日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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シンポジウム
訪問リハビリテーションの取り組み
沖 侑大郎山田 早紀
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2024 年 33 巻 1-3 号 p. 48-51

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要旨

COPD患者における身体活動レベル低下が,死亡率や増悪入院のリスクを高めることが明らかになっているが,呼吸リハビリテーションにより,身体活動量増加の長期的効果を示すエビデンスは乏しいのが現状である.訪問リハビリテーション場面においても,身体活動量の増大と活動範囲を広げることが非常に重要だと認識していながらも,特に高齢で重度のCOPD患者に対する介入について,運動療法を中心としたプログラムのみでは,難渋する場面が多い.この課題解決に向け,運動に対する不安や恐怖心を解消できるよう工夫し,成功体験を増やしていくことが重要である.また,家族指導や環境設定も活動範囲を広げていくためのポイントとなる.そして,病態に応じた呼吸リハビリテーションのシームスレスな介入を実現させていくためにも,呼吸器疾患に対する要介護認定調査の認定基準などの課題を解決していくことも重要である.

緒言

慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者における身体活動レベル低下が,死亡率や増悪入院のリスクを高めることが明らかになって以降1,身体活動量を増加させるための介入について,運動療法,カウンセリング,薬理学的管理など幅広い視点から研究が行われてきた.しかし,特定の介入が身体活動を増加させるという系統的な実証はされておらず,介入の最適なタイミング,構成要素,期間,およびモデルは明らかになっていない.呼吸リハビリテーションにより,身体活動量増加の長期的効果を示すエビデンスは乏しいのが現状である.実際に,訪問リハビリテーション場面においても,身体活動量の増大と活動範囲を広げることが非常に重要だと認識していながらも,高齢で重度のCOPD患者に対する介入について,運動療法を中心としたプログラムのみでは,難渋する場面が多いのが実情である.近年,行動変容について着目されており,COPD患者によく認める“座りがちな行動”を減らすための行動変容プログラムの効果について検証された報告があるが,中等度から重度のCOPD患者において行動変容に有意差を認めず,“座る時間を減らす”よりも“もっと動く”という概念を強化し,あらゆる強度の身体活動に参加することが,行動変容のより適切な焦点となるかもしれないと結論付けられている2.海外での報告に比べ,本邦はより高齢のCOPD患者が対象であり,一概に同様の効果を期待することは難しいかもしれないが,訪問リハビリテーションという視点から活動範囲を広げるための取り組みを紹介したい.本稿では,高齢COPD患者の活動範囲を広げる在宅呼吸ケアリハビリテーションとして,訪問リハビリテーションの取り組みについて事例を交え説明する.

症例紹介

1. A氏90代男性

【介護度】要支援2:自宅内生活自立

【日常生活自立度】寝たきり度J2:毎日自宅周辺を40分散歩可

【既往歴/現病歴】COPD,腰椎圧迫骨折,肺癌左上葉切除術後(Stage 2),間質性肺炎,左気胸

【家庭環境】アパート3階(持家),自宅まで階段あり,手すり付き.娘と同居.

【本人の希望】体力体重維持,活動量維持,着替え動作・階段昇降・屋外歩行時の呼吸困難感軽減

2. B氏80代男性

【介護度】介護保険未申請,身障3級

【日常生活自立度】寝たきり度J2:HOT使用し近隣散歩可能

【既往歴】重度COPD,慢性腎不全,脊椎カリエス,前立腺癌

【家庭環境】持ち家一軒家,主に1階で過ごし妻と居住.近所の息子家族から手厚い支援あり.

【本人の希望】自宅内生活での呼吸困難感軽減,外出機会の確保

訪問リハビリテーションの実際

生活期において,病院から退院後シームレスに訪問リハビリテーションへ繋がるケースは,少ないのが現状であり,症状が進行し,何度かの増悪入院後,非常に重度の状態となり,初めて訪問リハビリテーションが介入開始となる利用者が少なくない.上記の2名の症例も高齢であり,増悪入院を経験し,さらに多疾患・重複障害を認めている.病院における呼吸リハビリテーションと同様の介入を実施することが,必ずしも有効な介入となるとは限らない.医療機関においては,「医療者:主導的,患者:受動的」という立場になることが多い一方で,在宅においては,「利用者:主体的,医療者:後方支援」という形で,医療者と患者・利用者の立場の逆転が起こることからも,介入方法においても主体性を促していくための工夫が必要であることが考えられる.また,要介護度により,訪問リハビリテーションの利用回数や時間にも制限があることから,家族と同居されている場合は,家族指導や環境設定などに重点を置くことも主体性を促していくためのポイントとなる.上述の2症例とも,介入開始時は,労作時呼吸困難感増大や在宅酸素療法(HOT)の使用方法の理解が不十分のため,活動に対する意欲も低く,自宅に引きこもる傾向であった.高齢COPD患者で重症度の高い利用者に対しては,まずは座位でも行えるような神経筋電気刺激療法(EMS)やルームサイクルなどを使用し,運動に対する不安を軽減させるような運動療法から実施し,成功体験を積み重ねていくことが重要であると考える(図1).また,家族の協力を得ることも非常に重要であり,家庭内の環境がCOPD患者の身体活動量に影響を与えることも報告されており3,4,2症例とも担当セラピストが家族からの協力を得られるように,家族指導や環境設定を実施していくことで,介入開始から2ヶ月程度で,生活空間の広がりの指標であるLife-Space Assessmentと国際標準化身体活動質問表 短縮版(IPAQ short)の質問紙による身体活動量の評価で改善を認めた(表12).

図1 座位で行える運動療法

高齢COPD患者で重症度の高い利用者に対しては,まずは座位でも行えるような神経筋電気刺激療法(EMS)やルームサイクルなどを使用し,運動に対する不安を軽減させるような運動療法から実施し,成功体験を積み重ねていくことが重要である.

表1 Life-Space Assessmentの経過

表2 国際標準化身体活動質問表 短縮版(IPAQ short)の経過

訪問リハビリテーションにおける解決していくべき課題

高齢COPD患者だけに限らず,呼吸リハビリテーションの長期的な効果を持続させ,活動範囲を拡大していくためには,訪問リハビリテーションを中心とした生活期での呼吸リハビリテーションが重要である.しかし,訪問リハビリテーションを実施していく上で,本邦における課題が多いのが現状である.まず一つ目は,呼吸器疾患に対する訪問リハビリテーション実施率が,非常に低いことが挙げられる.これは,本邦のみのではなく,世界的にも呼吸リハビリテーションのエビデンスが確立されているにも関わらず,普及率が低いという問題がある5,6,7,8.これは,セラピストの卒前および卒後教育も重要であることはもちろんであるが,訪問リハビリテーションの指示を出す医師や医療・介護保険サービスとしての調整役であるケアマネジャーなど多職種での認知度を上げていく必要がある.もう一つの大きな要因として,介護保険制度による要介護認定制度が挙げられる.在宅呼吸ケア白書書COPD疾患別解析ワーキンググループによると,呼吸器疾患患者を対象に調査した呼吸器疾患患者の要介護認定状況は要支援・要介護1が63%であり,認定結果に対して不満があると答えた人は38%という結果であったことが報告されている.また,この不満の理由として,要介護認定の結果,要介護度が低く希望するサービスが利用できないことが多くを占めていることが明らかになっている.このような現状になっている大きな原因としては,現在の要介護認定調査による判定基準が,各動作が「できる,できない」で判定される仕組みになっており,主治医意見書にある「そのほかの特記すべき事項」でしか患者の生活全体を評価できないという点が挙げられる.COPDをはじめ呼吸器疾患患者の多くは,ADL動作に直接的に影響を与える運動麻痺や骨折などが無いため,包括的ADL評価であるFIM,BIなどで評価すると,呼吸困難感は増大するが,時間を要すれば動作自体は遂行できてしまう場面も少なくない.このため,疾患重症度と要介護度に乖離が起こってしまい,十分なサービスが提供されないという現状がある.呼吸器疾患患者の特異的ADLと要介護度は一致しないこと9,通所リハビリテーションを利用している慢性呼吸器疾患患者の要介護度の認定結果に対する満足度が,呼吸器疾患特異的 ADL 評価手段であるNagasaki University Respiratory Activities of Daily Living questionnaire(NRADL)と関連することが報告されている10.このことから,呼吸器疾患患者をはじめとした内部障害患者に対する現状の要介護認定調査による判定基準では,重症度に応じた要介護度とならず,訪問リハビリテーションの利用まで至らないケースが,非常に多いということが示唆され,呼吸困難感や動作速度も考慮された要介護認定調査の仕組み作りが望まれる.

結語

高齢COPD患者における活動範囲を広げていくためには,まず何が原因で困難であるのかを評価し,運動に対する不安や恐怖心を解消できるよう工夫し,成功体験を増やしていくことが重要である.また,ご家族にも支援いただけるよう家族指導や環境設定に着目していくことも活動範囲を広げていくためのポイントとなる.そして,病態に応じた呼吸リハビリテーションのシームスレスな介入を実現させていくためにも,呼吸器疾患に対する要介護認定調査の認定基準などの課題を解決していくことも重要である.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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