIP(≥90%) | Probable UIP (70-89%) (可能性が高い) | Indeterminate for UIP (51-69%) (確定できない) | Alternative Diagnosis (50%≥) (他の診断) | |
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分布 | ・胸膜直下および肺底部優位 ・多くは分布が不均一(正常領域と線維化所見が混在) ・しばしばびまん性分布 ・片側性分布もあり得る | ・胸膜直下および肺底部優位 ・多くは分布が不均一(正常領域と牽引性気管支拡張もしくは細気管支拡張を伴う網状病変が混在) | ・胸膜直下優位でないびまん性分布 | ・胸膜直下をスペアする気管支血管周囲優位⇒NSIP ・リンパ管周囲優位⇒サルコイドーシス ・上・中葉優位⇒Fibrotic HP, CTD-ILD, サルコイドーシス ・胸膜直下をスペア⇒NSIP,喫煙関連 |
CT所見 | ・蜂巣肺±牽引性気管支拡張もしくは細気管支拡張 ・小葉間隔壁の不規則な肥厚 ・多くが網状病変と軽度のGGOを伴う ・肺内骨化を伴う場合もある | ・牽引性気管支拡張もしくは細気管支拡張を伴う網状病変 ・軽度のGGOを伴う場合もある ・胸膜直下をスペアする病変の欠如 | ・原因を特定できない線維化を示すCT所見と分布 | ・嚢胞⇒LAM, PLCH, LIP, DIP ・Mosaic attenuation or three-density sign⇒HP ・広範なGGO⇒HP, 喫煙関連, 薬剤, 間質性肺炎急性増悪 ・多数の小葉中心性結節⇒HP, 喫煙関連 ・結節⇒サルコイドーシス ・コンソリデーション⇒OP ・胸膜プラーク⇒アスベスト肺 ・食道拡張⇒CTD |
IPF; idiopathic pulmonary fibrosis, HRCT; high-resolution computed tomography, UIP; usual interstitial pneumonia, NSIP; non-specific interstitial pneumonia, GGO; ground glass opacity, HP; hypersensitivity pneumonia, CTD-ILD; connective tissue disease-interstitial lung disease, LAM; lymphangioleiomyomatosis, PLCH; pulmonary Langerhans cell histiocytosis, LIP; lymphocytic interstitial pneumonia, DIP; desquamative interstitial pneumonia, OP; organizing pneumonia
間質性肺炎の酸素流量に関して,過去にも報告しているように安静時および就寝時に1 L程度,一方で労作時には3 L以上の流量が必要になる8).また重症度が上がるほど酸素流量もかなりの高流量となる.当科で2020年1月から2021年9月までに在宅酸素療法(home oxygen therapy; HOT)を導入された85例を対象に,安静時・労作時・就寝時の酸素処方量を検討したところ,安静時および就寝時は酸素投与が不要な症例が最も多かったが,労作時は3 Lの使用率が27.1%と最多で,5 L以上必要な患者も34.1%存在した(図2).このことから間質性肺炎の重症例では,大型の酸素濃縮器設置,十分な携帯用酸素補充,オープンフェイスマスクの使用等が必要となる.実際に終末期や急性増悪後に大きな呼吸機能障害をのこした症例では,更なる高流量の酸素療法が必要となる場合があり,最近では,在宅での高流量鼻カニュラ(High-flow nasal cannula; HFNC)療法も試みられている.
在宅酸素療法を導入された間質性肺炎85例における酸素流量の内訳
当院では2017年以降,IPFの急性増悪患者におけるHFNC導入下での呼吸リハを積極的に行っている.その理由としては,大量のステロイド薬を使用することにより,先にも触れたように筋萎縮,筋力低下が急速に進行してしまい,たとえ急性増悪の極期から回復しても,その後の長期入院が強いられ,不可逆的な筋力低下を引き起こしてしまう可能性があるためである.呼吸リハ介入時は,できるだけSpO2 90%を維持,脈拍数の急激な上昇を防ぐように負荷量の調整を行い,コンディショニング中心に可能であれば起立練習や自転車エルゴメーターを実施している(図3,4).それにより,HFNC離脱後より早期に歩行練習の実施が可能となり,ADLの低下予防や入院期間短縮に影響を及ぼしているものと考えられる.
IPF急性増悪時におけるベッドサイドでの自転車エルゴメーターの実施風景
HFNC導入下での自転車エルゴメーター実施によるSpO2と脈拍の変動
しかしながら,急性増悪にも重症度の差があり,上述のような呼吸リハを導入することさえも困難な場合がある.以上のことから,慢性期同様,急性期(急性増悪時)においても,比較的軽症かつ安定している間質性肺炎患者においては,呼吸リハは呼吸困難感,運動耐容能,HRQoLなどの点において一定の改善が得られるものの,一方で重症例における効果には個人差があり,限定的かつ乏しい傾向にあるため,今後,新たな介入方法を検討する必要があると考えられた.
4. 慢性期の間質性肺炎患者に対する呼吸リハの適応と限界間質性肺炎において,持続的な労作時あるいは安静時の呼吸困難や低酸素血症が,患者のHRQoL,身体活動性などを著明に低下させる9,10,11).呼吸リハは,こうした呼吸困難感やHRQoLの悪化,身体活動性の低下に有効であるとする報告も散見される12,13,14).特に,上葉優位型肺線維症のように高度に胸郭の筋緊張亢進や運動制限がみられる患者では,上部胸郭のリラクセーションや口すぼめ呼吸や腹式呼吸などの呼吸練習,徒手的アプローチとして行った呼吸介助法などのコンディショニングを行い,呼吸困難の軽減を図る必要性がある.我々はこれまでに上葉優位型肺線維症患者に2週間の入院呼吸リハおよび退院後月1回の外来呼吸リハを導入してきた.呼吸リハの内容は,コンディショニング,呼吸練習,呼吸体操,低負荷の上下肢筋力増強運動,歩行練習,全身持久力トレーンング,患者教育(自主トレーニング表を配布),HOT教育,労作時の呼吸法指導を行ったが,臨床的に有効性が明らかであった症例では,表2に示すように6分間歩行距離の延長,HRQoL関連の改善,筋肉量の増加を認めた.
リハビリ評価項目 | 初回 | 外来通院時 | |
---|---|---|---|
6MWT | 歩行距離(m) | 227 | 387 |
最低SpO2(%) | 73 | 74 | |
修正Borg scale | 4 | 4 | |
mMRC(グレード) | 3 | 2 | |
SGRQ | 症状 | 43.0 | 50.5 |
活動性 | 68.0 | 62.3 | |
衝撃 | 31.0 | 18.7 | |
合計 | 45.0 | 38.7 | |
CAT | スコア | 2/1/4/4/4/4/2/3=24 | 1/0/2/2/2/3/1/1=12 |
HADS | 不安/抑うつ =合計 | 8/10=18 | 4/11=15 |
筋力 | 下肢筋力(R/L)kgf | 14.5/10.8 | 12.4/12.6 |
握力(R/L)kg | 21.5/20.9 | 20.4/19.4 | |
NRADL | 動作速度 | 9 | 19 |
呼吸困難 | 10 | 19 | |
酸素流量 | 30 | 9 | |
連続歩行距離 | 4 | 8 | |
合計 | 53 | 56 | |
呼吸数(回/分) | 30 | 15 | |
筋肉量(kg) | 28.3 | 30.3 | |
体重(kg) | 33.4 | 34.6 | |
BMI(kg/m2) | 13.0 | 13.4 |
しかしながら,間質性肺炎は様々な臨床経過を辿ることで知られており,比較的安定しているものや経過中に進行性に悪化するものまで多様である.そのため,呼吸リハ効果は,介入時の患者の状況に大きく影響を受けるため,一定期間に統一した効果判定が困難な場合が多い.また,重症例では呼吸困難感が強くなり,運動療法による低酸素血症がさらに症状を悪化させることにより,十分な呼吸リハの効果を得る前に継続を断念することがしばしば経験される15).さらに,間質性性肺炎患者の中には,ステロイド薬を使用しているものも多く,これによる骨格筋障害(筋萎縮,筋力低下)の合併も運動療法の効果を減弱させてしまう要因の一つと考えられる16).したがって,我々は間質性肺炎の呼吸リハ時において,できるだけ十分な酸素投与を行いながら,低負荷からの筋力増強運動,歩行訓練などを中心にできるだけ継続的に行えるように心がけている.
5. 緩和期の間質性肺炎患者に対する呼吸リハと緩和ケア介入の試み間質性肺炎患者にとって,呼吸困難は最も耐えがたい症状の一つであり,その症状緩和は極めて重要となる.間質性肺炎や慢性閉塞性肺疾患などの非がんの呼吸器疾患患者における呼吸困難に対する症状緩和目的のモルヒネ投与の有効性を示す報告も散見されるが17,18,19),未だ一定の見解は得られておらず質の高いエビデンスは存在しない.しかしながらわが国では,モルヒネは「激しい咳嗽発作における鎮咳」への適用は認められているものの,非がんの呼吸器疾患における呼吸困難に対して保険適用となっていない.そのため,「非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針2021」において,オピオイドは,適切な標準治療を実施しても十分に緩和できない呼吸困難に対する治療の選択肢として言及されている20).
当院では2020年10月以降,進行期の間質性肺炎患者を中心に緩和ケアの介入を行っている.薬物療法としては,モルヒネに加え,抗不安薬を導入することによって,短期的な呼吸困難感やADLの改善が得られた(図5).一方で倦怠感や眠気などの副作用の出現のため,モルヒネの減量を要した症例もあったが,重篤な有害事象は認められなかった.オピオイド,特にモルヒネ使用に際しては,処方医がその使用方法や有害事象に関して習熟していると共に,呼吸困難の要因に対する標準治療が実施されていること,患者本人・患者家族への十分な説明と同意を得ていること,投与開始後の効果や副作用が適切に評価されることなどが求められる.
当院の緩和ケアにおける薬物治療プロトコール
緩和期の間質性肺炎患者に対する呼吸リハは,患者および家族の希望を基にゴール(自宅退院,施設や他病院への転院,院内での看取り)を設定し,症状緩和を優先にコンディショニングや残存機能でのADL拡大を目指した.その際に呼吸リハの身体的アプローチには限界があるため,多職種連携による包括的リハビリテーション(以下,包括的リハ)の介入が重要となる.薬物療法,酸素療法に加えて,栄養療法や精神的サポートなども行い,患者だけでなく家族にも積極的に働きかけ,患者の自立した生活を支援していく必要がある.
IPFに対する薬物治療として抗線維化薬の有効性が示されているが,その効果は疾患進行を遅らせるにとどまり限定的である.そのため,薬物療法に加えて酸素療法や呼吸リハあるいは緩和ケアの介入が求められる.これらを包括的にまとめていくためには,多職種連携が必要不可欠であり,様々な情報を共有することにより,急性期から慢性期(緩和期)まで時期を問わず,個々の患者に最適な診療介入を行うことが可能になると考える.
杉野圭史;講演料(日本ベーリンガーインゲルハイム)