日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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原著
一般病棟における安全な人工呼吸管理体制の構築を目指して
原 千春 中井 聡紀銀杏 猛寺西 敬
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2024 年 33 巻 1-3 号 p. 89-94

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要旨

当院は人工呼吸器を装着すると如何なる症例でも集中治療室(ICU)に在室し続ける傾向があり,ICUへの長期滞在が顕在化している.気管切開施行後の状態が安定している人工呼吸器装着患者であっても,一般病棟の看護師から管理困難と言われるケースが少なくない.結果として,特定集中治療室管理料の算定期間を越えてICUのベッドを長期間占拠し,新たに集中治療が必要な患者が入室困難になることがある.そこで,呼吸サポートチームが一般病棟で人工呼吸管理を行える体制作りができないかと考え,一般病棟,ICUの看護師を対象に人工呼吸管理に関する現状調査を行なった.一般病棟では,特に不安や知識不足に関連する回答が多く占めていたため,ニーズに応じた勉強会やOn The Job Trainingの実施と,24時間一般病棟の看護師が相談できる体制(スキーム)を整えた.その結果,一般病棟看護師の人工呼吸管理に関する不安緩和に繋がった.

緒言

2011年日本呼吸療法医学会の「人工呼吸器安全使用のための指針 第2版」において,人工呼吸器を安全に使用するためには,その環境を充実させることが重要であり,集中治療施設基準を満たすことが望ましい1と明記されており,また,状態の比較的安定した慢性呼吸不全や終末期患者の呼吸療法を一般病棟で施行する場合に満たす条件も記されている.

その反面,高度先進医療の推進,重症病態や超高齢者への治療適応の拡大などの理由から,人工呼吸の適応患者が増加し,集中治療室(intensive care unit: ICU)などの特定の病棟に収容しきれず,一般病棟での管理を余儀なくされているのが現実である2.当院においても日本の社会的背景と相違はない.実際に,一般病棟における人材や,環境面からも人工呼吸管理をおこなうための条件が十分に満たされておらず,一般病棟での人工呼吸管理に対して困難さが生じている.

一般病棟の看護師は人工呼吸管理に関わる機会が少なく,いくつかの先行研究でも人工呼吸管理に不安を抱いていたり,否定的感情をもつ割合が多いことが示されている3,4.また,知識不足との関連があり,看護師の各レベルに合わせた勉強会の実施が有用であったとの報告もある3,4

当院は,呼吸器内科医と呼吸認定理学療法士の着任とともに,2020年にRST が立ちあがった.呼吸サポートチーム(respiratory support team: RST)発足以前は,院内で人工呼吸管理に関して相談できる場や,人工呼吸管理に精通した指導者も存在せず,教育も行われていなかった.人工呼吸器装着日数が長期化し,気管切開術を施行後の状態が安定した患者や,終末期患者であっても,人工呼吸管理中であれば一般病棟看護師から管理困難と言われるケースが多く,ICUに在室し続ける傾向があった.その結果,特定集中治療室管理料の算定期間を越えてICUのベッドを長期間占拠し,急性期の集中治療が必要な患者がICUに入室できない状況が見られていた.病院収益にも影響していた院内では,この状況が問題視されていたが方策は打たれていなかったため,この状況を変えるためにRSTが一般病棟で人工呼吸管理を安全に行える体制づくりができないかと考えた.安全体制を構築することは,一般病棟看護師の人工呼吸患者に対する不安やストレスを払拭するための強力な支援になる2と述べられていることから,今回我々は,人工呼吸管理に関する現状調査をおこない,得られた結果から介入方法を検討した活動を報告する.

対象と方法

1. 対象

当院在職中の病棟看護師150名(看護師総数194人).うち,一般病棟看護師133名,ICU看護師17名.

2. 調査期間

2021年4月~2022年9月

3. 方法(図1

1) 一般病棟・ICU看護師を対象に人工呼吸管理に関する現状調査

アンケート内容は,複数回答式で,自部署での人工呼吸管理に不安や抵抗を感じますか,という質問に加え,不安・疑問点などの率直な意見を聞けるように自由記載欄を設けた内容とした.これをアンケートAとする.アンケートAから得られた回答をもとに一般病棟看護師及びICU看護師に対してRSTで対応策を検討し,介入した.

図1 方法を図式化した

2) 一般病棟看護師に対しての介入

人工呼吸管理が困難になっている原因・要因を検討し,その対応策として①~③を立案した.

①勉強会の開催:アンケートAの結果から一般病棟のニーズに合わせた勉強会を開催した(1~2回/2か月).

②RSTラウンド:当院RSTは,週1回の会議とRSTラウンドを,RSTコアメンバー(医師・理学療法士・集中ケア認定看護師,臨床工学技士)と各部署のリンクナースでおこなっている.一般病棟にRST対象患者(主に人工呼吸管理,高流量鼻カニュラ中の患者)がいる場合は,RSTコアメンバーでラウンド頻度を増やし,看護ケア(気管吸引,体位変換などの方法)や呼吸リハビリテーション,機器類(機器類の導入・人工呼吸器の取り扱い),人工呼吸器の離脱・設定,非侵襲的陽圧換気のマスクフィッティング,アラーム対応のリアルタイムでの問題解決や,主な観察点,注意点など対象患者で予測される現象,医師・RSTに報告して欲しいポイントを重点的に指導するようにした.

③RSTへの相談体制(スキーム)の構築:夜勤帯や休日などRSTが不在の時も常時相談できる場が欲しいという要望から,一般病棟が24時間相談できるようにRSTに加えICUも相談場とし,人工呼吸管理のトラブル発生時のRSTへの相談スキームを構築した(図2).

図2 相談スキームの構築(一般病棟看護師とICU看護師の相談スキーム)

次いで,勉強会前後での意識変化について視覚アナログ尺度(visual analogue scale: VAS)を用いて,評価した.これをアンケートBとする.日常業務での酸素療法・人工呼吸管理についての知識,日常業務での酸素療法・人工呼吸管理に対する自信,日常業務での人工呼吸管理における興味,について相談スキーム構築前後に分けて回答を求めた.

3) ICU看護師に対しての介入

①一般病棟看護師が常時相談できるように,RSTと共に相談場の役割を担うことを依頼し,それに伴って,知識と実践能力向上のために一般病棟とは異なる勉強会(6回/2か月)と日々の業務内でon the job training(OJT)を実施した.OJTでは,相談依頼時の対応方法や,過去の相談内容も含めながら指導を行った.また,一般病棟にRST対象患者が滞在している際の情報共有と,予測される相談についての対応方法について事前指導を行った.

②ICU看護師に対して,勉強会前後で相談場を担うことについての意識変化をVASを用いて評価した.これをアンケートCとする.知識,他部署からの相談依頼時の不安感,他部署からの相談依頼があった時の対応の適切性,について勉強会前後に分けて回答を求めた.また,勉強会前後で,ICU看護師に対し,他部署からの相談依頼時の心情の変化について自由記載で回答を求めた.

③アンケートCの結果からICU看護師に対する対応策として,ICU看護師が対応困難時の相談スキームを構築した(図2).また,ICU看護師が対応した症例についてはフィードバックと共に,労いの言葉や,一般病棟からの「昨日の夜,来てくれて助かりました」など実際の声をしっかりと届けるようにした.

4. 倫理的配慮

対象者の調査協力は自由意志であり,調査の拒否や撤回が対象者の不利益を生じないことを説明,保証し同意を得た.プライバシーおよび個人情報の保護のため質問紙は無記名とした.

結果

アンケートAの回答者数及び回答率は一般病棟看護師108名(81.2%),ICU看護師17名(100%),全体125名(83.3%),アンケートBの回答者数及び回答率は一般病棟看護師108名(81.2%),アンケートCの回答者数及び回答率はICU病棟看護師17名(100%)であった.

アンケートAの結果(図3-①図3-②),一般病棟では,不安・恐怖心25%,経験不足24%,知識不足17%であり,これらの項目で過半数を占めていた.自由回答では,「すぐに相談できる場がない」「相談できる場が欲しい」「年に数回しか触らないため,忘れてしまう」「アラームが鳴ったら不安」「せん妄患者が複数いる中で呼吸器まで無理」「RSTがあると聞きやすい」などの意見があった(表1).

図3-① 一般病棟看護師の人工呼吸管理に対する現状調査結果(n=108)

図3-② ICU看護師の人工呼吸管理に対する現状調査結果(n=17)

表1 本研究で実施したそれぞれのアンケートから得られた意見

アンケートA
一般病棟看護師ICU看護師
・病棟は受け持つ患者が多いので負担
・せん妄患者が複数いる中で人工呼吸管理まで無理
・看護業務が増える(口腔ケア・吸引など)
・病棟で人工呼吸管理をする時点で不安
・医師の指示が古いものから全く更新されていないことが多く,現在の指示がわかりにくい
・人工呼吸器に関わることが少なく,慣れていないため不安
・年に数回しか人工呼吸器に触らないため,忘れてしまう
・勉強不足と言われればそれまでだが,一般病棟では人工呼吸管理ができる看護師は多くない
・アラームが鳴ったときに,どのように対応するのかがわからない
・忘れたころに人工呼吸管理の患者がくるので,思い出すまで不安
・間違えると怖い,やったことない
・日々,人工呼吸器患者と関わっていれば抵抗はないが,長い期間,人工呼吸管理をおこなっていなければ抵抗がある
・座学でしか人工呼吸器の使用方法を学んでいないから不安
・人工呼吸管理の患者をみる機会が少なく,慣れていないため生命にかかわる医療機器の設定は不安に思う
・知識,経験のある看護師が勤務なにいればよいが,そうでない場合に不安
・人によって技術・知識に差がある
・ICUは観察しやすい環境だが,病棟は違う患者の状態による
・ICUでは,患者が観察しやすい環境なので,なにかあれば気づける
・相談できる医師やスタッフがいる
・患者の状態による
・医師指示が古いものから更新されていないものが多く,その指示が今適応されているのか不安に思う
・新しい機械が導入された時は操作が慣れずに不安を感じる
・新しい人工呼吸器の操作がまだわからない
・院外の医師や,人工呼吸管理に不慣れな医師が当直の時は不安
・疑問点は自分で勉強して解決している

ICUでは,不安・恐怖心は11%であり,一般病棟と比較するとICUは低値であった.自由回答では,「ICUなので対応できる環境だと思う」「患者の状態による」「相談できる医師やスタッフがいる」「人工呼吸管理に不慣れな医師や,院外の先生が当直のときは不安」等の意見があった(表1).

アンケートB(図4)では,知識:前2.45,後4.52,不安の軽減と自信:前1.95,後3.63,興味:前2.92,後4.93と全項目で上昇がみられた.

図4 一般病棟看護師の勉強会前後での意識変化(アンケートAとBの比較)

アンケートC(図5)では,知識:前3.36,後5.31,相談依頼時の不安感:前5.45,後5.95,対応の適切性:前4.09,後5.18であり,知識や相談依頼時の対応の適切性は向上していたが,相談依頼時の不安感の増加がみられた.自由回答では,他部署からの相談依頼時の意見として,「自信がない」「他の病棟のことまでみれない」「何かあって自分のせいにされたら嫌だ」「答えられなかったら申し訳ない」「自分で大丈夫か」等の意見が聞かれた.相談の依頼を受けた看護師は17名中9名であり,うち6名から,不安や否定的な意見が聞かれていた.不安については,相談の依頼を受けたことがない看護師からもみられていた.

図5 ICU看護師の勉強会前後での意識変化(アンケートAとCの比較)

考察

アンケートAから,一般病棟では人工呼吸器に対する不安や恐怖心の占める割合が多く,経験不足や知識不足が関連していると考えられた.そのため,一般病棟看護師のニーズに合わせた勉強会の実施やRSTラウンドを行った.OJTを通して人工呼吸器管理中の患者に携わる機会を意図的につくり,RSTが一般病棟看護師と直接コミュニケーションを取りながら対話を交わすことで,新たな知識の普及となり,一般病棟看護師の知識・興味の向上に繋がったと考える.また,RST不在時や,夜間・休日であっても,ICUがいつでも相談できる場として位置づけられたことは,一般病棟看護師の不安緩和に繋がったと考える.その反面,ICUに相談場を依頼した当初は,ICU看護師からの賛同は得られなかった.他部署に対応するという初めての取り組みによって,前述のような不安を示唆する言動に繋がったと推察された.そのためICU看護師に対して,一般病棟とは別に定期的な勉強会の開催と,日々のOJTのなかで相談内容の具体例をあげながら,相談依頼時の対応方法や,知識と実践能力の向上に努めた.しかし,その後の再調査(アンケートC)では,相談依頼時の不安感が増加した結果となった.Woleらは,「不安は,条件づけなど学習を通して獲得・消去しうる側面を有している」5と述べている.今回,学習や経験を通して,不安感が増加した結果となったが,今後も教育を継続することで,不安感が軽減される可能性も考えられる.また,「最も学べる時というのは知識が特定の状況のなかでその知識を使って介入するとき」6と述べられていることから,ICUを一般病棟の相談場として位置付け,他部署との関わりを通して自己の知識を使って介入する機会は,ICU看護師の能力向上の機会となり,副次的にICU看護師の知識の底上げになると期待する.

「医療の安全の見地から考えて,現場の医療者が,患者の異変に気がついたときに,誰かに相談する,誰かに自分の対応が正しいかを聞いてもらう,誰かに,誰に相談すれば良いかを相談するという道筋があるということが重要である」7と述べられているように,一般病棟に対してはRSTとICUの両方に相談できるスキームを構築し,加えて,ICU看護師が対応困難時はRSTへの相談スキームを構築した.ICU・一般病棟看護師双方にとって,必要な時に相談できるこの両方向への相談スキームの構築は,一般病棟看護師の不安緩和や安心感,安全面からも効果的であったと考える(図4).

今回,RSTが一般病棟看護師の声を聞き,ニーズに合わせた体制作りを行ったことで,一般病棟看護師の人工呼吸管理に対する不安が軽減・緩和された.その一方で,相談を受ける側となったICU看護師の不安が増大した.一般病棟で安全に人工呼吸管理を行うためには,ICUが相談場としての役割を果たすことが,病院の意向でもあるため,ICU看護師に向けての勉強会やOJTの取り組みを継続し,知識・技術の向上に努めていきたい.

今後の課題

今回構築した相談スキームを継続し,一般病棟での人工呼吸管理の安全を確保できるように,RSTの活動を継続し,更なる問題点の抽出と解決に取り組んでいきたいと考える.

備考

本論文の要旨は,第32回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2022年11月,千葉)で発表し,座長推薦を受けた.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
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