日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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コーヒーブレイクセミナー
呼吸器専門医から見た帯状疱疹予防の重要性
桑平 一郎服部 沙耶新井 理乃青山 眞弓
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2024 年 33 巻 1-3 号 p. 65-70

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要旨

帯状疱疹は水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)が神経節に潜伏し,再活性化することで発症する.VZVの再活性には細胞性免疫の低下が関与しており,高齢者ほど帯状疱疹の発症リスクが増大する.一般的な慢性疾患や免疫抑制剤によっても発症リスクは上昇し,肺がん,COPD,喘息やステロイド使用などがリスク因子となる.海外では既に,アジュバント添加組換え帯状疱疹ワクチン(RZV)を推奨する国もあり,GOLD(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)では50歳以上のCOPD患者に帯状疱疹ワクチンを推奨している.一方,本邦では未だ任意接種扱いである.超高齢化社会を支える為にはフレイルを予防し,健康寿命を延ばすことが課題であり,予防できる感染症はワクチンで予防することが求められる.帯状疱疹予防の重要性とそのワクチンについて解説を行う.

わが国における帯状疱疹の現状

帯状疱疹は,加齢,疲労,免疫抑制状態など宿主の免疫力低下によって,神経節に潜伏しているVZVが再帰感染することによって引き起こされる.VZVの感染力は非常に強く,50歳以上の日本人の100%がVZV抗体を保有していたとの報告がある.すなわち,ほとんどの日本人が既にVZVを保有していることを示す.20年以上にわたる大規模疫学調査「宮崎スタディ」では,帯状疱疹の発症率は,1997年から2017年にかけて1.4倍に増加しており(図1),80歳までに3人に1人が帯状疱疹に罹患する1,2.帯状疱疹の発症率は50歳代から上昇することが知られているが,2014年に小児の水痘ワクチンが定期接種化されて以降,水痘罹患者が激減する一方で,20~50歳未満の若年層においても帯状疱疹発症率の増加が顕著に表れている3.今後,高齢者の増加と相まって,帯状疱疹患者を感染源とする水痘患者が増加することも懸念される.水痘を罹患したことがないワクチン未接種者や,免疫抑制状態の患者にとって成人水痘は重症化のリスクもあり,帯状疱疹予防の重要性は増すと考えられる.

図1 帯状疱疹患者数と発症率の年次推移(1997~2017年)

1997~2017年の21年間に宮崎県皮膚科医会に属する皮膚科診療所33施設と総合病院10施設を受診した帯状疱疹の初診患者112,267例を調査(文献1より引用し,著者が作成)

帯状疱疹の合併症と疾病負担

帯状疱疹の合併症は主に神経を障害することで様々な症状を引き起こす(表14.その中で最も多いのは,神経痛である.皮膚病変が治癒した後に疼痛が残存し,帯状疱疹後神経痛(PHN)に移行する割合は50歳以上で約20%,80歳以上では32.9%に至る5.神経障害性の痛みは特徴的で,「焼けるような」,「ズキンズキン」,「電気が走る」と表現される強い痛みが,数ヶ月から数年持続する.長く続く痛みはQOLやADLを著しく低下させ,睡眠や鬱など精神にも影響する6.帯状疱疹は抗ウイルス薬により治療可能な疾患であるが,完全にPHNの発症を抑制することはできない.

表1 帯状疱疹の合併症

合併症症 状
帯状疱疹後神経痛皮疹改善後も持続する疼痛
皮膚細菌性二次感染溶連菌感染症,ブドウ球菌性蜂窩織炎など
眼合併症角膜炎,上強膜炎,虹彩炎,結膜炎,ブドウ膜炎,急性網膜壊死,視神経炎,緑内障
無菌性髄膜炎頭痛,髄膜刺激症状
血管炎(脳炎)脳血管炎,昏迷,痙攣,一過性脳虚血発作(TIA),脳梗塞
ベル麻痺片側性顔面神経麻痺
ラムゼー・ハント症候群耳痛,外耳道水疱,舌前方のしびれ,顔面神経麻痺
聴覚障害難聴
運動神経炎筋力低下,横隔神経麻痺,神経因性膀胱
横断性脊髄炎麻痺,知覚麻痺,括約筋障害

(文献4より引用し,著者が作成)

その他,呼吸器に影響を及ぼす合併症も存在する.ラムゼー・ハント症候群では第VIIおよび第VIII脳神経が障害され,顔面神経麻痺や舌のしびれなどの症状が現れる.また,下位脳神経障害が原因で嚥下障害を来たす症例も報告されている7.横隔神経麻痺は通常,手術や外傷性の損傷,悪性新生物,神経変性疾患によっておこるが,帯状疱疹によっても引き起こされる.横隔神経麻痺は呼吸不全を引き起こす可能性があり,呼吸器疾患患者では特に注意が必要である.横隔神経麻痺の症例報告では,多くは数週間から数年にわたって麻痺が改善せず,この状態が長期間続くことが示されている8.帯状疱疹に罹患したCOPD患者の25.5%が呼吸困難を経験したとの報告もあり(図29,痛みが日常動作を制限することで呼吸への悪影響を及ぼすことが推察される.

図2 COPD患者における帯状疱疹発症の負担

*:全体に対し,60歳未満で高率p<0.003. **:全体に対し,70歳未満で高率p=0.007

†:直近12ヶ月において増悪が1回未満であった患者で高率(カイ二乗検定と分散分析)

(文献9より引用し,著者が作成)

帯状疱疹のリスク因子

免疫に影響する疾患には移植,自己免疫疾患,癌に加え,COPDや糖尿病,喘息なども含まれる.健康成人における帯状疱疹の発症率が1,000人年あたり4.47人に対し,骨髄/幹細胞移植は42.4~95.6人,COPDでは11.0~16.4人,喘息では6.9人との報告がある(図310.50歳以上のCOVID-19診断例では罹患後半年間の帯状疱疹発症相対リスクが1.15,COVID-19入院患者では帯状疱疹発症相対リスクが1.21増えたとの報告もあり,一時的な急性疾患の免疫低下によっても帯状疱疹リスクが増加することが示されている11.免疫抑制剤によっても帯状疱疹リスクが増加することは明らかであり,全身性ステロイドの年間使用量とともに帯状疱疹リスクは高まることが報告されている(表212.生物学的製剤の開発は急速に進んでおり,ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤などの使用にも注意が必要である.

図3 免疫が低下する疾患と帯状疱疹発症率

(文献10より引用し,著者が作成)

表2 ステロイドの帯状疱疹発症リスク

Person-yearsZoster casesIncidenceaAdjusted HR
(95% CI)b
Adjusted HR
(95% CI)c
Non-users399,8523,6119.031.001.00
New users
<500 mg equivalent prednisolone24,40332313.241.39(1.24-1.56)1.32(1.17-1.48)
500 mg-<1,000 mg equivalent prednisolone19,13232116.781.79(1.60-2.00)1.74(1.55-1.95)
≥1,000 mg equivalent prednisolone18,07534919.312.00(1.79-2.24)1.80(1.61-2.02)

a:1,000人年当たり.b:年齢と性別で調整.c:年齢,性別,収入,居住地,配偶者の有無,民間健康保険,喫煙,がん検診,サプリメントの使用,自己報告による心臓病/脳卒中,自己報告による喘息/花粉症,身体的制限,血液がん,化学療法,免疫抑制剤,慢性閉塞性肺疾患,喘息,関節リウマチ,炎症性腸疾患について調整.(文献12より引用)

帯状疱疹ワクチンの特徴

現在,国内で使用可能な帯状疱疹ワクチンは2種類あり,一つが乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」である.生水痘ワクチンは,症状が出ないように病原性を極力抑えて自然感染と同じ流れで免疫を活性化するため,1回の接種で免疫を作ることができる.生水痘ワクチンはもともと日本で開発されたものであったが,生帯状疱疹ワクチン「ZOSTAVAX®」は海外で先行して開発がすすめられ,本質的に同じ岡株由来であることから,公知申請によって(ZOSTAVAXの臨床試験を基に,当該医薬品の有効性や安全性が医学的に公知であるとして)2016年に「50歳以上の者に対する帯状疱疹の予防」が追加承認された13,14.生ワクチンはまれに野生株と同様の症状が出るおそれがあるため,免疫抑制者や妊婦には一般に禁忌とされている.そこで開発されたのが,不活化ワクチンの組換え帯状疱疹ワクチン「シングリックス」である.シングリックスはVZV上に存在する糖タンパク質E(抗原)とアジュバントを組み合わせたワクチンで,接種1年目のワクチン有効性は97.7(93.1-99.5),10年間の有効性は89.1%(95%IC:74.6-96.2)であり,少なくとも10年間有効性が持続することが示されている(表315.シングリックスのアジュバントに含まれる3-脱アシル化-4’-モノホスホリルリピッドAはTLR4を介してIL-2やIFN-γといった炎症誘発性サイトカインの産生を誘導し,抗原提示細胞を活性化することが分かっている.不活化ワクチンでありながら,このような高い有効性と持続性を実現することができたのはこのアジュバントの資するところが大きい.アジュバント添加によって,注射部位副反応の発現頻度は高く,強い反応がみられることもあるが,2~3日で回復・軽快することが示されている.不活化ワクチンの最大のメリットは免疫抑制状態の患者であっても生ワクチンのような副反応の恐れが無いことである.2023年6月には18歳以上50歳未満の帯状疱疹に罹患するリスクが高い者についても新たに適応が追加され,免疫抑制状態の患者への帯状疱疹予防が可能となった(表4).

表3 アジュバント添加組換えワクチン(シングリックス)の長期有効性

NnIncidence
(per 1,000 py)
NnIncidence
(per 1,000 py)
Vaccine Efficacy
(95% CI), %
Pvalue
RZVPlacebo Group in ZOE-50/70
Overall13,88184113,8817658.989.0(85.6-91.3)P<.0001
Year 113,88130.214,0351309.497.7(93.1-99.5)P<.0001
Year 213,569100.713,56413610.292.7(86.2-96.6)P<.0001
Year 313,18590.713,074116992.4(85.0-96.6)P<.0001
Year 412,757100.812,517957.589.8(80.3-95.2)P<.0001
Gap between ZOE-50/70 and ZOE-LTFUHistorical Control
Year 67,277717,277618.588.5(74.9-95.6)P<.0001
Year 77,100101.47,100608.683.3(67.2-92.4)P<.0001
Year 86,87891.36,878578.484.2(67.9-93.1)P<.0001
Year 96,648152.36,648558.572.7(51.0-85.7)P<.0001
Year 106,258112.36,258418.473.2(46.9-87.6)P<.0001

(文献15より引用し,著者が作成)

表4 帯状疱疹ワクチン

生ワクチン不活化ワクチン
販売名乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」乾燥組換え帯状疱疹ワクチン「シングリックス」
接種対象者50歳以上の者
(明らかに免疫機能に異常のある疾患を有する者及び免疫抑制をきたす治療を受けている者は接種不適当者に該当)
50歳以上の者
または帯状疱疹に罹患するリスクが高いと考えられる18歳以上の者
接種回数1回2回
(通常,2回目は1回目の接種から2ヶ月後,遅くとも6ヶ月後までに接種するが,リスクの高い患者では1ヶ月に短縮できる)
接種方法皮下注射筋肉内注射
予防効果60歳以上全例51%(95%CI: 44%,58%)(追跡期間中央値:3.1年)
60-69歳64%(95%CI: 56%,71%)
70-79歳41%(95%CI: 28%,52%)
80歳以上18%(95%CI: -29%,48%)
5~7年程度
50歳以上97.2%(95%IC: 93.7,99.0)(追跡期間中央値:3.1年)
70歳以上89.8%(95%CI: 84.2,93.7)(追跡期間中央値:3.9年)
80歳以上89.1%(95%IC: 74.6,96.2)
10年以上(11年目以降は延長試験を実施中)
副反応◆頻度10%以上の副反応
発赤(44.0%),そう痒感(27.4%),熱感(18.5%),腫脹(17.0%),疼痛(14.7%),硬結(13.5%)
◆重大な副反応(いずれも頻度不明)
アナフィラキシー,血小板減少性紫斑病,無菌性髄膜炎
◆ 頻度10%以上の副反応
疼痛(79.1%),発赤(37.4%),腫脹(24.2%),筋肉痛(36.9%),疲労(34.6%),頭痛(28.3%),悪寒(21.4%),発熱(16.7%),胃腸症状(12.0%)
◆重大な副反応(いずれも頻度不明)
ショック・アナフィラキシー
接種費用5,000円~8,000円程度1回あたり20,000円~25,000円程度

(添付文書等より引用し,著者が作成)

予防接種の現状と課題

米国,カナダ,スペイン,ドイツなど海外では既に多くの国が帯状疱疹ワクチンの接種を推奨している16.我が国においても厚生科学審議会予防接種ワクチン分科会で定期接種の検討が行われているが,未だ自費診療扱いである.任意接種の障壁は費用の自己負担と考えられるが,300を超える市区町村では先行して帯状疱疹ワクチンの公費助成が開始されており接種率向上が期待される.助成金額や申請方法は各自治体で異なるため,接種の際は事前に市区町村への確認をお勧めする.

高齢者の肺炎球菌感染症は2014年10月にB類疾病に位置付けられ,23価莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)が定期接種に導入されてから10年が経つ.経過措置を終え,国立感染症研究所から累積接種率の報告が出されたが,その接種率は40%台にとどまっており,課題は残る17.ワクチン接種因子に関する報告では,未接種の理由としてワクチンについての情報が無いことや医師からの推奨が無かったことが示されており,ワクチン接種行動につながった因子の中で,医師からの勧め(OR 8.50, 95%CI 2.8-26.0)が大きな役割を担っていることがうかがえる18.予防接種促進には,医療従事者からの働きかけが求められる.

まとめ

以上,帯状疱疹による疾病負担や,ワクチンの予防効果について,特に呼吸器疾患との関わりに焦点をあてて解説した.COPDの治療に呼吸リハビリの導入が進んでいるが,身体活動性の維持やQOL・ADLの向上には感染症予防も含めた包括的アプローチが重要となる.呼吸器感染症ではインフルエンザ,肺炎球菌に加え,新たにRSウイルスの予防が可能となった.加えて,帯状疱疹は高齢化に伴い患者数の増加や重症化が懸念されるが,ワクチン接種によって解決可能となった.これらのワクチンの普及が健康寿命延長に寄与する事を期待したい.

謝辞

資料の作成に際しご協力を頂いたグラクソ・スミスクライン株式会社の大谷 晋氏に謝意を表します.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

桑平一郎;講演料(日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社,グラクソ・スミスクライン株式会社,アストラゼネカ株式会社,コニカミノルタ株式会社)

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