日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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シンポジウム
その人らしい生活の「これまで」と「これから」をつなぐコラボレーション
今戸 美奈子
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2024 年 33 巻 1-3 号 p. 23-25

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要旨

慢性呼吸器疾患を持ちながら暮らす人を支えるために,筆者は慢性疾患看護専門看護師として病院の看護外来で継続的な在宅療養支援を行っている.その支援の中で,外来通院中はもちろんのこと,急性増悪等により入院した際は,患者にとって必要な支援を整えるために多職種との連携,コラボレーション(協働)を行いながら医療ケアに携わっている.多職種との連携や協働においては,対象となる患者の「これから」をそれぞれの専門性の立場から思い描くために,「これまで」の病状の経過や生活,患者の価値観,希望などを時間軸で統合し,つなぐことを意図的に行っている.効果的な協働を促進する要素には,各メンバーが互いの専門性や責任を理解し信頼すること,共通の目標を持つこと,効果的なコミュニケーション,互いの尊重と補完,ユーモアなどがあると言われ,これらの要素を意図的に日々の実践に取り込んでいくことでより良い協働が進むと考える.

看護外来を基盤とした継続看護および調整活動

筆者は,慢性疾患看護の専門看護師(certified nurse specialist: CNS)として看護部に所属し,組織横断的に直接ケアや相談,調整,教育,研究等の活動を行っている.主に呼吸器疾患患者のケアを専門とし,当院呼吸器センターで看護外来を開設して実践に取り組んでいる.看護外来の主な目的は,慢性呼吸器疾患をもつ人々とその家族が,在宅酸素療法(home oxygen therapy: HOT)や在宅非侵襲的陽圧換気療法(non-invasive positive pressure ventilation: NPPV)などの治療および病気とともに生活するためのセルフケアを適切に継続して行い,その人が望む生活を維持できるよう支援することである.慢性呼吸器疾患患者は,病状の進行や呼吸困難等の苦痛な症状の増強,加齢等に伴って,新たな治療やセルフケアが増え,その都度,生活の再調整が必要となる.そのため看護外来では,対象となる患者の経過に沿って,継続する治療やセルフケアと日々の暮らしのすり合わせや統合を支援している.外来安定期には,患者の普段の暮らしについての語りから,その人が様々に取り組まれている治療やセルフケアの体験を捉える.そして,病状を予測しつつどのような生活を目指すかについて対話をしながら,必要とされる治療や療養法が暮らしに浸透していくように働きかける.また,急性増悪により入院した場合は,状況に応じて病棟等へ行き,患者の病状や治療,機能の状態から,新たな治療ケアや暮らし方を多職種と一緒に考え支援するといった働きかけを行っている.当然のことながら,このような看護実践においては,自身が提供できるケアの範囲には限界があるため,それを十分に理解したうえで多職種との連携やコラボレーション(以下,協働とする)を行うことになる.

CNSの役割のひとつに「調整」がある.この「調整」は,対象となる患者・家族に複雑で解決困難な課題がある場合に,その状況を紐解き,患者・家族にとって必要なケアが最も効果的に提供されるように,患者・家族を含む医療ケアチームメンバーの誰が何をどのように実践すれば,あるいは専門性を発揮すればよいのか,それぞれの力量も勘案しながらケアの全体像を組み立て,段取り(後押し)し,それぞれが実際に自信を持って行動に移していくことができるよう,裏方として支えるという活動と自身は捉えている.そして,病状や療養環境の移り変わりに応じて,チームのメンバーや目標も変わっていく過程では,必要に応じて,これまでの病気の経過,これまでどのように暮らしてきたのか,何を大切にしてきたのか,そして,これからどのような変化が予測されるのか,そのために今必要な医療やケア,準備しておくこと等について,チームで共有できるよう働きかける.過去から未来を見据え,現在すべきことは何かを考えるという時間軸の視点1で情報をさりげなく提供しつつ,チームとして目指す方向を共有し,必要な医療ケアがよりよく提供できるような役割を担っている.

多職種のチームとしての発展を促すモデル

多職種によるチームの効果的な協働を推進するために,チームの一員としてどのようなファシリテートをしているかについては,Tuckmanのグループの発展段階の考え方を援用して述べる.心理学者であるTuckmanは,チームの成長と発展を,形成期(Forming),混乱期(Storming),統一期(Norming),機能期(Performing)の4段階で説明している2,3,4.以下に各時期の特徴と,その時期に行っているファシリテートの概要を示す.

1) 形成期(Forming)

この時期は,チームメンバーは目標に合意して課題に取り組み始めようと努力しているが,まだ独自に行動する傾向があるような時期である.

例えば,入院や在宅などで新たなチームで医療ケアが動き出している状況を想定すると,この時期は,対象となる患者や家族について,チームメンバーそれぞれに初期評価を行い介入し始めている時期である.メンバーそれぞれが対象者の課題を明確に捉えられていると良いが,経過が長く複雑で複数の課題がある場合は,今後の方針や目標が曖昧な状況のまま進んでいくことも現実的には経験する.このような状況で,意図的にチームを機能させていく際には,メンバーに暫定的に目標や課題を明確に提示し,まずはその暫定的な目標に関する評価や達成の見込みなどを検討してみてもらい,その上で多職種ミーティングを行おうといった提案を行う.ファシリテーターが「課題」を明確に提示することによって,スピーディに混乱期へ移行させることが期待できる4とも言われ,関わるチームが形成し始めるプロセスを促進するよう関わる.

2) 混乱期(Storming)

この時期は,チームメンバーが自分の意見を言い,役割を選び,共に働くやり方を探す時期で,同時にメンバー間に摩擦や対立が起こる時期でもある.

1)形成期で例示した状況を引き続き想定すると,この時期には,チームメンバーがそれぞれ暫定的な目標に関連した評価や意見を多職種で共有することにより,ファシリテーターが提示した暫定的な目標から,そのチーム全体が納得して目指す目標を再構築できることを目指して関わる.各々の捉えた患者の情報やアセスメント,目標に対する意見や懸念することを自由に話してもらうよう促し,対立する意見がある場合は,それぞれの意見について理解が深まるよう対話しながら整理して示し,メンバー相互の理解を促す.また,懸念する点については,具体的な対処法を話し合い,その対処法が保障されるよう職種間の意向を調整する.このようなプロセスを経ると,各メンバー間で対象となる患者の治療ケアへの考え方や価値観の相互理解が深まり,チームとして納得した目標の再構築・共有へ進んでいく.

3) 統一期(Norming)

この時期は,チームメンバー全員が責任を持ち,チームの中の分業について合意して取り組む時期である.

先の混乱期でチームとして納得した目標が上手く再構築できれば,メンバーはそれぞれに専門領域に関する実践を展開していくことができ,メンバー間でのコミュニケーションも活発化することを経験する.ファシリテーターとしては,メンバーが発する情報や取り組みに感謝と支持を言語的・非言語的に示し,目標達成に向けて励ましたり,具体的な相談に対応したりといった個々のメンバーへの支援を行う.また同時に,チーム全体の状況を俯瞰して,目標達成に向けて上手く進んでいるかを捉えながら,困難がありそうな部分は状況を尋ね,必要な支援を検討する.

4) 機能期(Performing)

この時期は,チームメンバーがお互いを理解し合い,十分に調整されたやり方で共に働く時期である.

統一期を経て,チームメンバーが目標達成に向けて医療ケアを創造的に実践している時期であるが,患者の状況は刻々と変動するので,その変動に柔軟に対応できるように調整や配慮を行う.また,各職種の介入から学んだことをフィードバックし,それぞれの職種の価値を言語化することを意識して,目標達成までチームを支える.

効果的に協働を進める要素

協働についての定義は様々なものがあるが,ここではHanson & Spross(1996)による定義を示す.協働とは,「2人またはそれ以上の個人が,問題解決のために確実に,そして建設的に影響しあうこと,特定の目標,目的またはアウトカムを成し遂げるために,互いから学びあうことを確約する動的な対人関係のプロセスである」5とされる.この定義のように,協働が特定の目標に向かって単に共に働くだけではなく,互いに影響し学び合うプロセスと考えると,協働にはメンバー間の各専門職者としての誠実で率直な意見交換が欠かせない.そのためには,自分の意見をわかりやすく伝え,また相手の意見を素直に受け止めるというコミュニケーション能力を高める努力が必要とされる.さらに,効果的な協働を構成する要素の特徴としては,各メンバーが互いの専門性や責任を理解し信頼すること,共通の目標を持つこと,重複するが効果的なコミュニケーションの技能やそれらを学ぶ意欲,お互いの尊重,多様な補完的な知識と技能を認識し尊重すること,ユーモアなどが挙げられる6.ユーモアは,メンバー間の防御性を減らして開放的な関係を生み出し,緊張を軽減し,怒りをそらすのに役立つ7と言われる.多職種チームの一員として,他者の知識や技能の存在がいかに重要であるかを事実として捉えて感謝し,素直に話し合えるような雰囲気をまとうことが,日々のよりよい協働につながる一歩になるのではと考える.

まとめ

慢性呼吸器疾患患者を対象とした継続看護の中で実践している時間軸を統合する視点での協働,チームの発展を支えるファシリテーターとしての協働,協働を促進する要素について概略を述べた.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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