日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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間質性肺炎に対する呼吸リハビリテーション
稲垣 武
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2025 年 34 巻 1 号 p. 7-12

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要旨

間質性肺炎(IP)は,運動時低酸素血症(EID)や労作時呼吸困難を特徴とする進行性の慢性呼吸器疾患で,重症化すると肺高血圧症(PH)を合併する.近年,本症に対する呼吸リハビリテーションに関する報告が蓄積され,運動耐容能,呼吸困難,健康関連QOLの短期的な改善効果が認められている.その一方で,EIDやPHを合併する可能性があることから,運動療法時に対策やリスク管理を十分に講じることが重要で,さらには進行性疾患であることから,予後予測と病期に合わせた介入が求められる.本稿では,IPの特徴を踏まえた呼吸リハビリテーションの実際について述べるとともに,増悪後やPHを合併した際の介入のポイントについても紹介したい.

緒言

間質性肺炎(interstitial pneumonia: IP)は,肺胞隔壁を炎症や線維化病変の基本的な場とする疾患の総称であり1,発症には薬剤,健康食品,粉じん吸入,膠原病,サルコイドーシスなどの全身性疾患に付随するものが存在するが,原因が特定できない例も多く,代表的な疾患として特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis: IPF)がよく知られている.IPFは治療抵抗性かつ慢性進行性で予後不良な疾患であり,IP患者の中でも多くの割合を占めている1.本症の主病態は拘束性障害と拡散障害であり,呼吸困難を中心とした自覚症状,運動耐容能低下,日常生活活動(activities of daily living: ADL)の制限等を生じさせるが,それらを維持・改善させるための非薬物療法として臨床現場では呼吸リハビリテーション(以下,呼吸リハ)が適用される.従来呼吸リハは慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease: COPD)を主たる対象として有効性が認められ,標準治療としての位置付けが確立されているが,IPについてもエビデンスが蓄積されつつあり,本邦における「呼吸リハビリテーションに関するステートメント」でも本症の呼吸困難や下肢筋力低下,活動制限に対して呼吸リハがよい適応であることが示されている2.しかし,IPは基本的に進行性疾患であり,加えて拘束性障害による呼吸困難や拡散障害に伴う労作時低酸素血症(exercise induced desaturation: EID)が呼吸リハの進行を妨げるため,病期や重症度に応じたリスク管理・介入が必要である.

本稿では,IPの特徴を理学療法士の立場から触れた上で,呼吸リハの既報告と実際,肺高血圧症(pulmonary hypertension: PH)を合併した場合の介入のポイントについて解説する.

間質性肺炎の特徴

IPは進行性かつ難治性疾患であり,その臨床経過は多様である.緩徐に進行する症例や急速に進行する症例,更には急性増悪を繰り返す症例もおり,治療の反応性も原因疾患や場合によっては症例ごとに大きく異なる(図13.そのため,COPDとは障害像が異なることを理解し,呼吸リハの開始時期や適応の検討,予後や呼吸リハの効果が得られるかを予測することが重要になる.

図1 特発性肺線維症における臨床経過のパターン

文献3より引用作図

前述したように,本症の主病態は拘束性障害と拡散障害である.それらの病態と運動制限との関係について図2に示す4.肺の線維化病変に伴って肺コンプライアンスが低下し,呼吸機能検査では全肺気量が低下するため,呼吸仕事量が増加し,浅くて速い呼吸パターンを呈しやすくなる.また,拡散障害や肺血管床の破壊による換気血流不均等により,IPの臨床経過の比較的早い段階からEIDが出現する.EIDは肺血管攣縮を生じさせ,心拍出量の低下(循環障害),組織低酸素をもたらし,更には2次性のPHを惹起するため注意が必要な病態である.上記の呼吸仕事量増加や低酸素による著しい換気の亢進は,本症の主症状である呼吸困難を生じさせる.呼吸困難は,IP患者の80%以上に観察され1,健康関連QOL5や生命予後6と密に関係する.加えて,乾性咳嗽もIP患者でしばしば見られる症状である.IPFの診断時において50~90%前後に観察され1,難治性で持続する例も多く,更には強い呼吸困難やSpO2 低下を伴うことも少なくないため,運動療法の進行やADLを妨げる要因となりうる.

図2 間質性肺炎の運動制限

文献4より改変引用

拘束性障害や拡散障害,循環障害に加えて,骨格筋の機能障害もIPにおける運動の重要な制限因子である.IP患者は同世代の健常者と比較して下肢の筋力低下や筋萎縮を認めるが7,特にステロイド治療の副作用も考慮すべきである.Hanadaら8は,ステロイド治療中のIP患者はそうでない者と比較して大腿四頭筋筋力の低下を認め,それは内服量や内服期間と関連することを報告している.そのため,ステロイドを投与されている患者は呼吸リハの効果が得られにくい場合もあることから,プログラム立案に配慮を要する.

間質性肺炎患者に対する呼吸リハビリテーション

1. IP患者に対する呼吸リハビリテーションの既報告

近年IP患者に対する呼吸リハに関する報告が増え,システマティックレビューにおいても運動耐容能,呼吸困難,健康関連QOLの短期的な改善効果が示されている(図39.一方,呼吸リハの長期効果については議論の余地が残る.Ryersonら10は,様々な病理組織パターン,原因疾患を含むIPを対象に,6~9週間の呼吸リハを施行し6ヶ月後までフォローした.その結果,6ヶ月後まで6分間歩行距離(6-minute walking distance: 6MWD)の改善効果を維持し,開始時の6MWDが短いほど改善効果が大きかったと報告している.しかし,Dowmanら11は,同様に6ヶ月後の長期効果を検討し,全体としては運動耐容能の改善を維持しなかったとしているが,軽症例にのみ維持効果を認めたと報告している(図4A,B).更に,本邦において,IPFを対象とした抗線維化薬服用下の呼吸リハの短期・長期効果を検討する多施設共同研究が実施された12.その結果,6MWDが26週後まで,運動持続時間は52週後まで維持された(図4C,D).上記のように,呼吸リハの長期効果に関しては,導入時期や重症度,ディコンディショニングの程度等の影響を受け,加えて方法論についてはまだ一定の見解が得られていない.今後は,適応の明確化や維持プログラムの方法論の確立が望まれる.

図3 間質性肺炎に対する呼吸リハビリテーションの短期効果

文献9より引用

図4 間質性肺炎に対する呼吸リハビリテーションの長期効果

A),B)は文献11より引用,C),D)は文献12より引用

2. 安定期の呼吸リハビリテーションの実際

IP患者に対する呼吸リハは,COPDと同様に運動療法やセルフマネジメント教育,酸素療法,心理社会的サポートなど様々なプログラムから構成されるが,その中核となるのが運動療法である.全身持久力運動は,自転車エルゴメーターや自由歩行を用いて行い,運動強度は最大仕事量もしくは最高酸素消費量の60~80%,修正Borg scaleで4~6を目安にし,運動時間は20分間を目標にする施設が多い.しかし,自覚症状やSpO2 低下,脈拍数上昇等の影響で高強度の持続が難しい例については,低強度での運動処方やインターバルトレーニングを積極的に併用する.また,IP患者に対して運動療法を施行する際,低酸素血症が問題になりやすい.安全かつ効果的に呼吸リハを行うため,SpO2 の下限を主治医に確認し,適宜酸素流量の調整を行い安全に十分配慮する.近年では,高流量鼻カニュラ酸素療法(high-flow nasal cannula: HFNC)を運動療法に併用することで,SpO2 低下の是正や運動持続時間の延長効果が得られるとする報告もあり13,EIDへの対策として本機器の併用は1つの選択肢となりうる.筋力増強運動は自重や重錘バンド,セラバンド等を用いて実施し,5~7種類をそれぞれ15回,1日1~3セットを目安に可能であれば毎日実施するように指導する.また,本症におけるコンディショニングや吸気筋トレーニングの効果に関するエビデンスは限局的である.運動療法と呼吸練習・吸気筋トレーニングを併用したプログラムの効果を検証したメタアナリシスでは,運動療法単独よりも効果的であることが示されている14.しかし実際には,呼吸困難や乾性咳嗽により適応が難しい例も多く経験するため,適応の判断が重要である.

日常生活中の負担と呼吸困難を軽減し,EIDを予防するためADLトレーニングも重要である.問診から患者にとって必要なADL動作を明確にし,実際にその方法や呼吸困難の程度,SpO2 を確認する.その上で,動作方法の工夫や休憩のタイミングの指導,福祉用具の使用や環境調整の提案,必要に応じて酸素流量の調節や酸素吸入デバイスの変更についても検討する.臨床では,発症前の動作速度や方法で実施してしまう患者や,「早く休憩したい」という理由から動作が性急になる患者も少なくないため,ゆっくりと過ごすことの大切さを患者家族も交えて繰り返し伝えている.

3. 増悪期の呼吸リハビリテーション

急性増悪で入院したIP患者に対しても呼吸リハを実施する.大量にステロイドを使用したり,治療中の活動性低下や長期入院を強いられたりすることにより筋力低下を生じる可能性があるためである.呼吸リハの目的は,廃用症候群の予防と安全なADLの再獲得であり,早期からコンディショニングやポジショニング,ADLトレーニング,離床や低強度の運動療法を実施する.可能な症例に対しては,HFNCを使用して歩行練習まで行う(図5).一方,介入時はEIDや頻拍に十分注意し,再増悪の所見がないか評価しながら慎重に実施している.また,急性増悪後の経過により,呼吸リハの導入さえも困難な場合があり,そのような時はリラクセーションの実施や病棟におけるADLの実施状況を看護師に確認するなど安楽・安全の確保のための支持的な介入に努める.

図5 急性増悪後の歩行練習の様子(HFNC使用)

更に,IPにおける呼吸リハのゴール設定を行う上で,予後予測が重要である.6ヶ月でFVCが10%以上低下,もしくはMRC scaleがhigh gradeな症例は急性増悪のリスクが高く15,呼吸リハによる改善効果が得られないとの報告もある16.したがって,積極的に介入しても,疾患の進行が早い症例は確実に存在し,そのような症例に対する運動負荷は効果が少ない上,苦痛を伴う.そのため,疾患の種類や,進行度,重症度等から予後予測を行い,それらを踏まえた上でのプログラム立案が望ましい.症例によっては,安楽なADL動作方法の指導や,在宅の環境調整等を主体とし,QOL維持や円滑な在宅復帰のため,早期から医師・社会福祉士などと積極的に連携することが重要である.

肺高血圧症の合併

PHは,何らかの原因により肺動脈圧が異常に上昇する病態の総称で,右心カテーテルで測定した安静臥位の平均肺動脈圧≧20 mmHgと定義されている17.PH合併率はIPF診断時で5-15%,重症IPFで30-60%程度と報告されており,PH合併IPの重症例の3年生存率は35.7%と予後不良である18.PHを合併する要因として,低酸素血症による肺血管攣縮,肺実質障害に伴う肺血管床の減少などが挙げられ,肺動脈圧の上昇に伴って心拍出量が低下し,骨格筋を含む末梢組織への酸素運搬能が低下する.その結果,組織低酸素を引き起こし,呼吸困難や疲労,運動耐容能低下がさらに助長されると考えられている(図1).ただ,安定期であれば,PH合併IP症例でも従来の呼吸リハプログラムにより運動耐容能や健康関連QOLの改善効果が期待できる19.逆にいえば,原病の重症度・進行度によって呼吸リハの適応を慎重に判断し,プログラムを再考する必要があると考えられる.加えて,PHを合併することで右心不全増悪が危惧されることから,呼吸リハを行う上ではリスク管理が重要である.中止基準は,リハビリテーション医学会のガイドラインと既報告20を参考に作成した基準を用いている(表1).特に,運動療法やADL動作後に血圧低下や頻拍を生じていないか評価することが重要である.また,SpO2 低下はPHや右心不全を増悪させる重要な因子となりうるが,EIDを生じやすい本症ではSpO2 を維持することが難しい症例も多々経験する.そのような場合には,診療科医師と密に連携を取り中止基準の再考や酸素流量の調整,運動負荷の調整等が必要である.

表1 肺高血圧症患者のリハビリテーション中止基準(千葉大学病院)

・自覚症状修正Borg scale 5 以上の呼吸困難
眩暈や冷や汗,倦怠感の出現
・血圧開始時収縮期血圧が 80 mmHg以下
実施中 10 mmHg以上の低下
脈圧が 10 mmHg以下
・心拍数開始時の心拍数が 110 bpm以上
実施中の心拍数が 120 bpm以上
・SpO2実施中のSpO2 が85%以下
・その他不整脈の出現や増加

おわりに

今回,IPの特徴と,それを踏まえた呼吸リハの実際について述べた.本症に対する呼吸リハは,COPDと同様のプログラムを行うことで,運動耐容能や呼吸困難,健康関連QOLの改善効果が期待できる.一方で,介入する上では,EIDや2次性のPHに十分注意し,酸素流量の変更やリスク管理を十分に講じる必要がある.また,長期効果についてはまだ議論の余地があり,適応の明確化や維持プログラムの方法論の確立などが今後の課題である.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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