日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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原著
高齢男性虚血性心疾患におけるCOPD併存はフレイルに関連する独立因子である
林野 収成 田中 聡十河 郁弥宮崎 慎二郎片岡 弘明松元 一郎高木 雄一郎市川 裕久荒川 裕佳子森 由弘
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2023 年 32 巻 1 号 p. 78-83

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要旨

【目的】高齢男性虚血性心疾患(CAD)における慢性閉塞性肺疾患(COPD)併存とフレイルの関連について検討する.

【方法】心臓リハビリテーション外来を受診した65歳以上の男性CAD患者99例を対象とした.対象をプレフレイル・フレイル群とロバスト群の2群に分類し,2群間の臨床的背景因子を比較した.また,プレフレイル・フレイルの有無を従属変数,2群間で有意差を認めた項目を独立変数とし多重ロジスティック回帰分析を行った.

【結果】多変量解析の結果,年齢(OR: 1.12,p<0.05),運動習慣(OR: 0.14,p<0.01),COPD併存(OR: 3.31,p<0.05)が独立して抽出された.

【結語】高齢男性CAD患者におけるCOPD併存は,フレイルの独立した関連因子であり,COPD併存例は積極的にフレイルの評価を実施すべきである.

緒言

2030年には,世界人口のおよそ5分の1が65歳以上となり,心血管疾患(cardiovascular disease; CVD)は増加することが予想されている1.また,狭心症や心筋梗塞(myocardial infarction; MI)などの虚血性心疾患(coronary artery disease; CAD)患者における,経皮的冠動脈形成術後の高齢者において,フレイルの合併頻度は高く,プレフレイル合併は47%,フレイル合併は19%と報告されている2.フレイルは,CVDにおける強力な予後不良因子であり3,プレフレイルはCVDの独立した危険因子であることが示され4,高齢CVD患者の日常臨床において,フレイルへの対応は重要な課題である.

我々の先行研究において,60歳以上のCAD患者における潜在的な慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease; COPD)の併存率は21.5%で,気流閉塞の重症度の内訳は,I期およびII期の軽症から中等症が92.1%を占めていたと報告した5.COPD患者においてもフレイルの合併頻度は高く,メタ解析において,プレフレイル合併は56%,フレイル合併は19%であったと報告されている6.さらに,高齢COPD患者は,フレイルの合併頻度が約2倍であり6,軽症COPDからプレフレイルを合併することも示されている7

フレイルの重要な点は,適切な介入により可逆性を有するという点であり,CAD患者において,プレフレイル・フレイルのスクリーニングは重要といえる.しかし,CAD患者におけるCOPDとフレイルの関連性を検討したものはあまりみられない.そこで,高齢男性CAD患者におけるCOPD併存とフレイルの関連性について明らかにすることを本研究の目的とした.

対象と方法

1. 研究デザイン

単施設後ろ向き横断研究

2. 対象

2020年10月1日から2020年12月の期間中,当院心臓リハビリテーション外来(心リハ外来)を受診したCAD患者連続184例のうち,65歳未満51例,女性18例,心不全合併12例,呼吸機能検査未実施4例を除外した99例(平均年齢74.3±5.5歳)を対象とし,後方視的に解析を行った.

3. 方法

1) 高齢男性CAD患者におけるCOPD併存率の調査

呼吸機能検査にて,1秒率が70%未満かつ閉塞性換気障害を来たす他の疾患が否定され,医師によりCOPDと診断された症例をCOPDと定義した.COPDの病期分類には,日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版8における気流閉塞の重症度分類を用い,対標準1秒量(%1秒量)≧80%をI期,50%≦%1秒量<80%をII期,30%≦%1秒量<50%をIII期,%1秒量<30%をIV期とし,COPD併存率および重症度を調査した.

2) 高齢男性CAD患者におけるフレイル併存率の調査

フレイルの診断には,改訂日本語版Cardiovascular Health Study基準(改訂J-CHS基準)9を用い,①体重減少,②筋力低下,③疲労感,④歩行速度,⑤身体活動の5項目のうち,3項目以上該当する場合をフレイル,1または2項目該当する場合をプレフレイル,該当なしをロバストに分類し,プレフレイルおよびフレイルの併存率を調査した.

3) プレフレイル・フレイル群とロバスト群の2群における各指標の群間比較およびプレフレイル・フレイルとの関連因子の検討

改訂J-CHS基準において,プレフレイルおよびフレイルをプレフレイル・フレイル群,ロバストをロバスト群とし2群に分類した.背景因子として,プレフレイル・フレイル群とロバスト群の2群間における年齢,body mass index(BMI),運動習慣の有無,同居家族の有無,就労の有無,喫煙歴の有無を比較した.また,2群間において,生化学データとしてLDLコレステロール(low density lipoprotein cholesterol; LDL-C),HDLコレステロール(high density lipoprotein cholesterol; HDL-C),LDL-C/HDL-C ratio(L/H ratio),ヘモグロビン(Hb),推定糸球体ろ過量(estimated glomerular filtration rate; eGFR),ヘモグロビン A1c(HbA1c),栄養状態としてgeriatric nutritional risk index(GNRI),心機能として左室駆出率(left ventricular ejection fraction; LVEF),気流閉塞の指標として%1秒量および気流閉塞の重症度分類,主疾患として心筋梗塞,狭心症,併存症として糖尿病,COPD,心房細動,治療法として,経皮的冠動脈形成術(percutaneous coronary intervention; PCI),冠動脈バイパス術(coronary artery bypass grafting; CABG),投薬状況としてスタチン,ステロイドの使用を比較した.糖尿病の定義は,HbA1cが6.5%以上,または医師により糖尿病と診断され薬物療法が開始されているものとした.また,運動習慣ありの定義は,2021年改訂版心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン10に基づき,運動強度は嫌気性代謝閾値,運動時間は30分以上,運動頻度は週3回以上を満たすものとした.

次に,プレフレイル・フレイルと関連する因子の検討として,多変量解析を行った.

呼吸機能検査のデータに関しては,心リハ外来受診前後6ヵ月以内に測定されたデータを使用した.それ以外の各種データに関しては,心リハ外来受診日に検査,測定されたデータを使用した.

4. 統計解析

プレフレイル・フレイル群とロバスト群の2群間の比較において,連続変数のうち,L/H ratio,Hb,eGFR,%1秒量は対応のないt検定,LDL-C,HDL-C,年齢,BMI,HbA1c,GNRI,LVEFはMann-Whitney U 検定を用いて2群間の比較を行った.また,名義変数である主疾患(心筋梗塞,狭心症),併存症(糖尿病,COPD,心房細動),運動習慣の有無,同居家族の有無,就労の有無,喫煙歴の有無,スタチンおよびステロイド使用の有無,気流閉塞の重症度はχ2検定,治療法(PCI,CABG)はFisherの正確確率検定を用いて2群間の比較を行った.

次に,プレフレイル・フレイルと関連する因子の検討として,プレフレイル・フレイルの有無を従属変数,プレフレイル・フレイル群とロバスト群の2群間で有意差を認めた項目を独立変数として多重ロジスティック回帰分析を用いて解析を行った.また,独立変数間における多重共線性に関しては,分散拡大係数(variance inflation factor; VIF)を用いて確認した.

統計解析ソフトは,R(2.8.1)を使用し,有意水準は5%とした.

5. 倫理的配慮

本研究はKKR高松病院の倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:E236).

結果

1) COPDの併存率と気流閉塞の重症度(図1

COPDの併存率は,99例中34例(34.3%)であった.COPD併存例における重症度は,I期16例(47.1%),II期17例(50.0%),III期1例(2.9%)であり,97.1%が軽症から中等症であった.

図1 COPDの併存率と気流閉塞の重症度

症例数(%)で表記.

2) プレフレイル,フレイルの併存率(図2

プレフレイルおよびフレイルの併存率は,99例中52例(52.5%)であり,ロバスト47例(47.5%),プレフレイル44例(44.4%),フレイル8例(8.1%)であった.また,プレフレイル・フレイル群における改訂J-CHS基準の該当項目に関しては,身体活動17例(32.7%),疲労感30例(30.0%),歩行速度13例(30.0%),筋力低下13例(25.0%),体重減少12例(23.1%)であった.

図2 プレフレイル,フレイルの併存率

症例数(%)で表記.

3) プレフレイル・フレイル群とロバスト群の2群における各指標の群間比較およびプレフレイル・フレイルとの関連因子の検討

プレフレイル・フレイル群とロバスト群の2群比較(プレフレイル・フレイル群 vs. ロバスト群,p値)では,プレフレイル・フレイル群において,年齢(76.0±5.5歳 vs. 72.4±4.9歳,p<0.01),COPD併存率 {23例(44%) vs. 11例(23%),p<0.05} が有意に高く,eGFR(57.9±13.2 ml/min/1.73 m2 vs. 66.7±15.7 ml/min/1.73 m2,p<0.01),GNRI(102.7±6.1 vs. 105.2±5.4,p<0.05),運動習慣を有する者の割合 {23例(44%) vs. 38例(81%),p<0.01} が有意に低かった(表1).

表1 プレフレイル・フレイル群とロバスト群の2群比較

項目全例
(n=99)
プレフレイル・フレイル群
(n=52)
ロバスト群
(n=47)
p-value
 年齢(歳)74.3±5.576.0±5.572.4±4.9<0.01
 BMI24.6±3.425.2±3.823.9±2.90.168
 LDL-C(mg/dl)87.1±20.085.4±21.189.0±18.70.147
 HDL-C(mg/dl)55.8±14.256.5±12.257.5±14.30.910
 L/H ratio1.6±0.51.7±0.51.6±0.50.212
 Hb(g/dl)14.3±1.514.1±1.714.5±1.20.202
 eGFR(ml/min/1.73 m262.1±15.057.9±13.266.7±15.7<0.01
 HbA1c(%)6.3±0.76.4±0.86.3±0.60.695
 GNRI104.0±5.9102.7±6.1105.2±5.4<0.05
 LVEF(%)60.3±9.860.6±10.259.9±9.40.557
 %1秒量(%)90.1±15.288.4±15.891.9±14.50.260
主疾患,n(%)0.887
 心筋梗塞33(33%)17(33%)16(34%)
 狭心症66(67%)35(67%)31(66%)
治療法,n(%)0.612
 PCI93(94%)49(94%)44(94%)
 CABG6( 6%)3( 6%)3( 6%)
併存症,n(%)
 糖尿病69(70%)37(71%)32(68%)0.740
 COPD34(34%)23(44%)11(23%)<0.05
 心房細動5( 5%)4( 8%)1( 2%)0.214
生活状況,n(%)
 運動習慣61(62%)23(44%)38(81%)<0.01
 独居25(25%)9(17%)16(13%)0.529
 就労40(40%)21(40%)19(40%)0.997
 喫煙歴64(65%)33(64%)31(61%)0.795
投薬状況,n(%)
 スタチン81(82%)43(83%)38(81%)0.651
 ステロイド3( 3%)2( 4%)1( 2%)0.538
気流閉塞の重症度,n(%)0.061
 I期16(16%)9(17%)7(15%)
 II期17(17%)13(25%)4( 9%)
 III期1( 1%)1( 2%)0( 0%)

平均±標準偏差,症例数(%)で表記.BMI: body mass index, LDL-C: low density lipoprotein cholesterol, HDL-C: high density lipoprotein cholesterol, L/H ratio: LDL-C/HDL-C ratio, Hb: hemoglobin, eGFR: estimated glomerular filtration rate, HbA1c: hemoglobin A1c, GNRI: geriatric nutritional risk index, LVEF: left ventricular ejection fraction, PCI: percutaneous coronary intervention, CABG: coronary artery bypass grafting, COPD: chronic obstructive pulmonary disease

また,プレフレイル・フレイルの有無を従属変数,プレフレイル・フレイル群とロバスト群の2群間で差を認めた,年齢,eGFR,GNRI,COPD併存の有無,運動習慣の有無を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析の結果,年齢(OR: 1.12,95%CI 1.00-1.25,p<0.05),運動習慣(OR: 0.14,95%CI 0.05-0.39,p<0.01),COPD併存(OR: 3.31,95%CI 1.16-9.38,p<0.05)が関連因子として抽出された(表2).全ての独立変数におけるVIFは5未満であり,多重共線性は認めなかった.

表2 プレフレイル・フレイルの関連因子(多重ロジスティック回帰分析)

OR95%CIp-value
年齢1.121.00-1.25<0.05
運動習慣0.140.05-0.39<0.01
(有:1,無:0)
COPD併存3.311.16-9.38<0.05
(有:1,無:0)

model χ2 検定p<0.01,Hosmer-Lemeshow検定p>0.05.

考察

CADは男性の罹患率が高く11,当院心リハ外来通院中のCAD患者においても高齢男性が大半を占めており,本研究における対象を高齢男性とした.

高齢男性CAD患者におけるCOPDの併存率は34.3%であった.COPD併存例における気流閉塞の重症度は,I期16例(47.1%),II期17例(50.0%),III期1例(2.9%)であり,97.1%が軽症から中等症であった.本邦では,CAD術後患者におけるCOPD併存率は2.4%と報告されている12.また,我々の先行研究において,60歳以上のCAD患者における潜在的なCOPDの併存率は21.5%で,気流閉塞の重症度は,I期およびII期の軽症から中等症の割合が92.1%を占めていたことを報告した5.先行研究と比較して,COPD併存率が高かった要因としては,COPDは 60歳以上で急増13し,年齢とともに有病率が増加14することが知られており,我々の先行研究に比べ本研究の年齢が高値であったことが影響していると考える.

次に,プレフレイル・フレイルの併存率について述べる.本研究におけるプレフレイル・フレイルの併存率は52.5%と半数を占め,プレフレイル44.4%,フレイル8.1%とプレフレイルの割合が多かった.この結果は,PCI後の高齢者を対象とした先行研究におけるプレフレイルおよびフレイルの併存率2と類似していた.プレフレイルの割合が多かったことについては,軽症COPDからプレフレイルを合併する7とされており,本研究のCOPD併存例も比較的軽症のCOPDが多かったことが要因であると思われる.

高齢男性CAD患者において,年齢,運動習慣の有無,COPD併存がプレフレイル・フレイルと関連する独立因子であることが示唆された.年齢が関連因子として抽出された点に関しては,65歳以上の地域在住日本人高齢者を対象としたメタ解析において,フレイルは加齢に伴って増加することが示され15,身体的フレイルの中核を占めるサルコペニアの割合も加齢とともに増加する16ことが明らかとなっており,本研究においても先行研究を支持する結果であった.運動習慣の有無が関連因子として抽出された点に関しては,Petersonらによると身体活動性の低い生活習慣とフレイル発症に関連があることや,高齢者において活動的な生活習慣はあっても,運動が少ない場合にはフレイルが重度化すると報告されており17,週3回以上,30分以上運動している場合を運動習慣ありと定義した本研究においても先行研究を支持する結果であった.

次に,COPDが関連因子として抽出された点について述べる.COPDでは,慢性全身性炎症,酸化ストレスの増加,身体活動性の低下,栄養障害などの複数のメカニズムが相互に作用し合いフレイルを来たすとされている8.大腿四頭筋の筋力低下はCOPDの軽症例からみられ18,その分子機序として,酸化ストレスの増加により誘導型一酸化窒素合成酵素や転写因子のNuclear Factor-κBの発現が亢進し,筋蛋白合成の減少やアポトーシスが誘導されることが報告されている19.下肢筋力低下や運動耐容能低下,息切れなどに伴い,身体活動性が低下しフレイルをさらに悪化させるという負のサイクルが容易に想像できる.高齢CAD患者を対象とした本研究においても,これらのメカニズムが相互に作用し合い,プレフレイル,フレイルを来たす要因になっていると思われる.しかし,本研究は後向き研究であり,今回高齢男性CAD患者におけるCOPD併存とフレイルの関連性を明らかにすることはできたが,フレイルを来たす要因を同定するには至らなかった.今後は,前向き研究にて主な要因を明らかにすることでCOPDおよびフレイルへの治療介入に繋がると思われる.

本研究の結果から,まずはCOPDの診断を行うために,高齢CAD患者に対し積極的に呼吸機能検査を実施することが重要である.また,先行研究において,COPDスクリーニング質問票はCOPDの早期発見に有益であることが報告されており20,呼吸機能検査を実施できない施設においては,スクリーニング質問票を使用し,そこでCOPDが疑われる場合には積極的にフレイルの評価を実施する必要があると思われる.フレイルの重要な点は,可逆性を有するという特徴である.COPD患者を対象としたMaddocksらの報告において,呼吸リハビリテーションを完遂できたフレイル患者のうち,56%がプレフレイルに,6%がロバストに改善し得たことが示されており21,早期にプレフレイル,フレイルを発見し適切な介入を行っていくことが重要である.

本研究の強みとしては,当院ではCAD患者に対し原則全例呼吸機能検査を実施しており,これまでの研究では見落とされていた可能性のある潜在的なCOPDを的確に抽出できている点である.研究の限界としては,運動習慣の有無については調査しているものの,身体活動量に関するデータは含まれておらず,今後は活動量計や質問紙票を用いて,身体活動量を含めた解析が必要である.また,本研究はプレフレイルとフレイルを区別した検証が行えていない.今後は症例数を増やし,プレフレイル,フレイルそれぞれでのサブ解析やCOPDの重症度別での検討が必要である.

備考

本論文の要旨は,第31回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2021年11月,香川)で発表し,座長推薦を受けた.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
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