日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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原著
肺癌術後の入院期間中に生じる手術関連骨格筋量減少と術後1ヶ月の運動耐容能との関連
木戸 孝史 奥野 将太白土 健吾川満 謙太安田 学
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2025 年 34 巻 1 号 p. 64-69

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要旨

【目的】肺癌手術患者の入院期間中に生じる手術関連骨格筋量減少(surgery-related muscle mass loss; SRML)の程度,および入院期間中に生じるSRMLと術後1ヶ月の運動耐容能との関連を検証した.

【方法】対象は,非小細胞肺癌に対して肺葉切除術を施行した連続症例とした.入院期間中の骨格筋量減少((術前骨格筋指数(skeletal muscle mass index; SMI)-退院前SMI)/術前SMI×100;SMI減少率)が,術後1ヶ月6分間歩行距離(Six-minute walk distance; 6MWD)/術前6MWD×100(6MWD術前比率)に影響を与えるのか,重回帰分析を実施した.

【結果】対象は105名であり,年齢が71.0歳,男性が57名であった.SMI減少率は4.2%であり,6MWD術前比率の独立因子であった.

【結語】肺癌手術患者は術後早期からSRMLが生じる可能性が高く,術後の運動耐容能回復には入院期間中に生じるSRMLの評価,および対策に努める必要がある.

緒言

肺癌は世界で最も一般的な癌であり,依然罹患率は高い傾向にある1.非小細胞肺癌は臨床病期がI~IIIA期の場合外科手術が標準治療2であり,外科術後の5年生存率は74.7%3と早期に治療すれば根治の見込まれる癌である.一方で,肺癌に対する外科手術は術後に身体機能が低下することが知られている.特に,肺癌患者の生命予後規定因子である運動耐容能4は,術直後から低下を認め5,6,肺癌術後1ヶ月までに改善が乏しい場合,中長期まで低下が遷延する可能性がある7と報告されている.我々の検証では,術後1ヶ月においても半数以上が術前運動耐容能へ回復していない現状であった5.そのため,生命予後や身体機能に関する観点から,術後1ヶ月時点での運動耐容能,および運動耐容能の評価は重要であると考えられる.

外科術後は手術侵襲に伴うストレス反応や不活動,術後の様々な要因により,手術関連骨格筋量減少(surgery-related muscle mass loss; SRML)が生じる8,9,10,11,12と報告されている.肺癌手術患者において術後の骨格筋量は,運動耐容能と同様,生命予後に影響を与える重要な因子であり13,SRMLを予防することは肺癌周術期における課題のひとつである.近年,SRMLが術後早期である入院期間中に伴いやすい10,11ことが明らかにされた.食道癌手術患者においては,術後3日で生じたSRMLが生命予後の新たな予測因子になり得る10ことが報告されている.そのため,肺癌手術患者においても術後早期にSRMLを評価することは,生命予後や周術期ケアの改善に重要であると考えられる.しかし,肺癌術後早期に生じるSRMLの程度は明らかにされていないのが現状である.また,SRMLと術後の身体機能の関連を検証した報告は,我々の知る限り見受けられない.これまで肺癌術後早期の運動耐容能に影響を与える因子には,術後合併症に関する因子6が報告されていたが,身体に関する術後因子の存在は明らかにされていなかった.前述した骨格筋量は,健常成人において運動耐容能と正の相関関係にあり14,肺癌手術患者の術前運動耐容能に影響を与える因子15であることが報告されている.そのため,SRMLの評価,および対策に努めることは,術後の運動耐容能回復に良い影響を与えるのではないかと予想される.

そこで我々は,肺癌手術患者の入院期間中に生じるSRMLはどの程度なのか,入院期間中に生じるSRMLは術後1ヶ月の運動耐容能に影響を与えるのか,これらの疑問解決のため,肺癌手術患者を対象に後方視コホート研究を企図した.

対象と方法

1. 対象

対象の適格基準は,2019年4月から2022年6月の期間に,当院呼吸器外科で非小細胞肺癌に対して肺葉切除術を施行した連続症例とした.除外基準は,1)肺癌病期分類IV,2)術後に合併症以外の疾患の加療を要した,3)人工呼吸器離脱が術後当日に困難であった,4)データの欠損もしくは6分間歩行試験(six-minute walk test; 6MWT),体組成の測定が困難であった,5)術後1ヶ月まで追跡が困難であった症例とした.本研究はヘルシンキ宣言に基づいた研究であり,対象者の保護に十分注意し,実施にあたり飯塚病院倫理委員会の承認(承認番号:23049)を得て行った.

2. 要因とアウトカム

周術期のリハビリテーション評価は,手術前日までに術前評価,退院前日に退院前評価,術後1ヶ月に外来での術後1ヶ月評価を行った.

本研究の要因は入院期間中に生じるSRMLと設定した.骨格筋量の評価には,体組成計であるInbody770(Inbody, Seoul, Korea)を使用した生体電気インピーダンス(bioelectrical impedance analysis; BIA)法を用い,骨格筋指数(四肢骨格筋量(kg)/身長(m)2,skeletal muscle mass index; SMI)を測定した.入院期間中に骨格筋量がどの程度減少したかを検証するため,(術前SMI-退院前SMI)/術前SMI×100(SMI減少率)の変数を作成し,本研究の要因と定義した.

アウトカムは術後1ヶ月の運動耐容能と設定した.運動耐容能の評価には,癌患者において有効であるとされている6MWT16を用い,米国胸部学会の推奨している方法17で6分間歩行距離(six-minute walk distance; 6MWD)を測定した.術後1ヶ月時点で6MWDがどの程度回復したかを検証するため,先行研究を参考に18,術後1ヶ月6MWD/術前6MWD×100(6MWD術前比率)の変数を作成し,本研究のアウトカムと定義した.この指標は,術前6MWDを100%とした場合の,術後1ヶ月時点での相対的な運動耐容能を示す.

3. その他の調査項目

調査項目は,診療録や診断群分類包括評価データから後方視的に収集した.基本情報は,年齢,性別,身長,体重とした.医学的情報は,肺活量,%肺活量,1秒量,1秒率,併存疾患,慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease; COPD)診断の有無,肺癌病期分類,術前血清アルブミン(albumin; Alb)とした.手術因子や術後経過に関する因子は,術式,切除部位,術中出血量,麻酔時間,胸腔ドレーン留置期間,術後合併症,術後在院日数とした.術後在院日数は,手術から退院までに要した日数とした.対象者の併存疾患の評価には,チャールソン併存疾患指数(Charlson comorbidity index; CCI)19を用い,収集した情報から≧2と<2に分類した.術後合併症の評価にはClavien-Dindo分類20を引用し,加療を要した≧IIを合併症有,加療を要さなかった<IIを合併症無と分類した.対象者の栄養評価のため,体格指数21(body mass index; BMI)は体重(kg)/身長(m)2,geriatric nutritional risk index22(GNRI)は,14.89×術前Alb(g/dl)+41.7×体重(kg)/標準体重(kg)の計算式を用いて算出し分類した.

4. 周術期リハビリテーション

周術期リハビリテーションは,当院のクリニカルパスに沿って実施された.手術当日までに術前評価や術後に向けたオリエンテーションを実施した.術後は主治医指示の下,手術翌日よりリハビリテーション介入を開始した.まずは基本動作練習や呼吸練習,排痰および除痛指導を実施した.全身状態が良好であった場合,術後1日目に 30 m,2日目に 300 mを目標とした歩行練習を実施し,午前午後1日2回の介入を行った.術後3日目以降はリハビリ室へ移動し,機器を用いた筋力増強運動や有酸素運動,日常生活や社会復帰に向けた動作練習,生活指導など1日40~60分間の介入を行い,退院前日に退院前評価を行った.運動負荷は,カルボーネン法による60~80%の運動強度に合わせた目標心拍数,または修正Borgスケールの3~4を目標として設定した.リハビリテーション介入は,入院期間中および術後1ヶ月での外来評価時とした.

5. 統計解析

データ表記に関して,連続変数は正規性の有無にかかわらず中央値[四分位範囲],カテゴリー変数は対象者数(%)で示した.統計解析は,6MWD術前比率とSMI減少率の関連を検証するため,多変量解析を行った.目的変数は6MWD術前比率,説明変数は先行研究を参考に年齢23,性別23,肺活量6,術式18,術後合併症の有無6,術後在院日数,SMI減少率とした重回帰分析を実施した.すべての統計解析は,EZR24を用いて実施した.有意水準は5%とした.

結果

1. 対象者の背景

解析対象者を図1,対象者の特性を表1に示す.研究期間内に適格基準を満たした症例は237名であった.そのうち,肺癌病期分類IVの2名,術後に合併症以外の疾患の加療を要した4名,人工呼吸器離脱が術後当日に困難であった2名,データの欠損もしくは6MWT,体組成の測定が困難であった81名,術後1ヶ月まで追跡が困難であった43名を除いた105名を解析対象とした.男性は57名(54.3%),年齢は71.0歳[68.0, 76.0]であった.運動耐容能は,術前6MWDが 437.0 m[381.0, 492.0],術後1ヶ月6MWDは 420.0 m[375.0, 485.0]であり,6MWD術前比率は99.0%[91.3, 104.5]であった.入院期間中に生じるSRMLを検証した術後在院日数は,8.0日[6.0, 11.0]であった.

図1 解析対象者のフローチャート

対象の適格基準および除外基準,解析対象者のフローチャートを示す.

表1 対象者の特性

全体
n=105
基本属性
年齢,歳71.0[68.0, 76.0]
性別男性57(54.3)
BMI低体重10(9.5)
普通体重61(58.1)
肥満34(32.4)
GNRIリスク無し82(78.1)
軽度リスク14(13.3)
中等度リスク4(3.8)
重度リスク5(4.8)
CCI≧211(10.5)
COPD診断8(7.6)
癌病期分類I62(59.1)
II30(28.6)
III13(12.4)
肺活量,L2.9[2.4, 3.6]
%肺活量,%100.0[89.6, 111.7]
1秒量,L2.0[1.6, 2.6]
1秒率,%71.8[66.9, 77.4]
手術因子
術式開胸19(18.1)
胸腔鏡86(81.9)
切除部位左上葉21(20.0)
左下葉14(13.3)
右上葉36(34.3)
右中葉7(6.7)
右下葉27(25.7)
出血量,ml60.0[30.0, 148.0]
麻酔時間,分301.0[258.0, 355.0]
術後経過に関する因子
術後合併症14(13.4)
胸腔ドレーン留置期間,日1.0[1.0, 3.0]
術後在院日数,日8.0[6.0, 11.0]
運動耐容能評価
術前6MWD,m437.0[381.0, 492.0]
術後1ヶ月6MWD,m420.0[375.0, 485.0]
6MWD術前比率,%99.0[91.3, 104.5]

BMI; body mass index,GNRI; geriatric nutritional risk index,CCI; Charlson comorbidity index, COPD; chronic obstructive pulmonary disease, 6MWD; six-minute walk distance.

n(%),中央値[25, 75%].

2. 肺癌手術患者における骨格筋量の推移

対象者の骨格筋量の評価結果を表2に示す.術前SMIが 6.6 kg/m2[5.8, 7.2],退院前SMIが 6.1 kg/m2[5.6, 7.0]であり,入院期間中に4.2%[1.8, 7.5]のSMI減少を認めた.術後1ヶ月SMIは 6.3 kg/m2[5.7, 7.1]であり,術後1ヶ月時点で術前SMIへ回復していなかった.性差による体組成を考慮し,男性,女性それぞれ骨格筋量の評価結果を示す.術前SMIは男性が 7.1 kg/m2[6.7, 7.9],女性が 5.9 kg/m2[5.4, 6.3],退院前SMIは男性が 6.9 kg/m2[6.2, 7.4],女性が 5.6 kg/m2[5.1, 5.9]であり,SMI減少率は男性が3.5%[0.0, 5.8],女性が5.5%[3.8, 7.7]であった.術後1ヶ月SMIは男性が6.9 kg/m2[6.5, 7.5],女性が 5.9 kg/m2[5.3, 6.2]であり,男性,女性ともに術後1ヶ月時点では術前SMIより低い傾向にあった.

表2 対象者の骨格筋量

骨格筋量評価全体
n=105
男性
n=57
女性
n=48
術前SMI,kg/m26.6 [5.8, 7.2]7.1 [6.7, 7.9]5.9 [5.4, 6.3]
退院前SMI,kg/m26.1 [5.6, 7.0]6.9 [6.2, 7.4]5.6 [5.1, 5.9]
SMI減少率,%4.2 [1.8, 7.5]3.5 [0.0, 5.8]5.5 [3.8, 7.7]
術後1ヶ月SMI,kg/m26.3 [5.7, 7.1]6.9 [6.5, 7.5]5.9 [5.3, 6.2]

SMI; skeletal muscle mass index.

n(%),中央値[25, 75%].

3. 肺癌手術患者におけるSRMLと術後1ヶ月運動耐容能との関連

SMI減少率と6MWD術前比率の関連を検証した重回帰分析の結果を表3に示す.SMI減少率は,6MWD術前比率(β=-1.10,95%CI: -1.70–-0.53,p<0.001)と独立して関連していた.

表3 6MWD術前比率に関する重回帰分析

説明変数回帰係数95%CIp値
下限上限
年齢-0.13-0.410.160.38
性別[男性]0.11-6.817.030.98
肺活量-3.19-7.711.320.163
術式[開胸]-6.81-13.01-0.610.031*
術後合併症[有]5.36-1.9612.690.149
術後在院日数-0.11-0.420.190.46
SMI減少率-1.10-1.70-0.53<0.001***

SMI; skeletal muscle mass index.

*p<0.05, **p<0.01, ***p<0.001.

考察

我々は,肺癌手術患者の入院期間中に生じるSRMLの程度,および入院期間中に生じるSRMLが術後1ヶ月の運動耐容能に影響を与えるか検証した.その結果,本研究では2つの知見が得られた.まず第1に,肺癌手術患者の入院期間中に生じるSRMLは,術前から4.2%のSMI減少を認めた.第2に,肺癌手術患者におけるSMI減少率は6MWD術前比率に影響を与えた.

1. 肺癌手術患者の入院期間中に生じるSRML

第1に,肺癌手術患者の入院期間中に生じるSRMLは,術前から4.2%のSMI減少を認めた.Shimodaら25によると,食道癌手術患者は術前と比較して退院までに4.4%の骨格筋量減少を認めたと報告している.本研究の対象は,消化器外科患者と病態や術式,周術期ケアなどが異なるが,肺癌手術患者も同程度のSRMLが生じることを示した.外科手術患者は術後の栄養不良が問題視されており26,27,これまで消化器外科患者を中心にSRML8,9,10,11,12が検証されてきた.消化器外科術後の栄養不良は特に退院後に悪化しやすい28ことが報告されており,外科術後の入院期間中は他の要因によりSRMLが生じる可能性がある.外科術後早期は副腎皮質ホルモンの分泌亢進により蛋白異化が生じ29,異化期から同化期までの移行には術後約1週間を要す30とされている.また,入院患者は不活動や機能障害により,10日未満の短期的な入院期間においても筋萎縮が生じる31.特に,肺癌手術患者は術後に身体活動性が低下しやすい32ことが報告されている.つまり,肺癌手術患者は手術侵襲に伴う蛋白異化の亢進や術後の身体活動性低下の影響を受け,骨格筋量が減少しやすい対象であると推察される.そのため,肺癌手術患者においても,術後早期から消化器外科患者と同程度のSRMLが生じたと考えられる.Takamoriら13は肺癌手術患者における骨格筋量減少と生命予後不良との関連を報告していた.しかし,急性期における短期的な評価ではなく,術後約1年経過した患者を対象とした報告であった.我々の知る限り,肺癌術後早期に術前後の骨格筋量変化を検証した先行研究は見受けられなかった.そのため,今回,入院期間中に生じるSRMLの程度を示したことは興味深い結果であったと考える.外科手術患者におけるSRMLの予防には,術後の身体活動性9や周術期の栄養療法8,12が有効であると報告されている.また,非小細胞肺癌患者は骨格筋量やBMIの値が大きいほど骨格筋量が減少しやすい33と報告されている.入院期間中に生じるSRMLを予防するには,術前に骨格筋量を高めるだけでなく,術後早期から早期離床を中心とした術後リハビリテーションや栄養療法を検討する必要があると考える.

2. 肺癌手術患者の入院期間中に生じるSRMLと術後1ヶ月の運動耐容能との関連

第2に,肺癌手術患者におけるSMI減少率は,6MWD術前比率に影響を与えた.先行研究では慢性肝疾患34や慢性心不全35患者における骨格筋量の減少が,運動耐容能の低下に影響を与えると報告されている.本研究は外科術後急性期に関する報告であるが,慢性疾患に関する先行研究同様,骨格筋量の減少が運動耐容能に影響を与えることを示した.Burtinら36によると,術後1年以内の肺癌手術患者において下肢筋力は,同時点の運動耐容能への独立因子であることが報告されている.健常成人において運動耐容能14および下肢筋力37は,骨格筋量と正の相関関係にあり,肺癌手術患者の運動耐容能改善に向けても同様,骨格筋量が重要な因子であることが予想される.また,Wangら38の報告によると,術後3ヶ月から2年経過した肺移植患者は,遅筋線維の有意な減少と骨格筋酸化能力の低下を認め,同時点に運動耐容能の低下を認めている.つまり,肺癌術後のSRMLは,身体機能低下や骨格筋機能障害が生じ,同時点に運動耐容能の低下を引き起こすと考えられる.胃癌術後1ヶ月間の除脂肪体重の推移を示したAoyamaら11の報告によると,術後1週間で最も大きな低下を認め,術後1ヶ月時点においても術前の水準に回復していなかった.また,Takamoriら13によると,肺癌手術患者の術後約1年経過時の骨格筋量は,術前と比較して93%であったと報告しており,周術期患者は術後の骨格筋量回復に期間を要する可能性がある.本研究の肺癌手術患者においても,術後1ヶ月時点では術前骨格筋量と比較して依然低い傾向にあった.したがって,術後1ヶ月時点での運動耐容能回復に影響を及ぼしたと考えられる.本研究の結果を踏まえると,術後の運動耐容能回復には,周術期を通してSRMLに対する評価および対策を並行して行っていく必要がある.また,入院期間中に生じたSRMLの程度が大きい場合,退院後の運動耐容能に影響を及ぼす可能性があるため,運動指導や栄養指導,外来リハビリテーションなどを検討する必要があると考える.

3. 本研究の意義と限界

本研究は,肺癌手術患者の入院期間中に生じるSRMLの程度,および入院期間中に生じるSRMLが術後1ヶ月の運動耐容能に影響を与えるか検証した最初の論文である.本研究の結果は,術後の運動耐容能回復に向けた標的を明確にした有益な情報である.また,肺癌周術期を通してSRMLに対する包括的な介入の重要性を示した.今後は,肺癌手術患者の入院期間中に生じるSRMLの要因は何か,入院期間中に生じるSRMLが長期的な運動耐容能に影響を与えるのか検証する必要がある.本研究の限界は,まず第1に単施設による後方視的研究であるため,対象者に偏りがある可能性や,早期歩行開始の可否,セラピスト間のリハビリテーション介入の違いなど,未測定の因子により入院期間中の骨格筋量回復に影響を及ぼした可能性がある.第2に骨格筋量の測定にBIA法を用いたため,周術期の全身水分量や電解質濃度の変動がインピーダンスに影響を与え,測定誤差が生じた可能性は否めない.今後は,SRMLの予防に向けたリハビリテーション介入や栄養療法のプロトコルを再考し,前方視的に検証する必要がある.

4. 結論

肺癌手術患者の入院期間中に生じるSRMLは,術前から4.2%のSMI減少を認めた.また,入院期間中に生じるSRMLは術後1ヶ月の運動耐容能に影響を与えることが示唆された.肺癌手術患者は術後早期からSRMLが生じる可能性が高く,術後の運動耐容能回復のためには入院期間中に生じるSRMLの評価,および対策に努める必要がある.

備考

本論文の要旨は,第33回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2023年12月,宮城)で発表し,座長推薦を受けた.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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