日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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原著
身体活動性の指導と定期評価を実施しているCOPD患者のCOVID-19流行の影響
小野 央人小林 武史村上 知征高橋 識至
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2023 年 31 巻 2 号 p. 245-251

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要旨

【目的】身体活動性の定期評価と身体活動性向上のための指導を行っているCOPD患者へのCOVID-19流行の影響を明らかにする.

【対象と方法】身体活動性の評価と指導を定期的に行っている安定期COPD患者42名(男性37名,平均年齢74.5±8.8歳)を対象とし,COVID-19流行前(2019年4月~2020年1月)と流行下(2020年2月~2021年2月)の身体活動量を比較した.また,定期評価月別の平均歩数の推移をCOVID-19流行前から流行下にかけて分析した.

【結果】COVID-19流行前と流行下を比較して身体活動量に有意な変化はなかった.2020年3・4月においては,6ヵ月前と比較して平均歩数が減少していたが,6ヵ月後には流行前の水準に回復した.

【考察】COPD患者において,COVID-19流行下に身体活動性の評価と指導を定期的に行うことで身体活動量の低下を抑制できた可能性がある.

緒言

2020年初頭から新型コロナウイルス感染症(以下:COVID-19)が全世界的に流行し,各国で様々な感染拡大予防策が講じられている.本邦では2020年1月16日に国内で初の感染者が確認された後,2~3月からCOVID-19の新規感染者が増加し,2020年4月7日に7都道府県で緊急事態宣言が発令され,その後4月16日に全国に拡大された1.2019年11月から2020年10月の期間を対象に,COVID-19流行前とCOVID-19によるロックダウン中の身体活動に関する文献を調査したシステマティックレビューでは,適格基準を満たした66の論文の内64の論文で身体活動量が減少していたことが明らかとなった2.本邦でもCOVID-19の感染拡大による活動自粛要請に伴い,地域在住高齢者などにおいて身体活動の低下が報告されている3,4,5,6.COVID-19流行下での身体活動量の低下は世界的に懸念されており7,様々な身体的及び精神的な不利益を被る可能性がある.慢性閉塞性肺疾患(以下:COPD)患者において身体活動量が生命予後に強く影響することが一般的に知られているが8,COVID-19の流行下におけるCOPD患者の身体活動量を明らかにした報告は見当たらない.当院では慢性呼吸器疾患患者に対し,身体活動性向上に重点を置いた指導を実施しており9,身体活動量をはじめとした臨床的に重要な評価項目を定期的に評価している(以下:定期評価).また定期評価後に,身体活動量も含めた評価結果をフィードバックして,再指導も併せて行っている.COVID-19の感染拡大による外来診療制限のため,2020年4月途中から5月まで定期評価は中断したが,それ以降は感染対策を行いながら定期評価を実施した.

本研究は,身体活動性の指導と定期評価を行ったCOPD患者におけるCOVID-19流行下での身体活動量への影響と,身体活動量が低下した患者の特徴を明らかにすることを目的として実施した.

対象と方法

1. 研究デザイン

単一施設での患者を対象とした侵襲を伴わない後ろ向き観察研究とした.

2. 研究対象者

2019年4月から2021年2月に東北医科薬科大学若林病院呼吸器内科外来にCOPDの診断で通院し,6ヵ月毎に定期評価を行っている安定期COPD患者68名とした.なお,68名には全例身体活動性向上の指導を行っていた.定期評価は原則6ヵ月毎に実施しているが,COVID-19の感染拡大による診療制限や1日の診療能力の限界などの理由で定期評価月がずれ込むことがあり,その場合は翌月に実施した.

除外基準は,①定期評価時に急性増悪を認めた患者(過去1ヵ月以内),②身体活動量のデータを適切に取得できなかった患者,③他疾患の悪化やADLに支障をきたす何らかのイベントなどがあり定期評価を継続できなかった患者,④歩行が困難な患者,⑤重度の認知症がある患者とした.本研究に使用するデータの収集は電子カルテ及び診療録から行った.

3. 身体活動性の指導

身体活動性の共通する指導方針として,身体活動性向上の重要性を指導した上で,歩数目標の設定,自主トレーニングの指導,家事などの歩数に表れにくい身体活動などを励行し,各患者の生活スタイルや習慣を考慮し身体活動量を維持,向上できることを目標に指導した.指導頻度は,身体活動量が不十分または低下傾向にあると判断された患者に対しては,週数回~月1回程度の頻度でリハビリ通院してもらい,上記の指導を繰り返した.身体活動量が十分と判断され長期間維持または改善している患者は月1回~数ヵ月に1回の診察時,もしくは定期評価時のみの指導とした.本研究の対象者の中には療養日誌を活用している患者が43名おり,これらの患者に対しては療養日誌に記載している歩数などの記録も参考にして指導した.

4. 倫理的配慮

本研究は東北医科薬科医大学若林病院倫理委員会で承認を受けた(承認番号:2021-1-003).既存の情報のみを用い,研究についての情報を研究対象者に公開(病院内に掲示)し,研究が実施されることについて研究対象者が拒否できる機会を保障したうえで実施した.

5. 評価項目

1) 患者一般情報

患者一般情報として,性別,年齢,体格指数(以下:BMI),COPDの病期分類,併存疾患,修正MRC息切れスケール(以下:mMRC),在宅酸素療法(以下:HOT)使用の有無,服薬状況を収集した.

2) 身体活動量

身体活動量計Active Style Pro HJA-750C(オムロンヘルスケア,京都)を使用し,1日あたりの平均歩数,座位行動時間(1.0~1.5 METs),1.6~1.9 METsの身体活動時間,2.0~2.9 METsの身体活動時間,3 METs以上の身体活動時間を計測した.身体活動量のデータは,天候,休日,季節などの影響を考慮し,雨天,休日(有職者のみ),平均気温が2.5°C未満または27.0°C以上の日を除き,1日8時間以上,3日以上の装着記録を抽出条件とした10,11,12,13

3) 呼吸機能

呼吸機能検査はCHESTAC-8800(チェスト,東京)を使用し,測定は呼吸機能検査ガイドラインを基に実施した.VC,FVC,FEV1については2001年呼吸器学会,DLCOはCotesによる予測式を用いた.

4) ADL

疾患特異的ADL評価のThe Nagasaki University Respiratory ADL questionnaire(以下:NRADL)を使用し包括的にADLを評価した.

5) QOL

COPD Assessment test(以下:CAT)を使用し評価した.

6) 運動耐容能

米国胸部学会(American Thoracic Society:ATS)に準じて6分間歩行試験を施行し,6分間歩行距離(以下:6MWD)を評価した.

7) 体組成

生体インピーダンス測定器はInBody S10(インボディ・ジャパン,東京)を使用し,四肢骨格筋指数(以下:SMI),位相角を評価した.

6. 統計解析

カテゴリー変数は度数と割合で示した.連続変数は正規分布している場合は平均値と標準偏差で,正規分布していない場合は中央値と四分位範囲で記載した.データの正規分布の適合度検定は,Shapiro-Wilk検定を行った.全ての解析は,両側検定で有意水準は5%とした.統計解析ソフトはSPSS Statistics ver.24(IBM,USA)を使用した.

1) COVID-19流行前とCOVID-19流行下の身体活動量の比較

全対象者68名の中から,除外基準に該当した患者を除外した42名のCOVID-19流行前(2019年8月~2020年1月)とCOVID-19流行下(2020年2月~2020年7月)の身体活動量を比較した.それぞれの身体活動量の指標は,正規分布している場合は対応のあるt検定,正規分布していない場合はWilcoxonの符号順位和検定を用いて比較した.

2) COVID-19流行前から流行下にかけての平均歩数の推移

2020年1月~7月に定期評価を行い,前後6ヵ月の平均歩数のデータがあった患者を月別に分類した.その後,各定期評価月の6ヵ月前,定期評価月,定期評価月の6ヵ月後の平均歩数を比較した.統計解析手法は反復測定分散分析を行った後にBonferroni法で調整した多重比較検定を使用した.

3) 歩数低下群と歩数維持群における背景データの比較

COVID-19流行前と比較してCOVID-19流行下で平均歩数が低下した患者を歩数低下群,平均歩数が低下していない患者を歩数維持群に分類した.その後,各調査項目の連続変数が正規分布している場合には2標本t検定,正規分布していない場合にはMann-WhitneyのU検定を用いて比較した.

結果

1. 背景データ(表1

全対象者42名及び各定期評価月群の背景データを表1に示す.COVID-19流行による診療制限のため,2020年4月の途中より5月まで定期評価は実施されず,月別定期評価実施数は1月が8名,2月が6名,3月が8名,4月が1名,5月が0名,6月が15名,7月が12名であった.2020年1月に定期評価を行った患者が6月群に1名,7月群に7名と一部重複しているため,1月群~7月群の合計(50名)と全対象者数(42名)が異なっている.対象者42名の平均年齢は74.5±8.8歳,男性は37名(88.1%),HOTを行っている患者は1名(2.4%),COPD病期分類はI/II/III/IV:7/26/7/2名であった.

表1 患者背景:評価6ヵ月前(COVID-19流行前)のデータ
定期評価月全体1月2月3・4月6月7月
n42868・11512
年齢(歳)74.5±8.872.0±5.967.8±9.578.0±8.877.9±6.871.0±8.2
男性,n(%)37(88.1)6(75.0)5(83.3)8(88.8)14(93.3)9(75.0)
BMI(kg/m222.4±3.021.2±2.423.4±4.021.5±3.623.1±2.422.0±2.6
HOT,n(%)1(2.4)00001(8.3)
COPDの病期分類(I/II/III/IV),n7/26/7/20/5/2/11/4/1/01/6/1/14/8/3/01/8/2/1
修正MRC息切れスケール(0/1/2/3/4),n9/15/14/42/2/3/1/01/4/1/0/01/3/4/1/03/5/6/14/3/3/2
併存症
気管支喘息,n(%)20(47.6)3(37.5)3(50.0)4(44.4)8(53.3)5(41.6)
慢性心不全,n(%)2(4.8)0001(6.6)1(8.3)
冠動脈疾患,n(%)5(11.9)01(16.6)3(33.3)1(6.6)0
脳卒中,n(%)3(7.1)01(16.6)02(13.3)0
糖尿病,n(%)8(19.0)1(12.5)03(33.3)4(26.6)1(8.3)
高血圧症,n(%)30(71.4)5(62.5)5(83.3)7(77.7)10(66.6)8(66.6)
脂質異常症,n(%)21(50.0)4(50)1(16.6)5(55.5)8(53.3)7(58.3)
呼吸機能
VC(L)3.1±0.72.9±0.73.5±0.72.7±0.73.1±0.73.1±0.6
%VC(%)94.2±15.891.7±15.196.1±10.388.9±17.096.4±17.994.3±15.1
FEV1(L)1.5±0.61.3±0.31.9±0.71.2±0.41.7±0.61.5±0.4
%FEV1(%)62.0±18.353.7±13.765.3±13.954.2±19.468.6±19.858.0±15.8
FEV1/FVC(%)52.2±11.446.5±13.356.6±9.248.2±8.655.2±11.749.3±13.2
FVC(L)2.9±0.72.8±0.73.3±0.62.5±0.83.0±0.82.9±0.6
%FVC(%)93.4±18.592.0±17.093.0±9.486.3±22.897.4±19.593.8±17.7
IC(L)2.2±0.62.1±0.52.3±0.71.9±0.42.3±0.62.2±0.5
DLco(ml/min/mmHg)8.4
[5.8~11.3]
8.1±3.512.8±7.07.6±3.98.8±3.98.9±5.2
%DLco(%)44.2±18.341.7±18.852.0±22.440.0±16.645.0±15.842.3±21.2
身体活動量
(COVID-19流行前)
平均歩数(歩/日)3,350
[1,798~5,896]
5,359±3,6635,881±4,1942,656±1,8424,520±3,0025,060±3,342
1.0~1.5 METs(分/日)394
[331~468]
476±147453±178470±137403±148403±102
1.6~1.9 METs(分/日)98±3294±29113±5195±3696±2499±25
2.0~2.9 METs(分/日)139±55141±71129±67136±58137±47158±61
3 METs以上(分/日)48[23~76]61±3356±3536±2751±3360±32
装着時間(分/日)676
[603~780]
771±130751±139737±151687±138720±81
評価日数(日)16±711±314±415±619±813±4
運動耐容能
6分間歩行距離(m)454±114444±122494±48409±131447±97478±140
身体機能
握力(kg)29.4
[25.5~35.7]
28.7±7.039.0±9.031.3±6.730.0±6.929.5±8.0
膝伸展筋力(kgf/kg)0.60±0.160.64±0.150.63±0.150.55±0.150.60±0.110.66±0.21
疾患特異的QOL
CAT(点)8.0
[2.8~13.3]
9.4±7.610.0±6.89.8±6.49.9±7.66.3±5.8
ADL
NRADL(点)89[81~96]88.7±9.491.3±7.881.8±11.386.4±12.6w88.2±15.6
体組成
SMI(kg/m26.7±1.26.4±0.87.6±1.56.3±1.26.6±1.06.7±1.1
位相角(°)5.1±0.75.0±0.65.1±0.84.9±0.75.1±0.75.1±0.6

平均値±標準偏差,中央値[四分位範囲],BMI,体格指数;HOT,在宅酸素療法;VC,肺活量;FEV1,1秒量;FEV1/FVC,1秒率;FVC,努力肺活量;IC,最大吸気量;DLCO,肺拡散能;CAT,COPD Assessment Test;NRADL,長崎大学呼吸器日常生活活動評価表;SMI,四肢骨格筋指数;Phase Angle,位相角.2月群の握力は5名,1月群のNRADLは7名,6月群のNRADLは14名.2020年4月途中から5月にかけてCOVID-19の感染拡大による診療制限のため定期評価実施なし.2020年1月に定期評価を行った患者が6月群に1名,7月群に7名と一部重複しているため,1月群~7月群の合計(50名)と全対象者数(42名)が異なる.

2. COVID-19流行下における身体活動量の変化(表23図1

全対象者42名のCOVID-19流行前とCOVID-19流行下の身体活動量に有意な変化はなかった(表2).定期評価月別(1月群:8名,2月群:6名,3・4月群:9名[3月:8名,4月:1名,],6月群:15名,7月群:12名)の身体活動量は,2020年3・4月群において6ヵ月前と比べて平均歩数が有意に低下した(p<0.05,表3).そして2020年3・4月から6ヵ月後には平均歩数が有意に増加し(p<0.05),2020年3・4月の6ヵ月前と同様の水準となった(p=1.0,表3図1).また2020年1月~2月,6~7月に定期評価を行った患者では,定期評価月の6ヵ月前,定期評価月,定期評価月の6ヵ月後の平均歩数に有意な差は認めなかった(表3).

表2 COVID-19流行前と流行下での身体活動量の比較
COVID-19流行前
2019年8月~2020年1月
COVID-19流行下
2020年2月~2020年7月
p値
平均歩数(歩/日)4,254±3,0054,279±3,0920.464
1.0~1.5 METs(分/日)417±128424±1240.543
1.6~1.9 METsの活動(分/日)98±3298±400.959
2.0~2.9 METsの活動(分/日)139±55139±600.980
3 METs以上の活動(分/日)48[23~76]45[19~74]0.468
装着時間(分/日)704±125710±1240.638
評価日数(日)16±715±60.349

平均値±標準偏差,中央値[四分位範囲],*:p<0.05

表3 定期評価月別のCOVID-19流行前から流行下における平均歩数の推移
6ヵ月前
A
定期評価月
B
6ヵ月後
C
ANOVA
p値
多重比較,p値
A vs BB vs CA vs C
2020年1月群,n=85,359±3,6635,189±3,4645,278±2,9430.9501.0001.0001.000
2020年2月群,n=65,881±4,1945,496±4,2815,945±4,5110.1080.1880.1261.000
2020年3・4月群,n=92,661±1,8372,133±1,6092,736±2,0160.013*0.045*0.020*1.000
2020年6月群,n=154,028±2,4234,333±2,7603,763±2,6310.1080.7810.5831.000
2020年7月群,n=124,917±3,4145,211±3,1954,289±3,2650.0731.0000.0790.358

平均値±標準偏差,ANOVA;反復測定分散分析,A;定期評価月の6ヵ月前の平均歩数(COVID-19流行前),B;定期評価月の平均歩数(COVID-19流行下),C;定期評価月の6ヵ月後の平均歩数(COVID-19流行下),*:p<0.05

図1

定期評価月別の平均歩数の推移

*:p<0.05(6ヵ月前と比較)

3. 歩数低下群の背景因子(表4

歩数低下群は歩数維持群に比べて有意に%FEV1が低かった(p<0.05).その他の指標では有意な差は認めなかった.

表4 歩数低下群と歩数維持群における背景データの比較
低下群,n=23維持群,n=19p値95%CI
年齢(歳)74.1±8.475.1±9.40.728-6.5~4.6
GOLD分類I/II/III/IV,n2/14/4/25/11/3/0
FEV1(L)1.5±0.61.7±0.60.258-0.67~-0.02
%FEV156.9±16.868.2±18.40.044*-22.2~-0.3
6MWD(m)441±117471±1100.398-102~41
握力(kg)33.0±7.729.2±7.50.112-0.9~8.7
SMI(kg/m26.8±1.36.6±1.00.726-0.6~0.9
COVID-19流行前
平均歩数(歩/日)4,557±3,4203,887±2,4510.479-1,224~2,563
装着時間(分/日)709±137698±1130.791-69~90
評価日数(日)16±617±70.678-5~3
COVID-19流行下
平均歩数(歩/日)3,957±3,2264,668±2,9620.466-2,659~1,238
装着時間(分/日)698±133724±1130.514-104~53
評価日数(日)16±615±50.643-3~4

平均値±標準偏差,*:p<0.05

考察

本研究は,身体活動性の指導と定期評価を実施したCOPD患者におけるCOVID-19流行下での身体活動量の実態を明らかにした報告である.本研究で分析した全対象者42名の身体活動量はCOVID-19流行前(2019年8月~2020年1月)と流行下(2020年2月~2020年7月)で有意な差を認めなかった.しかし,定期評価月別に身体活動量の変化を分析すると,2020年3・4月に定期評価を行った患者は6ヵ月前と比較して身体活動量が有意に低下したものの,その6ヵ月後にはCOVID-19流行前の水準まで回復していた.一方で2020年1月~2月及び6月~7月に定期評価を行った患者では身体活動量の有意な低下は認めなかった.また,COVID-19流行下で身体活動量が低下した患者は閉塞性障害が重度であるという特徴があった.

本邦でのCOVID-19流行前からCOVID-19流行下における身体活動量を調査した報告は,主に地域住民や高齢者を対象者としたオンライン調査や質問紙を使用した自己申告式の調査であり,2019年もしくは2020年4月に発令された緊急事態宣言前の身体活動量と2020年4月以降の身体活動量を比較している3,4,5,6,14.これらの全ての研究で,COVID-19流行下における身体活動量の低下を認めている.また,3軸加速度計を使用してCOVID-19の流行前後に地方在住高齢者13名の身体活動量を調査した報告でも,COVID-19流行下における身体活動量の低下が指摘されている15.本研究の結果は,これらの先行研究の結果と一部類似しており,日本国内でCOVID-19患者が急増した2020年3月から全国に緊急事態宣言が発令された4月において,COPD患者も地域在住の高齢者などと同様に身体活動量が低下したことを示している.呼吸状態の悪化や救急搬送,入院などといった医学的な有害事象を経験したCOPD患者の一日あたりの平均歩数は350~1,100歩低下すると報告されているが16,2020年3・4月群の平均歩数は6ヵ月前と比べると1日あたり平均528歩低下していた.これはCOPD患者にとってCOVID-19流行初期における身体活動量の低下は重大な変化であったことを示唆している.また,地域在住高齢者の身体活動量を計3回にわたって調査した報告3,17,18によると,2020年1月から4月にかけて身体活動量は低下し,2020年6月にCOVID-19流行前の水準に回復した.しかしその後,2020年8月及び2021年1月に2020年4月と同程度に身体活動量が低下しており,地域住民において身体活動量の低下が長期間にわたって持続していることが明らかとなった.一方で本研究では身体活動性の指導を行っていたCOPD患者おいて,COVID-19流行の初期である2020年3・4月に身体活動量は一時低下したものの,その6ヵ月後にはCOVID-19流行前の水準にまで回復した.また,本邦においてCOVID-19の流行が始まっていた2020年2月や2020年6月~7月では身体活動量の有意な低下は認めず維持されていた.身体活動性が低下しなかった理由として,定期評価結果のフィードバックを含めた再指導が身体活動性の維持に重要であったのではないかと思われる.定期評価を行っている患者は結果説明時に継続的に身体活動性の重要性や維持,改善に関する指導を受けている.COVID-19の流行で不要不急の外出の自粛などが要請される中,定期評価と定期評価毎に再指導を繰り返し,身体活動の維持を励行することで身体活動性の低下を防ぐことができた可能性がある.本研究では,COVID-19流行下において身体活動量が減少した患者は%FEV1が有意に低く,閉塞性換気障害が重度であった.先行研究においてCOPD患者の経時的な身体活動量の低下に閉塞性障害が影響すると報告されており19,COVID-19流行下において閉塞性障害が重度な患者がより影響を受けやすい可能性が示唆された.

本研究にはいくつかの限界がある.まず,本研究は単一施設で実施した対応のある集団の前後比較デザインであり,身体活動性の指導と定期評価を行ったCOPD患者におけるCOVID-19流行の影響を適切に評価できなかった可能性がある.また,6ヵ月毎に計測した身体活動量を比較したが,季節性変化の影響があった可能性は否定できない.しかしながら,身体活動量のデータは,先行研究の知見に基づいて天候や季節などの影響が最小限となるよう考慮した.また,2020年3・4月の6ヵ月前後は冬や夏に比べて身体活動量の季節性変化が少ない季節同士の比較である.本邦の地域在住高齢者では,COVID-19流行下における身体活動量の低下に独居などの社会環境や社会活動の有無が関与していたと報告されているが18,本研究では社会環境等に関しての検討はしていないため関連性は不明である.最後に,日本国内でCOVID-19流行下における健常人の身体活動量の変化は地域差や性別差があったことが報告されており20,結果の一般化には注意を要する.

本研究は身体活動性の指導と定期評価を行ったCOPD患者におけるCOVID-19流行下での身体活動量の実態を報告した.身体活動性の指導と定期評価を行ったCOPD患者において,2020年3・4月に身体活動量は一時的に低下したが,その後回復した.また,2020年2月や2020年3・4月以降は身体活動量の有意な低下は認めず,身体活動量は維持された.COVID-19流行下であっても,身体活動量の評価を定期的に実施し,指導を繰り返すことで身体活動性を維持できる可能性があると考えられた.

備考

本論文の要旨は,第31回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2021年11月,香川)で発表し,学会長より優秀演題として表彰された.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
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