日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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原著
当院におけるステロイド治療に起因した口腔カンジダ症に対する歯科衛生士の役割
宗方 まどか杉野 圭史 馬上 修一八木田 裕治齋藤 美加子小野 紘貴坪井 永保
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2025 年 34 巻 2 号 p. 157-164

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要旨

間質性肺炎(interstitial pneumonia; IP)患者は,ステロイド薬・免疫抑制薬の使用により口腔カンジダ症を合併することがある.2022年4月から2023年7月までにステロイド薬や免疫抑制薬で治療されたIP患者176名を対象とし,後方視的に調査した.また,2022年10月から含嗽薬の処方を入院日から導入,口腔衛生意識付けのためのパンフレットにて指導を行い,3日以内に介入した.結果,124件に導入し,導入前の52件と比較したところ,口腔カンジダ症の合併は42%から19%と減少し,再発も36%から2%へ減少した.当院の取り組みとして,歯科衛生士が早期から介入し定期的に評価,口腔合併症を発見した際は医師や薬剤師に薬剤の処方検討を提案したことで重症化を抑止できた.歯科衛生士が多職種と連携し,早期から積極的に治療に介入することは,口腔合併症の軽減に有効であることが示唆された.

緒言

口腔ケアは,歯周病や虫歯などがもたらす歯性感染症などが発症している状態の制御,正常細菌叢が維持されている状態の管理を目標としている1.当院ではNST活動を中心に専門職による高質な医療を提供し,口腔環境の維持・改善を図る2ため2014年より歯科衛生士が常勤し,周術期管理やがん終末期患者まで病棟を巡回し口腔ケアを実施している.2022年4月からは間質性肺炎・肺線維症センター(IPセンター)に召集され,周術期以外の呼吸器疾患患者においても積極的に専門的な口腔ケアを提供している.IP診療において,ステロイド薬や免疫抑制薬は,薬物治療として重要な位置付けとなっている3.一方で,副作用も多く,その1つに口腔カンジダ症があげられる4,5.口腔カンジダ症は,口腔常在菌であるカンジダ属による日和見感染である.一般的に高齢者に多くみられ,義歯,口腔乾燥,口腔清掃不良,ステロイド薬の使用,糖尿病や悪性腫瘍・後天性免疫不全症候群などがリスク因子としてあげられる4.当院においてもIP患者は,ステロイド薬や免疫抑制薬による免疫力低下により口腔内のトラブルが増加していた.また,急性増悪に伴うステロイドパルス療法や高流量の酸素吸入によりセルフケアが不十分となり,衛生状態の悪化も認められていた.口腔ケアの重要性や効果が強調されている6,7が,当院には歯科がなく,歯科のない病院に勤務する常勤歯科衛生士は,全体の0.2%と極めて少ない.また専門的な口腔ケアを提供している施設も少なく,歯科衛生士による口腔ケアは歯科医師の指示のもと以外に診療報酬は算定できない8,9.今回,IP患者の薬物治療で口腔カンジダ症を合併する症例を多数経験したことから,口腔カンジダ症に対する歯科衛生士の役割を検討したので報告する.

対象と方法

1. 対象

2022年4月から2023年7月までに,ステロイド治療のため歯科衛生士が介入した患者176名(男性105 名/女性71 名,平均年齢71.8±10.6歳)を対象とした.

2. 方法

口腔カンジダ症の診断に対しては,歯科用ミラーにて目視を行い,白苔の付着や粘膜の紅斑,ピリピリ・チクチクとした痛みなどカンジダ症特有の自覚症状を認め主治医の診断を受けたものとした.培養検査においては,口腔カンジダ症はカンジダ菌の異常増殖による疾患であるため臨床症状と所見を重視し,早期に治療を開始すること10を目的とし難治性に移行した場合のみ実施している.また,口腔内トラブルの有無(口腔内乾燥,口腔清掃不良,義歯の使用,う蝕の有無)に対してもアセスメントシートを使用し調査した(重複症例あり).

2022年10月からのステロイド治療患者に対しては,ステロイド治療クリニカルパスに口腔ケア依頼を追加し,依頼内容にステロイドパルス療法を追加,当院で作成したパンフレット(図1)を使用し,初回介入時に口腔清掃の重要性と合併症について説明しながら配布した.また,医師,薬剤師に相談し,口腔保清のため入院初日から含嗽薬(アズレンスルホン酸ナトリウム)を毎食後に導入,早期に介入(治療開始3日以内)し,口腔衛生管理を徹底した(図1).2022年4月から2022年9月を取り組み前52件(男性35 名/女性17 名,平均年齢72.6±9.75歳),2022年10月から2023年7月までを取り組み後124件(男性71 名/女性53 名,平均年齢71.5±10.3歳)とし(図2),早期介入および含嗽剤の効果においても検討した.

図1 配布資料

図2 患者背景

3. 歯科衛生士の介入方法

歯科衛生士は医師や看護師からの依頼を受け,患者の同意のもとに介入した.定期的に口腔内を評価し,口腔清掃介助(残存歯や粘膜,義歯の介助磨き)や口腔環境に適した口腔ケアの方法を指導,口腔粘膜の感染などの口腔合併症を発見した際は,速やかに医師,薬剤師に薬剤の処方検討を提案している.また,リハビリスタッフや栄養士とともに,食形態支援や嚥下評価を実施,多職種カンファランスで患者1人1人の情報共有を行い,口腔内の疼痛に関連した食事摂取困難,歯牙の脱落や誤嚥の危険など緊急性のある場合は地域の歯科医院と連携し訪問歯科診療を依頼している.

4. 解析方法

歯科衛生士介入までの日数・口腔評価・口腔カンジダ発症状況において,取り組み前と取り組み後について,t検定あるいはFisherの正確確率検定を用いて比較検討した.また解析ソフトウェアはEZR®を使用し,有意水準5%をもって統計学的有意差とした.

本研究は,坪井病院倫理委員会の承認(承認番号 慈山倫理5-第2号)を受け,個人情報の取り扱いには十分配慮をして行った.また,インフォームドコンセントは書面にて説明を行い,患者本人もしくは家族から同意を取得した.

結果

1. 口腔ケア依頼件数と依頼内容

2022年4月から2023年7月までの口腔ケア依頼総件数は,980件であった.全体の45%(443件)が呼吸器内科からの依頼であり,次いで婦人科14%(142件),消化器外科13%(127件),呼吸器外科13%(123件),緩和ケア科7%(64件)であった.呼吸器内科患者の中でIP患者の依頼件数は40%(176件)であり,依頼内容は,ステロイドパルス療法が55%(96件)と最も多く,次いで口腔清掃18%(32件),口腔トラブル15%(26件),ステロイド薬内服開始8%(14件),嚥下評価5%(8件)であった.IP患者のうち26%(46件)が口腔カンジダ症を合併していた.取り組み前後の依頼内容は,取り組み前は口腔トラブル31%(16件),口腔清掃29%(15件),ステロイドパルス療法19%(10件),ステロイド薬内服開始12%(6件),嚥下評価10%(5件),取り組み後はステロイドパルス療法70%(86件),口腔清掃14%(17件),口腔トラブル8%(10件),ステロイド薬内服開始6%(8件),嚥下評価2%(3件)であった(図3).2022年10月以降はステロイド治療のクリニカルパスに口腔ケア依頼を追加し,依頼内容にステロイドパルス療法を追加したことで歯科衛生士の介入目的が明確化し依頼数が増加した.

図3 依頼内容の比較

2. ステロイド治療をした患者の内訳

ステロイド治療をした疾患別内訳としては,急性増悪後の特発性肺線維症23%(41件),膠原病肺22%(39件),過敏性肺炎13%(23件),特発性間質性肺炎13%(22件),気腫合併肺腺維症7%(13件),上葉優位型肺線維症5%(9件),分類不能型特発性間質性肺炎5%(9件),器質化肺炎5%(8件),薬剤性肺障害5%(8件),非特異的特発性間質性肺炎2%(4件)であった(図4).また,口腔カンジダ症のリスク因子4として挙げられる糖尿病の既往がある患者(取り組み前37% 19名,取り組み後23% 28名),義歯の使用(取り組み前44% 23名,取り組み後40% 49名),う蝕あり(取り組み前40% 21名,取り組み後33% 41名),メチルプレドニゾロン500 mg 3日間投与(取り組み前10% 5名,取り組み後4% 5名)に有意差は認められないが,メチルプレドニゾロン1,000 mgを3日間投与した患者においては(取り組み前60% 31名,取り組み後77% 95名)取り組み後の投与人数に有意差が認められた(p=0.028)(図2).

図4 ステロイド治療をした患者の内訳

3. 歯科衛生士が介入するまでの日数

取り組み前後で,歯科衛生士が初回介入するまでの日数を比較したところ,取り組み前が6.7日,取り組み後が3.0日と半数以下に短縮した(p<0.001)(図5).

図5 歯科衛生士介入までの日数

4. 初回口腔評価

IP患者176件の初回口腔評価は,口腔清掃不良65%(114件),口腔乾燥52%(91件),義歯の使用41%(72件),う蝕あり35%(62件),疼痛あり5%(9件)であった(図6).そのうち口腔カンジダ症を発症した46件の初回口腔評価は,口腔乾燥78%(36件),口腔清掃不良76%(35件),義歯の使用61%(28件),う蝕50%(23件)であり(図7),カンジダ初期症状と思われる粘膜のざらつき20%(9件),疼痛13%(6件),味覚異常7%(3件),びらん4%(2件)を認めた5図6).

図6 初回口腔評価(ステロイド治療をしたIP患者 n=176,口腔カンジダ群 n=46)

図7 最終口腔評価

5. 最終口腔評価

退院前の最終口腔評価は,口腔乾燥を認めた取り組み前44件(総数52件)のうち13件(30%)が改善,取り組み後47件(総数124件)のうち29件(62%)が改善し取り組み後は有意に増加した(p=0.003).また,口腔清掃状態の改善は取り組み前31件(総数52件)のうち22件(71%)が改善,取り組み後83件(総数124件)のうち70件(84%)が改善し取り組み後に増加傾向が見られた(p=0.118)(図7).

6. 口腔カンジダ症発症状況

取り組み前後の口腔カンジダ症発症状況を比較したところ,発症者が42%(22件)から19%(24件),取り組み前の発症者22件のうち再発者は36%(8件)であったが取り組み後の発症者24件のうち再発者は8%(2件)へと有意に減少(p=0.002,p=0.032)し,未発症者は58%(30件)から81%(100件)へ有意に増加した(p=0.002)(図8).

図8 口腔カンジダ症発症状況(取り組み前:2022年4月~2022年9月介入期間,含嗽薬規定なし,取り組み後:2022年10月~2023年7月,パンフレット配布,含嗽薬導入,治療開始3日以内の介入)

また,口腔カンジダ症を早期に発見し,医師の指示による適切な薬剤治療,薬剤師・看護師と口腔内の情報を共有し服薬指導と管理を行った結果,図9は改善を認めた1例ではあるが,多くの症例が同様に症状改善を認めた.

図9 口腔カンジダ症治療経過

考察

口腔カンジダ症は口腔内常在菌であるカンジダ菌により引き起こされる日和見感染症3である.また,自覚症状として味覚減退や苦味,渋味を訴える症例も報告されている11.当院患者においても味覚異常(苦味,渋味)を訴える症例が3例みられた(図6).当院の入院治療では,口腔カンジダ症のリスク因子とされるステロイド薬を使用する場合が多く,口腔カンジダ症を発症した患者の平均年齢は75.7歳と,全体の平均年齢(71.8歳)より高齢であった.また口腔乾燥,口腔清掃不良,義歯の使用者も50%以上にみられた.口腔カンジダ症の症例を複数経験したことにより,治療開始初期からの患者指導が必要と考えた.

それによりパンフレットを使用しながら説明したことで,口腔ケアの必要性が理解され,毎食後の歯磨きを積極的に行えたため口腔トラブルの発生を抑止できたと考える.また,ステロイド治療患者に対しては毎食後に含嗽薬(アズレンスルホン酸ナトリウム)を導入し,口腔内を保清する回数増加を促した.これにより自力で歯磨きをすることが困難な患者でも含嗽薬で口腔内を清潔にすることで食物残渣や口腔細菌が減少12,13できたと考える.加えて,口腔ケア介入の取り組み後にメチルプレドニゾロン1,000 mgを3日間投与した患者の口腔カンジダ症の発症も抑止された.また,患者の口腔ケアの習慣化のために口腔状態に合わせ定期的に介入し,継続して十分に時間をかけ清掃介助を行いながら,衛生状態の改善を目指したことが口腔合併症及び最終口腔評価での口腔乾燥と口腔清掃状態の改善14,15,16,17に繋がったと考える.さらに,治療早期からの介入で口腔内の問題点を抽出し,カンファランスでは多職種と情報を共有した.その結果,口腔合併症を発見した際に医師や薬剤師に速やかに報告し,薬剤の処方検討を提案したことで重症化を抑止することが可能となったと推測する.以上のことから歯科衛生士が多職種と連携し,早期から積極的に治療に介入することは,口腔合併症の軽減に有効であることが示唆された.高齢化が進展する中で口腔の健康と全身疾患のかかわりは重要18であることが多数報告されている.歯科のない病院では診療報酬の算定はできないが,口腔ケアに取り組む歯科衛生士の役割と有用性が幅広く周知されることを期待する.

備考

本論文の要旨は,第33回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2023年12月,宮城)で発表し,座長推薦を受けた.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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