日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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症例報告
呼吸器感染症の臨床経過において酸素濃縮器を介して呼吸数の変動を観察し得た一例
濱田 哲 半田 知宏平井 豊博
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2025 年 34 巻 1 号 p. 87-90

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要旨

呼吸数は重要なバイタルサインの一つであるが,目視法によるマニュアルカウントが基本で実臨床では連続的に測定される機会が少ない.今回我々は呼吸数の連続モニタリングが可能な酸素濃縮器を使用していた在宅酸素療法患者において,新型コロナウイルスを含めた呼吸器感染症の臨床経過と関連して呼吸数が変動することを観察しえた一例を経験したので報告する.在宅酸素療法患者において酸素濃縮器を介した呼吸数の連続モニタリングは呼吸状態の増悪を予測でき,遠隔医療に活用できる可能性がある.

緒言

呼吸数,脈拍数,血圧,体温の四つは古典的バイタルサインである.呼吸数は,一般病棟での急変を予測する指標として開発されたNational Early Warning Score1や敗血症の簡便な指標であるquick Sepsis-Related Organ Failure Assessment2の項目の一つとして取り入れられている.また呼吸数は,呼吸状態の重要な指標であるSpO2よりも早期に変化(上昇)し3,新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019: COVID-19)時に生じる無症候性低酸素血症の早期発見に有用な指標であることが報告されている4.そのため呼吸数は,医療現場において最も重要なバイタルサインであると認識されている.しかしながら呼吸数の評価は,目視によるマニュアルカウントが一般的であり,連続測定が困難である5,6.今回我々は呼吸数の連続モニタリングが可能な酸素濃縮器を使用していた在宅酸素療法(home oxygen therapy: HOT)患者において,COVID-19を含めた呼吸器感染症の臨床経過と呼吸数の変動を観察し得た一例を経験したので報告する.

症例

患者:73歳,女性.

主訴:発熱,喀痰量の増加.

現病歴:73歳時に肺大細胞癌(cT4N2M0,Stage IIIB)と診断され,化学放射線療法が施行されたが,放射線肺臓炎を併発し,ステロイド治療が行われた(プレドニゾロン 20 mg/日で開始され,以降漸減).その後transmanubrial approachおよび胸腔鏡併用で右上葉切除術が施行された.術後呼吸不全が遷延するため,終日経鼻 1 L/分の設定でHOTが導入された.HOT導入2か月後,38°Cを超える体温上昇が認められたため,当院救急外来を受診した.受診の2,3日前から喀痰量の増加を自覚していた.鼻咽頭ぬぐい検体を用いたRT-PCR法で新型コロナウイルス(severe acute respiratory syndrome coronavirus-2: SARS-CoV-2)RNAを検出し(Ct値は19.99),COVID-19と診断されため,ソトロビマブ投与目的に緊急入院となった(入院1回目).

併存症:腰椎圧迫骨折,深部静脈血栓症.

喫煙歴:なし.

身体所見:意識清明,体温37.4°C,脈拍88回/分,血圧 103/66 mmHg,呼吸数24回/分,SpO2 96%(経鼻 1 L/分),右肺で呼吸音減弱.

血液検査所見:白血球数4,980/μL(好中球82.2%,リンパ球7.4%)と正常範囲内,赤血球数371×104/μL,ヘモグロビン 10.4 g/dLと低値であったが,血小板数21.3×104/μLと正常範囲内.AST 36 U/L,ALP 133 U/Lと軽度高値であったがその他の肝機能は正常範囲内であった.腎機能は正常範囲内.LDH 175 U/L,TP 7.7 g/dLと正常範囲内であったが,Alb 3.5 g/dLと軽度低値であった.CRP 4.8 mg/dL,NT-proBNP 286 pg/mLと軽度高値であった.

動脈血ガス分析:経鼻 1 L/分吸入下でpH 7.436,PaCO2 44.0 mmHg,PaO2 73.4 mmHg,HCO3 29.6 mmol/Lであった.

呼吸機能検査:努力性肺活量(%予測値)は 1.12 L(49.6%),1秒量(%予測値)は 0.99 L(56.3%)であった.

画像所見:1回目入院時胸部CT(Fig. 1B)はHOT導入時点(Fig. 1A)に比べると右胸水の増加傾向を認めたが,右下葉の浸潤影はほぼ著変なく,その他新規陰影は認められなかった.

Fig. 1 Chest CT finding at the time of the initiation of home oxygen therapy(A)and the first(B)and second(C)admission.

臨床経過:COVID-19と診断されたが,上述の通りCOVID-19に典型的な肺炎像は明らかでなかった.ソトロビマブ投与後,翌日には解熱したため退院となった.退院7日後再び38°Cの発熱を認め,同時に左足趾の腫脹・疼痛症状を認めた.その3日後に当院を受診した.血液検査所見は,白血球数 3,740/μL(好中球82.3%,リンパ球7.2%)と正常範囲内,腎機能は正常範囲内で,LDH 214 U/Lと軽度高値であった.CRP 15.9 mg/dLと高値であった.胸部CTで,右下葉の浸潤影や胸水貯留の増悪を認め,左肺に胸膜直下を含めてすりガラス状陰影が新規に認められた(Fig. 1C).左肺の陰影に関しては,鼻咽頭ぬぐい検体を用いたRT-PCR法でSARS-CoV-2 RNAは検出されず,前回のCOVID-19感染症による陰影と考えられた.右肺炎と左足趾の蜂窩織炎の診断で緊急入院となった(入院2回目).抗生剤(アンピシリン/スルバクタム 9 g/日)加療を行い,20病日後に終日経鼻 2.5 L/分の設定で自宅退院となった.

症例が使用していた酸素濃縮器(ハイサンソ®i:帝人ファーマ株式会社,東京,日本)は,装置の酸素濃縮空気(製品空気)出口直前,出口フィルタの上流に取り付けられた微圧センサーにより,製品空気の圧力変動の状態を呼吸検出頻度(呼吸数)として検出することができ,1分毎に酸素流量と患者の呼吸数を測定することが可能である.測定データは,帝人ファーマ株式会社との共同研究で得られたものであり(倫理委員会:京都大学大学院医学研究科・医学部及び医学部附属病院医の倫理委員会,承認番号:R3898,承認日:2023年3月29日),現時点では呼吸検知機能の市場展開はされていない.上述の臨床経過中にハイサンソ®iによって測定された呼吸数が0回/分や測定不能であった場合はデータを除外し(除外されなかった呼吸数は全体の73.3%であった),1時間毎の平均値の推移をFig. 2に示す.入院1回目の約3日前より呼吸数の上昇が認められた.症例は上述の通り入院1回目の2,3日前より喀痰量の増加を自覚しており,呼吸数の推移は臨床経過と合致する所見であった.呼吸数はその後も上昇し,入院1回目にピークとなった.入院1回目の退院後,呼吸数は平常レベルに落ち着くが,退院2日後より再度上昇傾向となり,退院7日後にピークとなった.症例は上述の通り退院7日後に再び発熱症状や左足趾の腫脹を認めており,呼吸数の推移は臨床経過と合致する所見であった.入院2回目の退院時の呼吸数は入院2回目と同じ水準であり,その後低下傾向となったが,入院1回目前の水準よりは上昇していた.

Fig. 2 Hourly changes in respiratory rate during the period between 14 days before the first admission and 14 days after the second discharge.

考察

本症例は,COVID-19に対する治療目的で入院後,右肺炎と左足趾の蜂窩織炎のため再入院したが,その臨床経過と関連して酸素濃縮器(ハイサンソ®i)によってモニタリングされた呼吸数の変動が確認された.Nakanoらは,持続陽圧呼吸装置から得られたフローデータから算出した呼吸数が,COVID-19,インフルエンザウイルス感染症などの各イベント発生に伴って変化(上昇)していたことを報告した7.またYañezらは,HOT施行中の慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease: COPD)患者において,外付けの圧力トランスデューサーであるVisionOx®(リンデ,ダブリン,アイルランド)を用いて測定された呼吸数が,入院を要する急性増悪の少なくとも48時間前よりベースラインの15~30%増加していたことを報告した8.本症例では,ベースラインの呼吸数の平均値は20.4±2.9回/分であったが,入院2日前の呼吸数の平均値は23.7±3.6回/分で16%増加しており,Yañezらの報告と同様であった.

慢性呼吸器疾患患者において,複数の生体情報(血圧,脈拍数,呼吸数,パルスオキシメータ,スパイロメータなど)や環境情報を遠隔モニタリングすることで,増悪や入院の減少や,患者自身のセルフケアマネジメントに寄与する可能性について研究が行われている9.その中で,生体情報の一つとして呼吸数を遠隔モニタリングした研究は少数ながら存在する8,10,11.Martín-Lesendeらは,心不全や慢性呼吸器疾患患者を対象に,呼吸数に加えて,脈拍数,血圧,SpO2,体重,体温を遠隔モニタリングすることで,電話連絡の回数は増加したが,入院の頻度は有意に減少させることができたと報告した10.一方で,Sorianoらは,HOT施行中のCOPD患者を対象に,呼吸数に加えて血圧,SpO2,脈拍数,スパイロメータの遠隔モニタリングの有用性について検討したが,遠隔モニタリングによってCOPD関連の救急外来受診や入院の頻度を低下させることができなかったと報告した11.以上より,呼吸数を利用した遠隔モニタリングの有用性に関しては結果が一致していないのが現状である.その理由の一つが,(連続)モニタリングした呼吸数の利用方法である.本症例のように呼吸数の変動は非常に大きく,ある一時点の評価では患者の状態を正確に評価することは非常に難しいと考えられる.そのため,増悪や入院といったイベントと関連する呼吸数の変動パターンを検出する方法について,今後さらなる症例の蓄積や詳細な評価が必要と考えられた.

今回我々は呼吸数の連続モニタリングが可能な酸素濃縮器を使用していたHOT患者において,COVID-19を含めた呼吸器感染症の臨床経過と呼吸数の変化が合致していたことを観察し得た.HOTにおける酸素濃縮器を介した呼吸数の連続モニタリングを利用した遠隔医療の有用性を明らかにする上でも今後症例の集積や臨床研究が期待される.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

呼吸不全先進医療講座は帝人ファーマ株式会社との共同研究講座である.

半田知宏;研究費(帝人ファーマ株式会社,富士フィルム株式会社),濱田 哲;研究費(帝人ファーマ株式会社)

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