日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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スキルアップセミナー
NPPVの「キホン」
~導入から管理まで~
門脇 徹
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2024 年 32 巻 3 号 p. 281-287

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要旨

非侵襲的陽圧換気療法(non-invasive positive pressure ventilation: NPPV)は気管挿管せず,マスクを介して経気道的に陽圧をかける換気療法であり,現在では急性呼吸不全・慢性呼吸不全を問わず第一選択の人工呼吸法である.本セミナーではNPPVの導入から管理において必要なNPPVの「イミ(意味)」・「マスク」・「モード」・「ハンイ(治療適応範囲)」について概説したものである.

緒言

非侵襲的陽圧換気療法(non-invasive positive pressure ventilation: NPPV)は気管挿管せず,マスクを介して経気道的に陽圧をかける換気療法1であり,現在では急性・慢性呼吸不全を問わず第一選択の人工呼吸法である.NPPVを有効かつ安全に導入・管理するにはNPPVの「イミ(意味)」をよく理解した上で「マスク」・「モード」を使いこなし,「ハンイ(治療適応範囲)」を見極めながら行っていくことが重要である.

NPPVの「イミ」を知る

前述の如くNPPVは気管挿管せず,マスクを介して経気道的に陽圧をかける換気療法1である.陽圧のかけ方としては2通り,すなわち持続的陽圧呼吸(continuous positive airway pressure; CPAP)と二相性陽圧換気(bilevel positive airway pressure; Bilevel PAP)がある1.CPAPはPEEPとして平均気道内圧を上昇させ,肺の虚脱箇所への換気を改善し,呼吸仕事量を減少させ,左室後負荷減少により血行動態に有益な影響を与えるなど肺胞レベルでのガス交換改善が主な作用である1.Bilevel PAPは吸気時に呼気時より高い圧力を吸気圧(inspiratory positive airway pressure; IPAP)として設定し,呼気時には吸気圧より低い圧力を呼気圧(expiratory positive airway pressure; EPAP)として設定する.このIPAPとEPAPの差をプレッシャーサポート(pressure support; PS)といい,吸気中にPSをかけることで患者の吸気仕事量が軽減し,肺胞換気量の増加により吸気筋疲労が軽減され,PaCO2 が低下する1

NPPVの治療効果に主に影響を与えるものとしてCPAPでは設定圧でありBilevel PAPではPSということになる.国内ガイドラインでは「患者が耐えうる吸気圧の上限をしっかりかける」と記載がある1が,治療効果が得られるPSの適正圧としては多くのランダム化比較試験などを参考にすると「10 cmH2O」以上となるであろう.当院から報告した在宅NPPV施行中の拘束性胸郭疾患(N=21)のデータではそれより低圧(10 cmH2O未満)となった場合,通常PS(10 cmH2O以上)と比較すると低圧症例では呼吸不全増悪回数が多かった2.また,いまだにインパクトを持つ慢性期COPDに対するNPPVの大幅な予後改善効果を示した2014年のKöhnleinらによる報告での圧力設定のコンセプトは「PaCO2 を20%下げる」または「48.1 mmHg以下に下げる」というものであった3.CPAPにおいては設定圧,Bilevel PAPにおいてはPS(≒IPAP)が治療効果に大きな影響をもたらすことについて再認識する必要がある.

NPPVの「マスク」を知る

前述のようにNPPVは「マスク」を介した陽圧呼吸である.したがってNPPVの「キホン」である「マスク」について熟知する必要があり,下記に示す項目がキーポイントである.

・様々な形状と長所・短所を知っておく

・状況に応じた使い分けができる

・フィッティングのテクニックを持つ

・マスクトラブルの対処方法を理解しておく

・リークの「イミ」を知っておく

・NPPVの合併症は「マスク」関連が最多

マスクは図1に示すようにマスクがカバーする部位により大きく3タイプ(鼻・鼻口・顔)に分けられる.鼻タイプには鼻の一部または全体を覆って使用する鼻マスク(ネーザルマスク)と鼻孔を覆うネーザルピローマスクがある.鼻口タイプは急性期・慢性期問わず汎用されるタイプであり大きく2つに分類される(図2).鼻と口を覆って使用する“Over-the-nose”タイプであるフルフェイスマスクと“Under-the-nose”タイプである.“Under-the-nose”タイプは「ネーザルピロー+口マスク」と「鼻孔プラグ+口マスク」がある.また顔全体を覆うタイプは急性期で使用するものでありトータルフェイスマスクとヘルメットタイプがある.紙面の都合上それぞれの特徴等については記載しないが,このようにNPPVのマスクは多岐にわたる形状があることを理解しておくことが重要であり,その知識に基づいて状況に応じた使い分けやフィティングのテクニックを持つことが重要である.

図1 NPPVマスクの3タイプ

図2 鼻口マスクの分類

また表1に示すようにNPPVの合併症はマスク関連の頻度が高い4.皮膚障害や潰瘍など医療関連機器圧迫創傷(medical device related pressure ulcer; MDRPU)として予防・管理が重要である.予防の観点としてはまずはマスクをきつく装着しすぎない(ストラップを締めすぎない)ことである.患者はリークがあると不快(リーク音や送気)であるためできるだけリークがないようにストラップを締めすぎる傾向がある.また急性期などは開口してしまうことも多く,医療者側もどちらかというと締めすぎて(マスクを顔面に過度に密着させて)しまいがちである.このような傾向があるためにNPPVマスクによるMDRPUは起こりやすくなっている.マスクフィッティングには様々なテクニックがあるが,基本的には“問題のあるリークにならない程度に装着する”という姿勢がよい.それにはリークの意味を知っておくことも重要である.

表1 NPPVの合併症

マスク関連
症状頻度
不快感30-50%
顔面皮膚の紅斑20-34%
閉所恐怖症5-10%
鼻根部潰瘍5-10%
ニキビ様皮疹5%未満
圧・流量関連
症状頻度
鼻のうっ血20-50%
副鼻腔・耳の痛み10-30%
鼻・口への乾燥10-20%
眼への刺激5-10%
腹部膨満5%未満
漏れ80-100%
重篤な合併症
症状頻度
誤嚥性肺炎5%未満
低血圧5%未満
気胸5%未満

(Noninvasive Ventilation. Mehta S and HiLL NS. AJRCCM 2001)

我々がよく使用している開放型NPPVのリークには2種類ある.intentional leak(意図的なリーク)とunintentional leak(非意図的なリーク)であり,両者を合わせたものがtotal leak(トータルリーク)である.intentional leakは呼気ポートからのリークであり,そもそも存在するものである.しかしながらunintentional leakはマスクと皮膚からのリークを意味しており,別名patient leak(ペーシェントリーク)とも言う.NPPVの管理においてはこのunintentional leakのコントロールが極めて重要である.また使用する人工呼吸の機種によってリーク表示がunintentional(patient)leakのこともあればtotal leakのこともある.どちらを表示しているかを知っておく必要がある.

NPPVの「モード」を知る

前述のようにNPPVではCPAPとBilevel PAPを提供することができる.ここではBilevel PAPの様々なモードについて簡単に記す.詳細は成書を参照されたい.表2には講演時点でNPPV専用機で設定できるモードの一覧を示している.

表2 Bilevel PAPで使用できるモード一覧

吸気開始機転供給ガス
上限
呼気開始機転換気量保証Auto
EPAP
S自発呼吸patient t.pressurepatient t.(-)(-)
S/T補助換気patient t.pressurepatient t./time c.(-)(-)
T強制換気time t.pressuretime c.(-)(-)
PCV
PC
PAC
補助換気patient t.pressuretime c.(-)(-)
iVAPS補助換気patient t.pressurepatient t./time c.(+)
(肺胞換気量)
(+)
AVAPS設定モードに依存設定モードに依存pressure設定モードに依存(+)(-)
AVAPS-AE補助換気patient t.pressurepatient t./time c.(+)(+)
TgV設定モードに依存設定モードに依存pressure設定モードに依存(+)(-)
PRVC補助換気patient t./time c.pressurepatient t./time c.(+)(-)
auto ST補助換気patient t.pressurepatient t./time c.(+)(+)

表上方に提示したS(spontaneous),S/T(spontaneous/timed),T(timed),PCV/PC/PAC(pressure control ventilation/pressure control/pressure assist control:機器により呼称が異なる)の4つのモードは吸気・呼気開始機転が異なり,それぞれ特徴があるが,共通しているのは可変のauto EPAPもなく換気量保証によるIPAPの自動運転もない設定圧力不変の,いわゆる“固定圧”のモードである点である(図3).これら固定圧モードの特徴を下記に記す.

図3 固定圧モード

①Sモード:自発呼吸しかトリガーしない(患者トリガーのみ:自発呼吸に100%依存)

②S/Tモード:自発呼吸をトリガー(Sモードと同様)し,設定時間内に自発呼吸がなければ時間トリガーにより強制換気(Tモードと同様)

③Tモード:自発呼吸は「無視」.設定する呼吸回数は強制換気としての設定

④PCV/PC/PACモード:S/Tモードと似ているが,自発呼吸をトリガーした場合にも一定の吸気時間(強制換気と同じ)IPAPが作動

このような固定圧モードの他に近年進化を遂げ,急性期~在宅用NPPV機器の様々な機種に搭載されるようになったのが換気量保証圧補助換気(volume assured pressure support: VAPS)モードである.それぞれのモードで作動アルゴリズムは異なるが,基本的にはIPAPが設定した1回(分時)換気量を保証するように自動で上下動を行う.モードによってはEPAPが自動で上下動する機能を持つものもある.固定圧モードで治療効果が得られないとき,思うように圧力が上げられないとき,固定圧モードで患者が不快感を訴えるときなどはVAPSモードの良い適応と考えられる5.同じVAPSモードでもそれぞれ搭載機器や作動特性が異なることを十分に理解の上使用する必要がある5.Auto EPAP機能を持つものは無呼吸合併症例などには有利かもしれない5.注意点としてVAPSモードは大量のunintentional leakによりIPAPが低下してしまう現象が発生してしまうことがあるため固定圧モードより更に精度の高いリーク管理が重要となる5,6

NPPVの「ハンイ」を知る

呼吸不全患者において呼吸管理を行う場合,酸素療法→高流量鼻カニュラ(high flow nasal cannula: HFNC)→NPPV→挿管下人工呼吸と治療強度が上がる.NPPVから挿管下人工呼吸への移行については比較的明確な“線引き”がある1が,近年爆発的に普及しているHFNCとNPPV・酸素療法の“線引き”は未だ不明瞭である.本セミナーではこの“線引き”について「どこからどこまで問題」として考えてみたい.

まずなぜ「どこからどこまで問題」が発生するのか?それはHFNCの持つ下記特長7によりもたらされる.

①正確なFIO2 を供給できる(酸素療法より優位)

②PEEP効果を持つ(CPAP的)

③「死腔の洗い出し」効果を持つ(換気効率がup)

④高い加温・加湿効果(NPPVより優位)

⑤鼻カニュラを使用(NPPVより快適)

急性期ではCOPD増悪による急性II型呼吸不全症例でコントロールできない高リークのためNPPVからHFNCに切り替えたところHFNCがNPPVを上回る治療効果を示した症例報告8があり,また7.25<pH<7.35の軽症急性呼吸性アシドーシスではNPPVと同様の治療効果を示した研究結果も複数報告されている9,10,11,12,慢性期においても本邦で行われたCOPDを対象にしたpilot studyでは在宅酸素療法に夜間HFNCを加えることで有意なQOLの改善・PaCO2 の低下という結果が得られている13

図4においてAは酸素療法とHFNCの境界線,BはHFNCとNPPVの境界線とする.まずは急性期において,治療がstep up(患者が重症化)する場合について考えてみる.

図4 「どこからどこまで問題」

A:酸素療法からこの境界線は実はあまり定められておらずそこまで意識しなくても良い.言い換えると「酸素療法→HFNC」のstep upを必ず経由しないといけないわけではない.酸素療法でいけそうならそれでよいし,重症化やPaCO2 貯留の懸念があるケースや痰の多いケースは初めからHFNCでもよい.O2 5 L/分程度で酸素化不良のケースでは躊躇なくstep upするとよい.

B:HFNCでも酸素化が不良,もしくは改善しない場合,pH<7.30となる呼吸性アシドーシスの進行を認める場合,HFNC開始しても呼吸困難や頻呼吸が改善しない場合などはNPPVにstep upする.HFNCの過信は禁物である.明確な基準はないが経験上HFNCでFIO2 60%以上を要する場合にはNPPVへのstep upを常に考慮する必要がある.

次に急性期でのstep downの際について考えてみる.

A:step upの場合には“境界線をあまり意識しなくてもよい”としたが,このstep downは少し厳密にしたい.HFNC開始後FIO2 を下げることができ,フロー 30 L/FIO2 21-30%程度で十分な管理ができていればHFNC離脱してもよいであろう.但し,HFNC使用に至った原因(気道感染によるCOPD増悪など)のコントロールに目処が立っていることが重要である.

B:CPAPでもBilevel PAPでもFIO2 30%程度に安定したらHFNCへのstep downを検討する.その際にはまずは「終日NPPV→日中HFNC+夜間NPPV→終日HFNC」や「終日NPPVだけどトイレと食事はHFNC」など段階的なstep downが現実的である.

急性期は救命と呼吸状態の安定化が目的であるため呼吸管理デバイスを変えながら治療が“行ったり来たり”する.しかしながら症例によってはHFNCからNPPVのstep upを行わないケースもある(緩和的HFNC).事前のアドバンス・ケア・プランニング(advance care planning; ACP)により,患者・家族との意思疎通をとっておくことが重要ではあるが,呼吸管理の開始のタイミングが初めてのACPとなることも少なくない.呼吸管理選択やstep upにおいては十分な説明と同意が必要なことは言うまでもない.

慢性期には基本的に治療はstep upしていくものであり,step downすることは稀であるため,“境界線”の定め方が自ずとより厳しくなる.本稿執筆時点では慢性期(在宅)HFNCは保険診療が認められていないが,現時点で得られている知見をもとにCOPDにおける“境界線”を提示する.HFNC登場前(=現状)には「PaO2 55 Torr未満でHOT導入」14,「PaCO2 55 Torr以上で在宅NPPV導入1」,と数字で明確に境界線が定められている.慢性安定期COPDに対するHFNCの臨床効果は国内で行われたpilot研究13やこれまでの研究の結果から9,10,11,12表3に在宅ハイフローセラピーの手引き作成委員会が策定した導入基準(試案)を示す7.その結果の境界線は図5のようになるであろう.COPD以外の疾患についてはまだまだ研究が進んでおらず,今後の知見の蓄積に期待したい.

表3 慢性安定期COPDにおける在宅HFNC導入基準(試案)

在宅酸素療法(HOT)施行中で①に示すような自覚症状と②もしくは③を満たす場合
①呼吸困難(感),去痰困難,起床時頭痛・頭重感など
②HOT導入時もしくは導入後に高炭酸ガス血症(PaCO2 45 Torr以上)を認める症例.
ただしPaCO2 55 Torr以上ではNPPVが不適の場合とする.
③HOT処方酸素量投与下でPaCO2 が 45 Torr未満であっても夜間の低換気による低酸素血症を認める症例.
終夜睡眠ポリグラフ(PSG)あるいはSpO2 モニターを実施し,SpO2<90%が5分間以上継続するか,あるいは全体の10%以上を占める症例.

(在宅ハイフローセラピーの手引き作成委員会.「在宅ハイフローセラピーの手引き」)

図5 慢性呼吸管理デバイスの「境界線」

おわりに

本セミナーではNPPVの導入から管理において必要なNPPVの「イミ」・「マスク」・「モード」・「ハンイ」について概説した.急性期ではHFNCの優位性に押されてNPPVの登場機会が若干減ってきており,今後在宅の呼吸管理においてもHFNCの期待値が高まっている.しかしこのような状況においても非侵襲的呼吸管理ではNPPVが中心的役割を担うことは当分変わりなさそうであり,NPPVについて深い理解と高い技術の習得は呼吸管理に関わる全ての職種において必須である.本セミナーがお役に立てば何よりである.

備考

本論文の要旨は,第7回呼吸ケア指導スキルアップセミナー「NPPVの「キホン」~導入から管理まで~」内で発表した.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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