日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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原著
β1遮断薬を内服した慢性閉塞性肺疾患患者の運動耐容能と呼吸循環応答について
大場 健一郎 川上 慧神﨑 良子松永 崇史池内 智之髙橋 精一郎津田 徹
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2023 年 31 巻 3 号 p. 311-316

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要旨

【背景と目的】COPD患者はβ1遮断薬投与により死亡率等は改善するが,運動耐容能や運動時呼吸循環応答への影響の報告は少ない.そこで,COPD患者のβ1遮断薬内服後の運動耐容能と呼吸循環応答の変化を検討した.

【方法】安静時心拍数85回/分以上の安定期COPD患者を対象に非盲検前後比較を実施した.β1遮断薬内服前と内服1ヶ月後の肺機能,運動負荷試験,mMRC,CATを評価した.運動負荷試験では運動持続時間,経皮的酸素飽和度,心拍数,血圧,自覚症状と運動中の最低酸素飽和度,最高心拍数を測定した.β1遮断薬内服前後で各項目を2群間比較にて検討した.

【結果】運動持続時間は有意に延長した.また安静時心拍数,安静時二重積,最高心拍数は有意に低下し,試験後の呼吸困難は有意に改善した.mMRC,CATも有意に改善した.β1遮断薬内服後の有害事象は認めなかった.

【結論】安静時心拍数が速いCOPD患者の中にはβ1遮断薬の恩恵を得られる一群が存在する可能性がある.

緒言

慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease: COPD)に罹患している患者は喫煙や加齢の影響により,栄養障害,骨格筋機能障害,心血管疾患,骨粗鬆症,不安,抑うつ,糖尿病など多数の併存症を持つことが知られており1,特に心血管疾患の併発リスクが高く2,約12%が冠状動脈性心臓病または心不全で死亡している3.したがって,呼吸器と心血管系の機能障害は密接に関連していると考えられる.

COPD患者の治療薬には抗コリン薬かβ2刺激薬,またはその両方が使用される.吸入薬においてβ2刺激薬は受容体選択性が高いため,β1受容体を刺激することは少ないと言われている.しかし心筋の神経分布はβ2受容体が約25%占めており,心不全の進行とともにβ2受容体が最大50%を占めるようになり,β2刺激薬により気管支平滑筋のみならず心筋の受容体も刺激する4.これがCOPD患者の心拍数が高くなる要因の一つであると考えられている.また,COPD患者の安静時心拍数はGlobal Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease(GOLD)分類の重症度に応じて増加することが報告されている5.COPD患者の肺機能障害の悪化は1回拍出量の低下や低酸素症と関連しており,これらは心拍数増加の要因と考えられる.

β遮断薬などの心拍数抑制作用のある薬剤は心血管疾患の有無に関わらず,COPD患者の生命予後の改善効果が報告されており,COPDガイドラインにおいても選択的β1遮断薬の服用が有益となる患者が存在すると記載されている1.さらに,選択的β1遮断薬の投与はCOPD患者の生命予後の改善だけでなく,増悪を予防することも報告されている6,7.一方で選択的β1遮断薬の種類によってはCOPD患者の生命予後や増悪を悪化させるとの報告もある8.この違いは選択的β1遮断薬のβ1受容体への選択性の違いと選択的β1遮断薬投与前の安静時心拍数が影響していると考える.選択的β1遮断薬は薬剤の種類によってβ1β2の選択性が異なり薬剤が肺機能の悪化を引き起こす可能性がある.また,安静時心拍数に関しては,COPD患者に対する選択的β1遮断薬投与の基準となる心拍数は報告がない.しかし,安静時心拍数65拍/分未満のCOPD患者に比べ安静時心拍数85拍/分以上のCOPD患者の生命予後が低下するとの報告もあり5,これら心拍が速いCOPD患者に対して選択的β1遮断薬の効果が高まる可能性がある.

COPD患者に対して選択的β1遮断薬による生命予後や増悪に関連する報告は多数あるが,選択的β1遮断薬の投与によるCOPD患者の運動耐容能や運動時の呼吸循環応答への影響についての報告は少ない.

そこで,本研究は安静時心拍数が85拍/分以上のCOPD患者に対し,β1遮断薬の内服が運動耐容能や呼吸循環応答に及ぼす影響を検討した.β1遮断薬にはビソプロロールを選択した.ビソプロロールはβ1アドレナリン受容体への選択性が他の選択的β1遮断薬(アテノロールやメトプロロール)よりも高く,先行研究でもCOPD患者に対してビソプロロールは他の選択的β1遮断薬よりも生存転帰が良好であると報告されている9.また処方量に関してはHeart Failure Society of Americaのガイドライン10に従った.

対象と方法

1. 対象

COPDガイドライン1に準じて診断されたCOPD患者のうち,β遮断薬内服の既往が無く,安静時心拍数が85拍/分以上の外来COPD患者の中で呼吸リハビリテーションを1年以上行っているものを対象とした.なお,喘息合併症例や気道攣縮などの既往が疑われるもの,心不全や心筋梗塞など心拍数に影響を及ぼす心疾患があるもの,β遮断薬内服前から高度な徐脈やADLに影響を及ぼす低血圧症例のもの,吸入薬以外に心拍数に作用する薬剤が投与されているもの,認知機能低下により研究説明書の理解・同意が不可能なもの,運動器疾患や脳血管疾患により運動負荷試験が困難なもの,主治医より運動負荷試験が困難と判断された場合や選択的β1遮断薬の内服が不適切と判断した場合は除外した.

2. 方法

1) 測定手順

本研究は非盲検前後比較研究である.本研究の測定手順を図1に示す.β1遮断薬投与の適応判断は主治医により行われ,胸部レントゲン画像や肺機能検査結果,内服薬処方状況,併存症などの評価をもとに総合的に判断された.β1遮断薬はビソプロロール 1.25 mg/dayを主治医より処方された.処方1ヶ月後の外来受診の際に主治医の診察にて薬剤の効果や副作用を評価し,最終評価を行えると判断された患者のみ行った.

図1

測定手順

2) 測定項目

(1) 肺機能検査

臨床検査技師によりスパイロメトリーを用いて評価されたデータを診療録より抽出した.項目は肺活量(vital capacity:以下VC),一秒量(forced expiratory volume in one second:以下FEV1),肺拡散能(carbon monoxide diffusing capacity:以下DLco)としそれぞれの実測値と対標準予測値を使用した.

(2) 運動負荷試験

自転車エルゴメーター(KONAMI SPORTS CLUB社製,AEROBIKE L SERIES AEROBIKE 75XLIII)を使用し,10 watt/minのランプ負荷設定での漸増運動負荷試験を行い,最大仕事率(peak WR)を算定した.その後,peak WR 80%の負荷設定で定常運動負荷試験を実施した.終了基準は先行研究11を参考に回転数が50回転/分を維持できなくなる時点,倦怠感または耐え難い呼吸困難が発生するまでとした.呼吸困難と倦怠感に関して,修正Borg Scale(以下:BS)の胸部BSか下肢BSが7以上になった場合と定義した.

評価項目は,定常運動負荷試験での運動持続時間,安静時と試験終了時の経皮的酸素飽和度,心拍数,血圧,自覚症状,二重積と運動中の最低酸素飽和度,最高心拍数とした.

(3) その他の評価

呼吸困難の指標であるmodified Medical Research Council息切れスケール(以下,mMRC)と健康関連QOLとして,COPD assessment test(以下,CAT)の評価を行った.

3) 統計処理

対象者の運動持続時間,安静時と試験終了時の経皮的酸素飽和度,心拍数,血圧,自覚症状と運動中の最低酸素飽和度,最高心拍数,mMRC,CATについて,ビソプロロール内服前後を各評価項目別でWilcoxonの符号付き順位検定を用いて2群間比較を行った.統計処理にはIBM SPSS Statistics 26.0(IBM 社,ニューヨーク,米国)を用い,有意水準は5%とした.

4) 倫理的配慮

本研究は九州栄養福祉大学の倫理審査委員会の承認(受付番号:1813号)を得て実施した.

結果

2018年8月から2019年11月の間に8名の外来COPD患者が主治医よりビソプロロールを処方され内服前後で評価を行った.患者特性は表1に示す.

表1 患者特性
n=8
年齢(歳)79.5(74.0-82.0)
Sex(male/female)7/1
BMI(kg/m220.3(20.0-22.0)
GOLD(I/II/III/IV)1/3/3/1
LAMA+LABA/ICS+LABA/Triple(人)2/2/4
LTOT使用者(人)5
酸素流量(L/min)2(2-3)

median(IQR), BMI: body mass index, GOLD: Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease, LTOT: long-term oxygen therapy.

1) ビソプロロール内服前後の肺機能検査の比較(表2

FEV1(L)と%FEV1(%)は内服後に内服前と比較して高い値であった.その他の項目に変化はなかった.

表2 肺機能検査
内服前
(n=8)
内服後
(n=8)
p-value
VC(L)2.30(2.08-3.56)2.32(2.04-3.84)0.091
%VC(%)75.6(67.7-90.1)75.8(71.4-90.4)0.237
FEV1(L)1.01(0.70-2.19)1.04(0.78-2.34)0.025
%FEV1(%)48.7(32.2-69.1)50.2(36.0-73.2)0.025
FEV1%(%)57.9(49.4-65.5)53.2(45.5-65.5)0.484
DLco(ml/min/mmHg)9.30(7.00-11.16)8.94(8.01-11.82)0.779
%DLco(%)70.4(47.0-96.9)69.9(56.2-79.2)0.779

2群の比較は Wilcoxonの符号付き順位検定を使用.

median(IQR), VC: vital capacity, %VC: % vital capacity, FEV1: forced expiratory volume one second, %FEV1: % forced expiratory volume one second, DLco:carbon monoxide diffusing capacity, %DLco: % carbon monoxide diffusing capacity.

2) ビソプロロール内服前後の運動耐容能の比較(表3図2

運動持続時間(秒)は内服前(178.5[137.5-287.8])から内服後(349.5[176.3-462.0])へ中央値で171秒延長した.またその他の指標では安静時の心拍数,収縮期血圧,二重積と試験中の最高心拍数が内服後に低下を示した.自覚症状について試験終了時の胸部BSは内服後に低下したが,試験終了時の下肢BSは内服前後で変化はなかった.

表3 定常運動負荷試験
内服前
(n=8)
内服後
(n=8)
p-value効果量
運動持続時間(秒)178.5(137.5-287.8)349.5(176.3-462.0)0.0360.74
経皮的酸素飽和度(%)
 安静時97.0(94.0-98.0)97.5(96.0-98.0)0.131
 試験終了時93.5(90.5-96.3)93.5(88.8-94.8)0.395
 最低値90.0(87.3-95.5)92.5(88.5-94.0)0.733
心拍数(拍/分)
 安静時90.0(86.5-96.5)71.5(63.8-77.8)0.0120.89
 試験終了時114.5(101.0-131.3)102.0(95.3-122.5)0.091
 最高値119.5(108.5-135.0)102.5(98.0-124.3)0.0120.84
収縮期血圧(mmHg)
 安静時145.0(130.0-154.3)128.0(123.3-131.3)0.017
 試験終了時156.0(143.8-168.8)154.0(128.0-160.3)0.093
二重積(拍/分×mmHg)
 安静時12,993.0
(12,216.0-14,193.0)
9,351.0
(8,190.8-9,867.8)
0.0120.89
 試験終了時18,840.0
(15,351.0-19,949.3)
14,444.0
(12,839.5-18,616.0)
0.093
自覚症状(胸部BS)
 安静時0.5(0.0-2.0)0.0(0.0-0.8)0.197
 試験終了時7.0(4.3-7.0)3.0(0.3-6.5)0.0420.72
自覚症状(下肢BS)
 安静時0.5(0.0-1.8)0.0(0.0-0.8)0.465
 試験終了時6.5(5.0-8.5)6.0(3.3-7.8)0.343

2群の比較は Wilcoxonの符号付き順位検定を使用.

median(IQR),BS:修正 Borg Scale.

図2

運動持続時間の個々の変化

3) ビソプロロール内服前後でその他の評価の変化(表4

mMRCとCATは内服後に低下した.

表4 その他の評価
内服前
(n=8)
内服後
(n=8)
p-value
mMRC1.0(0.3-2.8)0.5(0.0-1.8)0.025
CAT12.0(8.0-18.0)6.0(3.5-13.8)0.012

2群の比較は Wilcoxonの符号付き順位検定を使用.

median(IQR), mMRC: modified Medical Research Council dyspnea scale, CAT: COPD assessment test.

考察

1) ビソプロロール内服前後の運動耐容能の変化

運動持続時間はビソプロロール内服前後で,運動持続時間が171秒と有意な延長を認めた.対象者が8名と少ないが,運動持続時間の結果は0.74と高い効果量を示し,さらにAmerican Thoracic Societyのガイドライン12では定常運動負荷試験の運動持続時間の臨床最小変化量(minimal clinically important difference: MCID)は65秒とされており,本研究の結果は臨床的に意味のある改善であると考える.また,呼吸リハビリテーションによる運動耐容能の改善は3ヶ月以上での効果が乏しいと報告されており13,14,本研究での対象者は呼吸リハビリテーションを1年以上行っているCOPD患者であることから,今回の運動耐容能の改善に呼吸リハビリテーションの影響は少ないと考えられる.先行研究では慢性心不全患者に対してβ遮断薬が運動負荷時の酸素消費量と二酸化炭素排出量,呼吸商を減少させ,分時換気量を減少させることが報告されている15.本研究においても運動中の呼吸困難も先行研究と同様の機序により改善した可能性がある.また,COPD患者における運動耐容能は呼吸困難によって制限される1ため,ビソプロロール内服後に運動中の呼吸困難が改善したことが運動持続時間の改善につながったと考える.さらに,本研究の結果ではビソプロロール内服後に安静時の心拍数,収縮期血圧は低下し,心筋酸素消費量の指標である二重積も低下を示した.これはビソプロロールの薬理効果である.先行研究からCOPD患者は健常者と比較して安静時の交感神経活動が亢進していることが示されており16,ビソプロロールは交感神経のβ1受容体を遮断することで,交感神経の過活動を抑制し,心筋収縮力と心拍数を低下させ心筋酸素消費量を軽減する効果がある6と報告されている.

先行研究ではCOPD患者に対してビソプロロール内服前後の運動耐容能には有意差をみとめなかったと報告している17.この違いについて,対象者のビソプロロール内服前の安静時心拍数が異なっていることが要因となっている可能性がある.本研究では内服前の安静時心拍数が85拍/分以上の心拍の速いCOPD患者のみを対象とした.これに対して先行研究の安静時心拍数は平均値で75拍/分と本研究より低い.安静時心拍数が速いCOPD患者のみを対象とすることで,ビソプロロールの効果が先行研究に比べ顕著に現れたのではないかと考える.

また,結果は示していないが運動時間の変化率と二重積の変化率の関係に傾向性がみられたが,有意ではなかった.これは対象者数が少ないことや,改善性に個人差がある事が原因と考えられる.今後,対象者を増やして続く解析を行い,報告したい.

以上より,安静時に心拍が速いCOPD患者がビソプロロールを内服することで,安静時の心筋酸素消費量を軽減することができ,労作時呼吸困難の改善と運動耐容能の向上が認められたと推察する.これはビソプロロールの薬理効果と内服によりさらに運動中の換気効率や骨格筋のエネルギー生成効率が向上することが影響している可能性がある.ただし運動耐容能に有益な効果が期待できるCOPD患者の特性は不明である.

2) ビソプロロール内服前後のmMRC,CATの変化

mMRCとCATについてはビソプロロール内服後にどちらも有意な改善を認めている.mMRCやCATの改善は運動耐容能の改善と相関関係があることが示されており18,また,運動負荷試験終了後の胸部BSもビソプロロール内服後に有意に低下し,対象者の運動耐容能と労作時呼吸困難が改善していたことがQOL改善につながったと示唆される.

3) ビソプロロール内服による有害事象について

本研究ではビソプロロール内服後に肺機能の低下は認めず,FEV1と%FEV1に関しては内服後に有意な増加を示した.しかし,FEV1の改善量は中央値で 30 ml,改善率も2.9%とわずかである.COPD患者に対し選択性の高いβ1遮断薬を使用することで肺機能への悪影響は少ないとの報告もあり19,本研究の結果も肺機能に対するビソプロロールの安全性を示している.

また血圧に関して,ビソプロロール内服後に有意な安静時の収縮期血圧の低下を認めた.これはビソプロロール内服前の収縮期血圧が140台から150台の対象者の収縮期血圧が低下したことが結果に影響しており,一方で収縮期血圧120台から130台の対象者では安静時心拍数は低下したが安静時収縮期血圧は低下を認めなかった.そのため,ふらつきやめまい等の症状を訴えた患者はいなかった.以上より,本研究においてもビソプロロール内服による有害事象は認めなかった.

4) 研究限界

本研究の限界として第一に単施設で行った研究であり,症例数が少ないことが挙げられる.第二にCOPD患者に対するβ1遮断薬投与を決定する心拍数などの客観的な基準はなく,主治医の臨床的判断に基づくところが多いため,対象患者の心拍数等を一律にすることができなかった点である.第三にビソプロロールを内服していない患者との比較を行えていないため,本研究の結果が薬剤の効果のみであるかは不明である.

5) 結論

本研究では,安静時心拍数が85拍/分以上のCOPD患者が選択的β1遮断薬を内服することで運動耐容能や労作時呼吸困難の改善という有用性.並びに肺機能や血圧などの呼吸循環応答に悪影響を及ぼさない安全性が示唆された.COPD患者の中には選択的β1遮断薬の恩恵を得られる一群が存在する可能性がある.今後は症例の蓄積や無作為比較試験などが期待される.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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