2024 年 32 巻 3 号 p. 288-292
酸素療法は低酸素症に対して日常的に行われている治療法の一つである.デバイスは低流量システム,高流量システム,およびリザーバシステムに分類される.低流量システムには,患者の1回換気量以下の酸素ガスを供給する方式で,鼻カニュラや簡易酸素マスクなどがある.高流量システムは,患者に1回換気量以上の酸素ガスを供給する方式で,ベンチュリーマスク,高流量鼻カニュラなどがある.また,リザーバシステムとは呼気時の酸素をリザーババッグ内に貯め,次の吸気時に貯まった酸素を吸い込む方式で,リザーババッグなどがあげられる.
それぞれの特徴を理解し,適切に選択し,適切な管理を行うことで,合併症を回避し,安全に管理しなければならない.
酸素療法とは,低酸素症に対して,吸入気酸素濃度(
低流量システムは,鼻カニュラ,簡易酸素マスク,開放型酸素マスクなどがある.1回換気量以下の高濃度酸素ガスを供給し不足分は室内気を吸入するため,1回換気量により吸入する室内気の量が異なり
場合通常 1~6 L/分投与されるが,酸素流量 6 L/分を超える使用は通常の加湿では酸素ガスが鼻粘膜に直接ぶつかり刺激するため勧められない.また常時口呼吸の患者には推奨できない.
通常 5~8 L/分程度のガスを流し,
マスク本体が大きく開放されているので喀痰吸引が容易で,少ない流量でもCO2 の再呼吸を防ぐことができる.
高流量システムは,ベンチュリーマスク,ネブライザー付酸素吸入装置および高流量鼻カニュラなどがある.これらは1回換気量以上の高濃度酸素ガスを供給することで,呼吸パターンと無関係に一定濃度のガスを供給することができる.酸素流量と供給される総流量の関係は,以下の式で成り立っている(図4)2).
Y;総流量(L/分),X;酸素流量(L/分),P;設定酸素濃度(%),21;室内気酸素濃度(%)
(通常の酸素流量計の最大流量は 10 L/分まで)2)
酸素濃度と酸素流量が決められているダイリュータを選択することで,
ベンチュリーマスクにネブライザー機能を備えたもので,喀痰喀出困難な術後の患者などに適している.最低酸素流量は 5 L/分で十分な加湿効果を得るためには 10 L/分以上が必要である.また,
リザーババッグとマスクの接合部,マスクの側方に一方向弁がついており,呼気相(呼気時)にリザーバ内に酸素を蓄え(容量 600 mL),吸気相(吸気時)にリザーバに溜まった酸素,チューブから出てくる酸素およびマスク内に貯まった呼気ガスを吸入する.呼気ガスを再呼吸させないためには,6 L/分以上の酸素流量を必要とする.また,1回換気量が多いと,リザーババッグが途中で空になるため,マスク側方の一方向弁を片側だけにして使用する事もあるが
ハイフローセラピー(high flow therapy; HFT)やハイフローネーザルカニュラ(high flow nasal cannula; HFNC)と呼ばれる.
1. 構造と原理HFTは,ガス供給源と加温加湿器,呼吸回路および専用鼻カニュラから構成される.ガス供給源は,酸素・圧縮空気ブレンダーとフローメータが必要な配管タイプ(図8)と,圧縮空気を必要とせず,使用場所を選ばないで使える専用フロージェネレータ(図9)がある.また,配管タイプにはブレンダー型とベンチュリー型がある.これらの違いを表1にまとめた.
(左;micromax ,右マックスベンチュリー;カフベンテックジャパン株式会社より写真提供)
(左 myAIRVO;フィッシャーアンドパイケルへスルケアジャパン,右 インスパイアフロー;カフベンテックジャパン株式会社,各社より写真提供)
酸素と空気の混合方法 | 混合ガス流量 | 加温加湿器 | 使用場所 | ||
---|---|---|---|---|---|
ブレンダー様式 | 酸素・圧縮空気ブレンダー | 6~60 LPM | 直接設定 21~100% | 外部 | 主にICU |
ベンチュリー様式 | 酸素,室内気をブレンド | 20~50 LPM | 室内気取込み量に依存 32~100% | 外部 | 主にICU,一般病棟 |
フロージェネレータ | ブロアにて室内気取込み,酸素添加 | 10~60 LPM(成人) 2~25 LPM(小児) | 酸素添加流量に依存 21~100% | 内臓 | 主に一般病棟,在宅 |
ガス供給源から出てきた空気・酸素混合ガスは,高性能加温加湿器チャンバ内で31~37°Cに温められ,さらに熱線入り加温回路で温められ専用鼻カニュラより患者に投与される.専用鼻カニュラは,通常の鼻カニュラと比較してプロングのサイズが太いのが特徴である.
2. 特徴HFTの特徴は,1)21~100%まで正確な
I型呼吸不全に対しては,
使用開始前にウォームアップを行い,温度・湿度が安定してから患者に装着することで,不快感を回避することができる.加温加湿器の温度は37°Cで設定することが望ましい.急性呼吸不全であれば,
可能な限り
I型呼吸不全では,鼻カニュラを第一選択とする.SpO2 が94~98%になるように酸素投与量を調節し,血液ガスが確認できる場合は酸素投与開始30分後に評価する.呼吸困難感が強い,あるいは呼吸数25回/分以上の頻呼吸を認める場合は,HFTやNPPVの適応を検討する.
文献5)より一部改変
II型呼吸不全では,酸素化の改善のみならず,換気状態の維持・改善が必要となる.SpO2,pH,PaCO2 のモニタと,意識状態,呼吸数,呼吸状態を注意深く観察する.酸素療法は基本的に鼻カニュラから開始し,呼吸性アシドーシスが悪化する場合はベンチュリーマスクに変更する.それでも悪化する場合はNPPVあるいは意識障害を伴う場合は挿管下による人工呼吸管理を検討する.
モニタリングは,呼吸状態のみならず,循環状態や意識状態を含めた臨床評価を行う.また,血液ガス検査,あるいはSpO2 の評価を実施する.
2. 慢性呼吸不全への対応の実際慢性呼吸不全は,高度慢性呼吸不全例,肺高血圧症,慢性心不全およびチアノーゼ型先天性心疾患が対象となる.
高度慢性呼吸不全例とは,PaO2 が 55 Torr以下の者,およびPaO2 60 Torr以下で睡眠時または運動負荷時に著しい低酸素血症をきたす者であり,医師が在宅酸素療法を必要であると認めたものである.酸素療法導入時には,動脈血ガス分析を行い,PaCO2 およびpHの測定を実施する.酸素投与による目標PaO2 は 60 Torr以上とし,1日18時間以上の酸素吸入が望ましいとされる.酸素投与量は,覚醒かつ安静時,運動時および睡眠時に分けて処方する.運動時はSpO2 が90%以上を保つように処方し,睡眠中はパルスオキシメータを用いた測定を行い,夜間の適切な酸素投与量を決定する.
心筋梗塞や急性冠症候群,脳卒中,妊婦(胎児)などは酸素投与の適応とされていたが,これらの症状に対する不必要で過剰な酸素投与は,血管収縮に伴う重要臓器の血流量を低下させ,むしろ有害となる可能性が指摘されている.
酸素の過剰投与では,酸素化の悪化がSpO2 に反映されず発見が遅れるリスクが高まる.また,新生児では,100%酸素による蘇生で死亡率が増加するので注意が必要である.その他,未熟児網膜症による失明や酸素中毒,吸収性無気肺,およびCO2 ナルコーシスに注意が必要となる.
CO2 ナルコーシスは,頭痛,振戦,痙攣,傾眠傾向や発汗著明,意識障害などを症状とし,血液ガス分析では呼吸性アシドーシスを伴った高炭酸ガス血症を呈する.酸素投与を行う場合は,0.5~1 L/分,酸素濃度24~28%で行い,意識障害を伴う場合は,直ちに気管挿管による人工呼吸を行うが,急速にPaCO2 を低下させると,血圧低下,不整脈などをきたす恐れがあるため注意が必要である.
酸素中毒とは,高濃度酸素吸入による気道および肺実質障害のことをいい,高濃度の酸素を吸入する時間により気道・肺実質の障害が異なる.
酸素療法の基本的なことから臨床での実際までを述べた.酸素療法は日常的に行われているが,デバイスを適切に選択し,リスクや合併症を回避するように安全に使用しなければならない.
カフベンテックジャパン株式会社の技術顧問