日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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原著
慢性呼吸器疾患患者の要介護度認定結果における患者満足度とその関連因子
森 大地板木 雅俊岩佐 恭平大濱 慎一郎北川 知佳田中 貴子池内 智之河野 哲也津田 徹神津 玲
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2023 年 31 巻 3 号 p. 305-310

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要旨

【目的】慢性呼吸器疾患患者の要介護度は過小評価される傾向にあり,患者の不満が多いと報告されている.今回,認定結果に対する不満の有無とその関連因子について検討した.

【方法】通所リハビリテーションを利用する慢性呼吸器疾患患者を対象とした.認定結果への不満の有無で2群に分け,比較検討を行った.患者特性,身体機能,ADL(BI,NRADL),呼吸困難,呼吸機能,心理状態を調査・解析し,不満の有無を従属変数としたロジスティック回帰分析を行った.

【結果】解析対象は31例で,不満なし群(21例),不満あり群(10例)であった.ロジスティック回帰分析の結果,NRADL(オッズ比0.914,95%CI 0.852-0.980)が不満の有無と有意な関連を認めた.

【結論】認定結果への不満にはNRADLが関連しており,NRADLの点数を考慮することで,要介護度の過小評価を是正できる可能性が示唆された.

緒言

慢性呼吸器疾患患者対する呼吸リハビリテーションは,中止すればその効果は6~12ヵ月後にはベースラインに戻ることが明らかにされている1.運動プログラムの継続は入院リスクを減少すること2も報告されており,呼吸リハビリテーションの継続は不可欠である.

呼吸リハビリテーションの継続方法の1つに,介護保険制度による「通所リハビリテーション」がある.慢性呼吸器疾患患者では呼吸困難によって日常生活活動(activities of daily living;以下,ADL)が制限されるため,運動機能とその障害が要介護度判定の大きな比重を占める.このため,現状の基準においては,要介護度が過小評価されるという問題点が指摘されている3.慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease;以下,COPD)患者106名へのアンケート調査4によると,要介護度の認定結果に不満のあるものは38%と報告されている.さらに,「自分の希望より低い認定結果でサービスが使えない」と答えた者は60%とされている4.しかしながら,これらの既報では,対象者の身体機能,ならびにその障害程度に関して具体的に調査されておらず,要介護度の認定結果の満足度に関連する因子は不明である.本研究は,通所リハビリテーションを利用している慢性呼吸器疾患患者の要介護度の認定結果に対する満足度と,その関連因子を明らかにすることを目的とした.

対象と方法

1. 研究デザイン

長崎県内4施設(田上病院,長崎記念病院通所リハビリテーションきねん,長崎百合野病院デイケアセンター「コスモス」,長崎呼吸器リハビリクリニック)における多施設共同横断研究にて実施した.

2. 対象

対象は,2019年10月から2020年10月までの期間に,慢性呼吸器疾患のため通所リハビリテーションを利用している者とした.

研究の趣旨および質問紙の理解が困難な者,研究参加の同意が得られない者は除外した.また,明らかな呼吸器症状がなく,診断の経緯や病歴が不明なものも除外した.全対象者に文書と口頭で研究の趣旨,目的,調査内容などについて十分に説明するとともに,書面にて同意を得て実施した.本研究は長崎大学大学院医歯薬学総合研究科倫理委員会の承認を受けて実施した(許可番号19080801).

3. 研究方法と評価項目

対象者には下記の項目に関して,診療記録から情報を収集するとともに,各施設の担当理学療法士が対象者から直接,聴取あるいは評価した.呼吸機能は6ヵ月以内,基本情報,身体機能および心理状態については3ヵ月以内に評価された直近の結果を解析に用いた.

3.1 要介護度の認定結果に関するアンケート

要介護度の認定結果について,「満足」,「やや満足」,「やや不満」,「不満」にてアンケート調査した.「満足」「やや満足」を不満なし群(以下,なし群),「やや不満」「不満」を不満あり群(以下,あり群)の2群に分類した.加えて,その理由を自由記載にて調査した.

3.2 対象者特性

年齢,性別,身長,体重,body mass index(以下,BMI),主たる呼吸器疾患の診断名,併存疾患,要介護度,在宅酸素療法(home oxygen therapy;以下,HOT)使用の有無を調査した.

3.3 身体機能・心理状態・認知機能

身体機能として筋力(握力)ならびに下肢機能(short physical performance battery;以下,SPPB)5,呼吸機能を評価した.

握力は,立位にてデジタル式握力計(竹井機器工業社製GRIP-D)を用いて左右2回ずつ測定し,最大値を採用した.呼吸機能は,スパイロメータ(ミナト医科学社製オートスパイロAS-507)を用いて測定し,努力性肺活量(forced vital capacity;以下,FVC),1秒量(forced expiratory volume in one second;以下,FEV1)の実測値および予測値に対する割合,1秒率(以下,FEV1/FVC)を解析した6

呼吸困難は,modified Medical Research Council(以下,mMRC)息切れスケール7にて評価した.

運動耐容能は,6分間歩行試験(6-minute walk test;以下,6MWT)を用い,欧州呼吸器学会および米国胸部学会のテクニカル・スタンダード8に従って実施した.6分間歩行距離(6-minute walk distance;以下,6MWD)とともに,試験前後で経皮的酸素飽和度(percutaneous oxygen saturation;以下,SpO2),脈拍(pulse rate;以下,PR),修正Borg scaleによる呼吸困難および下肢疲労を評価した.

ADLは,Barthel index(以下,BI)9に加え,呼吸器疾患特異的 ADL 評価手段であるnagasaki university respiratory activities of daily living questionnaire(以下,NRADL)10で評価した.

不安・抑うつをhospital anxiety and depression scale(以下,HADS)11,12にて,認知機能は,mini mental state examination(以下,MMSE)13で評価した.

4. 統計学的解析

各評価項目のデータは,中央値[四分位範囲]あるいは,対象者数または件数とその割合(%)にて表示した.データの正規性については,Shapiro-Wilk検定を行い,かつ度数分布を確認して判断した.あり群と,なし群の各評価項目の比較には,正規性が認められた評価項目はt検定,正規性が認められなかったものはMann–Whitney U検定を用いた.比率の比較にはχ2 検定を用い,3群以上の比較においては,Bonferroni法にてp値の調整を行なった.また,不満の有無を従属変数,群間比較で有意差のあった項目を独立変数とした単変量のロジスティック回帰分析を用いて関連を検討した.

上記の統計解析にはIBM SPSS Statistics Version 28.0(SPSS Japan)を用い,有意水準5%をもって統計学的有意とした.

結果

研究対象期間中に対象となった35例のうち,31例が解析対象となった.2例は研究の理解と同意が得られず,2例は呼吸器疾患の病歴や診断の詳細が不明のために除外した.

あり群10例(不満6例,やや不満4例,32%),なし群21例(満足6例,やや満足15例,68%)であり,あり群の不満の理由として,通所リハビリテーション,訪問介護の利用頻度が増やせない,介護タクシーや移送支援(坂道や階段を伴う移動支援)が利用できないが挙がった.

両群の特性を表1に示す.両群間で年齢,性別,BMIに有意差はなかった.要介護度は,要介護1が最も多かった.呼吸器疾患は,COPD,気管支喘息,間質性肺炎の順に多かった.併存疾患では,なし群はあり群と比較して,運動器系疾患が有意に多かった.

表1 対象者特性
全対象者
(n=31)
不満あり群
(n=10)
不満なし群
(n=21)
p値
年齢,歳83[81-86]82[80-84]83[82-88].278*
男性,例18(58)6(60)12(57).880
BMI, kg/m222.7[21.1-24.5]23.7[22.4-24.6]22.3[20.5-24.5].446*
診断名,例
 COPD19(61)5(50)14(67).373
 気管支喘息6(19)3(30)3(14).301
 間質性肺炎3(10)2(20)1(5).180
 その他3(10)0(0)3(14)
併存疾患,例
 呼吸器系13(42)3(30)10(48).353
 循環器系26(84)8(80)18(86).686
 運動器系21(68)4(40)17(81).023
 精神系4(13)1(10)3(14).739
 神経系3(10)0(0)3(14).209
要介護度,例.201
 要支援14(13)0(0)4(19)
 要支援26(19)1(10)5(24)
 要介護114(45)7(70)7(33)
 要介護27(23)2(20)5(24)
HOT使用者,例12(39)5(50)7(33).373

中央値[四分位範囲],n数(%)

BMI: body mass index, COPD: chronic obstructive pulmonary disease, HOT: home oxygen therapy

*  :t検定,Mann–Whitney U検定

  :χ2検定

  :χ2検定 Bonferroni法

認定区分においては,あり群には要介護の者が多く,要支援の者は少なかったが,両群間に有意差は認めなかった.

身体機能,心理状態,および認知機能の結果を表2に示す.

表2 身体機能,認知機能,心理状態
全対象者
(n=31)
不満あり群
(n=10)
不満なし群
(n=21)
p値
握力,kg21.1[18.4-23.3]21.3[19.0-22.0]21.1[18.2-24.6].902
SPPB,点9[6-11]8[5-11]10[6-11].422
mMRC息切れスケール,0/1/2/3/40/7/13/9/20/1/3/5/10/6/10/4/1.079
呼吸機能
 FVC, L1.72[1.34-2.01]1.64[1.34-1.95]1.86[1.43-2.03].405
 %FVC, %71[57-83]62[54-76]77[66-83].326
 FEV1, L1.13[0.81-1.29]1.05[0.77-1.27]1.15[0.83-1.29].934
 %FEV1, %65[49-78]65[50-74]65[49-78].797
 FEV1/FVC, %71.2[57.5-77.5]68.6[62.1-86.7]71.7[57.2-77.4].536
6MWD, m223[197-317]203[139-233]238[213-330].037
BI,点95[90-100]95[90-95]95[90-100].519
NRADL,点58[42-69]41[33-49]62[49-73].002
 動作速度,点17[14-21]14[12-17]19[15-21].006
 息切れ,点16[11-20]11[7-16]19[13-21].013
 酸素流量,点24[7-27]13[0-21]24[16-30].008
 連続歩行距離,点4[2-4]2[2-4]4[2-4].087
HADS
 Anxiety,点5[4-8]6[4-10]5[3-7].633
 Depression,点8[5-11]8[6-11]7[5-11].855
MMSE,点26[23-27]26[25-27]26[22-27].263

中央値[四分位範囲]

SPPB: short physical performance battery, mMRC: modified Medical Research Council, FVC: forced vital capacity, FEV1: forced expiratory volume in one second, 6MWD: 6-minute walk distance, BI: barthel index, NRADL: nagasaki university respiratory activities of daily living questionnaire, HADS: hospital anxiety and depression scale, MMSE: mini mental state examination

※  併存疾患により4例測定不可能(あり群;大動脈瘤による血圧コントロール1例,なし群;変形性膝関節症による疼痛2例,パーキンソン病による突進歩行1例)

両群間において,握力,SPPB,BI,mMRC息切れスケール,呼吸機能に有意な差は認めなかった.6MWD,NRADLにおいて,あり群はなし群と比較して有意に低値を示した.6MWTは,4例が併存疾患(あり群:大動脈瘤による血圧コントロール1例,なし群:変形性膝関節症による疼痛2例,パーキンソン病による突進歩行1例)のために,実施は不可能であった.

不満の有無と群間比較で有意差のあった項目の単変量のロジスティック回帰分析の結果,NRADL(オッズ比=0.914,95%信頼区間=0.852-0.980,p値=0.011)が認定結果への不満と有意な関連を認めた(表3).

表3 不満に関わる因子
独立変数オッズ比95%信頼区間p値
NRADL0.9140.852-0.9800.011
6MWD0.9890.977-1.0000.059

NRADL: nagasaki university respiratory activities of daily living questionnaire, 6MWD: 6-minute walk distance

考察

本研究は,通所リハビリテーションを利用している慢性呼吸器疾患患者の要介護度の認定結果に対する満足度とその関連因子について調査した初めての研究である.

要介護度の認定結果に対して,不満のある者は32%であった.在宅呼吸ケア白書4によると介護認定結果に対して不満がある者の割合は38%であり,本研究と合致していた.また,同報告4では,介護保険を利用しているにもかかわらず,介護状況が「変わらない」,「悪くなった」と回答したもののうち,60%が「希望より低い認定結果でサービスが使えない」と回答している.本研究においても,サービスの追加が困難な理由として,要介護度の過小評価の可能性が考えられた.

併存疾患では,なし群はあり群と比較して運動器系疾患が有意に多かった.なし群は,呼吸器疾患に加え運動器疾患の併存により,要介護度が高くなる可能性があり,これがサービスの追加,ひいては不満を生じなかった可能性が考えられた.

HOT使用の有無に関して,両群間に差はなかった.HOT使用者において,種々のADLで感じる呼吸困難には程度の違いがあると報告されている14.各対象者による介護が必要なADLの相違が満足度に影響した可能性があり,HOT使用の有無と不満との関連は認めなかった.

慢性呼吸器疾患患者では,6MWDが 400 m以下となると日常的な外出に制限が生じる15とされており,両群ともこれに比べ低値であった.両群間の比較では,あり群はなし群に比べ有意に低値を示した.慢性呼吸器疾患患者は,呼吸困難や運動耐容能の低下によりさまざまなADLの遂行が困難になる16.COPD患者を対象にした既報17によると,NRADLと6MWDの改善率には相関関係を認めていた.このことから,BIは両群に差はないが,あり群は運動耐容能低下により,ADL能力が低下し,より多くのサービス利用を必要とするため,不満が生じていた可能性が考えられた.

COPD患者は,抑うつが約20~40%,不安が約30~50%併存することが報告されている18.本研究では,両群間に差はなく,要介護度の認定結果に対する不満との関連は認めなかった.

さらにロジスティック回帰分析の結果,NRADLが認定結果への不満と有意な関連を認めた.

池内ら1によると,要介護認定調査は,「できるか,できないか」が判断基準となっており,呼吸困難によるADLの低下は調査に反映されず,そのため要介護度が過小評価され,必要なサービスを利用できないとされている.本研究においても,NRADLの点数が低い者ほど認定結果に不満を生じていた.呼吸困難が評価されない現在の方法では,認定結果の過小評価があることは明らかである.さらに,NRADLの動作速度において,あり群はなし群に比べ有意に低値を示していた.つまり呼吸困難だけでなく,動作速度もADLに影響しており,慢性呼吸器疾患患者の要介護認定調査は「できるか,できないか」だけで判断すべきではない.

通所介護において利用の有無による費用対効果を検討した既報によると,慢性呼吸器疾患患者が通所介護を継続して利用できない場合,生活の質(quality of life)を維持するための費用が増加する可能性が示唆されている19.本研究においても,希望するサービスを利用できないことは,不満だけでなく,医療費の増額につながる可能性が考えられる.

以上のことから,慢性呼吸器疾患に対する要介護認定調査にNRADLのように呼吸困難が反映された評価法を用いることは,要介護度認定の過小評価の是正に繋がり,サービス利用内容の改善,医療の費用対効果の改善にも繋がる可能性が示唆された.

本研究の限界について述べる.まず,調査研究としてはサンプルサイズが少ない.2020年の新型コロナウイルス感染拡大の影響があり,各施設での継続的な調査の実施が困難であった.また,長崎県内の施設のみを対象としたため,屋外環境は特有の地域性(斜面都市)を反映しており,この点については,外的妥当性に限界を生じる可能性が高い.しかし,在宅呼吸ケア白書4では,認定結果に対して不満がある者の割合は概ね一致しており,臨床的にも妥当なものであると考えられる.また,対象は通所リハビリテーションを利用している慢性呼吸器疾患患者に限定したことにより,選択バイアスが生じている.加えて,慢性呼吸器疾患患者を対象にして調査を実施したが,いずれかの疾患に限定することで,その特徴がより明らかとなった可能性も否定できない.

本研究の結果を用いて,今後は介護領域においてもNRADLを評価する重要性を行政に問いかける必要性や,ケアに関わるスタッフには,経過に伴いNRADLの点数が低下した利用者に,区分変更の促しを行う必要があることを認識することが望まれる.

まとめ

慢性呼吸器疾患患者は,32%が要介護度の認定結果に不満を感じており,呼吸困難が反映されない現在の評価方式では,認定結果の過小評価につながることが明らかとなった.また,認定結果への不満の有無とNRADLには有意な関連がみられ,NRADLの点数が低いものほど要介護度の認定結果に不満を感じていることが明らかとなった.今後,呼吸器疾患患者の要介護度認定にはNRADLを考慮することが望ましい.

謝辞

本研究への参加を快諾され,ご協力をいただきましたすべての対象者の皆様,ならびに多大なご理解とご支援をいただきました田上病院,長崎記念病院通所リハビリテーションきねん,長崎百合野病院デイケアセンター「コスモス」,長崎呼吸器リハビリクリニックのスタッフの関係各位に心から感謝申し上げます.また,本研究のご指導をいただきました澤井照光教授,石松祐二教授ならびに長崎大学大学院医歯薬学総合研究科内部障害リハビリテーション学研究室の皆様に深謝いたします.

備考

本研究は第31回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会にて第4回医療の質特別賞ならびに優秀演題賞を受賞した.

本論文の要旨は,第31回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2021年11月,香川)で発表し,学会長より優秀演題として表彰された.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

津田徹;講演料(ベーリンガーインゲルハイム,アストラゼネカ),神津玲;講演料(帝人ヘルスケア株式会社),奨学(奨励)寄付(株式会社フィリップス・ジャパン),森大地;贈答品(一般社団法人日本呼吸ケア・リハビリテーション学会)

文献
 
© 2023 一般社団法人日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
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